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    TO麺×$ 6トレイと別れた帰り道。ふとジェイドを見上げる。視線に気付いた彼が小首を傾げ、ボクの言葉を待った。
    「……ジェイドは知っていたんだね、彼の事」
    「ええ、トレイさんから聞いていましたので」
    ボクの関係者として挨拶をして、その後何度か現場で会話したと言っていた二人は、一体どこまで、何を共有しているのだろうか。そもそも既に面識があったのなら今日この場をボクを通して設定せずともよかったのではないだろうか。何となく靄が晴れないまま、ワインレッドのレースアップブーツのつま先を見詰めた。
    「どうしてアズールに教えてやらないのさ」
    会いたがっているのを知っているくせに。この様子だとフロイドもきっと知っているのだろう。それでも、取り逃がしたなどと嘘をついてまで、アズールと接触させなかったのは何故なのか。トレイと知り合いである以上、イベント会場でなくたって紹介のチャンスはあるだろう。そうしないのは何か理由があるのか。とは言え、ボクが触れた時の彼のリアクションも気にはなるところではある。ひどく触れられるのを嫌がったのは、彼がアズールと接触したがらない事と何か関係しているのだろうか。
    ああ、何だかよくわからない。
    「話しますか? アズールに」
    静かな声にはっと顔を上げた。少し困ったように眉を下げたジェイドが、何か考えがあることは分かっている。けれどどうしたってその先を想像できなくて、同じように眉を下げるしかできなかった。
    ジェイドの問いは、何だかぽかんと空いた空間に投げ込まれたボールのように、その場に跳ねるだけでどうして受け取っていいのかが分からなかった。きっと、話して会わせてやれば彼女は喜ぶのだろうけれど。
    「……いや」
    何故かそんな気になれなくて、小さく首を横に振る。それが正解だったのか不正解だったのか分からなかったが、少なくともこの場では正解に思えて、ボクは小さなショルダーバッグの紐をぎゅうと握った。

    **********

    ちらと見上げた時計に唇を尖らせる。部屋の中はアズールのお気に入りの音楽がかけられ、パソコンのタイピング音が断続的に聞こえていた。ボルドーパインの明るい色の床の上に、毛足の長い白の円形ラグ。その上には猫脚の薄紫のローテーブルが置かれている。アズールの住むこの部屋は、全て彼女の好きなもので埋め尽くされていた。俺はこの空間が大好きで、用事がなくてもしょっ中ここへ来て話をする。アズールもそれを嫌がらずに受け入れてくれるものだから、つい甘えてしまっていた。
    「リドルたち、まだ帰らないのかなあ」
    「もうじきですよ、カリムさん」
    多分この返事に全く根拠はない。今アズールは先日のライブの収支まとめをしていて、俺の相手をする気はあまりないらしい。俺は俺でわかっていて話しかけているから別にいいんだけど。
    ジェイドと二人で、新しい作曲家に楽曲依頼をしに行くのだと言っていた。商談は上手く行っただろうか。新しい曲かあ、とラグに寝ころんだまま目を閉じて、どんな曲かなあと想像する。ダンスミュージックだと嬉しいな。少し派手めで、ポイントポイントでファンも同じ動きをマネできて、会場に一体感が生まれるような。
    「あっ」
    ふと思い出してポケットからスマホを取り出した。目的の動画を開いてから起き上がり、アズールの隣に座る。パソコンから目を上げてくれたアズールにスマホを差し出した。
    「なあ、これ見て」
    「なんです?」
    タイミングがよかったのかも知れない。手を止めたアズールが素直に画面を覗き込んでくれたのを見計らって、再生を押した。小さな画面の中にダンスが映し出される。
    「これさ、この次のところ。どっかでこのダンス取り入れられないかと思って」
    ここ、と示して一通り。採用したいフレーズが終わったところで動画を止めてアズールを見ると、思い切り嫌な顔をしていた。
    「だ、ダメかな」
    「ダメではないですが、僕とリドルさんにあんな高度な技ができるとでも?」
    「練習すれば」
    「限界と言うものがあります。やるなら演出を考えましょう」
    言葉をかぶせるようにそう言われて、はい、と答えるしかできない。これ以上食い下がっても、説得モードに入ってしまって決して受け入れてはもらえない事は、ここまでの付き合いで分かり切っていた。三人で揃うとカッコいいなと思うんだけど、アズールがそう言うなら仕方ない。そしたらフォーメーション含めて使えるフレーズを探すか。同じ投稿者の動画の中から三人のフォーメーションでカッコいいダンスを探してみる。
    「カリムさんその人の動画好きですね。ジャノメさんでしたっけ」
    パソコンを操作しながらの質問に顔を上げた。計算ソフトを使いながらのアズールとは目は合わなかったけれど、それでも勝手に話を続ける。
    「うん! めちゃカッコいいよな! こんなに動けたらダンスも楽しいんだろうなあ」
    「僕からしてみたらカリムさんはもう十分動けてますよ……」
    うんざりと肩を竦めたアズールに笑って、幾つかブックマークをしておく。
    カメラワークにより顔を隠した謎のダンサーは、どの動画でも長い手足を自在に操って魅了する。少し前に出会ってから、彼の動画は毎回必ずチェックしていた。
    次のダンスレッスンでダンスコーチと相談してみよう。三人でカッコよく踊れるダンス、フォーメーション、演出。次のレッスンが楽しみだなあ。いまリドルが話に行ってる新しい作曲家の曲がこのダンスに合うようなそれなら最高なのに。まだ見ぬ新曲に胸を躍らせた。
    「カリムさん、前回の握手券もトップでしたよ。この調子でお願いしますね」
    パソコン作業を終えたらしいアズールが、言いながら俺の短い髪を撫でる。ファンサービスは得意だ。特に何をしているつもりもないけれど、いつもの通りでいればいいとアズールが言うから、それでいいんだろう。
    「おう!」
    再びラグにごろんと転がってピースサインを送った。売上がよかったせいか、機嫌がいいアズールがキッチンに向かった。薄く聞こえる鼻歌は、いまスピーカーから流れている曲。タイトルは知らないけれど、よくアズールが歌ってるから耳に残っている。少し不思議な音使いの、繊細な音符。
    「アズールこの歌好きだよな」
    ラグの上に俯せに転がって、紅茶の支度を始めたアズールに声を掛けた。
    「この歌と言うか、この人の曲が好きなんですよ」
    「ふうん?」
    アズールは。ダンスも歌もあまり自信がないと言う。容姿だって、これだけ綺麗なのに、自信がないからいつもダイエットだの美容だのと少しやり過ぎなくらいに頑張る。そんなに張り詰めてたら疲れてしまうんじゃないかと思うんだけど。
    でも。この歌を聴きながら紅茶を入れるアズールはいつだって、この部屋以外では決して見せない柔らかい表情を浮かべているから。何だかとても安心して、俺も嬉しくなってしまう。
    こんなにも優しい歌を書く人はきっと、暖かくて優しくて懐の広い人なんだろうな。童話に出て来る王子様みたいな人を想像して、ふふと小さく笑った。
    「何て言う作曲家だっけ。この前も聞いた気がする」
    背が高くて、黒い髪で、目元の柔らかなイケメン。想像が生み出した作曲家の隣に、アズールを置いてみる。お似合いなような気がして何だか楽しくなった。ローテーブルに紅茶を置いたアズールが笑っている俺を不思議そうに見てから、少しスピーカーの音量を上げて、質問に答えてくれた。
    「ネクラPさん、ですよ」
    あんまり聞き慣れない響きの名前だけれど、アズールが好きだと言うんだから覚えておこう。紅茶のいい香りに身体を起こした。
    いい曲だなと言う俺に、そうでしょうと笑ったアズールは何だかすごく可愛かった。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2021/04/07 0:58:42

    TO麺×$ 6

    ##君に夢中!

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