曙光の傷は夕暮れに癒される注意事項
【ATTENTION!!】読む前に確認お願いします
・「鬼滅の刃」二次創作作品です。
・原作登場人物の女体化があります。
・カップリングとして「煉炭」が含まれます。
・現代パロです
・文章は拙いです
・ご都合主義です
上記の点確認の上、自己回避よろしくお願いします
なんでも許せる方のみお楽しみくださいませ!
曙光の傷は夕暮れに癒される
「え。」
それは青天の霹靂といっても過言ではなかった。記憶のない煉獄にとって己はただの生徒でしかないのだとそう思い続けてきた。それが違うなんて誰が思うだろう。
「君と俺は教師と生徒の関係だった。だから今までこの気持ちを伝えることはなかった。だが、それも今日で終わりだ。俺は自分の気持ちに正直になる時が来たということだと。」
相変わらずどこをみているかわからない眼差しは強くその意思を乗せてこちらをみている。逃げるな、と。そう言われている気がした。
「君の答えは?」
「っ、そ、れは。」
言葉以上に雄弁に語る瞳に、思わず出そうになった言葉をつばとともに飲み込んだ。言ってはいけない。これ以上あの瞳を見続けてはいけない!
俺はくるりと向きを変え彼の視線に背を向けた。これなら、あの目を見ることもない。それに嘘をつけない自分は顔に出るというから尚更いいだろう。ドクドクと鳴る心臓の音に俺は胸元をぎゅっと握りしめた。
「俺は、その気持ちに応えることはできません。先生のことは尊敬していますが、それだけ、です。…夕焼けも見れたので俺は下に降りますね!このことは誰にも言わないんで安心してください!」
「竈門しょ、」
「それじゃあ!」
煉獄が何か言いかけていたのも聞かず屋上の出入り口に向かって走り出す。これ以上あの声を聞いていたら、せっかくの決心も意味をなさなくなってしまうことがわかっていた。目の前がじんわりと滲んできているのもわかっていたが、ここで泣き始めるわけにもいかない。
もう少しでドアノブに手が届く、そう思ったその瞬間俺は伸ばす手が止まった。
「逃げるな!竈門炭治郎!」
ガンッ!
「ふぅ。流石に速いな。だが、もう逃がさんぞ?」
後ろから勢いよく扉を押さえられ、俺は扉と煉獄さんとで挟まれる形になる。これはいわゆる壁ドンなのでは?と脳のどこか冷静な部分が考えていたけれど、そんなことを気にしていられる余裕などありはしなかった。先ほどの煉獄の言葉が、ずっと頭で繰り返される。いまかれはなんといった?
「竈門少女?いや、竈門少年。どうした?もしや今俺は君にどこかぶつかったか!」
「……で。」
「ん?」
「な、んで。その名は、その、呼び名は…。」
ドアを向いていた身体をゆっくりと煉獄の方へ向ける。はくはくと口が鯉のように意味のない開閉を繰り返していた。顔からも血の気が引いているだろう。だってその答えなど、1つしか存在しない。俺が、俺たちが何より恐れ、危惧していたこと。
「…俺はかつて炎柱だった時の記憶を持ってこの世を生きている。鬼殺の剣士であったことも、上弦の参の鬼との戦いで腹を抉られ、その一生を終えたことも全て、この胸の内にある。」
予測の範囲ではあったが、その反応だと君にも記憶があるのは間違いなかったようだ。背後からは腑に落ちた匂いとともにそんな声が聞こえてくる。しかし、そう断じる煉獄の言葉など俺にはもはや聞こえてなどいなかった。
「そん、な…。」
「竈門少女!?」
ガクガクと震え始めた膝は力が抜けその場に崩れ落ちてしまう。思わず体育座りのような形になって、俺は両手で顔を隠した。目の前では突然のことに動揺している煉獄さんがいるのが分かっているが、今は其方を優先することはできない。俺はとてつもない後悔に苛まれていた。
(やっぱり、近づくべきじゃなかったんだ!あれぐらいなら、ちょっとだけならなんて、ただの予測でしかなかったのに!)
「あ、ぐぅ、え、ぐすっ。」
「…もしかして、泣いているのか。」
そう、俺は泣いていた。女の子の体に生まれた今世は前世より涙腺が弱くなってしまった。こらえようと思っても目からは後から後から涙が出てくる。
「俺は君を泣かせてばかりだな。」
「ち、ちがっ。ズッ こ、れは先生のせいじゃ!」
「いや、俺のせいだろう。君は自分のことだったらしっかり我慢してしまう子だ。」
悲しみの匂いを感じて慌てて両手を払いのける。予想通り眉尻が下がった煉獄さんが目の前に膝をついていて、俺は顔を見上げる形になってしまった。でも、俺の答えは受け入れてもらえず、それどころか何時ものハキハキとした声でなく、ゆったりと落ち着いた声音に少しずつ心が落ち着いてきてしまった。煉獄さんはそっと俺の頰を両手で包むと指で流れる涙を拭った。その動作だけで、頰に血が集まるのがわかってしまうが、そんなことは煉獄さんの言葉で気にしていられなくなった。
「それと、君にまだ伝えていないことがあるんだ。」
「伝えていないこと…。」
「ああ。俺がこの記憶をどうやって思い出したかということだ。君が気にしているのはそこだろう?」
「そ、れは、そうですけど。」
それは確かに気になっていた。俺が再会した時確かに俺のことを覚えていない匂いがした。善子もそんな音がすると言っていたから、覚えてないのだと確信したんだ。
「最初に会った時君のことを覚えていなかったのは事実だ。だが、あの日、あの夜、俺は前世を夢に見るという形で全ての記憶を思い出した。だから、俺が記憶を取り戻したのは君や黄色い少女と関わったからではない!」
「で、でも俺と会ったから思い出したんですよね?」
「それはそうだ。だが、それは俺が君に対して特別な思いを抱いていたからだと思う。」
そう言うと頰に当てられた手がそっと離れ今度は両手をそっと握られた。握られた手はそのまま煉獄さんの額に当てるように持ち上げられ、なんだか恥ずかしくなって身をよじった。それでも、煉獄さんは手を離してくれなかったけど。
「君と過ごした時間など片手収まってしまう数日のことだ。初対面など首を斬ると言ったのだからな。それでも、君は俺の最期に傍にいてくれた。上弦の鬼を取り逃がす、という失態をおかした俺の勝利を宣言してくれた。俺はあの言葉で本当に救われたんだ。本当に、嬉しかった。」
「先生…。」
「記憶が戻ってからも、俺は君に感謝していた。今世では俺が出来る限り力を貸そうと、先を導く立場として全力を尽くそうと、そう決めていた、んだがなぁ。」
そこで煉獄先生は俺の手を下ろした。今まで隠れていた顔に浮かぶのは困ったようなそれでいて嬉しそうな笑顔で、俺はどうしたらいいかわからなかった。
なんていう顔をするんだ。そんな、そんな顔俺はしらない!
「君が友人と笑い合っている姿、真剣に授業を聞いている姿、実家のパン屋を手伝っている時の生き生きした姿。日常の中でいつの間にか君の姿を追うようになっていた。そこで己の気持ちを自覚したのは我ながら早かったな!一時は教諭である己の立場のことも考えたが、ここまで待てばそれも意味をなくした。だからこの思いは間違いなく前世の思いを引き継いだものではあるが、今世を生きる俺が自分で気づいて告げた本心だ。もう一度言うぞ竈門少女!俺は一人の男として君を好いている!」
堂々と告げる煉獄先生の姿は前世と変わらず自信に満ちていた。そんな姿を見ていたら、ここまで悩んでいた自分がとても馬鹿みたいに思えた。でも、本当に応えてもいいのだろうか。一度拒絶した想いに、俺は。
しかしそんな俺の考えはお見通しだったようで、煉獄先生はずいっと顔を俺の方に近づけた。
「俺のことをあまり見くびるなよ?それに、先ほどの返事は無効だ。あんな顔をされたら誰でも嘘だとわかる!何より…」
「な、何より?」
「君はなんとも思っていない男のために泣くのか?」
そんなこと言われてしまえばもう認めるしかなかった。今までずっと抑えていた想いを、煉獄への恋心を。
俺は依然止まらない涙のことなど忘れて、俺は目の前にある愛しい人の胸元に思いっきり飛び込んだ。勢いをつけすぎたのか、煉獄さんもろとも地面に転がってしまう。
「っと。竈門少女、怪我は、」
「好きです。」
「む?」
何を言われているのかわからない。煉獄先生の顔は言葉にするならそんな顔だった。そんな彼にちゃんと自分の気持ちを伝えるため再び言葉を紡ぐ。
「好きです、好きなんです。俺も煉獄先生のことが好きで好きで、忘れようとしたけれどそんなことできなかった!俺にとって煉獄さんは忘れられない人だったんです。でも、先生はそれ以上に失いたくない人でした。ずっと諦めようとしたんですけど無理だった。でも他ならぬあなたに乞われてしまったら我慢なんてできません!だから責任を取って、俺の恋心を受けとめてもらえませんか?これからずっと。」
その時の煉獄先生の表情は生涯忘れられないだろう。夕日で赤く染まる地面に横たわる煉獄先生はとてもとても優しい笑顔で微笑んでいた。まるで、あの黎明の瞬間のように。
「もちろんだ。受けとめるだけでなくそれ以上の愛を君に返すと約束する。だから俺の恋人になってほしい。」
「…よろこんで。」
答えるや否や俺は勢いよく彼の腕に捕らわれてしまった。身体中を彼の匂いが包み込む。喜びと愛しさとをめいいっぱい伝える彼の匂いに包まれるのはこれ以上ない幸福だった。俺はそんな特等席をもう少し堪能しようとそっとその背に腕を伸ばした。
〜***〜
「くしゅっ!」
「おっと、寒くなってきたな。」
しばらくそのまま横になったまま抱き合っていたけれど、時間が経って少し風が冷たくなってきた。それで思わずくしゃみをすると、煉獄さんは俺を抱えたまま身を起こした。それどころか、着ていたスーツのジャケットを俺にかけてくれた。
「そろそろ下に降りるか。竈門少女の親御さんは?」
「母さんたちは妹と先に帰りました。今日は善子と一緒に帰ろうと思っていて…、あ。そうだ!俺、下に善子を待たせていたんでした!」
今更ながらに思い出した善子のこと。急いで連絡を取ろうとするも、善子とのトーク欄では先ほど送ったメッセージさえも読んだ形跡がなかった。
(もしかしたら呆れて帰ってしまったのかもしれない。いや、善子はそんなことしないはずだ!でもなんで見てないんだ?いつも返信は早い方なのに…。)
「竈門少女、そのことなんだが…。」
「煉獄さん?」
スマホを見ながら百面相をしていた俺の思考を止めたのは、なぜか困り顔をした煉獄さんで。俺は首を傾げながら話を促した。
「実は記憶を思い出しているのは俺だけではなくてな。」
「え?じゃあ、あと一体誰が…。」
「君との関わりが深い者で言えば富岡だな。あいつは胡蝶と会った時に思い出したらしい。それで、だな。」
「はい。」
「…あと、宇髄も思い出してる。」
「う、ずい先生もですか。」
「うむ。」
「…ちなみに誰を見て思い出したかお聞きしても?」
「黄色い少年、いや、少女だな!」
「つまり今善子は…」
「君と同じく俺がしたように宇髄に捕まっていると思うぞ!」
先程までの困り顔はどこにいったのか非常にいい笑顔で彼は堂々と俺の親友の居場所、いやこの場合居場所というより捕獲場所を答えた。それなら返信がないのも納得だ。きっと、俺と同じように何が何だかわからない状態になってスマホなんて見ている暇ないのだろう。俺は善子に預けた花束が無事であることを祈った。
「まぁ、そういうわけだから君は俺が送っていこう!黄色い少女のことは宇髄に任せておけばいい!」
「あ、ありがとうございます!でも、善子は大丈夫でしょうか…?」
「なに!宇髄も彼女を今世の相手と決めているからな!心配は必要ない!」
「え、でもお嫁さんがいたんじゃ…。」
そう。宇髄先生こと元音柱・宇髄天元と言えば3人ものお嫁さんがいて、そのお嫁さんたちを分け隔てなく大切にしていた。それは善逸ほどではないにしろ関係があった俺も知っていることだし、何よりこのキメツ学園にそのお嫁さんたちだって勤めているのだ。俺は善子がそんな3人と楽しそうに話している宇髄先生を見るたび、辛い匂いをさせていたのを覚えている。
「彼女たちは今世では宇髄の従姉妹だそうだ。記憶もないそうだが、宇髄は可愛がっているらしいぞ!もちろん従姉妹としてだが。」
「そ、そうなんですか。知らなかった…。」
ということは俺や善子は勘違いをしていたということになる。このようすだと親友の恋も救われるようだ。そうわかった俺はなんだかほっとして、かけてもらった煉獄さんのジャケットをきゅっと握った。
「む。どうした、竈門少女?」
「いいえ、なんでも。俺達は幸せ者だな、と思ったんです。」
目尻に残っていた涙をぬぐいそう告げる。俺も、善子もそれぞれ叶うはずがないと思っていた恋が今叶おうとしている。それを幸せと言わず何と言えるだろう。言葉には出さないけれど、そんな内心を汲み取ってくれたのか煉獄さんも微笑みを返してくれて、俺はますます胸のところがほかほかしている気がした。
「ああ、そうだ。一つ言い忘れていたことがあった。」
「言い忘れたことですか?」
「ああ。」
微笑みを返してくれた煉獄さんはそのまま立ち上がり、俺が立ち上がる時も手を貸してくれた。ぽつぽつと交わされる会話の最中も繋がれた手は離されず連れ添って歩いた。たったそれだけでも、俺にとっては嬉しくてほんの少し気が抜けてしまっていた。だからだろうか、俺は煉獄さんのとっさの行動にまったく反応できなかった。
「うわっ!」
ぽすっ
階段に差し掛かり、先に降りていた煉獄さんに腕を引っ張られる。気が抜けていた俺は再び煉獄さんの懐に飛び込む形になってしまった。いや、飛び込むどころか腰と膝裏には腕が周りこれは抱き上げられているのではないだろうか?
「聞き逃しているかもしれんから一応言っておこうと思ったんだ!宇髄も、と言ったのはもちろん俺が君を今世愛する相手と決めているということに他ならない、ということだから覚悟しておくように!」
「はい?」
「それは返事ととるぞ!まぁ、返事がなくとも逃がしはしないが!」
そう言って、煉獄さんは俺を降ろすことなく歩き始める。俺は言葉の意味を理解するや否や抱き上げたことへの文句も忘れ、彼の腕の中で悶絶することになったのだった。
補足説明
曙光——夜明けにさしてくる太陽の光
炭治郎(今作品の炭子の前世)にとって、猗窩座との戦いの終わりであり、煉獄さんとの別れだったあの朝の光は強く意識に残っているものでした。
鬼の活動時間の終わりでもあるため、待ち望むものでもあるためその胸中は複雑だったことでしょう。
今回の告白の舞台である夕暮れがそれを上書きしてくれることを願います。
"余談"
煉獄さんの構成する色って炎の色なのはもちろんですが、夕暮れの赤を思い出すんですよね…