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    寝物語とろん、とした目を薄く開けて、呂律の悪い口は辿々しくも言葉を繰り出す。

    「んで、......そいつ、妹が、できたらしぃん…でさぁ…」

    「そうか、そりゃよかったな」

    土方は相槌をうつも、で、それで? と続けたくなる。
    続きを促すものではなく。それが、なに? といった意味合いでだ。

    「……近所の爺さんも、孫ができたって、云って…喜んでやしたし」

    「ほーぅ」

    今日の沖田はどこか少しだけ妙である。
    うとうとと今にも落ちそうな目蓋を必死に堪え、土方に些細な世間話を聞かせるのだ。
    かれこれ、一時間くらいに渡って。

    昼間の減らず口は兎も角、もとより沖田は口数が少ない方である。
    それも布団の中に至っては特に。

    故にこうも続けて話題を振ってくれば、珍しいを通り越し違和感を覚える。

    「…んで...、あと、…」

    なんだっけ?

    聞かれたところで分かるわけがない。そろそろ限界なのだろう。
    天井を仰ぐ沖田の瞳は目蓋が完全に覆ってい、口は微かに動いているが最早聴きとれないほどに声は小さくなっている。

    「もう寝ろ。話なら明日聞いてやっから」

    云って、二人の輪郭を映す行灯に手を伸ばそうとしたら、睫毛が震え、またもやうっすらと瞳を覗かせるものだから。流石に土方も、なんなんだよお前は!? と心の中で叫んでいた。

    しかし沖田の口から、

    「あん、た…明日も…俺をだくんだろぃ?」

    そうゆっくりと言葉を放つから

    「総悟?」

    「そしたら俺は、またすぐに寝ちまう」

    沖田は眠気を振り払おうと人指し指で目を擦る。強すぎた為か、少し赤くなってしまった瞳を茫っとさ迷わせて云う。

    「俺ぁ、……娼婦じゃねぇ」

    この言葉には流石に土方も驚き、返す言葉を失った。
    確かにここ最近で寝床を共にした沖田を抱かなかった日はない。
    現にいまも性交を終えた後で、沖田と話をするのも億劫に思えるほど体に疲れが出ているのも事実。
    しかしだ、沖田を娼婦のように扱ったことなど一度たりともない。
    指先一つからその熱を拾うように、大事に扱ってきたつもりでいた。

    だが、それは沖田に伝わっていなかったのだろうか。
    眠気を我慢してまで世間話を続け、挙句、娼婦でないと云う沖田。
    土方には理解し難く、自然、顔も険しくなる。

    「おい、どういう意味だ?」

    強めた口調で放ち、そして再び目蓋を落としそうな沖田の肩を些か乱暴に掴んだ。
    すぅ、と吸われた息。次に沖田から放たれる音を聴き漏らさぬよう待つと。

    「……別に、たいしたことじゃなくて。......ただ、最近あんたと、話してなかったなって」

    それだけでさぁ、と云う沖田は巻かれた薇ネジが今にも止まりそうな人形を連想させる。

    「……」

    つまりはなんだ? 抱かれるだけの夜なら、そこいらの娼婦と何ら代わりないと沖田は云いたいのだろうか。

    だが日中常にお前と話してんだろうが。そう土方は思うが、どうやら沖田の云う話していないとは今のことを指すようだ。

    同じ布団に床をつく前は必ず情事がつく。
    求めてやまない存在が腕の中にいればそうなるのが必然であろう。
    故に土方は当たり前の流れだと思っていたし、沖田自身も行為に拒みを見せたことはなく至極真っ当なことかと。

    ここまで思い、己を正当化させるように並ぶご託に、土方は酷く項垂れ落胆した。

    (そりゃそうか、)

    一度想いを伝えたことに安心し。言葉なんて必要ないと思っていた己の浅はかさにだ。

    土方は掴んだ肩から手を解き、悪かったと、さらりと沖田の前髪を掻き分け綺麗な額を露にする。そこに謝罪の意を含め口づけると、あ、そうだ、と、もうほとんど動きのない唇が空気を食む。

    「土方、さん…この前…、俺ね…」

    「あぁ」

    恐らくまた沖田の世間話が始まるのだろうと土方は相槌を返す。
    それは先程とは違って耳を傾けるようにし、優しい顔つきで。

    それに満足したのか、沖田はふっと顔を綻ばせ、眠りにつく前の最後の言葉を漏らした。

    告られたんですぜ、と。

    それは静かに、だが土方の耳に衝撃を与えるには十分なほどの声で。

    (……いや待てっ…、誰にだよっ!?)

    思わず再び食って掛かろうとする土方は出掛けた言葉をぐっ、と力んで喉に押し戻した。


    「……おぃ…いま寝るかこの野郎…」

    肝心なところで眠りへと落ちてしまった沖田に、悪態の一つも溢したくなるだろう。

    腕の中で寝息をたてる沖田は相変わらずの無防備で。
    憎まれ口さえ叩かなきゃ可愛いともとれるのにと内心土方はぼやき、そっと小さな頭を己の胸に押し付けた。
    それだけで、腕のなかの子供にこんなにも愛しさが溢れだす。

    ーーこんな真似、娼婦にはしねぇっつの

    わかれよと。そう云いたいが、これまで土方は女達と薄っぺらい関係しか持ってこず。
    愛情を伝えることに慣れていない己の不甲斐なさに頭も抱えよう。


    半分夢の淵に立っていた沖田に先程までの記憶が残っているかは分からないが。
    続きは明日の夜にでも問いただそう。


    肩並べてとりとめのない話をするのも悪くはない。

    相手が沖田とあらば、尚のこと。




    Yayoi Link Message Mute
    2019/01/19 12:45:33

    寝物語

    【土沖】
    布団の中で沖田の様子がおかしいお話。
    ##土沖小説 ##土沖

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