隠した想いは燻りて注意事項
【ATTENTION!!】読む前に確認お願いします
・「鬼滅の刃」二次創作作品です。
・原作登場人物の女体化があります。
・カップリングとして「ぎゆしの 煉炭 宇善」が含まれます。
・モブがかなり話します
・現代パロです
・文章は拙いです
・ご都合主義です
上記の点確認の上、自己回避よろしくお願いします
なんでも許せる方のみお楽しみくださいませ!
——いいのか言わなくて。
思わず隣に振り向いた。その言葉を発した友はぎゅっと眉間にしわを寄せていた。
己を心配しての言葉だとわかっていた。それでも答えは今までと変わらない。自然と自分の眉が下がったのがわかった。
「言わないよ。」
「…なんで。」
「わかってるだろ?」
——お前も同じ気持ちを抱いているんだから。
そう口にはしないものの相手には伝わったようで、ぐっと言葉を飲み込む音がした。への字に曲がってしまった口元が分かりやすくて苦笑が漏れる。
「いいんだ。それに言ったら思い出してしまうかもしれない。…あんな辛い記憶、思い出さない方がいい。あの人には今世こそ幸せでいてほしいから。」
そっと呟いた言葉は自分でも言い聞かせるように聞こえて。我ながらどうしようもない思いを抱いているものだ。こんな弱気になるならこんな気持ち忘れてしまいたいと何度思っただろう。今も考えている時点でその目論見は達成された試しがないと言っているようなものだ。
「…でも、あと少ししたら俺らは卒業するんだぞ。」
ぽそりと落とされた言葉は、確かな重みを持って俺たち2人の間に消えていった。
「そんなこと、とっくの昔に決まっていたことさ。」
燻り続けた想い
キメツ学園。中等部と高等部からなるこの学園には一つ大きな特徴があった。それは「前世の記憶」を持って生まれた者が存在すること。いや、厳密に言えば前世で「鬼殺隊」という組織に所属していた者や関わった者が多く在籍している。それは何も生徒だけの話ではない。
俺、竈門炭子は前世の記憶ー前世は竈門炭治郎という男として生きた人生だったーを憶えている生徒の1人だ。見覚えのある先生や同級生と共に学園で過ごしてきた俺は、今高等部3年生。あと1ヶ月もしないうちにこの学園を卒業する。
そんな俺には前世からずっと心に残っていた人物がいた。
その人の名は、煉獄杏寿郎。キメツ学園高等部の歴史教師。その人気は男女問わず、誰からも好かれる好漢だ。
彼の前世は鬼殺隊・炎柱 煉獄杏寿郎その人だ。しかし、その記憶を彼は覚えていない。
「なー炭子。今日放課後ひま?俺、新しい楽譜見に行きたいです!」
「今日か?んーいいぞ。今日は禰豆子が部活もないみたいで早く帰ってくれるらしいから。」
「え、禰豆子ちゃんひまなの?一緒に行ける?」
「いや、俺の代わりに手伝ってもらわないといけないから…。」
「そっかぁ。残念だけど、ならしょうがないね!あ、そういえばあのお店の近くで新しいクレープ屋さんできたんだけど付き合ってくれる?いい?やったぁ!」
さっきまでのしょぼくれた顔からすぐに笑顔になった金髪がまばゆい彼女の名は我妻善子。前世の名は我妻善逸、共に鬼と戦った大事な同期は、今世でも前世の記憶を持った同士として共に過ごしている。
伊之助はどうしたかって?当然彼も今世で一緒にいる。記憶ももちろんある。でも、正直記憶があってもなくても変わらなかったと思う、と神妙な顔で言ったのは再会した際の善子の談だ。
俺たちはこの鬼のいない世界で何事もなく平凡な、しかしあの誰もが苦しんだ前世でみんな等しく願ったこの平和な生活を心から楽しんでいた。
学校帰りの買い食いなども例外ではなく、学生らしく放課後よく選ぶ選択肢の一つだった。
そんなこんなで久しぶりの誘いにうなずいた俺は、善子の要望通り学校帰りに寄り道をし、お互い気になるクレープを食べるため近くの公園のベンチに座ったところで冒頭に戻る。
善子はさっきの言葉を発してから何も言わない。言えないのだ。だって俺たちは一緒だから。
俺は煉獄さんという人が心に残っていたように、善子にも善逸だった時からの心残りの人がいる。その人の名は宇髄天元。元音柱で今は煉獄と同じく高等部で美術教師をやっている。彼も前世の記憶はないようだった。つまり、俺と善子は同じ思いを持つ同士でもあった。それは、「恋心」という字面だけ見れば可愛らしい想いだった。
俺がこの気持ちを自覚したのはいつだっただろうか。最初に彼と再会したのはこの学園に入学して始めの教師紹介だった。見慣れた顔が並ぶ中、一際目立つその紅混じりの金髪が窓から溢れる光できらめいて、懐かしさのあまり涙が出るかと思った。目の前で誰よりも強く、誇り高く、柱としての役目を果たして死んでいった彼のことを忘れたことなどなかった。そんな彼が目の前で生きている。それだけがただ嬉しかった。
それから俺も善子や伊之助との再会もあって慌ただしく時間は過ぎていった。だが、教師と生徒という関係上、授業を受けていなくとも接点は出来ていく。高等部に進級するまでに俺と煉獄さんはそれこそ前世くらいには話せる仲となっていた。だからこそ気づいてしまった。いや、気づかされてしまったと言った方がいい。
俺は煉獄さん、煉獄先生に恋をしているのだと。
もっと話していたい。彼のことを知りたい。…そばにいたい。そんな気持ちばかり心に浮かぶようになって、俺は善子に相談した。この想いをなぜ抱いてしまうのだろうかと。善子は少し驚いて、この想いを「恋」だと名付けてくれた。
この時ほど女で生まれた今世を悔やんだ日はなかった。男であれば、諦められたかもしれない、と。
女で生まれたことを後悔しているわけではない。でも、そう思わずにはいられなかった。
なぜなら、これは叶わない恋だとわかってしまったからだ。
それには理由がある。それは同じく記憶を持っていた胡蝶先輩に言われたある一言が原因だった。
「記憶がない人でも、会話によっては思い出す可能性がある。」と。
根拠となったのは先輩自身の経験からだった。先輩のお姉さん、カナエさんも前世は柱の1人だった。俺たちと同じように、生まれた時から記憶があった先輩は、お姉さんも同じだと思い前世の話をしたらしい。でも、お姉さんは憶えていなかった。先輩は話したことを後悔したそうだ。しかしお姉さんはその後も前世の話を聞きたがったらしく、渋々話していたらしい。すると数年後、二日ほど寝込むという事件はあったが、お姉さんも前世の記憶を思い出したんだそうだ。
「しのぶの話を聞くと夢で前世の姿を見ることができたの。だから思い出せたのよ。」
カナエさんはそう語っていたらしい。しのぶさんは、お姉さんに鬼に殺された時のことまで思い出させてしまったと謝ったそうだが、カナエさんは気にしていないと笑ってくれた。だから、気にしないようにしている、と先輩は優しく笑っていた。
その話を聞いて、俺たちはますます煉獄さんたちに前世の話はできなくなった。今思えば怖かったのかもしれない。何故思い出させたと責められるのが。絶対にそんなこと言わない人達なのに。
それなのに高等部に上がれば否応無く授業を受けることになり接点は増えていく。前世からの性分は変えられないから、進んで手伝いを申し出てしまって後で後悔することも多かった。でも、そんな日々もあと少しで終わりを迎えようとしている。
「…そろそろ帰ろうか?」
「…そーね。クレープも食べ終わったし。付き合ってくれてありがとね。」
「いや、俺も美味しかったから。さあ、早く帰ろう。そろそろ日が暮れそうだ。」
2人揃って見上げる空はゆっくりと闇色に染まろうとしていた。夕焼けの赤とのコントラストが妖しげな雰囲気を醸し出す。その景色に少しの間目を奪われていると、背後からよく知った匂いと声が聞こえてきた。
「よもやよもや。まだ帰っていなかったのか。」
「おー、そうみたいだな。風紀委員なのに夜遊びか、我妻ぁ?」
どうしてこうもタイミングがいいのか。いや、この場合良くはないのかもしれない。しかし、無視することもできず、俺と善子は車の中から呼びかける先生方に身体を向けた。
「お疲れ様です。煉獄先生、宇髄先生。先生方も帰るところですか?」
「いや、俺たちはこの後久しぶりに飲もうと約束していてな。店に行くところだったんだ。君たちは?」
「俺たちはこの近くのクレープ屋さんに興味があって。さっきまでここで食べてたんですよ。今帰るところです。」
「そうか。ふむ。もう日暮れだ、家まで送っていこう!」
「え。い、いいですよ!ここから家までそんなに遠いわけではないし、善子と一緒に帰りますから!」
「だが、女子生徒2人を暗い中返すというのは教諭としては心配なのだ。それに、宇髄と行く店は君達の家の前を通ったところにあるからついでのようなものだ!」
「ですが…。」
「だー!もうめんどくせえなぁ!ほら、我妻!」
「へ?ちょっ、え、なんで俺輩先生に抱えられてるの?!降ろして!」
「宇髄先生?!」
宇髄先生が善子を小脇に抱えて後部座席へ乗り込んでいってしまう。それを見ていると煉獄先生に顔を覗き込まれてしまう。俺はもう反抗することを諦めた。
ブロロロロ
煉獄先生の運転で俺の家へと向かう道中は後部座席のうるささであまり緊張はしていなかった。些細なことでギャンギャンと言い合う善子と宇髄先生のやりとりはいつもと、そして前世とも変わらなくて聴いているだけでも仲がいいのだと思う。残念ながら良すぎる己の鼻はわずかに香る善子の苦しさもわかってしまったが。
「そういえば、竈門少女は卒業したらどうする予定なのだろうか。」
ポツリとこぼされた言葉は俺の将来を尋ねるもので、それを問われる時期なのだと今更ながらに実感してしまった。
「俺は実家のパン屋を継がなくてはなりませんから。製菓の専門学校へ進学してもっとパン作りについて学ぶつもりです。」
「そうだったな!君のご実家のパンはとても美味しい。俺の家族にも好評だぞ。」
「嬉しいです。またいつでも買いに来てください。煉獄先生ならサービスしますよ!」
「うむ。そうさせてもらおう!」
運転しながら会話をしているのだから煉獄先生の横顔を見ることになるのは当たり前なのに、何故かとてもドキドキしてしまう。会話が終わったというのに目が離せなかった。しかし、そんな夢のような時間も終わりが来る。視線の先には竈門の表札を掲げた生家がすぐそこに迫っていた。信号が変わり静かに車が動きを止める。
「そろそろ着くな。降りる準備をしているといい!」
「そうします。善子はどうする?」
「降りる!降ります!さっきじいちゃんに連絡したから泊めて炭子!」
「いいぞ。すみません、煉獄さん。そういうわけなんで俺たち二人とも俺の家で降ります。」
「うむ。了解した!」
この信号が青に変われば、この幸せな時間も終わり。せめて、隣にいるときの景色を少しでも覚えておきたくて、俺はフロントガラスをじっと見つめた。
ーーー***ーーー
そのときの俺は気づかなかった。煉獄さんがそんな俺を見て眉間にしわを寄せていたことも、くすぶる炎の匂いにも。
side 冨岡
「来たk…」
「「とりあえず生!」」
先に店にいた俺への謝罪などはなく、2人は揃って酒を頼む。すぐさま届いたジョッキを二人はガッと掴んで己の口元へと持っていった。
グッグッグッグッグ ゴクン
「「ぷはぁっ。」」
「なんなんだ一体…。」
ドンッとジョッキが机を叩く音がする。煉獄と宇髄は興奮冷めやらぬままその口を開いた。
「なんなんだは俺が言いたいわ!おい、煉獄。あいつらどうなってやがんだよ!可愛すぎんだろうが!特に善逸!」
「特にの対象には異議申し立てしたいが、同意だな。俺たちに過去の記憶がないと思い込んでいるとはいえ、いじらしい姿はクルものがある。」
「だよな!あいつら俺を避けやがるから話したのも久しぶりだってんのに、あからさまに嫌がりやがって…。そのくせに構ってやったらほっぺた赤くするんだからそんなの期待するだろ?」
「わかる、わかるぞ!あんなに遠慮していたのに、実際助手席に座るとそわそわ嬉しそうにするのだからな!運転しながら理性を保つのも大変だった!」
(俺は何を聞かされているのだろうか…。)
そう思っていても口にはしない。前世水柱であった頃から変わらない口下手ぶりで、今世では体育教師の冨岡義勇は先に注文していた己のビールに口をつけた。
そもそも、今日の飲み会の提案者は宇髄で店の指定も宇髄がしていた。なのに、煉獄共々遅れてくるわ謝罪はないわ文句を言ってもいいのだが、話を聞く限り二人は想い人達と会っていたようなので何も言えない。このことに関しては、恋人からあまり突っ込むなときつく言い付けられている。
そうはいっても酒を飲む前から興奮しているやからには無駄だったようで、隣に座った宇髄が腕を首にかけてくる。
「冨岡は良いよなぁ。胡蝶はもう卒業したから問題ないし!どうせ、尻に敷かれながら仲良くやってんだろ!」
「そんなことは…。」
あるかもしれない。そう思うと頭の中でいい笑顔のしのぶが浮かんできて、再び口をつぐんだ。
「まあ、そう冨岡に絡むんじゃないぞ宇髄。冨岡も一昨年までは我慢していた同士なのだから。」
「ま、そりゃそうだけどよ。それにしても、あと一ヶ月であいつらも卒業かぁ。長かったわ。」
ようやく己から話題がそれてホッとする。煉獄の方は少し落ち着いてきたのか、気配がようやくいつも通りになっていた。
「そうだな。なんせ中等部からだからな、6年、か。」
「まあ、最初は俺らも記憶なかったけどな。」
彼らの言うことはもっともだ。俺たち、いやキメツ学園の教師として働く元柱達はそもそも前世の記憶を思い出してはいなかった。しかし、ここにいる3人を例にして言うならば煉獄は竈門、宇髄は我妻、俺は胡蝶と再会した時に連鎖するように思い出していた。
どうして彼らを見て思い出したのかはわからないが、俺と胡蝶の今の関係、そして煉獄達の竈門達への執着を見ればわからないこともわかると言うものだろう。
「…あまりあいつらをからかうな。」
俺が言えることといえばこれくらいだろう。まぁ、からかっているつもりなどないのだろうが一応風紀を取り締まっている身で教師と生徒の恋愛を認めるわけにはいかない。
2人もそれがわかっているから特に何も言わず、話題は教師らしく他の生徒達や授業の事へと変わっていった。俺は聞くことが主になったが、見知らぬ生徒の生活を垣間見たようで楽しかった。
ーーー※※※ーーー
「…だが、あの話が終わる時、煉獄と宇髄が妙なことを言っていた。」
「あら、どんな内容だったんですか?」
飲み会も終わり、当初から泊まる事が決まっていたしのぶに今日の飲み会の会話を話していると、1つ思い出したことがあった。ポロッと溢れたそれに案の定しのぶが食いついた。酒を飲んだこともあり少しぼうっとしている頭であの時の会話を懸命に思い出す。
「確か、煉獄が『獲物を定めてしまった以上それに逃げ道など与えるわけがない』とか、宇髄が『大事なもんはちゃんと掴んでおかねぇとなぁ』だったか?たぶん、そんな感じだ。」
「それはそれは…。竈門さん達も厄介な人たちに惚れ込まれたものですね?」
「しのぶ?」
「いえ、なんでもありませんよ。ほら、義勇さんももうちょっと水を飲んでください。」
「ん。」
しのぶが何やら言っていたが、なんでもないと言うならそうなのだろう。俺は差し出された水をコクコクと飲み干しながら内心首を傾げながらそんなことを考えていた。
(当たり前のことを何を今更…)
所詮似た者同士のつどい