1117少し様子がおかしいなと言うのはすぐに気付いた。いつもなら返ってくる軽口が返らずに上の空であったり、煽ってみてもイマイチ反応が悪かったり。どうかしたのかと尋ねてみても、首を振るばかりで要領を得ない。具合が悪いなら部活はやめて部屋に戻ればと提案しても、首を振る。ならば追い出すこともあるまいと、動かしかけていたポーンを前に進めた。
仲良くなるのにはそれなりに時間はかかったけれど、距離が近付いてからは早かったように思う。互いが必要な時に互いの手伝いをしたし、不必要には干渉しない。暗黙のルールだ。けれど流石に、少しずつ顔色が悪くなって行くのは見逃せない。今日こそは部活はやめて部屋にと進めるけれど、ここにいたいのだと言う。そう言われてしまったら無碍に扱うこともできずに、音を立てないようにそっと二人の間にリバーシを置いた。
落ち着かない日々。彼に引きずられている訳ではないけれど、どうも胸と腹の間あたりがそわそわと落ち着かない。何がある訳でもない。締め切りに追われている訳でも、問題を抱えている訳でもなかった。けれど、身体の真ん中はずっとそわそわしている。爪の先でばらばらと引っ掻くような不協和音に顔を顰めた。
その日は朝から天気が悪かった。見るからな雷雲が時折ぱしりと音を立て、引き連れた雨雲たちが今か今かと出番を待っている。もう少ししたら彼らのショータイムになるだろう。滅多に授業内容を変えない体力育成の教師も、仕方なしに室内に生徒たちを移した。移された廊下で課せられるのは基礎体力作りなのだけれど。飛行術とどっちがマシかと言われると、どっちも願い下げだ。
時折、手を叩くような音がする。雲の中で雷が鳴っていた。雷が苦手な彼らはどこかで困っていないだろうか。子供じゃないんだからと窓から視線を外す。数回目の腹筋で体を起こすと、中庭を挟んだ向こうの渡り廊下に数名急ぎ足の生徒を見かけた。その姿に珍しいなと思う。
それから、その向かう先に思い当たって、ふと。
唐突に理解した。
刹那、
窓の外でびしりと稲妻が振り下ろされる。そうか、これもそうだったのか。いつからだ。考えてみたら数日、数週間。正体不明のそわそわは僕の中に居座っていた。彼に対しての違和感と共に。
落ちゆく稲妻は彼の怒りだ。
地面を叩きつける雫は彼の哀しみだ。
ああ、誰がその蓋を開けてしまったんだ。
願わくばあんなにも苦しい思いをして欲しくなかった。
渡り廊下を走って行ったヴィル達の向かう先はイグニハイド寮。
イデアの様子がおかしかったのは、ブロットが溜まり始めていたせい。
僕の真ん中が落ち着かなくなったのは、彼が溜めたブロットを無意識に警戒していたせい。
イデアさんはきっと、その姿を僕に見られることを良しとはしないから。
だからせめてここで祈ろう。
貴方の霆と、貴方の雨に。
イデア・シュラウドがオーバーブロットした日の、アズール・アーシェングロットの祈り。