あにまるふぁいと立さんside:狐立
ある日。
堂島さんが、少し遠出して、美味しい牛乳を買いに行かないかとお誘いをしてくれた。
「この間お務め先で紹介されてな。ちぃと興味もあるから行かないか。」
「で、でぇとですか…!」
「まぁ、そうだな。ちゃんと耳と尻尾は隠せよ?」
「はい!」
るんるん気分で僕はお出かけグッズの入った引き出しを開き、
身支度をしていく。
堂島さんもお出かけ用のお着物を着付けし始める。
「こら足立。まだ尻尾しまえてないぞ?」
「が、頑張りますから!堂島さん!ちゃんと首飾りしました?」
「してるよ。ほら、早く行くぞ。」
「んしょ…。よし。しまえた。」
急いで堂島さんの元に向かうと、堂島さんの準備も万端だったので、
さっそくお出かけ開始となった。
side:うし立
「モウ朝かぁ~。」
眠り目をこすりながら、いつもの朝を迎えた。
僕は雄だけど、乳牛としてこのヤソイナバ牧場でお世話になっている。
今日もまた、堂島さんのおさわりタイムがやってくる時間だ。
「足立、起きてるか。」
「もちろんですぅ~。堂島さん、早く早くぅ♪」
堂島さんの乳絞りはとても優しく、最後の一滴まで絞り出してくれる。
しっかり美味しい牛乳が出せたら、堂島さんのみるくのご褒美つきだ。
「あんっ。堂島さん…!もっとください…!」
「しっかり俺のも搾り取れよ?足立…!」
こうやって、僕も堂島さんから美味しいみるくをもらい、
美味しい牛乳を生成していくのだ。
「ふぅ…モウ一仕事終えたし、のんびり過ごそう…。」
乳絞りが終わると、夕方まで特にやることもないので、僕はいつものごとく、
ネットサーフィンをすることにした。
そんな感じで、いつもと変わらない日々の始まりだと思っていたのだが、
今日はちょっぴり不思議な体験をする日であったのだ。
side:狐立
「ごめんください。」
屋外販売所に人がいなかったので、牧場の方まで足を運び、声をかけることにした
堂島さんと僕。
呼びかけると、遠くから返事が聞こえて、牧場の人だと思われる人が走って近づいてきた。
すると驚くべき人物が近づいていたのだ。
「えっ、堂島さん?!」
「なっ…?!」
堂島さん自身も驚き、一歩後ずさりした状態になった。
僕もびっくりして思わず尻尾1本と耳が出てしまったが、すぐにしまい込んだ。
「あぁ、確かに俺の名前は堂島ですが…。」
そういう堂島さんは、僕の堂島さんの方をじっと見ている。
無理もない。
同じ顔、同じ背丈、加えて性別も同じ。
全てがそっくりな二人が目の前に相対しているのだ。
「私の名前も、『堂島』と言います。もしかしたら、遠い親戚、なのかもしれませんね。」
堂島さんは冷静に返答しているが、気配からしてかなり緊張しているのが伝わった。
「失礼」と堂島さんが言うと、僕の肩を掴み、くるりと裏へと周り、
ひそひそと話しかけてきた。
「なぁ、もしかして本当に俺の親戚だったりするか。」
「堂島さんは僕と番った関係で年も取らないようになっているわけですけど、
『堂島』の血筋が別にもあるなら、親戚なのかもしれませんね。
それにしても…似すぎでしょう。気配もそっくりすぎ。」
元々、遼太郎さんの血筋が途絶えていなかったからこそ、堂島さんがいるわけなのだ。
同じ血筋がいておかしくはない。
そうだとしても、あの感じは何なのだろうか。
(ちょっとどきどきしちゃうよね…。堂島さんいるのになぁ。)
すると、牧場の堂島さんが出てきたところと同じところから、
動物らしきものがのそのそと出てきた。
side:うし立
「モウ…堂島さん、どうしたんです~?」
少し睡魔に襲われていた僕は、外が騒がしかったので、様子を見るため、
外に出て見た。
すると、そこには堂島さんそっくりの人間と、
僕そっくりの人間(なんだか気配がちょっと違う気もする)が立っていた。
「ちょっと。これ夢?」
驚きのあまり、僕は頬を抓ってみたのだが、痛みがあったので現実だとわかった。
それにしても、こんなことってあるのだろうか。
そうか。
これが俗にいう…『どっぺるげんがー』ってやつなのだろうか。
「しかもさ、キミ、人間じゃないよね?」
僕の顔をした相手にそういうと、少し驚いた顔をしていたが、
惚けた様子をとっていた。
相手の堂島さんそっくりのお着物を着た方は、どっしりと構えて、
僕そっくりのやつをなだめていた。
「こんなこともあるもんだな。」
「確かになぁ。そっくりだなぁ、互いにな。」
堂島さん同士はとても落ち着いて話をしている。
一方で僕たちの方はバチバチと雷が走るように睨み合っていた。
「キミ、僕の堂島さんに恋とかしないでよ?僕専用なんだから。」
「君こそ、堂島さんは僕の番なんだからね?手を出したら焼くよ?」
「ムゥ~!」
「むむー!!」
すると、堂島さんが僕の背中を撫でてなだめに入った。
「まったく、お前以外に懐く気はねぇよ。それにこの人たちはお客さんだとさ。」
「えっ…そうなんですか…?」
side:狐立
ツナギを着た堂島さんが牛柄の僕をなだめに入ったところで、
堂島さんも僕の所へとやってきた。
「うまい牛乳とちぃずをもらったぞ、足立。」
「くんくん…。あいつの匂いじゃないからいいか…。」
「こらこら、失礼だぞ。」
あいつの牛乳を堂島さんが飲むなんて、とてもじゃないが許せなかったので、
一応確かめたが、違う牛の匂いがしたので、良しとした。
堂島さんそっくりの人が育てた動物たちの製品だ。
そりゃ美味しいに決まっているだろう。
だけど。
アイツだけは駄目だ。
「もしかしたら、堂島さんが心打たれちゃうかもしれないし…。」
ぽつりと本音が漏れると、堂島さんはそれを聞き逃さなかったのか、
僕の服の裾を掴んで顔を向かせると、軽く口づけをしてくれた。
「ったく。俺がお前以外によそ見すると思ったのか?永遠を生きると誓っただろう。」
「えへへ…はい。」
ぎゅっと抱き締め返し、嬉しさを伝えると、堂島さんも僕の頭を撫でてくれた。
「さぁ帰ろう。寒くなってきたし、体を温めないとな?」
「もうすけべぇな顔しちゃって…!堂島さんったら。」
牧場の堂島さんに手を振って御礼を伝えた後、僕らはゆっくりと帰路へと着くのだった。
side:うし立
「あいつ、ようやく帰ったか…。」
あっという間に夕方近くの時間となっていた。
あの嵐のような時間のせいで、僕の有意義な時間がだいぶ失われてしまった。
「モウ…ストレス抱えたら堂島さんに美味しいお乳届けられないじゃない…。」
むっとなりながら、い草の柔らかいベッドに身体を沈めてごろりとする。
すると、そこに堂島さんがやってきた。
「あれ、まだ乳絞りのお時間じゃないですよ?」
「あぁ。でもちょっと疲れただろう、お前。
だから、少しマッサージしてやろうかなと思ってな。」
そういって、優しく背中や足のあたりをマッサージしてくれる堂島さん。
こうやって、いつも僕の変化を少しでも感じ取って行動にしてくれる。
それは、僕が乳牛だからなのかもしれないけれど、
僕に特別優しく接してくれるところを知っているので、嬉しくなる。
「モウ…お乳、またいっぱい溜まってきましたよぉ…。」
「まだ、だろう?」
少し悪い顔をして笑う堂島さんに、僕は頬を膨らませて反抗を表す。
「お前はそうやって、ゆったりしてくれればいいさ。
その様子に俺も癒されるからな。」
「えへへ。ありがとうございます。もう少ししたら、美味しいお乳、
堂島さんにお渡しできますからね…!」