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    春の騒音目の下の隈が物語る。
    沖田は最近、かなり参っている。

    (......よし。居ねえ、な)

    廊下の曲がり角。闇夜に溶ける沖田は、壁に背中を張り付けた状態で顔を少しだけ覗かせると、行き先を根回すように確認し。
    どこぞのスパイよろしく、対象の人物が居ないことに胸を撫で下ろすと慎重に、且つ素早く廊下を渡りに掛かる。

    此処は敵のアジトとかではなく。
    我が家でもある慣れ親しんだ屯所の一角だ。
    大浴場を出て向かうは近藤の部屋。
    この広い建物内の普段は通らないような道を選び、身を潜めながら進み行く沖田。

    何故このような奇行に出ているのか。
    不可解な行動ではあるが隊士達からしてみたら見慣れた光景でもあった。
    あぁ、また何か良からぬ事を考えているのだろうと。
    これから被害に遇うであろう副長の土方を思い、胸中手を合わせた。

    しかし。
    当人の心境はこれまでとは打って変わり。
    土方に奇襲をしかける側ではなく、まさか逃げる側に回っていようとは。誰も思うまい。

    沖田は今、屯所内で気を弛める事は許されないのだ。
    背後をとられようもんなら舌を噛みきって死んでやる。とまぁそのくらいの覚悟を持って生活を送っている。
    これもあの男の策略なのか。
    おちおち昼寝もしていられなくなった日常に沖田の眼も据わる。

    これまでの経験上、特に風呂上がりの時分は一番警戒しなくてはならない。
    気配を完全に消し。
    足音を殺す沖田は剣の手練れだ。
    容易に気取られるような男ではない。
    だが、そんな沖田の思考を読み取る者が居るとしたら、沖田の行く先を先回りをすることなど安易な事であった。

    灯りを消された部屋の戸が突如と開き。
    ぬっ、と伸ばされた手。

    「ーーッ!?」

    沖田の神経が瞬時に反応するも、飛び退くより速く。身構えた腕を掴まれ、勢い良く暗闇へと引き摺り込まれた。

    ピシャリ。
    閉じられた戸がそこだけ地震でも起きたかのようにガタガタガタッと暴れた。
    のち、静寂を取り戻し、春の虫音だけ庭先に残る。

    そんな部屋の中は、なんとも間抜けた絵面となっていた。
    肩で息を切る沖田は戸を背に押し付けられていて、そこに追い詰めた男も予定通りにコトを運べなかった事に不服な表情を浮かべていた。
    沖田の固く閉口した唇の前。
    返した手の平を挟んで互いの口が重なるこの事態をどう云えば説明がつくのか。

    「......おぃ。いい加減にしろよ、総悟」

    静かな怒気を含ませた口調で土方は下知をくだす。その手ェ退けろ、と。

    「~~っ、嫌でィ。そっちこそ いい加減にしてもらえやせんか」

    隙あらば人を襲いやがって! と吐き捨てる沖田は跳ねる心臓の所為か耳を赤く染めていた。
    それが羞恥の為か、奇襲に驚いた為かは判断がつかない。
    なんにせよ、こういったコトは沖田の許容の範疇を越えていた。

    初めはそんな沖田を受け入れた筈の土方であったが、流石に想いを伝えてこの一ヶ月。
    指一本触れ合うこともなく、なんの進展もなければ強行にも移ろう。

    「付き合うってのはこういう事も含まれてんだよ。さっさと腹ぁ括れ」

    「む、無理でさァ。だって、あんな、あん...な、女みてえな...」

    脳裏に駆け巡る記憶が余計沖田に抵抗をさせる。
    その顔は紛れもなく羞恥からくるもので今にも泣き出しそうであった。
    確かに、あの日一度だけ、沖田の合意を得ずに節操のないことをした。

    自室に訪れた沖田に想いを伝えた日。
    土方が予想していたどの反応をも裏切り、きょとりとした眼を自身の胸に落とすと手の平をその胸にあてて。
    己の気持ちを確認するように沖田は答えた。


    ーーなんですかねィ。
    気持ちわりいって返してやりたいところなんですが。

    この辺りが温けぇの。

    そう云って向けられた顔は少しの躊躇いを見せたのち。
    緩く、苦笑にも近い微笑みを浮かべた。

    「参りやした」

    どうやら、嬉しく思っちまったみてえです。

    と。
    そんな向けられた笑顔を泣き顔へと変えさせてしまったことを酷く後悔した。

    雄のように盛ったかと云えばそうではない。
    勿論、最後まで致すつもりはなかったが。
    土方が思っていた予想を遥かに超えて、沖田に性への免疫が無さすぎたのだ。
    半ば呆れる程に。

    無理はさせまいと、怖がる沖田を前に土方は手を引いてきた。
    これが今まで相手にしてきた女達であったなら、面倒な女は御免だと問答無用で即座に切り捨てられた。
    泣かれようと胸を動かされることはなかったのだが。
    これまで只でさえ振り回されてきたのに、また厄介な相手に土方も心を奪われたものだ。

    土方は沖田が眼を逸らすことを許さず。揺らぐ瞳を射ぬく様に見詰めて云った。

    「お前を女の代わりとして見たことはねぇがな。俺の云う好きっつーのは、こういう事だ」

    「......ンなの、判って、ます」

    判ってはいるが、納得はいかない。
    女の代わりではないと云うが、触れてくる手は女を触るときと変わらないもので。
    また自分も、土方を前に女と同じ反応をしているのだろ?

    目尻を赤くした眼でギッと睨み返し、沖田は男に呑み込まれまいと巻くし立てるように云う。

    「つか、なんで俺が女役なんでさァ。先ずそこから納得いかねえんですけど」

    公平じゃないと訴える沖田に土方も外道ではない。
    なるほどと、納得し一つの妙案をだした。

    「要は、お前は奉仕をするよりされる側が良いって事だな?」

    耳元に薄い唇を寄せ、口角を上げ黒く嘲笑する男はどう転ばせても捕まえた鳥を逃がす気はないらしい。
    散々逃げ回りやがってと、ブツブツ云いながら腰元まで屈む男に沖田は冷水を浴びたように青ざめる。

    吸い込んだ息は助けを乞う叫びへと変わり、
    夜の更けた屯所のなかで嵐が訪れたかのように扉が一晩鳴き続けた。

    春の夜の夢、草原に咲き始めた花ごと、嵐は土を削り取ってゆく。

    この傍迷惑な騒音や光景は、割りと日常茶飯事へと変わっていき。
    そうして目の前の廊下を通り過ぎる者達は呆れたように皆口をこぼす。

    あぁ、またやっている、と。


    暫くはやまない春の騒音。


    Yayoi Link Message Mute
    2019/01/19 10:23:28

    春の騒音

    【土沖】
    付き合いはじめたものの、沖田がなかなか腹くくれなくて強行突破しようとする土方の話。
    キャラ崩壊がすごい。
    ##土沖小説 ##土沖

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