イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    38℃の体温季節は冬真っ只中にある。

    正月休みを明けて正月ボケというものをみな引き摺りながら突入した三学期。
    怠惰な生活を送っていたことを露見するように風邪をひく者がぽつぽつと出てきて、予防しっかりしろよーと忠告する担任の声も虚しく、クラス中に広まるのはあっという間であった。

    そんな中、見事に食ってやられた土方の声を、沖田は携帯越しに聞いていた。

    喉の通りがわるい、乾ききったガラついた声を。

    今日は通常通り授業の日で時短でもなんでもない。それなのに、土方からの電話を沖田はいま出ている。
    本来なら銀八が担当している国語の時間であった筈だ。

    『やっぱりサボってやがったか』

    そう言うと、ゲホ、ゲホッ、と辛そうに咳が着いてくる土方の声を沖田は耳にあてた受話口から聴いていた。
    かすれてはいるが酷い鼻声という程ではない。
    いつものよく知る、土方の声だ。

    話すのもつらいなら掛けてこなきゃいいのに、思う沖田は口にはせずに、窓の格子に手を掛けた。
    ここからは下の校庭がよく見える。
    この白い寒空の下で、体育を行なっているクラスが準備体操の一環として、グラウンドを足並み揃えて走っている。

    『俺が見張ってねえからって朝からサボってんなよ』

    息を揃えるために小気味よく鳴らされる笛の音や、それに合わせた掛け声を聞きながら、片方の耳からは呆れを含ませた溜息が送られる。

    だが沖田に言わせればそれはとんだ驕りだ。

    「俺はアンタがいようといまかろうと、今日はサボるって決めてやしたぜ」

    得意げに返せば、案の定突っ込もうとして咳交じりに噎せかえる男に、沖田はおやおやと首をすくめさせた。

    そもそも授業の始まっている時間に電話を掛けてきた土方は、初めから沖田が出ることを確信していたということだ。
    そこにあったのは、出たらいいな、なんて期待からではないにしても、応えてやるのが沖田である。

    「土方さん、今日は天気も良いんで、一緒に昼寝でもしましょうや」

    応えるだけではなく、そんなサービス精神満載な申し出に、土方は頭を抱えたくなった。
    いや、実際に抱えていたにちがいない。

    「昼寝って時間でも、ゴホッ、......ねーな」

    まだ一限目ってこと忘れてねえか?

    そう言ってまたゴホゴホとつづく。

    言ったところでそんなことを沖田が気にする訳もないのだけど。

    「細けえなぁ。じゃあアレ、二度寝しやしょう」

    ほら。着地点を変える気は更々に、ない。

    厚いカーテンが風にそよぎ、パタパタと裾を踊らせている。
    いま沖田が見下ろしている開け放たれた窓の外の光景も、自室のベッドに腰掛ける土方から見えている。
    見せているのは、己の目蓋の裏だ。
    馴染みのなかったそこは、沖田のお陰でいまでは聞き覚えのあるもので溢れていた。

    電話越しだというのに、薬品の臭いさえ感じられそうだ。

    『先生は?』

    きけば、シャーっと、カーテンの金具がレールを走る音がした。
    沖田はベッドを取り囲む外の世界から身を隠したのだ。

    そうして布団を剥ぎ、踵を潰した上履きを脱ぎながら答える。

    「今日はどっかのクラスの講習だかで駆り出されてますよ」
    『またずいぶん都合がいいな』

    それを知った上でこの時間を選んだのではなかろうか。
    抜かりのなさにそう思うのは当然だ。

    電話の向こうでギシリ、パイプの軋む音がした。

    「土方さん、あんたも、ちゃんと寝なせぇ」

    決して寝心地がいいとは言えない学校のベッドのうえ、身体を横たえる沖田は土方に寝ろと言う。
    咳が酷くなってますぜ? とも。

    小言がうるさければさっさと切ってしまえばいい。
    だが沖田はそうはしなくて、ぽすっと、薄いマットの上に携帯を放った気配がしただけで、先程よりも少し離れたところから

    「おやすみなせぇ、土方さん」

    届く声はやわらかく、しかし、土方の肩を押して布団に引きもどすには十分な声で放たれた。



    チャイムも鳴って少しし、沖田の様子を見に授業を終え訪れた銀八はその光景に面をくらうことになる。

    顔の横に落ちた手のひらに握られた携帯電話、その画面に表示された通話時間。

    今もなお繋がっていて、ふたつの寝息が息を合わせるようにし、重なっている。

    (これじゃあどっちが心配かけてるのかわかりゃしねぇ)

    銀八は目の前の子供の頬の血色の良さに苦笑する。
    具合が悪いなんて信じちゃいなかったけど、これは、気持ちよく寝すぎだろう。
    もう少し病人っぽくしてくれない?

    「沖田くん起きろー」

    さすがに二限目はでようよぉ

    そう言って、栗色のやわらかそうな頭を撫でようと手を伸ばした。

    そのとき、

    さわったら、ころす。

    「へ?」

    確かに聞こえた、土方の威嚇。

    「え、なに、見えてる? つか起きてるの土方くん!?」

    問うても返るのは深く繰り返される男の寝息で、

    コワッ!? この子コワッ!?

    殺すつった!? 一応この世界では担任だからね俺ェェ!!

    前髪に触れようとしていた手を思わず引っ込める。

    代わりに伸ばされたのは土方と繋がっている携帯のほうへ。

    たてた人さし指を画面に向けて、


    「ったく。ちゃんと治して明日は来いよな」


    朝からふたりも居ないと先生さびしいじゃん。

    そう残し、電話マークをとん、と押した。


    「....ひじか、...さん」

    「ちょ、沖田くん、いい加減起きて?!」

    なんかしんないけど先生が恥ずかしいから!


    甘えるような声で洩れる寝言が、土方の耳に届かなくて良かったと、銀八は思わずにはいられない。

    正常な自分でさえ、身体の熱が馬鹿みたいに上がっているのだから。

    病人にはきつかろう。

    強すぎる薬はときに毒にもなることを、沖田は知るといい。

    土方にとって自分がそれであることも。


    Yayoi Link Message Mute
    2019/01/19 13:04:13

    38℃の体温

    【土沖】3z
    土方が風邪ひいて休んでます
    ##土沖小説 ##土沖

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品