おそろいシーツの上に広がる髪をひと房手に取る。柔らかくサラリと指先から逃げ出す蒼い炎を名残惜しげに見送って、アズールは次いで自分の髪を撫でてみた。仄かな熱を含んだイデアの髪とは違い、芯から伝わる冷たさを持つ銀の髪は、見た目よりもやや硬い。
「どうしたの」
小さく笑ってアズールを見た金色の瞳が甘く細められた。甘く香る蜂蜜のような、空に浮かぶ月のようなその色が好きだと思う。毎日鏡越しに見ている自分の瞳は、スカイブルーと言う名の青に近いけれど、実際は海の青に似ていた。深い海の、冷たい青。
「寒くない?」
毛布を掛けてくれた優しさにひとつ頷く。アズールよりも寒がりなくせに。寒い海で育ったアズールよりも、イデアの方が寒さに弱かった。それを知っていても、こんな風に聞いて来るのが擽ったい。案外暑さには強いんだといつか自慢げに言っていたのを思い出して、暑さにへばったアズールをずっと扇いでくれていたのを思い出した。
「そう言えば新しいゲーム買ったんだ」
明日は部活がある日。新しいゲームとやらをスマホに表示させてディスプレイを差し出して来た。見るからに運が左右するそれに思い切り顔を顰める。それが分かっていたかのように笑う肩を軽く拳で叩いた。お互い用意周到なタイプではあるけれど、想定外の事への対応の差は大きい。イデアは博打打ちな所もあるせいか、想定外の物事への対応が早かった。
「朝起こしてもらっていい?」
スマホを置いたイデアが言う。朝はアズールの方が得意だ。と言うよりは、いつまでも遅くまで起きているから起きられないのだろうけれど。何度注意しても直らないのはもう諦めて、わかりましたと頷く。アズールは、夜遅くまで起きていられない。現にもう、時計の針は中央の逢瀬を今か今かと待ち望んでいるこの時でさえ瞼が今にも閉じてしまいそうだ。
「……なんだか僕達、全部が反対ですね」
暖かくて柔らかい髪と冷たくて硬い髪。
反対色の瞳は空と海。
咄嗟の対処のスピード。
朝型に、夜型。
体型や顔の作りに至るまで。
考えてみたら次から次へと、全て真逆のことばかり。それでよく付き合えたものだと感心する。逆だからこそ補い合えているのかとも思うのだけれど。
「ひとつくらい、同じがあってもいいのに」
眠気に支配され始めて靄のかかった頭が上手く働かない。呂律の回らない舌先でそう言うと、腕枕をしてくれたイデアがくすりと笑って額に唇を寄せた。
「キミの魂は僕のを分けたんだから。これ以上ない『オソロイ』だと思うけど?」
ああそれは、確かになんて素敵な。
眠りに引き寄せられながら、それじゃあ失う時も一緒なのかと考えて、だったらいいのにと口許を弛めて眠りに落ちた。