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    緊急速報「いいかあ! 川の近くに寄る馬鹿がいたら刀を向けていい。建物内に避難させろ!」

    雨風の吹き荒れるなか、男は声を張り指示を出す。
    天候は最悪の豪雨。否、嵐と云えよう。
    白いレインコートに身を巻いた武装集団が、膝に手を付き身を極力低く落とし。
    立ってるのも困難な状況で、ハイ! と声を張り上げる。
    そして皆指示を合図に各々の持ち場へと散っていく。


    (こりゃすげーな)

    こんな天候の為笠は使えず。煽り飛ばされぬよう、フードの端を抑えながら沖田は路上の先まで見据えるが視界が悪い。
    つんざく様な雨が五感を鈍らせる。

    初めは、やや荒れた風が吹いていただけだった。

    「こりゃあ春の風ってやつですかねィ」

    「ようやく冬も終わったか。ま! 俺はお妙さんと出逢って一足先に春がきてたがな」

    「近藤さんの頭のなかは年中お花畑じゃねーですかィ」

    居間の茶托に頬杖をついて、姉から送られてきた激辛煎餅をかじる沖田は慣れたように返す。
    その後ろではブラウン管の前でワイドショーを観ながら刀の手入れをする土方も、また呆れた顔をしている。

    そんなよくある和やかな空気は唐突として壊されることとなる。
    初めは障子がカタカタと小さく鳴り、それが段段と、まるでそいつは怪奇現象のように近付いてきた。
    誰かがけたたましく戸を叩いているかのようだ。
    近藤は、神妙な面持ちをした。

    「……おい、なんかやばくねぇか?」

    そのときが、訪れた。
    屯所の建物の戸が一斉に、何かに呑み込まれたように荒れ狂い、鳴りだした。
    近藤は立ち上がり、土方と沖田は先程までの弛んだ空気を一転、気の糸を張る。

    屯所にいた他の隊士達も異変に気が付き浮き足立つ。

    「うわ?!」
    「なんだこの風は!」

    ゴウン、と幾つか戸は中へと吹き飛ばされ、室内に雨風が入り込む。
    近藤たちもこいつは面妖だと顔を見合わせ、緊急放送に切り替わるテレビを見た。
    朝方並んでいた晴れ印は、江戸一帯かけて嵐となることを知らせていた。
    緊急注意報とだされた画面のなか、笠ごと吹き飛ばされ地面に転がり身動き出来ない市民たちの映像が流れている。
    訴える避難誘導の指示とともに、間も無くして彼等は御上から市民の避難及び救援へ回るよう命令が下された。
    なんでも、五十年に一度あるかないかの異常気象らしい。

    あまりにも突然訪れた嵐に家に帰れず足止めを受けている者達も多い。

    (……ガキたち、どっかに避難してりゃあいいが)

    指示された場所で人々をあらかた避難所へと誘導させた沖田は自分の持ち場を離れた。
    そして向かっているのはよく赴く公園。
    みんな家は近くだから大丈夫だとは思うがやはり気に掛かる。

    壁づたいに歩くのがやっとのなか、うすぼんやりと見えてきた公園。
    豪雨の音のなか、沖田は耳を疑った。眼は険しく開かれる。

    おいおい、マジかよ

    混じっているのが空耳でなければ、聴こえるのだ。
    子供の叫びに近い鳴き声が。

    足が縺れそうになる程の風を受けながら急いで向かうと、遊具の造り途中か、立て掛けられていた筈の資材の紐がほどかれ乱雑に倒れていた。
    嫌な予感はしてたが適中した事態に沖田は舌をうつ。
    歳が十くらいの子供、腰から半分したが重なりあう資材の下敷きへとなっていた。

    「オイ! 無事か!」

    駆け寄るとその少年、沖田を見るや安堵故か、更に顔を歪め声をあげて泣きだした。
    にーちゃん! にーちゃん! と。

    これだけ声が出せるのだ。骨の一本はやられても内部への支障は無さそうだ。

    「いま出してやっから。ジッとしてろィ」

    すぐさま携帯を取りだし部下に救援要請の連絡をいれた。
    小さな身体を挟むよう重なる資材は、水気を含み重みも増して、沖田一人で退かすには中々に困難。それでも少しでも子供への負担を減らそうと一本ずつ、下手に崩れぬよう慎重に抱えて取り退いていく。
    補整前のささくれだった木材が手の平を引っ掻く。刺も皮膚の中へと入り込むが気にしてなどいられない。

    「もう少し辛抱しな。婆ちゃんとこ連れてってやっからなぁ」

    何度か眼にしたことがある。この公園で優しそうな老婆に手を繋がれ散歩しているところを。
    口を聞いたことはないが目尻がよく似ていたから、きっとあの女性は祖母なのだろう。
    荒々しい雨音に混じる間延びした沖田の声は、気の抜けるような、子供を落ち着かせる口調で放たれる。

    だが当人に然程余裕はなくて、いつもの鋭い神経が働いていなかった。
    また一つと、資材を持ち上げようと身体を屈めたそのときだ。
    交通整理で使われてた看板が、突風に巻き込まれ凶器へと代わる。
    沖田を目掛け吹っ飛んだのだ。

    子供の口が、兄ちゃんあぶない! と叫ぶ。
    瞬時に振り返った沖田だが、どうすることも出来なかった。
    そいつを避ければ子供がどうなるか、出た答えは容易で。
    考える間もなく沖田の身体は咄嗟に子供を覆っていた。

    ガアァン! と、
    襲う衝撃に眼をきつく閉じた。
    鋭い痛みが駆ける。

    しかし、そいつは背中にではなかった。
    痛みを帯びたのは耳の奥の鼓膜で。
    沖田は目蓋の力を抜き、目の前の子供を見た。
    恐い思いをしただろう。
    組んだ腕で頭を隠し、地面に顔を伏せて震えている。
    無事を確認し沖田の口からは ほう、と弛んだ息が漏れた。

    そしてまさかと、首を回し見上げれば。
    その男は身を挺し沖田の盾となっていた。
    横なぶる暴雨を物ともせず佇む彼に、沖田の眼が見開く。

    「土方...さん」

    肘でそいつを弾き落としたのか、地面に落とされた看板は深くへこんでい。
    小さく呻き、歯を食い縛る男の様が受けた痛みを語る。

    「ぼさっとしてンじゃねえ!さっさと手ェ動かせ!」

    思わず呆けていると渇を飛ばされた。土方が駆けつけた後、追って部下達がやってきた。
    声を掛け合い手早く救出作業に取り掛かる。
    子供は無事、救護された。
    やはり足の骨は折れていたようだ。

    にーちゃん、ありがとう

    隊士の背中で弱々しくも笑った顔が沖田に向けられて。
    そのまま部下の車へと乗せられ病院へと運ばれて行った。

    「心配すんな。丁度あのガキの親代わりが病院に来てる」

    「婆さんが?」

    「ああ、知ってるのか。薬を貰いに通ってるらしくてな。公園に子供を置いて病院に着いたらこの嵐だ」

    酷く取り乱して、外に飛び出そうとする年寄りを宥めるのに苦労した。
    そのとき部下に沖田からの一報が入ったことを聞かされ駆けつけた訳だ。



    「皆ご苦労であった! 今回の件は大きな被害もなく無事防げたようだ。あとはゆっくり休むがいい」

    近藤の張られた声が屯所の庭に放たれた。
    嵐は過ぎ去り、流れる雲の隙間から青が覗く。
    その下ではドブ鼠のように汚れきった男達が尻をついたり横たわったり。皆力尽き虫の息となっていた。
    疲労困憊しているのは彼らだけではない。

    「珍しく良い働きしたじゃねーか」

    土方が掴み、見た沖田の手。
    赤く擦れ、皮が剥がれて血が滲んでいる。これは痛かろう。

    「放しなせぇ」

    そこはかとなく見られるのが嫌で。土方の手を振り払う。

    「いつも返り血も浴びず、涼しい顔して人を斬るテメェが。血い滲むまでの肉体労働とはね」

    雨に閉ざされた中、その必死さを目にし。
    上司として俺ァ嬉しかったねと、土方は可笑しそうに云い煙草を口に挟む。
    そんな土方にじとり、眼を向ける沖田は気付いていた。
    男が煙草を取り出すのも火を点けるのも、右手を使わなかったことに。
    自分を庇ったその右腕が、思うように動かせていないことに。
    感謝をしようにもそう茶化されては云えなくなるではないか。

    「トシ、総悟ッ。おめえら子供護って怪我ァしたらしいじゃねえか。大丈夫か!?」

    心配する近藤にくるりと二人は向いて、
    そんなんじゃねェと唇を尖らせる。

    「「丸井デパートの自動ドアに挟まった。」」

    人を護ったことで礼を云われるのは、男達の道理に外れるからだ。
    要は只のヘソ曲がり達に、近藤は豪快に笑った。


    Yayoi Link Message Mute
    2019/01/19 11:20:01

    緊急速報

    【土沖】
    豪雨の日に真選組が駆り出されるお話。
    カプ要素あまりないですがこんな日常もあるってことで。
    ##土沖小説 ##土沖

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