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    TO麺×$ 2事務所の応接室。と言われると、雑居ビルの片隅でローテーブルと革張りのソファを想像されるのかも知れないけれど、ボクらの所属する事務所は都心にあるマンションの一室だった。イベントを終えて、移動車に詰め込まれてここへ帰って来る。いつもの流れ。
    パステルカラーの布張りソファに身を投げるようにして座ったカリムが長く息を吐いた。
    「はー、今日も楽しかったなー!」
    「ジェイド、売上はどうでした?」
    イベントを思い出して笑顔になるカリムの隣でアズールがマネージャーであるジェイドを見上げる。心得ていたと言うようにさっとスマホを取り出した彼がわざとらしく眉を下げた。
    「微減ですねえ。特に握手会参加者がいつもより少なかったです」
    「くそ、あの雑魚のせいか」
    ギリと奥歯を噛んだアズールの口調に肩を竦める。ステージにいる時とは別人のようだ。
    人前に出ている時は柔らかな敬語を使い、あざといくらいの笑顔を絶やさずにいるのに。一歩裏に入ったらこれだ。売上は活動継続のために必要であるからいいとして、口の悪さだけはどうにかならないかと常々思う。
    握手会前にあったトラブルはボクらの耳にも入っていた。大声でアズールの悪口を言っていた客がいて、フロイドがつまみ出した。程度のことだけれど。確かにそんな騒ぎがあったら握手と言う気分になれない人がいてもやむなしか。
    「て言うか、大丈夫かアズール? お前の悪口言ってたんだろ?」
    ソファに沈んでいたカリムが体を起こして問う。ちらとそちらを見やった長い睫毛がふふんと笑った。
    「ええ、別に気にしていませんよ。二度と来ない人間に何と言われても痛くも痒くもありません。そもそも、チェキを上限まで買いもしないのにどの面下げて文句を言うんだか」
    右手に持っているタブレットには今日の売上表が表示されている。イベントの直後だと言うのにもう収支確認かと感心した。けれど、こうして細かく管理してくれるアズールがいるから、このグループは活動していられる。
    「今日も10枚までだったんだっけ? 売り切れたのか?」
    「はい、何人かループも上限までやってくださったので」
    カリムの質問にジェイドが答えた。ループ、と言うのは一度購入を済ませた後にもう一度列に並ぶ事らしい。
    「3回まで並び直しありって、意味あるのかい? どうせなら一度で30枚買わせたらいいのに」
    「それでは手に入らない人が出るでしょう」
    並び直しをするような人種はそういう事を分かっていて、一通りの客が買い終えたタイミングを見計らってからループをするのだと、以前説明された事があった。
    そういうものなのか、と首を傾げる。飲みかけていたペットボトルのストレートティーはもうぬるくなっている。
    「いつもの方々はそれぞれ上限いっぱい買われてましたよ」
    「そうだ、アズール」
    ジェイドの言葉を受けて思い出した。話しておかなくてはならない事があったのだ。三人がけのソファに座ったアズールとカリム。テーブルを囲むようにサイドに置かれた一人用のソファから身を乗り出して、対角線のアズールを見る。
    「はい?」
    「例のファンに固執するのはどうかと思うよ」
    いつもフードを被って、ちらと覗く青い髪。下手の最前で派手にオタ芸を打つアズールのファン。握手会やサイン会と言った接触のあるイベントには決して来ないその人と、アズールはどうにかして対面しようとしていた。今日も、ジェイドまで駆り出してどうにか握手会に参加させようとしていたと知った時は驚いた。
    「あくまでファンとの距離は適切に保つべきだ」
    近過ぎてはいけない、遠過ぎてもいけない。活動を始める前に、既に第一線でモデルとして活躍していたヴィル・シェーンハイトの教えだった。
    僅かに不貞腐れたアズールが何かを隠しているようで、不審に眉を寄せる。一瞬の沈黙の後、ふと笑い出したのはカリムだった。
    「アズールはお礼が言いたいんだよな」
    「カリムさん!」
    「お礼?」
    二人の間では伝わったらしいその会話に目をやると、頷いたカリムが内緒話を始めるように密やかに話し始める。
    「ほら、活動始めてすぐの頃さ、アズールは中々固定客つかなかっただろ」
    見た目はいい。きっと三人の中で一番の美人だし、スタイルもいい。けれど、どうしてか中々ファンがつかなかったのだ。否、完成されているからこそ、遠目から眺めるだけで充分と言う人が多かったのだと思う。つまり、ネットや紙の媒体を通して眺められたらそれでいい、という、茶の間と言うやつだ。実際、配信をするとアズール宛の投げ銭やコメントはそれなりにある。
    「あの人最初にアズールのとこ熱心に通ってくれて、それから動員増えたから感謝してんだよな」
    言われてみればそうかも知れない。随分前から来ているのは知っていたけれど、そうなのか。それなら感謝を伝えたい気持ちはよくわかる。ボクだって贔屓をするつもりはないけれど、毎回必ず来てくれて、手紙をくれて、握手会に来てくれるファンがいる。彼を思い出して、ふむと鼻を鳴らした。
    「次こそ来てくれるといいよなぁ」
    「どうせ来ませんよ」
    「拗ねるなって」
    立ち上がったアズールがパソコンデスクに座る。データの整理をして気を落ち着かせるのだろう。彼女の癖のようなものだ。
    ははと笑ったカリムをちらと見る。確か、カリムにも随分前から欠かさず来てくれているファンがいたはずだ。いつからか彼も姿は見るけど握手会には来なくなった。その事をカリムはどう思っているんだろう。
    ファンの方にも色々あるのかな、なんて考えながらペットボトルの紅茶を飲み干した。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2021/04/07 0:43:25

    TO麺×$ 2

    ##君に夢中!

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