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    できればあなたと幸せになりたい


     防刃服を着ていたがために、傷はあまり深いものではなかった。肩先から肩甲骨にかけての裂傷は、多少縫ったあとが残るだろうと言われたもののうまく塞がりつつあるのか、薬で痛みも抑えられている。三か月審神者業から遠ざかることにはなるが、後遺症もないとの診断ももらった。だから彼女が不便に感じることは特にない。
     そのはずだったのに、髭切はいなくなってしまった。ある朝目覚めたら、彼女はあの二つ並んだ広いベッドに、一人きりになっていたのだ。眠っている彼女に、白い上着を掛けたままで。
     突然彼女の刀剣になった髭切は、同じように何の前触れもなく彼女の前から姿を消した。



    「それはつまり、解雇、ってことですか?」
     部屋を訪ねてきた三日月宗近に、彼女はそう尋ねた。今日は彼女の方から、三日月に連絡を取ったのだ。何故なら髭切がどこに行ってしまったのか、彼女には一切わからなかったのだ。しかし三日月もまた困惑した表情で首を捻っている。
    「すまん、俺にも何が何だかわからん以上正確なことは言えん。だが髭切の方から報告が上がっている。そなたは審神者に適しておらぬゆえ辞めさせるべきだと、教育係として判断する旨がな」
    「あの、その髭切さん本人は今どこに」
     正直全て何を言われているか理解ができなかったけれど、一番気になるのはそれだった。報告が三日月に言ったということは、三日月と連絡は取れているということだ。なら今どこにいるのか教えてほしい。けれどそう聞けば三日月は一層言いづらそうに言葉を濁した。
    「……それが、そなたには会いたくないと」
    「え?」
     我が耳を疑った。しかし三日月は顔を顰めたままで続ける。
    「三か月の治療期間中はそなたの刀剣であるという契約を切らんと聞かんのだが、会いたくないと言っている。だが安心いたせ、俺があやつを預かってはいる」
    「な、なんでですか!?」
     思わず彼女はベッドから立ち上がった。ずきりと傷が痛み体がぐらつく。三日月が慌てて立ち上がり、彼女の体を支えてくれた。
    「まだ傷が完全に塞がったわけではない、急に動けば開いてしまうぞ」
    「い、いや大丈夫です、それよりなんで、なんで会いたくないなんて」
     言われている意味が分からない。滑らかな狩衣を掴みながら、彼女は三日月の申し訳なさそうに下がった眉と瞳に浮かぶ月を見つめた。三日月はゆっくりと彼女をベッドに座らせると、屈んでしっかり彼女と目を合わせる。
    「髭切が何故かようなことを言いだしたか、今は俺にもわからん。口を割らんのだ、ある日突然俺の部屋に来たかと思えばテコでも動かん」
    「わ、私今から部屋に行っちゃ」
    「やめよ、あれのことだ、逃げるのは目に見えている。今まで一度でもあれがそなたの予想通りに動いたことがあるか?」
     彼女は反論しようと口を開きかけ、やめた。三日月の言うとおりだ。今まで一度だって、自分が髭切の行動を予測できたことなどない。彼女が髭切に捕まることはあっても、逆はないのだ。何も考えずに追いかけたところで、会いに行こうとしたところで、それは叶わないだろう。
     肩を落として、両手で顔を覆う。どうして、なんて聞かなくてもわかった。いや、薄々そうではないかと思っていたのだ。髭切が、自分の前から姿を消した理由。
    「きっと、私に失望したんですね」
     髭切を庇って負傷した。そのことを髭切は怒っていた。それは当然だ、だってそれは髭切の一番の教えと自分のした約束を同時に破ったことに他ならない。
     危険なときは自分の身を一番に守ること。それから髭切を置いて死んだりしないこと。
     死なない、長く自分を使ってくれる主を望んだ髭切が、それに真正面から背いた自分の刀剣でいたいと思うわけがない。あまつさえ、彼女は反省するどころか「髭切が無事でよかった」とまで言ってしまったのだ。きっと気が付いただろう。彼女が、髭切を「刀剣男士として」以上に大切だと思っていることに。
    「ほんにそうだろうか」
     三日月の大きな手が彼女の頭をゆっくりと撫でた。顔を覆っていた彼女の手を外させて、三日月は諭すように彼女に語りかける。
    「髭切はモノに近い。それゆえに判断に手心を加えたりなぞせん。それはそなたもわかっているはず。その髭切が、主を失格だと感じたヒトの子を三か月の治療期間政府に留め置くだろうか」
    「……」
    「現世の主な医院より政府のほうがよい処置を受けられよう。だが政府とて余裕があるわけではない。俺には、髭切はそなたの治療のために三か月の間は契約を切らんと頑として主張しているように見える」
    「……そんなことありませんよ」
     そんなこと、あるはずがない。彼女はぎゅっと手を握りしめた。力が入ったせいか、若干肩の傷が痛む。三日月はもう一度だけ彼女の頭を撫でると、さらりと衣擦れの音を立てて立ち上がった。
    「なんにせよ、三か月はゆるりと休め。下手に動けば傷も悪くなろう。元気になれるものもなれんぞ。今は何もわからずとも、体を休ませれば自ずと見えてくるものもある。髭切はどうであれ俺は、今でもそなたは主たる資格はあると思っているぞ。そなたにその気があるなら、俺が髭切の判断は下げることができる」
    「……ありがとうございます、三日月さん」
     やっと彼女が顔を上げて礼を言えば、三日月は瞳を和ませて微笑んだ。その優しく美しい笑みもまた、最初に会ったときから変わらず彼女は僅かに安堵する。また来るぞと三日月は踵を返したが、その背中を見てふと思い至り彼女はそれを引き留めた。
    「待ってください。私の刀剣じゃなくなったら、髭切さんはどうなるんですか?」
     髭切の所属先が、なくなってしまう。三日月のように政府所属の刀剣男士として働くのだろうか。よもや刀解処分なんてことはあるまい。
     三日月はぴたりと足を止めた後、ゆったりとした動きで振り返った。少し迷ったのちに、珊瑚色の唇を開いて答える。
    「……再びあの倉庫に戻ることを希望している。それもあってな、せめて政府所属の刀剣として顕現を維持するよう俺が説得しているところなんだが」
    「倉庫に……?」
     あの、埃っぽい場所。そこに自ら戻るというのか。彼女は愕然として、返事さえもできなかった。
     パタンと小さく音を立てて扉が閉まり、三日月が出て行く。部屋に再び一人残された彼女は、のろのろとした動きで壁に目をやった。そこには、髭切の残していった白い上着がハンガーに掛かっている。
    「……髭切さん」
     立ち上がって、手を伸ばしてそれに触れた。髭切がいなくなったとき、この上着は眠っている彼女の上に広げられていた。だから帰ってくると思って、彼女は待っていたのだ。またいい主になれるように頑張るから、三か月間待っていてほしいと伝えるつもりで。
     額をその柔らかな布地に当てれば、そこからは僅かにまだ日向の匂いがした。髭切の匂いだ。ギリとその袖口を握りしめる。じわりと視界が滲んだが、それさえ悔しくて彼女は目を閉じた。
     結局、何もできなかった。自分は髭切に何もできなかったのだ。
     強くもなれず、髭切の望む「いい主」にもなれなかった。失望させたままで、髭切を再びあの暗く埃っぽい場所に戻らせてしまった。
    「僕の主」
     金色の髪を揺らし、朗らかに笑う姿が過ぎる。歯を食いしばって、彼女は嗚咽を堪えた。
     怖かった、怖かったのに。あの刀に近づいていくことは、とても怖いことだった。自分とは違うもの、異質なモノ。それなのに同じ体温を持っているモノ。彼女を、戦いの最中に引っ張り込んでいくもの。恐ろしくないはずがない。
     けれど確かに、髭切は彼女に優しかった。その戦いの内で確実に生かそうとしていた。ヒトが脆いことを知っていた。
    「……僕が必ず、君だけは幸せにしてあげるからね」
     そう言ってくれた髭切に、自分は何ができたというのだろう。
    「ぅう、ぐ、うぅ……っ」
     ぼたぼたと閉じた目から滲み出た涙が、俯いた顔から垂直に床に滴っていった。
     日向の匂いに、湿気のまとわりつく香りが混じる。外も雨らしい。



     窓の外からざあざあと音がしている。髭切は目を閉じてそれに耳を澄ませていた。髭切はあまり雨が好きではない。やはり元は鋼だからだろうか。空から降ってくる水を好ましいとは思えなかったのだ。
     キイと扉の開く音がしたが、髭切は棚に凭れかかったまま動きはしなかった。さらさらという衣擦れの音を立てて気配は近づいてくる。少なくとも、髭切がそうだったらいいなあと思う相手ではない。
    「ここにいたか、探したぞ」
    「……ああ、なあんだ三日月宗近か」
    「はっはっは、どうやら俺は待ち人ではなかったようだ。すまんな」
     髭切が座りこんでいる棚の前まで来て、三日月は立ち止まった。背の高いその棚は倉庫の中でも一番奥にある。黒く長い箱が大量に積まれたここは、髭切にとって馴染みのある場所だ。ここ数日ずっと、その隅で髭切は雨の音を聞いている。黒いシャツ姿のせいか、若干肌寒い。やはりヒトの器は不便だ。
    「雨、随分降り続いているねえ。あまり好きじゃないんだ」
    「俺達は元は鋼だからな、仕方あるまい」
     三日月宗近が来たということは、髭切の希望は叶ったということだろうか。瞼を開いて、髭切はゆっくりとその美しい姿を見上げた。
    「それで、僕はもう眠ってもいいのかい」
    「……ほんに気は変わらんか?」
    「もちろんだよ。君の部屋に転がり込んだときからそう言っているじゃないか」
     教育係として、「あの子は審神者に不適切である」という報告を髭切は政府にした。審神者になるには技能が足りない。故に即刻普通の生活へ戻らせるべきと。政府の役人たちは大慌てであったけれど、髭切の知ったことではない。髭切は自分の目的が果たされればそれでよかった。だから審神者の人員不足だとかそんなことはどうでもいいのだ。
     そして同時に、自分は再びこの倉庫で眠りにつくことを希望した。だからずっと、その許可が下りるのを待っていたのだ。三か月はどうしても彼女の刀剣でいなくてはならない。そのため霊力のパスは繋がったままだから、髭切がヒトの形を解くためには政府の強制的な介入がなければならなかったのだ。髭切は足を床に放り出したままうーんと伸びを一つした。
    「また、頃合を見て起こしてくれるかい、三日月宗近。よろしく頼むよ」
    「髭切、お前は俺を目覚ましか何かだと思っておらんか?」
     むっと三日月は整った顔を膨らませた。髭切はくすくすと笑いながらそれに首を振る。
    「あはは、そんなことないよ。君にはたくさんお世話になってるし、感謝しているさ。だから僕が眠っていても、あの子のことよろしくね」
     髭切がいないとなれば、彼女のことを頼めるのは三日月宗近しかいない。でも三日月ならきっとうまくやってくれるだろう。そのあたり、髭切は心配していなかった。
     しかし三日月のほうは眉をさげて屈みこむ。髭切の顔を正面から覗き込んで、今一度聞いた。
    「ほんに、これでいいんだな」
    「……同じことを何度も言わせないでよ」
     もう、早く眠りについてしまいたいのだ。そうでなくては、余計なことをしてしまいそうだから。髭切は再び目を閉じて棚に体を預ける。
    「あの子の治療を政府で行うことは約束させた。俺の主が保証人になるゆえ、それは間違いないだろう」
    「あの子、元気?」
    「傷は順調に治っているようだぞ」
    「そう、よかった。年頃の女の子だから、傷なんか残っちゃ可哀想だからねえ。君の主にもよろしく言っておいてよ」
    「……髭切」
     雨の音がする。じとじととした寒さで、体が少し軋むような心地がした。それをいなすように深く息を吸えば、埃っぽいような、甘いような匂いがする。一緒に保管されている書籍の匂いだろうか。これまで随分長くここの空気を吸っていたはずだが、今は何だかそれが苦しい。ちょっとばかし、あの子の部屋の香りに慣れ過ぎたかもしれない。
     でも、それも眠ってしまえばきっとなくなる。それを髭切はよく知っていた。だってこれは、前と同じだ。前に、ここに来たときと。そういえば、あのときも三日月宗近に見送られたのだった。
    「何故言わん。あの子のためだろう、お前がそんな報告をしたのは」
    「……」
    「あの子を普通の生活に戻すためだろう。何故それをあの子に言わん」
     言えるわけがない。そんなことを、今更髭切が彼女に伝えることなど間違っている。何故なら髭切は、彼女を「審神者にするために」出会ったのだ。彼女は髭切の主で、髭切は彼女の刀剣男士だ。彼女を立派な主にすることが髭切の務めであり望み。だから自分が傍にいる以上、どれだけ彼女を鍛えたところで戦場に引きずり込むことは避けられない。
     けれど、それを望まない自分に気が付いてしまったのだ。
     ごく普通の、女の子としての彼女の顔が見たいと思う自分に。普通に暮し、彼女の望む幸せを得させてやりたいと思う自分に。
    「いいじゃないか、それであの子は幸せになれるんだから」
    「心の底からそう思うのか」
    「思うよ。嫌だな、それに僕は元々心なんか持ち合わせちゃいないさ。モノなんだから。ヒトの子の思う心なんか、僕には無いんだよ」
     そう、そのはずだった。髭切は刀だ。この肉体は仮初のもの。寒さを感じる指先や、呼吸をする肺に、僅かに聞こえる鼓動。今痛むこの胸さえも、本来ならば持ちえないもの。だからヒトの子の幸せはわからない。ヒトの子の気持ちなんて。
     だって、ヒトじゃあないのだから。
    「ならなぜそのような顔をする」
    「……」
    「心がないというのなら、モノだというのなら、お前があの子を幸せにしたいと願うその気持ちはどこから生まれている。それは確かにお前の想いではないのか、髭切」
     三日月の言葉に、髭切は首を振った。
     これは、違う。これは元々自分が持っていたものではない。違うのだ。髭切が得ようと思って、手にしたものではない。これは……。
    「眠ったら、きっと僕は忘れてしまうから……だから、大した問題じゃないよ」
     前も、そうだったではないか。
     今でもたまに夢に見るあの日の出来事を、髭切は覚えちゃいないのだから。きっとこれも一緒だ。次に目を開けたときには、また別な主がいる。そうやって髭切は千年の間ヒトの世を渡り歩いてきた。それを再び繰り返すだけ。何も変わりはしない。そうだ、変わらない。
     この苦しさも、負傷していないのに折れてしまいそうなほどの痛みも、次に目を覚ましたらなくなっているはず。だから、そうしたいと思って、そう願ってここに来たのに。
     三日月宗近が息を吐いた音が聞こえた。三日月は優しい。だからきっと、彼女のことも自分のことも悪いようにはしないだろう。髭切がここで頑として動かなければ、きっと眠らせてくれるのだ。
    「……上着はどうする」
     髭切は緩く微笑んで首を振った。
    「あれはあの子にあげちゃったから、構わないよ。それとも衣装が欠けていたら刀剣に戻れないかな」
    「いや、あのくらいは問題ないと思うが」
    「そっか、ならよかった」
     そのとき、ぱたぱたっと何かが駆けてくるような音が耳に届いた。
     反射的に髭切は目を開ける。ばっと顔をそちらに向けたが、何もない。代わりに遠くの床に本が散らばっているのが見えた。どうやらあれが落ちた音だったらしい。
    「どうした」
    「……ううん」
     ああ、と髭切は胸を押えた。ゆっくりと呼吸をしなければ、ひどく痛んでしまう。
     無意識に、待っていたのだ。あの棚の角から、走ってくるのを。いつかのように、自分の名前を、呼んで。
     僕の主が、走ってくるのを。
    「髭切」
    「……あはは、困った、困った、なあ」
     冷えきった指先と対照的に熱い何かが瞳から滴った。苦しい、苦しい。息が詰まりそうだ。おかしい、おかしい。自分は刀のはずなのに。こんなこと、おかしい。
     でも、でもそれでも。
    「忘れたく、ないなあ」
     目を閉じる寸前に、髭切は小さくそう呟いた。



    「傷がだいぶ塞がったようでな、本日よりその三角巾は使わずともよいという診断だったぞ」
    「そ、うですか。よかった」
    「うむ、順調に回復しているな。よいことだ」
     ほっと彼女は息を吐いた。治療が始まってしばらく経ち、今日は検診を済ませて三日月の部屋に来ていた。実は、ほんの少しだけ髭切がそこにいることを期待したのだが……やっぱり、その姿はなかった。
     あらかじめ彼女の訪問は予定されていたのだ、髭切はいないに決まっている。彼女はやや落胆する自分に言い聞かせた。それでもどうしても、気持ちが下降するのは避けられなかった。
    「……あれに会いたかったか?」
    「えっ、いや、あの」
     わかりやすすぎて三日月に図星を突かれた。決まり悪くなって彼女は俯く。だがそうしていたって仕方がないので、彼女は意を決して持っていた紙袋を取りだした。
    「あの……髭切さん、私の部屋に上着を、置きっぱなしで」
    「……そうであったな」
    「返さなきゃと、思って」
     三角巾が取れたら、と考えていたのだ。三角巾をしている間は、どうしたって負傷者だということが目に見えてわかってしまうから。せめてそれがなくなって、外出も自由にできるようになったらと。そうしたら、逃げられても少しくらいは追いかけることができるかもしれない。
     だがまた空回ってしまったようだ。彼女は苦笑しながら手にしていた紙袋を握った。このまま持って帰るのも変だから、これはもう三日月に渡してしまう他ないだろう。
    「一応、クリーニングに出してあります。元々綺麗だったので、念のため程度ですけど。渡しておいて、いただけますか?」
     そうして紙袋ごと三日月に渡そうと、彼女はそれを差し出した。しかし三日月はじっとそれを見たまま一向に受け取ろうとしない。
    「三日月さん?」
    「それを受け取ることは出来ん」
    「え……」
    「いやなに、これは、あれがそなたにあげてしまったと言っておってな。そのままにしていたものゆえ」
     あげた? そんな風に言っていたのか。彼女は困惑して手にしている上着に目をやる。髭切が部屋に残していった上着。ベッドで休んでいる間、この一月ほどずっとそれが目に入っていて、否応なく彼女は髭切のことを考えていた。
    「……でも、上着なしじゃ困るでしょう。替えがあるのかもしれませんが」
     それとも、一度彼女の手に渡った上着は嫌なのだろうか。そんな可能性に若干落ち込みつつそう言えば、三日月は今一度首を振る。
    「そうではない。もう、あれにその上着は必要ないのだ」
    「それは、どういう」
    「髭切の太刀は、既にヒトの器を失った」
     彼女は硬直した。一体、どういう意味だ。
    「顕現した体を強制的に刀剣状態に戻し、倉庫に所蔵されるよう強く希望があった。それゆえ俺があやつを鋼の身へと戻し、今はもう眠っている」
    「え……だ、だって、三か月はって」
    「そうだ。三か月はそなたとの契約を切ることはない。だがもう、あれはヒトの身ではない」
     そんな、既に刀に戻ってしまったというのか。思わず彼女は髭切の上着を取り落した。ばさりとそれは広がりながら地面に落ちる。
    「そ……う、ですか」
     やっと言えたのはそんな呆気のない返事だった。実感がわかない。本当に、行ってしまったのだ。彼女の手の届かないところまで行ってしまった。三か月の間、同じ施設内にいれば、彼女が探し続けていればどこかで不意に会えるかもしれないと、心のどこかで思っていた。けれどもう、それも叶わないのだ。
     何も言うことができずに、彼女はただ視線を下げる。せめて落ちてしまった上着を拾おうと屈んだとき、彼女の手を三日月が掴んだ。
    「前に、そなたは俺に言ったな」
    「……何を、ですか」
    「髭切を幸せにしたいと、言ったな」
     ……確かに、言った。その為に髭切の「いい主」になりたいのだと、三日月に言った。
     三日月は真っ直ぐに彼女を見つめて、その手に髭切の上着を握らせる。
    「あれが刀剣に戻ることを急いだのは、そなたのことを忘れようとしたからだ」
    「忘れる?」
    「そうだ。……前にも言うたが、あれの最初の主は髭切の目の前で死んでいる。そのときも、そうだった」
     刀解は嫌だ、まだ戦いは終わっていない。そんな中で本霊に戻ることなどしたくない。髭切は刀だ。戦うための武器。ヒトも、ヒトならざるものも斬り捨ててきた。戦いを捨てて還るなど、そんなことは髭切の矜持が許せない。
     けれど、あまりにも、胸が痛みすぎる。ヒトの体では、今は苦しすぎる。
     だから、時間が欲しい。忘れるための時間が欲しい。それは何も辛いことではない。髭切が千年の間繰り返して来たこと。何もかも「どうでもよくなる」まで、一度眠ればいいのだ。
     ぎゅっと胸が苦しくなる。以前一度聞いたことだが、それでもやはり。そして自分がそんな髭切の前で負傷したことに、悔やんでも悔やみきれない。
     しかし三日月は彼女の手を上から握って、首を振った。
    「だがな、その髭切が眠る直前、何と言ったと思う?」
    「え……」
    「髭切はな、忘れたくないと、言っていた」
     呼吸をすることが、一瞬意識の内から飛んだ。胸の中で感情が詰まってしまって、指先が震える。三日月の月夜の瞳が優しく彼女を照らし、髭切の上着を握った彼女の手を押し戻した。
    「髭切は確かに、モノに近く扱いづらい。だが、そなたを育て、見つめ、共に過ごすうちにそなたの想いや記憶を惜しむ心を持ちえた」
    「……っ」
    「あれの心はそなたの片割れ。髭切は、それを失くすのを初めて惜しんだのだ。はっはっは、なるほど、上着を置いて行ったのはわざとだな。忘れてほしくなかったのだろう」
     視界が歪み、持っていた白い上着を抱きしめる。日向の香りのする上着。
     ずるい、そんなのずるい。自分は全部忘れてしまうつもりでいるのに、彼女にだけ覚えていろというなんて。ぼたぼたと真っ白な上着に涙が沁みてくすんでいく。居ても立ってもいられなくなって、彼女は立ち上がった。
    「……三日月さん」
    「……会いたいか、髭切に」
     三日月の問いに、彼女は頷いた。もう一度、どうしても会わなくては。髭切は逃げるかもしれない。それでも、もう一度会いたい。
    「ならば俺はそなたに問わねばならん。再び髭切に会うのなら、あれの主になるというのなら、最早普通の生活には戻れん」
     普通の、生活。審神者の養成学校に入学してから、ずっと戻りたいと思っていたもの。恐ろしい戦場も、死も、刃もない生活。彼女は今度こそ、自分からそれを投げ捨てることになる。
     真っ直ぐとこちらを見つめ、三日月は問う。
    「その覚悟はあるか。眠りについてからまだ日は浅いとはいえ、そなたのことを覚えているか保証はないぞ。それでも、会いたいと思うか」
     手にしている上着に目をやる。涙の痕がたくさんついたその上着。でもきっと、その分髭切は笑ってくれる。
     どんなときでも、そうだったのだ。いつでも、彼女のためを考えてくれていた。彼女を生かすことを考えていた。泣いていれば「どうして」と聞いて、強くなれば嬉しそうに笑って。
     だったらこれからもそれを繰り返していけばいい。ヒトの子の幸せになんて、もうこだわる必要はない。
    「もし忘れてしまっていても、私の髭切さんはあの髭切さんだけです」
    「……」
    「私の幸せと、髭切さんの幸せを同じように考える必要なんて、最初からなかったんです。だって、私達は別々な生き物なんです。それに髭切さんが最初に言ったんですから。一緒に幸せになるって。だったら私は、できれば、髭切さんと一緒に幸せになりたい。ヒトとモノとして」
     だから行くのだ、もう一度。眠っているのいうのなら、起こしに。何故なら彼女はまだ、髭切の主なのだから。
     三日月はゆっくりと瞬きをすると、穏やかに微笑み一つ頷いた。
    「その答えを待っていた」
     安堵し、彼女は上着を抱え直した。なら今すぐに行かねば。
     ああ、でもあの倉庫は鍵がかかっていた。前は髭切が物理で壊してしまったものだが、流石に彼女にそれは出来ない。どうしたものかと彼女が思っていると、突然けたたましいサイレンが部屋中に響きはじめる。
    「て、敵襲?」
    「ふむ、そのようだ」
     ガチャリと音がして部屋の戸が開いたので、彼女と三日月はそちらを振り返った。するとキイキイと車輪の音を鳴らし、三日月の主が車椅子でこちらにやってくる。
    「三日月、出陣要請。出られる?」
    「おや、あいわかった。……ああ、そうだな」
     三日月の主と彼女とを見比べ、三日月は悪戯っぽい笑みを浮かべるとごそごそと袂を探り始めた。それから一つ鍵を取り出して指から下げる。
    「なあ、主や」
    「……なに?」
    「俺はこの子の監督役を政府から仰せつかっていてな。しかし俺は出陣せねばならん、そうだな?」
    「そうね」
     ちらりと三日月の主は彼女を見て、それからハッとした表情をした。彼女にはさっぱりわからないが、三日月の主には、三日月の意図していることがわかってしまったらしい。
    「ふむ、参ったなあ。この子には今刀剣男士が傍におらんだろう? だが俺も行かねばならん。そしてここが襲撃を受けんとも言い切れん。その間にこの子に何かあれば責任を取らねばならなくなるなあ」
    「……はあ」
    「えっと……?」
    「でだな、ここに倉庫の鍵があるんだが」
     口をパカリと開けたまま、彼女は何も言えなくなってしまった。千年生きた刀とは思えない、小さな子どものような笑顔の三日月は彼女の前にその銀の鍵を差し出す。これで、髭切のところに行けと三日月は言っているのだ。
    「三か月の間は、髭切はこの子の刀剣だったな? 主が自分の身の安全のために刀剣を必要としているのだ。何も問題あるまい。そうだろう? 主や」
    「……ああもう、その通りよ。ほら、行って」
    「あ、ありがとうございます!」
     彼女はぺこりと一つ三日月とその主に頭を下げると、鍵を受けとり部屋を飛び出した。
     ……彼女のいなくなった部屋で、その後ろ姿を見送った三日月は瞳を細めて自らの主の背に手をやる。
    「主、どう思う?」
    「何を?」
    「あの子と髭切は幸せになれるだろうか」
     包帯で体の殆どを覆った少女は、顔を上げて車椅子から三日月を見上げた。それから肘置きに掴まり、ややよろけながらそこから立ち上がる。三日月は慌てて少女の体に腕を回した。
    「さあ……でも、きっと答えは得たのよ」
     互いが、互いのために何ができるのか。ヒトとモノである審神者と刀剣男士が、共に生きていくために。それはとてもシンプルな答えだ。
     三日月と少女は手を繋ぎ、ゆっくり歩いて戦場へと向かった。
    「えーっと、どっちだっけ」
     警報が鳴ったからか、騒がしくなりつつある政府の施設を彼女は走り出した。そう言えば前にも、こんな風に駆けたことがある。もっともあのときは、彼女は髭切に抱えられた状態だったが。そのせいか廊下を走っていると、髭切の革靴の音が聞こえてくるような気さえした。
    「君を立派な審神者にするよ、一緒に頑張ろうね」
     ある日突然目の前に現れた髭切に、今まで死ぬほど振り回されてきた。指導と称して筋トレやら弓道やら。数えたらきりがない。
    「僕は君と幸せになるよ」
     髭切が血塗れで笑ったあの日から、ずっと、ずっと。考え続けてきた。問い続けてきた。自分の幸せも、髭切の幸せも。
     そして立派な主になることが、その答えだと思った。
     息を切らせて倉庫の扉の前に立つ。片手に髭切の上着を抱えたまま、もう片方で三日月からもらった鍵を取り出し解錠した。すんなり開いたその倉庫はやはり、埃っぽいような甘いような匂いがする。彼女は一直線に、一番奥の棚へ進んだ。
    「は、はあ、髭切、さん」
     天井まで届く、高い棚。そこにはずらりと刀剣を納めた箱が並べられている。赤や白、金、紫、色とりどりの組紐で封をされたそれらの箱。本当ならば、彼女も最初はその箱を手にするはずだった。しかし今彼女が求めているのはそれではない。
    「髭切さん!」
     聞こえるように、倉庫中に響くように彼女は呼んだ。どうか応えて、僅かでもいい。上着を握りしめ、彼女はもう一度息を吸いこんで叫ぶ。
    「応えてください! 髭切さん! 私の、髭切さん!」
     私を、「僕の主」と。いつも笑って呼んでくれたあなたに。
     カタリと小さな音が上から聞こえて、彼女はハッと顔を上げた。慌てて傍にあった足場になりそうなものを引き寄せてよじ登る。高さが足りない、目を凝らして上の方を見つめれば、一つ琥珀色の組紐が見えた。あれだ!
     指先が攣りそうなほど手を伸ばしたが、届かない。彼女は周りを見渡したが、他に積み重ねて踏み台に出来そうなものはなかった。
     仕方ない、もうなりふりなど構っていられない。彼女はギリと歯を食いしばると、手にしていた髭切の上着を自分が羽織、落としてしまわないよう前で紐も結んだ。それからぐっと足を踏み込み、一気に跳躍する。もうずっと軽くなった彼女の体は、高く跳ぶことなど容易い。
     髭切の傍まで、行くことくらいは造作もない。
    「髭切さん!」
     琥珀色の組紐で封をされた箱のある場所の近くまで、彼女の手が届いた。だが僅かに箱自体を掴むことは出来ず、代わりに掴んだ組紐を強く引く。一緒に抜き出された箱はパカリと開いて、その中から太刀が一振飛び出した。
     ああ、あれだ。いつか、髭切が握らせてくれた美しい太刀。たった一振の、彼女の刀剣男士。
     それが指先に触れるか否かという刹那、ぶわりと息も詰まるような桜吹雪が巻き上がる。そして彼女の伸ばした手を、それよりずっと大きく温かな手が指を絡ませ掴んだ。
    「……愚かな子だね、せっかく、普通の子に戻れる最後の機会だったのに」
     日向の香りが一層強くなった。落下する彼女の体を確かに抱き留め、髭切は地面に降り立つ。抱き上げられた彼女の体は、床に足をつくことはできなかった。しかしその分彼女もしっかりと髭切の体に腕を回す。
    「まったく君は、愚かな子だなあ……。出会ったときから、僕の教えなんか一つも守ってくれないんだ、悪い子、悪い子だよ」
    「そんなの、髭切さんだって私の言うこと、一つも聞いてくれなかったじゃないですか……っ」
     悪い子だと言いながら、髭切はぎゅうぎゅうと彼女を抱きしめていた。
    「普通の子に、なれなくなってしまうよ」
     静かな声で髭切が聞いた。
    「それでもいいのかい」
    「……構いません」
     少しだけ体を離し彼女は自分の頬を拭った。琥珀色の瞳を真っ直ぐ見つめて、彼女は答えた。
    「だって、一緒に幸せになるんでしょう?」
     一緒に、幸せになるのだ。
     普通のヒトの子の幸せではないかもしれない。だがそれでもいい。普通に当てはめる必要なんてない。だって、彼女と髭切の生きていく毎日なのだ。ヒトとモノだけれど、歩む道は別々だけれど。寄り添うことはできる。
     髭切はふわりと微笑み、彼女の額に自分の額を擦り付けた。
    「うん……そうだった、そうだったね」
    「自分で決めたんですから、忘れないでくださいよ」
    「あはは、うん、大丈夫、忘れないよ。……忘れられないよ」
     とくとくと、心臓の音がする。自分の音、髭切の音。
     こうしてずっと、生きていくのだ。
     鼻を啜りながら、彼女は髭切に抗議した。髭切はくすくすと嬉しげに笑っているが、文句は死ぬほどある。
    「狡いですよ、上着置いて行ったりして」
    「ふふ、うん、ごめんね。でもやっぱり君には大きいなあ」
    「そりゃそうですって」
     よいしょと床に下ろされた彼女はするりと上着の紐を解いた。外の喧騒に気が付いた髭切がきょろきょろとあたりを見渡す。
    「随分騒がしいね、どうかしたの?」
    「あ、そうだ、忘れてました。あの、敵襲でして」
    「ありゃ、早速かあ。君、肩は平気?」
     彼女は髭切の前でぐるぐると肩を回して見せる。問題ない。
    「大丈夫です、任せてください」
    「ふふ、うん、じゃあ僕のことをしっかり見ていてね」
     ばさりと白い上着を翻し、髭切はそれを羽織った。それから彼女に手を差しだして笑う。
    「行こうか、僕の主」
    「……はい!」
     しっかりとその手を繋いで、彼女と髭切は再び走り出した。



    「あー、もう、ちょっと! 少しは手伝ってもらっていいですか?」
    「ありゃ?」
     主が箱を持ち箱の中を慌ただしく駆けまわっている間、髭切はベッドに座りこんで窓から外を眺めていた。今日は気持ちのいい天気だ。
    「今日明日でこの部屋出なきゃならないんですから。荷造りですよ荷造り」
    「まあまあ、そう焦らずに。ゆったり行こうよ。だって引っ越し先も政府の施設内だろう?」
    「そうですけど! 荷造りが終わらないことには行けないんですから! というかそもそも引越しになったの髭切さんが駄々捏ねたからでしょう!?」
    「そうだっけ?」
     にこりと笑って誤魔化したけれど、髭切とてそれはよくわかっていた。だからよいしょと腰を上げて何となく箱の中に適当に物を詰めはじめてみる。
     数日前、髭切は先日した彼女に関する「審神者として不適格」という報告を撤回した。それもかなりあっさり、「やっぱりあの子の刀剣でいるよ」なんてもので。勿論政府は大騒ぎだったけれど、相も変わらずそれは髭切の知ったことではない。三日月宗近がかなり諌めていてくれたから、一応そこには礼を言っておこうという程度だ。
     けれど政府としてもやはり、審神者の人員が増えるのは喜ばしいことである。だから結局は彼女を特例措置として審神者養成学校の卒業資格を与え、正式に政府所属の審神者として登録した。何故本丸所属ではないかと言えば、それはまた髭切が駄々をこねたからである。
    「一応ここは学生用の部屋ですから。明後日から別な寮で生活ですよ」
    「うんうん、厨とお風呂が広くなるんだっけ? よかったよね」
    「そうですよ、部屋が二部屋になりますから、髭切さんのお部屋もあります。だから髭切さんの持ち物はそっちに入れてくださいね。別な段ボールを使うんですよ!」
     ふうん、と適当に相槌を打ちながら、髭切は知らぬふりをして自分のものと彼女のものをごっちゃに詰め込み封をする。わざわざ分ける必要なんてないのにねえと内心で一人ごちながら、髭切はその箱を退かして新しいものを組み立てた。
     ひとしきり片づけをして部屋の中が空になると、政府内の業者がやってきてその箱を運んでいく。あとには髭切が無理にくっつけたベッドと、彼女と毎日食事を摂った机といすが残されていた。どうやらこれらはこの部屋備え付けの家具だったらしい。
     ベッドに座りこんだ彼女の隣に、髭切も腰かけた。うーんと伸びをして彼女がぼやく。
    「はあ、疲れました。でも今度は荷ほどきがあるんですよねえ」
    「あはは、まあゆったりやろうよ。今度は先が長いんだし」
    「……まあ、それも、そうですね」
     これからは、彼女も正式な審神者になったのだ。これから移る部屋には長くいることになるんだろうし、そう焦って荷解きをする必要もあるまい。
     髭切と彼女は、そのまま黙って並んで座っていた。
    「……怖い? これからのこと」
     脚を組み直しながら、髭切は彼女に尋ねた。視線は変わらず、窓の外の空。一羽鳥が飛んでいくのが見える。彼女もまたそちらに顔を向けながらそれに答えた。
    「怖くない、とは言えませんね」
    「あはは、そうだよねえ」
     今までは、彼女は三日月と髭切の監督下にあった。半人前扱いだったがために、回ってこなかった任務もあるだろう。だがこれからは違う。彼女は一審神者として前線で戦っていく義務と責任があるのだ。危険なことだって段違いに増えるだろう。無論、むざむざ死なせるつもりなど髭切にはないが。
    「……でも、これからできることも増えました」
     けれど柔らかな声で、彼女はそう呟く。
    「できること?」
    「はい」
    「例えば?」
     髭切が尋ねれば、彼女は指折り具体例を挙げていく。
    「まず、髭切さんの弟を探しに行けるかもしれません」
    「ああ、それは嬉しいなあ」
    「それから色んなところに行けますよ。政府の審神者は派遣のお仕事も多いですし。三日月さんも全国津々浦々色んなところに行くと言ってました」
    「……ふふ、楽しみだね」
     でしょう、と彼女は笑った。ベッドの上に置かれていた小さな手を髭切は握る。思えば出会ってからずっと、この手を繋いでここまでやってきた。そしてこれからも、きっとそうだ。
    「一緒に色んなところに行こうね」
    「迷子にならないでくださいよ」
    「大丈夫だよ、だって僕は君の刀なんだから」
     ベッドから立ち上がって、よいしょと彼女の手を引っ張る。それから髭切は何もなくなった部屋から一歩、足を踏み出した。
    「ねえ、新しい部屋に行っても寝台は同じようにしてしまってもいいよね?」
    「えっ、なんでですか! 髭切さんには髭切さんの部屋がありますからそっちで寝てくださいよ!」
    「あはは、気にしない気にしない。大雑把に行こう。ちゃんと手伝ったんだから、今日の晩御飯は僕の好きなものを作ってね」
     そうして新しい明日に、これからも二人で歩いて行くのだ。
     一緒に、幸せになるために。
    micm1ckey Link Message Mute
    2023/03/20 15:33:56

    できればあなたと幸せになりたい

    #髭さに #女審神者 #刀剣乱夢
    新米審神者と教育係の髭切の話。

    ATTENTION!!

    ・オリジナルの女審神者がいます。
    ・独自設定・解釈を含みます。
    ご注意ください。

    以前pixivに掲載していたものの再掲です。

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