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    イデアズ。と🐙のクラスメイトくん。5おおー、と数名のどよめきが立ち、中央に座っていた俺は鏡の中の俺にふふんと鼻を鳴らした。すごい、思ったよりも効果がある、なんてざわめく周りの声を聞きながら、右に左に顔を傾ける。
    「いいね」
    満足気に呟いたとき、鏡の中の俺の後ろを寮長が通りかかった。こちらを見て、一瞬考えてから少し驚いた仕草を見せる。
    「誰かと思った」
    「寮長、見てくださいよこれ」
    「どうですか?」
    「どうって……イメチェン?」
    中庭で打って来た帰りなのか、僅かに汗ばんだTシャツのまま、同級達の声に眉を寄せながら聞いて来た。そう。今俺の髪は金髪なのだ。言ってもこの学園、赤だの青だの色んな色の髪がいるから、全く珍しくもない。けれど、何を隠そう俺の髪は真っ黒だった。重い。とてつもなく重い黒。烏の濡れ羽色。これに飽き飽きした俺は、サムさんに相談して「ブリーチ」を入手した。
    「何それ死神?」
    「違います。髪から色素を抜く薬です」
    「魔法薬?」
    「市販薬です」
    「てか魔法じゃないの? それでそんなに色が変わるの?」
    「そこなんですよさすが寮長!」
    魔法を使えば簡単に変えられる髪の色も、敢えてアナログな薬を使うことで非魔道士の気分が味わえるだけでなく、魔法を使わずともこんな事ができるのだと言う科学の証明にもなる。かも知れない。何はともあれ、単純にやってみたかったのだ。だって桜木花道だって生まれつき赤髪だったわけじゃないんでしょ。魔法なしにどうやるのか気になるじゃん。オタクの飽くなき探究心の結果だ。
    「へー……ねえもう一度やってよ」
    「嫌ですよ、頭皮が死ぬ」
    「え? ダメージあんの? なのに使ったの?」
    「それでも使ってみたかったんです」
    言いたいことは分かる。変化魔法や魔法薬を使えば一瞬だし、痛いこともダメージもない。分かっているけれど、どうしてもこのアナログをやってみたかったのだ。わかるかなあ、このロマン。
    「えー……じゃあダメージ受けた頭皮に回復魔法かけてあげるから」
    「嫌ですって!」
    ロマンがわかってそうなわかってなさそうな寮長は、絶対自分の髪でできないから人にやらせようとしてるんだろうけど、頭皮についたブリーチがひりひりして痛かったから正直二度とやりたくない。それをこんな短いスパンでなんて絶対に嫌だ。頼む、嫌だを繰り返し、説得しきらないままに談話室を逃げ出す。めちゃくちゃメールが来てたけど、「お断りです」と自動返信するボットを作って放置することにした。

    朝起きたら三十件とか来てんの馬鹿か。寮長も一度興味を持つと別の興味に逸れるまで本当に引く事を知らないんだよな。流石に朝には諦めたらしくメールも途切れていたから、ボットも解除した。
    金髪を揺らして鼻歌交じりに登校し、クラスメートと談笑する。
    「でもどうしたんだよ、全然印象違うよな」
    「気分だよ、気分」
    笑ってやり過ごして、内心にやりとほくそ笑んだ。これには理由がある。この前ネットで読んだのだ。ズバリ、明るい髪の方がモテる! そう、もうすぐハロウィーンを迎えるこの季節。この男ばかりの学園に女の子がやって来るのだ。この髪色にしたのは、つまり。モテたい。モテるための。モテるために! そう!
    「彼女が欲しいっ!」
    「恋人が欲しいんですか?」
    「欲しい!」
    「おや、誰かと思ったら」
    「いやめちゃくちゃ普通に入ってくるじゃん……」
    握った拳をすすすと下げながらアーシェングロットと目を合わせるが、彼の視線は俺の目よりも少し上。髪を見ていた。後ろ姿では誰だかわからなかったのかも知れない。いやそれよりこいつ絶対取引持ちかけようとしてたな。そうはさせない。
    「それは変化魔法ですか? 魔法薬?」
    「いや市販薬。普通にブリーチ」
    きょとんとした顔が何かを考えている。死神? と聞いて来ないあたり、やはりオタクとパンピーの反応は違うなと謎の納得をした。
    「髪の色を変える薬が売ってるんですか?」
    「そうそう」
    「それは興味深い。どんな成分なんです?」
    「成分とか知らないし……」
    こいつも大概訳分からんところに食い付いてくるな。て言うかこの展開昨日も似たようなことなかったっけ。成分は聞かれなかったけど、このあと続くのってもしかして。
    「もう一度やってください。見てみたいです」
    「ほら出たやだよ! 頭皮が死ぬ!」
    「えっ? 頭皮にダメージがある薬をわざわざ使ったんですか?」
    心底驚いた顔にげんなりする。デジャブがすごい。同じルート入っちゃったなこれ。相手するのめんどくさい、とか思ってたらポケットでスマホが震える。あっなんか嫌な予感、と思いながらも端末を取り出して受信したメッセージを開けた。
    『薬剤用意完了!』
    一言と共に、ずらりとならんだブリーチやらカラー剤やら。寮長絶対あの後ネットで色々調べて取り揃えたんだ。ほんとこういう所の謎の行動力がわからない。
    「ダメージは回復魔法でどうにかしますから、ぜひ見せてください!」
    「あーーーーもーーーー何でお前ら同じような思考回路してんの!」
    ホント似た者同士というか何と言うか。俺からすると寮長とアーシェングロットが仲いいのすげえよくわかるわ。興味の矛先がよく似てるし、人の犠牲も厭わないし。お前ら、と唐突に括られて、誰を指しているのかわからないアーシェングロットが首を傾げたところでトレインが入って来たので、どうにか強制終了することができた。
    さて、これから奴らの興味の矛先が他に向くまでの間をどう逃げ切るか、この時間内に考えなければ。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2021/06/15 9:43:03

    イデアズ。と🐙のクラスメイトくん。5

    ##モブ太郎物語

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