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    とりで人それぞれ感度は違うだろうけれど、どうも僕に搭載されたアンテナは随分と敏感なそれであるようだ。腕一本分ほどのそのこどもが泣くための準備とも言うべき酸素をはふはふと浅く繰り返し始めた段階でうっすらと意識が浮上する。
    暗い部屋で目を凝らして確認した時間は、眠って、いや、気を失ってから一時間ほどしか経っていなかった。気休め程度に震える手のひらで柔らかくその小さな腹の辺りをとん、とんとリズムを取ってみるけれど当然効果はない。それどころか、準備を終えた肺と声帯がじわりと呼吸に色をつけて、遂に泣き声として発せられた。

    ここ毎日こんな調子だ。夜は一時間、上手くすれば二時間と少し。寝ては起きてを繰り返すのは、母乳が足りないせいか。子を産むことで一時的な変態を遂げているこの身体で作られる栄養素だけでは足りないのかも知れない。
    睡眠時間が足りていなさすぎて目が霞む。指先が震え、満足に眠らない小さなその身体に思わず涙が滲んだ。
    ふと、視界の端に光が入る。リビングに続くドアが僅かに開いていることに気付いた。もうすぐ明け方というべき時間になる頃だけれど、どうやらパートナーはまだ起きているらしい。この子が泣き出したらその声に気付いて様子を見に来てくれるだろうか。そうしたら、「すみませんがミルクをあげてもらえませんか」とお願いして、僕は少し眠らせてもらおう。泣き出すのが怖かったくせに、今度は彼を呼ぶために早く泣いてくれとさえ思う。手元のスマホで彼を呼び出すという発想は、思考回路を侵食された頭では思い付きもしなかった。

    泣き出した声はそれなりに大きかったはずなのだけれど、リビングからのドアが開くことはついぞなかった。これ以上はこの子が可哀想だし、僕の耳も持たない。真偽のほどはわからないけれどミルクの方が腹持ちがいいと言うし、授乳するより今はミルクを飲んでもらって、一分でも長く寝て欲しい。
    仕方なしにどうにかベッドから立ち上がり、ふらつく足で寝室を出た。リビングには思った通りソファに座ったイデアさんがいて、ならば泣き声のひとつも聞こえるだろうにと眉間を狭める。
    「……イデアさん」
    ぽつんと呼んでも返事はない。寝ているのかと思うけれど、手元がかちかちと動いていて、ゲームをしているのはわかった。
    「あの」
    「わ!? びっくりした! 起きてたんでござるか〜」
    心底驚いて振り向いた彼の耳からイヤフォンが抜け落ちる。それが弾みで床に落ちるのと同時に、僕の中で何かが壊れる音がした。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2021/06/22 14:50:43

    とりで

    夢を見ないタイプの子育てイデアズ。
    ご注意。

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