イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    決して弛まぬ愛を、そこに。ふあと吐き出された紫煙が空間を彷徨って、やがて薄れて霧散する。それを何度か繰り返してから飽きたように目を伏せ、灰落としに灰を捨てて桜皮でできた手付き煙草盆へと引っ掛けた。革張りのソファは学生時代に彼女がVIPルームで使用していたお気に入り。何となくそこへ腰掛ける気にならずに、手持ち無沙汰に室内をうろついた。待ち人はまだ来ないらしい。卒業後に彼女が構えたこの事務所に押し込められてどのくらい経っただろう。ちらと確認した腕時計はまだ数分も経っておらず、体感とは如何に役立たないものかと苦笑した。

    彼女が海でのパーティーに同席して欲しいと言って来たのはこれが初めて。そもそも海では当然彼女の姿は人間のそれではなく、人魚のものとなる。それを、彼女は頑なに見せたくないと拒み続けていたものだから、イデアとしても無理矢理にでもと言う訳には行かずに今まで来ていた。
    付き合って三年が経つ。この先のことは決めていない。結婚を視野に入れるかも知れないし、入れないかも知れない。何せ彼女はワーカーホリックなもので。それに、イデア自身の家の事もある。考えねばならないことは山のようにあるから、ゆっくりひとつひとつを片付けて行けばいい。焦ることはないさと再び煙管を手に取って立ち上がった。
    煙管を持つ左手の指輪は、彼女と揃いで買ったもの。法律的な効力はなくとも、互いを結ぶ絆を可視化するために買った。きらりと光るそれを眺めて、満足気に口端を持ち上げる。
    「イデアさん」
    「あれ……」
    待ち侘びていた声はアズールの滑らかな声ではなく、低く艶やかな声。彼女の側近であるジェイドだ。今日は双子を連れていないのかと思っていたけれど。予想外の人物が迎えに来たなと驚く。
    「すみません、支度に手間取っていまして」
    「どっちの支度? アズール氏? 魔法薬?」
    「アズールです。このままお待ちいただくと遅刻しそうだから迎えに行けと……これから山に行こうと思っていたのに、横暴です」
    「それはご愁傷さまでござる〜」
    嘘泣きの仕草に笑って返すと、すぐに気を取り直した人の姿をしたウツボが紫の小瓶を差し出した。
    「と言う訳でこれをどうぞ」
    「あざーす……」
    なぜだかジェイドに渡されると途端に胡散臭く感じるから不思議だ。
    「迎えに来るのが間に合わないだけで、もう行って大丈夫のはずです」
    「っす」
    爪先を床に立てて、底をなぞるように円を描く。浮き出た蒼い光を確認して小瓶を開けた。一気に飲み干してから、煙管に煙草を詰めて一度ふかす。水中で呼吸ができるようにする魔法薬。薬から彼女の魔力が感じられる。
    「効果は?」
    「一日は持つかと」
    「長いね。パーティーなんて半日もないだろうに」
    「……そうですね。ま、保険ですよ」
    魔法陣の中のイデアをしげしげと眺めたジェイドが顎に手を当て、ふむと鼻を鳴らした。その反応に視線だけで何事かと問い掛ける。
    「パーカーじゃないイデアさんは新鮮です。よくお似合いで」
    そこまでフォーマルな服装ではないけれど、流石にラフな格好でパーティーという訳には行かないだろう。お世辞なのか本心なのか分からないそれに鼻の頭に皺を寄せて燻る灰の欠片を足元に落とした。光が一層強くなり、足元から溶けだす感覚に陥る。
    「では、アズールをよろしく」
    「はいはい」
    付き合い始めた頃は、こんな風に身内面をされる事が気に入らなくていちいち腹を立てていたけれど、流石にもう慣れた。全身が光に包まれ、溶けて行く。静かに目を閉じて、行き先を思い描いた。

    目を開けたそこは恐らく会場の控え室。ゆっくりと視界を確保して、鏡台の前に座ったアズールを見止めた。
    「イデアさん。すみません、お迎え行けなくて」
    「あ……うん」
    目の前の彼女は、いつもの色の白い素肌ではなく薄い紫の肌をしていて、胸元から肩にかけて黒いヴェールを掛けているようだった。首元に大きめの巻貝のアクセサリー。大きく開いた胸元から下はボリュームのある黒いドレス。海底であるが故に波に揺蕩う銀の髪が美しかった。
    「……あの」
    「はひ!?」
    「……やはり、見苦しい、ですか」
    俯いたアズールが苦しそうに吐き出した言葉を理解する力がなく。ただ真剣にその姿を見詰め続けた。やがて、ようやっと頭のてっぺんまで言葉が届き、慌てて首を振る。
    「ちち、ちがうちがう! ど、ドレス、綺麗だし、その、人魚のキミも、綺麗だなと……思って……」
    尻窄みになって床に転がった言葉たちを拾い上げたアズールが、それらを辿ってイデアに近付き、ゆっくりと見上げた。蒼い眼が弧を描き、伸ばした指先がイデアの蒼い髪をひと房捕まえる。
    「嬉しい」
    心底溢れたその言葉に堪らなくなって、思わずその細い肩を引き寄せた。やわりと腕の中に閉じ込めて、銀糸に頬を寄せる。
    「その皮膚も、ドレスもホントよく似合ってる。スカートの広がり方なんてお姫様みたい」
    「え?」
    うっとりとそう言うと、胸に抱いたその人が驚いた声を上げた。何事かと腕の中に目を落とすと、蒼い瞳がくるりと逡巡してから、ああ、と納得したように頷いて、それから小さく笑う。
    「いやですね、イデアさん。よく見て、これは脚ですよ」
    「えっ?」
    「ね。こんなに沢山あるんです。人間とは丸で違うでしょう。肌の色も、感触も」
    「アズール」
    自嘲する彼女の言葉を遮って低く名を呼んだ。はっとしたアズールが眉間に皺を寄せたイデアの視線から逃げるように胸に顔を寄せる。
    「ド、ドレスみたいに素敵だよ……これがひとつひとつキミの一部だなんてすごい。……それを、お願い、だから。悪く言わないで」
    コンプレックスなのだと言うことは知っていた。頑なに見せたがらなかったのはそのせいだと気付いていた。けれどもイデアが良いと思ったものを否定されるのは、例えそれが持ち主だったとしても気分がいいものではない。
    左手で脚の一本を優しく撫でて、口元まで持ち上げる。手の甲にキスをするように唇でそこへ触れた。

    パーティー会場は思ったよりも広く、人が多かった。イデアと同じように魔法薬で海底に来ている者もいるらしく、二本足も珍しくはない。但し、イデアの髪の珍しさは地上とは比にならず、更にはシュラウド家の呪いについてもあまり知られていない海底では、ただただ「海でも燃える髪」として、周囲の興味と憧憬を集め続けていた。その視線の数に反比例してイデアはアズールの背中に回り、身を縮こませる。
    「し、視線が怖い視線が怖い」
    「大丈夫です。私がいるでしょう」
    「アズール氏ぃ〜」
    そう言いつつも、時折イデアへの視線に紛れて、アズールを見る輩のそれには気付いていた。海でも彼女の魅力は変わらない。アズールは海にいた頃は声を掛けられた事などなかったと言っていたけれど、それは恐らく双子がボディーガードを買って出てくれていたお陰だろう。
    ふと、首元につるりとした感触が走り、やがてぺたりとそこへ吸い付いた。何事かと見てみると、そこには濃紫の脚の先。
    「……アズール氏のあんよはお行儀が悪いですなあ」
    「イデアさんがあちこち見てるせいです」
    ふんと顔を背けた仕草が可愛くて、つい口許が緩む。脚先を指の腹で擽るようにすると、それを嫌うように逃げる癖にまたぺとりと戻って来る。まるでこれ自体に意思があるようだと煙管をくわえた。
    「珍しいですね、そんなもの」
    「まあね。虫除け?」
    「海にそんなものいませんよ?」
    首を傾げるアズールには何も返さずに、ぷあと煙を吐き出す。海でも使える煙管は地上にいる時と同じ味がした。吐き出されたやや濃灰色の煙が二人の周りに漂う。
    「少し煙いです」
    「さーせん」
    顔を顰めたアズールには全く気持ちの入っていない謝罪を返した。少しむっとした彼女が何かを言おうと口を開きかけるけれど、あの、という声に止められる。
    「失礼、ご挨拶を」
    アズールに声を掛けてきた男が名刺を差し出した。海底でも陸上でも展開している有名チェーン店の名前が印字されているそれ。アズールはすぐに商売人の顔をして、名刺を取り出した。当たり障りなく会話をしながら、ちらちらと向けられる視線。彼は人魚だ。下肢を見ても何の人魚かは分からなかったけれど、黄色の尾鰭が水に揺れる。
    「素敵な髪ですね」
    遂に耐え切れないと言った風に、恍惚とした彼の声がイデアに向けられた。アズール以外にそんな事を言われても、何を感じる訳でもない。彼を一瞥もしないまま、無言で頭を下げる。
    「そうでしょう。是非また次の商談の際にでも眺めにいらしてください」
    ぺとり。ぺとり。首の辺りに脚の感触。右手に巻き付くそれをふいと持ち上げて、くつりと笑って男を見た。まるで彼を牽制するような動き。開けた口からは煙管のけむりが立ち上り、濃灰色がじわりじわりと生き物のような形を取ってアズールに絡みつくように漂う。
    イデアの髪にも興味があったのは本当だろうけれど、それに加え。アズールの顔。胸元、腰。ちらちらと視線が何度もそこら辺を辿っていたのが気に入らない。社交辞令を口にして去って行った背中に、盛大に舌打ちをした。
    「貴方の髪は目立ちますねえ」
    「まさかそれ目当てで呼んだの?」
    「まさか。でも思わぬ副産物でした」
    ブレないな。人魚には特に珍しいこの髪があれば、先刻のように大手とも繋がりが作れるだろうと言う算段だったのかと思ったけれど。それがメインでないのならまあ、よしとするか。アズールに甘いイデアはついそう思ってしまう。
    「じゃあ、僕を海底に呼んだ本当の目的は?」
    再びぷあと吐き出した煙と共に聞いてみる。すると、きょとんとした顔が僕を見詰めた。あ。瞳孔が丸じゃないんだな、なんて今更気付いて。
    「そりゃあ、このあと私の実家に連れて行くためですよ」
    メガネを通さない蒼い眼は空とも海ともつかない色で、イデアを驚かせる。そうか、だから効果は一日だったのか。
    「それならそうと最初から言ってくれたらよかったのに」
    「言ったら貴方来ないでしょう」
    そんな事、なくもない。事もない。この後、アズールを育てた街に行く。彼女の育った家に、家族、思い出の地。どれも見てみたいものばかりだ。
    「言ってもやっぱりちゃんと来たよ」
    「どうだか」
    笑ったアズールの声を聞きながら、ふかした煙管を唇から離す。煙がアズールに絡まった。この煙はイデアの魔力を込めた特別なそれ。アズールを離さないための鈍色の鎖。首に、手首に。イデアに絡まるアズールの脚と同じように。
    互いに結び付きあって、離れてしまわないように。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2021/04/07 8:31:05

    決して弛まぬ愛を、そこに。

    さのぱんつさん(@pa_vi_ )のイラストにインスパイアされて書かせていただきました*(^o^)/*
    ありがとうございました!!

    ▼素敵なイラストはこちら▼
    https://twitter.com/pa_vi_/status/1374976073113333765?s=21

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品