7.「怖い? どうして? 貴方のその髪は何よりも美しいですよ。他の何にも変え難い。顔立ちも整っていますし。それに正に天才の頭脳! 発明品はどれも素晴らしい」
「で、でも拙者…陰キャだし、キモヲタですし…」
「陰キャ? 確固たる自分の世界をお持ちということでは? オタクで結構じゃないですか。ひとつのことを探求できるのは才能ですよ!そうして突き詰めた先に新たな発見があるものです」
「……き、キミ、僕のことす、好きなの…?」
「……ええ、もちろん! 貴方の麗しい見目に素晴らしい頭脳は素晴らしい!」
「ふ、ふひ…っ、そ、そう……」
「ところでイデアさん、ひとつ開発して欲しいアプリがありまして……」
「う、うん、なあに……」
ベッドの上、そこここに散らかった赤と白の花弁はそれぞれ無惨に散らかされて、獣じみた呼気だけが狭い部屋に充満する。
ああいま、何時だろう。いつまでこれが続くのか。
暴力を振るわれたわけではない。けれど肚の中が痛い。何度も拡げられ、咥え込まされ、欲を叩きつけられたそのせいだ。
「ね、ねえ、僕のこと好きだって言ったよね?」
確かに言ったけれど、僕が好きなのは貴方の見目と才能で、貴方自身ではないのだと、この場で口にしてしまってはこの先どうなるか知れている。
「なのに何で、あの男は誰なの」
パトロンの男を指しているのか。彼なしではモストロラウンジの二号店の出店資金が足りないのだ。決して体の関係はないし、ただのビジネスパートナーだけれど、何かを勘違いされているらしい。
「は、反省して、謝ってよ」
震える声と同じように震える指先が僕の首筋に当てられて、大動脈に触れた。生命に関わるその動作にぞくりと背中に緊張が走り、それは筋肉の動きを持って彼に伝わる。
癇に障ったように左目の下が痙攣して、大きな手のひらが喉仏を覆った。息がしづらい。唾液を飲むにも触れた手に阻まれている気がする。
「言い訳はしないの」
縋るようにそう言う癖に、一向に手をどける様子はなかった。泣きたいのはこちらだと、あらぬ所の戦慄きに身を震わせる。一瞬弛緩したところから、彼の欲がどろりと流れ出す気がした。
「ね、ねえ、じゃあ次はちゃんとやるから、上手くやるから、いつもみたいにおねだりして」
手のひらで転がされている事に気付いていたのに、こうして気付かない振りをして僕をコントロールしようとするエゴイストに喉の奥で笑う。
そこに愛はないけれど、僕のために動くと言うなら傍においてやらないこともない。口先だけの愛を囁いて貴方を自由に出来るのならお釣りが来るほどだ。
「僕にキミを殺させないで」
懇願する声が掠れてベッドで全身投げ出した僕の身体を抱き締める。喉から外された手のひらが心臓の動きを確かめるように平たい胸板を撫でて、あやすように呟いた。
「貴方だけですよ」
薄い方に顎を乗せ、弧を描いた瞳孔が一文字に変わる。これでこの天才は僕のもの。そう思うと痛む肚の底から続々とした興奮が込み上げてきた。
あなただけだといまちかえ
つみをかんじてざんげをしろ
けられてもていこうするな
ないてゆるしをこえ
そしていいわけをしろ
つぎはいつものようにあまえてみて
それができないのなら
ここでいましんでくれ