縮まらぬ距離爪先から伝わる体温。
足を絡めると、そいつは嫌そうに逃げる。
可愛くねえ。
そう思った言葉が本心であったなら、態々己の布団を冷やすような真似はしていない。
「冷えてんな...」
「えぇ。冷え性なんで」
今更だろィ? そんなニュアンスを含めた沖田は面倒そうに答えた。
眠ろうというときにちょっかいをだされたのだ。眉根に皺も寄ろう。
「お前と寝ると一向にあったまんねぇんだよ」
布団が。肌と肌を触れ合わせれば話は別だが、沖田はそいつを良しとしない。
「我儘だねぃ」
月明かりが唐紙を通し、眼を凝らせば天井の木目まで見えそう思えた。
実際は土方の記憶が見せているだけなのだが。
「あんたが行くなっつったんでしょうが」
隣に眼をやれば、細い肩と、着流しの皺を寄せた背中が薄ぼんやりと映し見ることができた。
それは紛れもない現実であり、そこに映るものこそが、土方の世界とも云えた。
ただその『世界』、この手に触れることが叶わない。
力で引き寄せようものなら崩れ落ちてしまいそうな程儚い存在である。
薄く張られた氷のように、綺麗ながらに脆い。
いっそパリパリと、踏みつけてしまおうか。
「……我が侭、か」
確かにそうかもしれない。
沖田の言葉が頭の中で繰り返され、無意識に口からこぼれていた。
そんな土方を怪訝に伺う沖田が居た。
肩がこちらに傾き、ころんと仰向けになって背中を隠す。
「なんなんです? 今日の土方さん、気持ちわりいんですけど?」
「云ってろ」
もそもそとそのまま身体を反転させて、沖田は様子のおかしい男と身体を向き合わせた。
「人恋しいってなら、俺じゃお役にたてやせん」
だって、少しばかりあるこの隙間
埋めてやる気はないのだから。
小さく、ニッと口端を上げる沖田は土方の心情を見る。
そして暗闇のなか、見えもしない土方の表情を想像し、次第に困ったように沖田は眉を垂らす。
映ったその顔は、甘えたいのか、泣きたいのか。どちらにせよ調子が狂う。
「なんて顔してるんです」
情けねえと、沖田は付け足すから。
見えもしないくせに。
否、見ようともしないくせに。
お前の瞳に情けない俺の姿が映っているのなら、
それは紛れもないお前自身の姿でもあったろう。
目蓋を落とすと世界を閉ざすどころか目の前の子供の輪郭がはっきりと浮かぶ。
こんなにも近くに居るのに薄く感じていた、色も、匂いも、濃くなっていく。
「お前じゃないと、駄目なんだよ」
了