休日ずるりと腕が落ちパチリと目を開く。
腕は縁側からはみ落ちぷらぷらと揺れる。
沖田は落ちた片腕を持ち上げるとくあっ、と欠伸をし、ごろりと体勢を変える。
「……腹減った」
ギュルルと腹の虫が鳴った。
だけど眠いしだるいしで動く気がしない。
何時もならこんな処で寝転がろうものなら喧しい怒声が耳につき叩き起こされる。が、今日は嬉しいことに非番の身。
時間をどう使おうと咎める者はいない。
暇だなぁ、旦那の処でも遊びにいこうか。
いや、やはりめんどい。
ならば土方にでもチョッカイをだしにいこうか。
いや、それこそ時間の無駄か。
誰と遊ぼうかと寝転がったまま、目だけをきょろきょろと動かす。
「……ぉ」
動いてた目が一点に止まった。
廊下向こうから土方と近藤が談笑しながら此方に向かってくる。
バチリ、土方と目が合うが寝返りをうち視線を逸らした。
「休みだからってこんな時間までぐうたらしてんじゃねえよ」
予想してたことを言われうるせぇ、と土方を睨み付けた。
「近藤さあん暇でさァ、遊んでくだせぇよぉ」
仰向けになり、沖田の処に来て足を止める近藤に、子供みたいな声をだし腕を伸ばす。
「悪いなァ総悟。今からちょっと野暮用で出掛けなきゃならねえんだ」
近藤だって沖田が可愛くて仕方がないのだ。
むすりといじけた顔をつくる沖田に申し訳なさそうに笑い、もう一度謝ってくる。
隣に立つ土方を見れば餓鬼かお前は、と馬鹿にされ。
「ふん、あんたには頼みやせん」
云えば、そいつは助かると、一々勘に触ることを云ってくる。
近藤の背中を見送れば、土方はどっかりと沖田の横に腰をおろした。
「……だから頼んでねェって」
頭の横に勝手に居座る土方の体をベシベシと追い払うよう叩く。
土方はそれを受け流し、暇なら遊びにいけよ、と煙草を口に咥え火をつける。
「じゃあ、旦那ん処にでも」
面倒臭いが休みの日まで土方にぐちぐちと云われたくはない。
しかし、ゆっくりと起き上がろうとする沖田の身体はベタリと、再び床についた。
「……何すんですかい」
土方は沖田の肩を押さえつけ起きられないようにしている。
「お前と万事屋がつるむと碌なことにならねえ」
とんだ言い種だと沖田は顔をしかめ
「なら甘味屋に」
土方の顔を伺うように見上げれば男はまた首を横に振る。
「奴と出くわす可能性が高い」
「……」
なら何処なら良いんですかぃ、と呆れるように溜め息をついた。
土方は煙を吐き出し、ぁー、と少し考え煙草を地面に向かいピンッと弾いた。
沖田は渇いた土の上で立ち上る煙を横目に入れていると、突然、カプリと唇を塞がれた。
むわり、口内に紫煙が広がる。
沖田は暴れもしなければ目を閉じるようなこともしない。
「煙草のあとは嫌だって、いつも云ってんでしょーが」
唇が離れると口内に広がる苦味に顔をしかめる。
土方は可愛くねぇと心ん中で思うも
「やっぱ此処にいろ」
手元に置いておきたいと思ってしまう。
だが沖田は数回瞬きをし、そいつは嫌でィ、と口をごしごしと乱暴に拭う。
どこまでも失礼な奴だな、こいつは。思い、土方は肩を落とす。
「……にげえ」
ジロッと睨み付けてくる沖田は土方の袖を引っ張っていて。
「……」
「にげェ!」
ぐいぐいと力任せに引っ張ってくる沖田の言いたいことは分かっている。
土方は揺さぶられながら仕方ねえなァと、本日で何度目かの溜め息を吐いた。
「口直しにでも行くか」
沖田はがばりと起き上がり、待ってましたとばかりに、にんっと笑った。
そして腹減ったー とドタドタ廊下を走っていく。
「結局俺があいつの休みに付き合うのかよ」
土方は「早くしなせえ!」と、遠くから叫んでくる沖田の方へ間延びした調子で「へいへい」と答え、足を向けた。
まあ、いつものことか。
了