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    【通販頒布中】明日、恋をする君の話。一昨日やってきた迷子の子犬一昨日やってきた迷子の子犬

     薄々、自分は相当努力しなければ、求められているレベルには達しないのだろうなと彼女もわかっていた。
     素養があると言われていても、「審神者」になるのには専門的な知識がいる。それだけではない、知識だけでどうにもならないような咄嗟の判断や、それをするだけの胆力も必要だ。それらを身に着けて、あるいは鍛えて、そうして一人前になるには自分はあまりにも凡庸である。彼女は何となくそう気づいていた。
     さく、さくと芝を踏みしめる音がする。座り込んでいた彼女は僅かに顔を上げた。するとピンクのタッセルのついた少し汚れて傷もある革靴が視界に入る。それに一応彼女は首を傾げた。覚えのない靴だったからだ。それからゆるゆると視線をあげれば、ここに来てから一度も見たことのない顔がこちらを見下ろしていた。緑のジャケットと、靴のタッセルより濃いピンクのセーター。一体誰だ。淡い桜色の髪にも瞳にも覚えはない。
    「……君、審神者、向いてないから。なるの、やめた方がいいよ」
     なあんで、そんな泣きそうな顔してるんだろう。何よりも先に彼女はぼんやりとそう思った。彼女を見つめているその人は、唇を噛み締めて今にも涙をこぼしそうだったのだ。だから言われた内容よりも先に、彼女はそちらの方が気になった。けれどまあ、そうかもしれない。
     こんな見ず知らずの誰かが侵入して来ても、声を掛けられても、何もできなかった彼女は、彼の言葉に「そうだろうなあ……」とぼんやり納得した。



     昔から何かと運が悪く、同時に運がよかった。
     正確に言うと、なんだかついてないことが頻繁にあるのだが、いつも寸でのところでなんとかなることが大半。だから彼女の運の良し悪しは、人によって評価が分かれるところなのだ。場合によっては「ついてないね」と言われることもあるし、「ラッキーだったね」のときもある。
     だがこれはどちらだろうか。大抵の場合は事が終わってみないとわからないので、現在の彼女にはこれが良いことなのか悪いことなのか判別がつかなかった。
     マニュアルにも載っていない、「迷子の刀剣男士を預かる」なんて事象がどちらに転ぶかなど、今は皆目見当もつかない。
    「村雲江さーん、おはようございまーす」
     襖の向こうから声を掛ける。するとゴソゴソと身動きをしたような物音の後に、静かに、そして僅かにそこが開いた。隙間から青白い顔と薄いピンク色の瞳が覗く。毎朝顔色が悪いような気もするが、低血圧なのだろうかと彼女は思った。
    「……起きてる」
    「おはようございますー。朝ごはん出来てますよ」
    「今、行くから」
    「じゃあ出しときますね。食べたら厨に下げといてください」
     ぼそぼそと暗い調子で村雲が言うのに、もう慣れた彼女はテキパキと返答した。しかしそれで踵を返そうとすると、にゅっと腕が伸びてきて彼女の服の裾を掴む。ちょっと引っ張られて、彼女は僅かに後ろにバランスを崩した。
    「な、なに? ……ですか?」
    「今日、君は、どこにいるの」
     特にコミュニケーションも取らないのに、どうして毎日それを聞くのだろう。彼女はやや肩を竦めつつ、それでもまだ部屋の中にいる村雲に答えた。
    「いつも通りです。畑と庭の世話をして、昼になったらご飯を作って、執務室で政府の映像講座を見て、夕飯食べてお風呂入っておしまい」
    「……わかった」
     それだけ聞くと、再び村雲の腕はにゅっと引っ込んでいく。今度はすすすと襖も閉まった。伸びてきた腕は寝巻にと彼女が渡した何の変哲もない浴衣を着ていたから、着替えて身支度をするのだろう。
     しかしそれにしたって、扱いに困るものだ。彼女は村雲に聞こえないように小さく息を吐いて、今度こそ廊下を離れて広間に向かった。彼女とて朝食がまだなのである。本当に、どうしたものか。彼女は歩きながら腕を組んだ。
     件の「迷子の刀剣男士」である「村雲江」が彼女の本丸の庭先に突然現れたのは、ほんの数日前のことだ。
    「迷子ぉ?」
    「た、たぶん? わかんないけど、でも刀剣男士だと、思うし。加州君、あの子見覚えない? 知ってる子だったりしないかな」
     執務室の手前で彼女と加州はわたわたと喋る。まだ物が少なくがらんとしたその部屋の隅で、本丸の庭にいつの間にか現れた「彼」は膝を抱えていた。ちらりと彼女はそちらを伺ったが、そのときの彼はそっぽを向いて大人しくしていた。見慣れぬ衣服と用紙の彼は、よく見ればふわふわのピンクの尻尾までついている。それは靴や衣服同様、少々汚れているような気がしなくもないが。
    「いや、まあ刀剣男士ではあるだろうけど……でも俺も刀剣男士皆顔見知りってわけじゃないし、あいつは見たことないな……。そもそもなんで今ここに俺以外の刀がいんの?」
     彼女同様に加州もこっそり室内を見て、それから声を潜めた。その日は天気もよく、縁側に面し襖を開け放った室内には気持ちのいい日差しが差し込んでいたが、彼は陰でじっとしている。そういう姿が彼女にはやはり何となく、百貨店なんかの迷子センターにいる小さな子どものように見えた。
    「さ、さあ?」
    「さあって!」
    「でも、本当に、わからなくて。とりあえず政府に連絡は入れたから」
     現在、色々事情がありこの本丸にいるのは審神者である彼女とその初めての刀である加州一振だけだ。本丸という場所はその場所の特性上厳重に守られているはずであるし、どこの誰のものだかわからない刀剣男士がフラッとやって来られるわけがない。
     加えて彼女はまだ本丸に就任したてで、容姿だけではその刀が一体何という銘のそれなのかわからない状態だった。だからとにかくこういうことがあったと政府に報告して返事を待つ他にできることはなく、彼女と加州は執務室の隅に彼を座らせたままで困り果てていたのである。
     しかしやはりそればかりとはいかないだろう。政府からの指示を待つ間、彼女はひとまずお茶を用意して彼に差し出した。茶菓子もつけた。迷子センターにはそういうものがあったなと思ったからである。
    「あの、よかったら、食べませんか。普通のお茶とお菓子なので、変なものじゃないですよ」
     それらを載せた盆を傍に置いて、何となく彼女が声を掛ければ、そっぽを向いていた彼はのろのろと彼女に視線を向けた。ハーフアップに結わえた肩までのふわふわとしたピンクの髪に、同じ色の瞳。なにより腰には刀を提げているし、おおよそ普通の人間には見えないので彼はやはり刀剣男士なのだろうなと思いつつ、彼女はもう一度お盆をそちらに押した。
     すると彼はそれを一瞥した後、二度瞬きをする間だけ彼女の方を見つめていた。瞬いた瞳が綺麗だったので彼女はそれをよく覚えている。けれどその後再びそっぽを向いて、一言だけ呟いた。
    「……ごうのよしひろが作刀、むらくもごう」
    「あ、やっぱり刀剣男士なんですね」
     生憎と聞いたことのない刀の名前だったけれど、ひとまず名乗ってくれたことに安堵して彼女はポケットから通信端末を取り出した。漢字がわからなかったので、ひらがなで検索を掛ける。
     だがヒットしたのは「村雲江」という依り代になっただろう刀剣本体のみで、刀剣男士としての姿は上がってこなかった。それに首を傾げつつ、ひとまず彼女は端末をしまう。彼女が該当刀剣を所持していないのがいけないのだろうか。
    「挨拶が前後してごめんなさい。初めまして、村雲江さん。えっと、私は一応、この本丸に就任している審神者です」
    「……」
    「それからこっちは近侍で、私の初期刀の加州君。それで、いきなりで申し訳ないんですが、村雲江さんはどこからここに」
    「なんで、ここには他に刀がいないの」
     彼女の問いを遮って、村雲はそう言った。それに面食らって、彼女は口を噤む。やりづらい。彼女が今まで接してきた刀剣男士は加州のみで、そして加州はかなり人当たりがいい方だったのだなと彼女は思った。
     するとそれを見かねたのか、彼女の後ろで腕組みをして立っていた加州が口を開く。
    「見ればわかると思うけど、ここ、できてすぐの本丸なんだよねー。だからあんたが入れるだけの穴がどっかにあったのかもしんないし、あんたもそれでどっか行く途中に引っかかっちゃったのかもしんないけど。とにかくあんた、見た感じ迷子でしょ? 今政府に連絡入れたから、連絡取れたら一旦政府に行ってくんないかな。そしたら帰れると思うし」
     加州のその提案は、至極真っ当なものだと彼女でさえ思えた。今、この本丸で村雲にしてやれることはほぼないと言っていい。ならば一度政府に行ったほうが打てる対処はある。だがそれを聞いて、村雲は僅かに眉を歪めた。
    「い、嫌だ」
    「えっ? 嫌?」
     思わず彼女は繰り返してしまった。しかしその間に村雲は抱えていた膝を更に引き寄せるようにして縮こまる。その上組んだ腕に顔を完全に伏せてしまって、村雲はまるで亀のようだった。
    「嫌だっつったってさ」
    「嫌だ、俺、ここにいるから」
     困って加州と彼女は顔を見合わせた。ここにいるからと言われても、彼女と加州しかいないこの本丸では、迷子の村雲を受け入れるだけの余裕はもちろん知識も経験も当然ない。大体、彼女は刀の銘を言われてもピンとこなかったような本当に新米の審神者なのだ。だから慌てて彼女はもう一度村雲に声を掛けた。
    「そ、そうは言っても、村雲江さん、ここじゃちょっと、あなたの面倒は見られないし」
    「お腹っ、痛くなるからっ!」
     突然、村雲がこれまでの倍の大きさの声を上げた。びくりとして彼女は黙る。しかし村雲はそのまま続けた。
    「ここにいる、から」
     唖然として彼女は視線だけ加州にやったが、加州も最早ただ首を振ることしかできなかった。そうして村雲は梃子でも動かない様子で執務室に蹲っていたのである。
     結局、政府からはその日の夕方になってから「刀剣男士本刃がそう主張しているのならそれ以外の対応はできない」と遅い返答が来た。刀剣男士は曲がりなりにも刀の付喪神で、本来ならば人間より上位の存在なのである。だからたとえ政府と言えど、人間の都合で移動を望んでいない刀剣男士をおいそれと動かすことはとできないらしい。だがこの「村雲江を名乗る刀剣男士が一体どこから来たのかは調べる」と一応の通達があった。
     そういうわけで、数日前から村雲江はこの本丸に居座っている。ただ村雲は「ここにいる」と主張はするものの、彼女や加州とはあまり話をしたり積極的に関わりを持とうとはしなかった。しかし身の回りのことは自分でしているため、村雲は本丸を間借りして一振で生活しているようなもので、その点あまり手はかからなかったのが何もできない彼女と加州には救いだった。
     だがそれはそれとして、彼女は一つ困っていることがある。
    「……あの」
     執務室のパソコンで政府の映像講座を見ていた彼女は、メモを取る手を止めしびれを切らして振り返った。するとそこには、特に何をするでもなく彼女から一定の距離を保ち、壁に背を預けて膝を抱えている村雲江がいた。彼女が視線を向けると、村雲は組んだ腕の上に顎を載せたままで言う。
    「……なに」
    「何って、その、何か気になったり、私に用があるなら」
    「何もないよ」
     じゃあ何故そこにいるのだ。
     彼女は居たたまれない気持ちで体勢を戻した。取り付く島もなく「何もない」と言われてしまえば、そうする他にない。しかし、本当にやりづらい。彼女は手にしていたシャープペンシルの頭でコンコンと文机の天板を叩いた。
     理由はさっぱりわからないのだが、村雲は本丸に居座ってからこちら、何故だかずっと彼女の背後にいるのである。それはまるで影法師か何かのようだった。
     何かを言うわけでは決してない。むしろ彼女から話しかけない限り、村雲は口を開かない。けれど毎朝必ずその日一日の予定を聞いて、彼女と同じ部屋、ないしは同じ空間にいるのである。比喩ではなく、唯一村雲がついてこないのは入浴と用を足すときくらいだ。
     そしてこれが大変、しんどい。なにせ一切距離を詰めようとして来ない人間、もとい刀がずっと半歩後ろに控えているのである。それも理由がさっぱりわからない。邪険……というわけではないが、村雲側には彼女と少しでも仲良くしようという気がさらさらなさそうなのに、どうして。ただついて回られるだけと言っても、ここ数日、この村雲の行動は彼女にとってかなりのストレスになっていた。見かねた加州がそれとなく別室に行くように促しても、村雲ときたら「いい」とだけ言って座り込んでいる。そしてこうなってしまうと流石の加州も手を出せないのだ。
     正直なことを言えば、村雲のこの行動には彼女もいい加減嫌気がさしており、「勘弁してくれ」と叫び出したいところではあった。しかし相手が相手なだけにそれができないのがまた苦しい。したがって、現状彼女にできる行動は再生している映像講座にひたすらに集中することだけなのだが、それにも彼女はもう限界がき始めていた。気にしないようにしても、どうにも。背中にじりじりとした視線を感じる。
    「……あの」
    「……なに?」
     彼女は仕方なしにもう一度村雲の方を向いた。それからトントンと自分の右隣を叩く。
    「もし村雲さんが嫌じゃないなら、せめてこっちに、来てほしいんですが」
     視線が、とにかくつらい。背後からじっと、見つめられているだけというのは落ち着かない。自意識過剰などではなく本当にただ見られているのだ。とはいえ村雲にはこの部屋から出ていくつもりはないようだし、この際仲良くおしゃべりしてくれとは言わないので、せめて後ろから凝視するのだけでもやめてもらいたい。
     それもあり彼女は自分の隣……とは言ってもやや離れた場所を示したのだが、村雲はちらりとその指先を見た後にふいとそっぽを向いた。ふわふわとしたピンクの髪が揺れる。
    「そこはやだ」
     ガンと頭を殴られたような気持ちになる。ストレートな拒絶に彼女はややショックを受けていた。「そこ」は「嫌だ」ということは、すなわち彼女の隣には来たくないということである。確かに彼女と村雲の間には何の関係性もないけれど、面と向かって直接そう言われるのは些か。
    「い、嫌ですか」
    「……嫌だ」
     困った……。取り付く島もなく断られた彼女は、はあと息を吐いて再び体を正面に向けた。全く、頭の痛い。彼女はマウスを動かして動画を少々巻き戻した。集中できないため頭に入っている気は全くしないけれど、見逃している分は戻さなくては。
     だがそうして手持無沙汰にカチカチと操作をしていると、不意に低い声が後ろから投げかけられた。
    「……なんでそんなの、見てるの」
     もしかして、今のは自分に言ったのだろうか。彼女は驚いて振り返る。するときまり悪そうに、余所を向いたままの村雲がもう一度言った。
    「別に、言いたくないなら」
    「う、ううん! いや、あの、いいえ。あの、これはちょっと、研修みたいなもので」
    「研修?」
    「はい、実は私、まだちゃんと審神者として登録されてなくて」
     正直に答えてしまってから、彼女は「あ」と自分の口を押えた。これは言ってしまってよかったのだろうか。まだ村雲の素性も知れないのに。だが刀剣男士相手に嘘を吐くわけにもいかない。相手は神様なのだ。
     しかし村雲の方は彼女の言葉に興味を示したのか、宝石のように綺麗な色の瞳をこちらに向けた。
    「君、審神者じゃないの?」
    「……えっと、説明が、難しいんですけど」
     参ったな、と思いはしたものの彼女はいくらか言葉を選んで答えることにした。カチリと一度、動画をクリックしてそれを止める。それから村雲の方に体ごと向き直った。
    「私、審神者になった時期が、ちょっと悪かったみたいで」
    「どういうこと?」
    「えーっと……召集された時期が、ちょっと忙しい頃だったみたいで。私も詳しくは知らないんですが」
     審神者としての適性があると通達が来て彼女は指定された通りに時の政府に赴いたが、担当の管狐、こんのすけからは早口で現状が説明された。審神者という役割も時の政府もまだまだ発足したばかりで、色々バタバタしている。だから申し訳ないのだが彼女を正式に審神者として登録するのに時間が欲しいこと。だがせっかくなので、彼女には初期刀を顕現させて、本丸がどういう場所か慣れるのにこの期間を宛ててほしいということ。
    「それで今は、加州君と二人でなんとなくここにいて、いつか刀剣男士をお迎えするために場所を整えてるところでして。本来なら色々、政府で研修も受けるはずだったんですが、その余裕もないのでこうして、研修動画を見ていてですね……」
    「……そう」
     ちらりと彼女が村雲の方を見てみると、村雲はやはり膝を立てて座ったまま頬杖を突くようにして手のひらを口元に当てていた。返ってきたのは興味のなさそうな返事だったが、村雲の表情は何かを考えこんでいる風ではある。その様子を見つつ、彼女もいくらか思いを巡らせた。
     村雲にだって、ここに居たがる理由が何かあるはずだ。刀剣男士は刀、つまりモノの付喪神だ。だから審神者は彼らにとって「持ち主」。よっぽどのことがなければ、その審神者の傍を離れているとは考えづらい。加えて彼女と村雲との間には何の縁もゆかりもなく、ここに居たがる何かが彼女に起因するものだとも思えない。ならば村雲の「審神者」か「本丸」どちらかに問題があってここにいると考えるのが妥当なのではないのだろうか。
     例えばこの本丸のように、従来の本丸の運営や活動ができない何か。そういう事情があって、村雲は帰ることを断念、あるいは避けようとしていて……。
    「よかったね」
    「え?」
     余所を向いたまま村雲が言った。だがそれは彼女が考え事をしていたのを差し引いても、ちっとも想定していなかった言葉だったので聞き直す。今説明した事柄の中で、「良い」ことなんて一つもなかったはずだが。
    「何が、よかったんでしょうか」
     彼女が尋ねれば、村雲は静かな声で答える。
    「だって、それなら君はまだ審神者になるの、やめられるってことだろ」
     あ、と彼女はそこでやっと思い出した。そういえば村雲は初対面で、彼女に同じようなことを言っていた。
     君は向いていないから、審神者になるのはやめた方がいいと。
    「……あの」
    「主ー」
     彼女が村雲に声をかけたのと同時に、加州が執務室にやってきて室内を覗き込む。「洋装も着慣れとかないとねー」と楽な服装ではなく黒のスラックスにベスト姿をしっかり整えた加州は、片手にエプロンを引っ掛けていた。今日は加州が夕飯当番だったのだ。
    「あ、うん、なに? 加州君」
    「晩御飯、一応できたんだけどさ。ちょっと味噌汁の味見してくんない? 俺やっぱりまだその辺よくわかんなくて。たぶん美味しいと思うんだけど」
    「あ、そっか。今行くね」
     立ち上がって、彼女はそのまま執務室を出た。ちらりと村雲が自分の方を一瞥したことには彼女も気づいたけれどそのまま退出する。村雲はついてこなかった。
     せっかく少しは話ができたけれど、状況はあまり何も変わらなかった。そんなことを考えながら彼女は加州の後ろを歩いていたのだが、暫く歩いて執務室を離れると加州は眉を吊り上げて言った。
    「ねえ! 何あいつ、あれじゃ主は審神者にならない方がいいみたいな言いかたじゃん!」
    「……加州君、ね、怒らないで。私全然気にしてないから」
     聞こえていないといいなと思っていたが、あのタイミングで入室してきた加州が村雲の言葉を聞いていないはずがなかった。厨まで来ると加州は更に怒って捲くし立てる。彼女は困って両手を上げ自分の前に持ってきたけれど、加州の方の勢いは全く収まらない。
    「ほんと何なんだよ、こっちだって余裕ないとこあいつ預かってんのに」
    「いやでも、私が新米……っていうより独り立ちもできてない半人前なのは間違ってないから。村雲さんはもう出陣したりしてるんだろうから、私は毎日パソコン眺めてるばっかりで、頼りなく見えたんじゃない?」
     事実、彼女は審神者としてはまだ何もできていない。自分の刀剣男士である加州を出陣させたこともないし、業務の一環だと聞いている刀を鍛えたり、あるいは手入れしたりなんていうこともしていない。村雲の本丸が既に一般的な任務に当たっているのなら、日がな一日動画を見ているだけの彼女はさぞや怠慢に見えるだろう。
     だが彼女のその言葉にも加州は更に苛立ったようで、手にしていたエプロンを厨の大きなテーブルに投げつけた。
    「主のこの状況は別に主が好きでやってるんじゃないじゃん! よく知りもしないで言うのも論外だし、政府の都合でうちはこうなのに、あんな言いかた有り得ないからっ!」
     加州の剣幕に、彼女はつい、自分の爪先の辺りを見た。加州の主張は、間違っていない。そして彼女のことを庇って言ってくれているのもわかる。だがそれが理解できればできるほど、彼女にはやや俯くことしかできなかった。
    「……ごめん」
     すると加州はハッとし、焦って前のめりになる。
    「ご、ごめん! 俺こそ、大きい声出したり、して。……ごめんね、俺、結構喧嘩っ早い、みたい、で……嫌になった?」
     小さくなった加州の声に、今度は彼女が慌てる番だった。加州が村雲に怒っているのは、他ならない彼女の為だ。それを責めることはできない。それに加州だって、この状況に対してはやりきれない気持ちの方が大きいだろう。顕現してこちら、加州は一度も出陣さえもしていない。
    「そ、そんなことないよ。加州君がなんで怒ってくれたのかはわかるよ、ありがとう。でも村雲さんも今はたぶん、迷子で不安だったりするだろうから……いくらか棘があってもしょうがないって私は思ってる、し……」
     何故村雲がここを動こうとしないのかは相変わらずわからないけれど、迷子は心細い。それは間違いない。それもあり、彼女には多少のやりづらさは感じても村雲を邪険にしたくない気持ちもあった。まあ、村雲がここに転がり込んで張り付いている状態に困ってはいるけれど……。
     しかしこれではどっちつかずで、八方美人だと彼女は思った。彼女は今、加州と村雲のどちらにもいい顔をしたのだ。加州は他でもない、彼女の初めての刀なのに。だが政府から「自発的にそうしたいという希望がない限り、村雲を動かすことはできない」と返答があった以上、他にどうするのがいいのかわからない。
     他の審神者なら、こういうときどうするのだろうと彼女はぼんやり思った。今のところ、彼女には同期や先輩後輩もいない。誰も、教えてはくれない。
     「刀」と、どうコミュニケーションを取ればいいのか。彼女にはわからない。
     暫く二人して黙りこくっていたけれど、そのうちに加州の方が先に動いて食器棚に手を伸ばした。中には既に備品としてそれなりの量の食器が納められていたが、彼女と加州はそのほんのごく一部しか使用していない。加州は木でできた椀を一つ取り出した。
    「……でも、言われたことは本当、気にしなくていいからね。主はいこれっ! 味噌汁! たぶん美味しいから、これ飲んで元気出して。それから落ち込まないよーに!」
     味見にしては大きい器で量だったけれど、彼女は何も言わずにそれを受け取る。何の変哲もない普通の味噌汁の匂いがした。
    「うん……ありがとう。美味しそう、あ、わかめ入ってる、嬉しいな」
     彼女は加州が差し出してくれたお椀を受け取って口を付けた。ほんの少し、しょっぱい。だがそれは心の中に留めておく。今それを言うのは憚られた。とはいえ今以外にいつ言えばいいのかもわからなかったけれど。
     ついでに「でも実は私も自分はたぶん審神者には向いてないと思ってるんだよね」なんてことも、彼女は味噌汁と一緒に心のうちに飲み込んでおいた。



     ざあざあと雨が降るような音を立てて、庭の花々が彼女の向けたシャワーホースから出た水に打たれる。青々とした緑が眩しいそれらに反して、彼女の気持ちは今朝からずっと重たかった。
     どうも、結局昨日の一件が原因で加州と村雲は揉めたようだった。ようだ、というのは彼女が実際にその様子を見ていないからである。だが今日は朝からずっと加州はどこか不機嫌そうで、村雲はいつも以上に内にこもってよそよそしかった。しかし彼女も彼女でそれをうまく仲裁もできず、困って庭の草木に水なんかやっている。流石に映像講座を見る気分にはなれなかった。そもそもこれまでだって、きちんと頭に入っているかどうか疑わしかったのに。
    「……自分が嫌になる」
     思わず呟いて、彼女は余計に浮かない気持ちになった。これまで何となく誤魔化し誤魔化しやってきたが、いよいよ現状に目を逸らせなくなってきたのがわかったのだ。
     だがそうしてぼんやりしていると、突然背後から手首を掴まれる。彼女はつい声を上げてしまった。
    「ヒッ」
    「……一か所にずっと水かけてると、根腐れする」
     ぼそりとそう言った村雲は、彼女の手を別な方向に動かすとすぐに離れる。だが彼女はぎょっとした拍子に振り返ってしまい、彼女が手にしていたホースは村雲の方を向いた。すると当然、水はそちらに向けて噴射される。
    「わっ」
    「あっ、あっ、ごめんなさい、わっ」
     慌てて彼女は手元のコックを捻った。しかしもろに水を被ってしまった村雲は呆然として髪から水を滴らせている。青くなって彼女はホースを放り出す。
    「ごっ、ごめんなさい! まっ、タ、タオル」
     立ち尽くしている村雲の手首を掴み、彼女は縁側に駆け戻って母屋に上がった。一度は足を執務室に向けたが、そこにタオルなんか置いてないことを思い出して彼女は踵を返す。こうなってくると仕方ない、彼女は村雲を引っ張って自分の部屋に向かった。
     急いでそこに入ると、彼女は箪笥の引き出しを開けて一度に二、三枚のタオルを取り出した。一枚を広げると、残りは一旦畳の上に放り出す。
    「すみません、本当にすみません、とにかくこれで拭いて」
     木々が青々とする季節と言っても、水を被れば肌寒い頃だ。彼女は村雲の頭にタオルを投げかけ、勢いに任せて拭く。村雲が着ていた緑のジャケットは濡れて色が濃くなっていた。
    「寒いですよね? えっと待って着替え」
     予備の浴衣、予備の浴衣はどこにと今度は彼女が押入れを開いたとき、タオルを被った村雲が今度は青ざめた顔で呟いた。
    「……お腹痛い」
    「ぅわっ、上着、膝掛!」
     そう言えばここに迷い込んできた当日も腹痛がどうとか言っていた。もしかしたら村雲は冷えに弱いのかもしれない。彼女は焦って押し入れの中のものを片っ端から取り出した。使わないからと思ってしまい込んだ浴衣があったはず。
    「あっ、あった!」
     やっとこさ見つけたそれは記憶より薄っぺらかったので、彼女はひとまずそれを村雲に押し付けた。
    「これ、これっ、そっち見ませんから今すぐ着替えて!」
    「えっ」
    「膝掛、膝掛もどっかに」
     家からこちらに持ち込んだものをひとまとめにしてしまい込んだ箱! 彼女は村雲に背を向け、押し入れの下の段に頭を突っ込んだ。防虫剤の匂いのするそれを彼女が奥から引っ張り出した頃には、村雲も何となく浴衣に着替えて突っ立っている。やはりそれ一枚では寒そうだったので、彼女は取りだしたふわふわの膝掛と毛布も村雲に手渡した。
    「ちょっとこれ羽織って、待っててください。お白湯かなにか」
    「い、いい、から」
    「迷子に体調崩されたら私の寝覚めが悪いんですよ!」
     思わず勢いのままに言ってしまってから、しまった今のは少し語調が強かっただろうかと彼女は思った。しかし村雲は面食らった様子ではあったものの、大人しく膝掛に包まって腰を下ろす。
     何も言わないならとりあえずいいか。彼女の部屋は他の刀剣男士たち用の部屋と違って、小さいけれどキッチンと浴室やトイレなんかも備え付けられている。電子ケトルを取り上げて、彼女は水を注いでセットした。すぐに沸くタイプのそれは、瞬く間にぐつぐつと音を立て始める。そこで彼女はやっと一息ついた。とりあえず今できることは全部したはず。
    「寒い……ですか? 一応、暖房も入れられますよ」
    「……いい、大丈夫」
     相変わらずぼそぼそという風ではあったが、確かに村雲の顔色は先ほどよりいくらかましになっていた。それにいくらか安堵しつつ、彼女は沸いたお湯をマグカップに注いで村雲に差し出す。村雲は素直にそれを両手で受け取った。
    「濡れちゃった上着とスラックス、はとりあえず干しますね。シャツは普通に洗濯で、セーターはギリ、手洗いコースで洗えるかな」
     拾った村雲の衣服をハンガーに引っ掛けたりなんだりしながら彼女は言った。彼女が女性だからか、幸い洗濯機も部屋には置かれている。とりあえずシャツだけでも先にと彼女が洗面所の方に行こうとすると、村雲は「あ」と声を上げた。
    「あの、ありがとう」
     おや、と彼女は振り返る。彼女に視線を向けられると村雲は逆に俯いてしまったが、言った言葉はちゃんと届いていた。
    「……ううん、ちょっと待っていてくださいね」
     自分の洗濯物と一緒に、彼女は村雲のシャツを洗濯機に放り込んだ。濡れたセーターは伸びてしまわないように風呂の蓋の上に広げて乾かしておく。そうして部屋に戻っても、村雲はそこに座り込んで白湯を冷ましながら飲んでいた。それを見て彼女も腰を下ろしかけ、昨日隣は嫌だと言われたのを思い出し、やや距離を開けて座った。
    「ちょっとは温まりましたか?」
    「……うん。驚かせて、ごめん」
    「いえ、私がぼんやりしてたのが悪いので。すみません。お白湯のおかわりは、あれ」
     彼女がポットを持って村雲のマグカップを覗き込めば、先ほど注いだ白湯はいくらも減っていなかった。どうやら両手で包んで暖を取っていただけだったらしい。すると彼女が見ているのに気づいたのか、村雲は慌てた様子でマグカップを自分に引き寄せる。
    「あ、熱いの、すぐ飲めなくて、ごめん今飲むから」
     そう言って、何故か急いでマグに口を付けた村雲は案の定「あつっ」と小さく声を上げる。
    「い、いいですよそんな、焦んなくても」
    「でも、せっかく用意してくれたし」
    「お湯なんかすぐに沸きますから! ほら、こうやってスイッチ入れればこう、パパッと」
     どうしてだか熱いのを我慢して飲もうとする村雲に、彼女も彼女で混乱してケトルを電源に繋ぎ直しボタンを押す。すると先程同様にすぐにシュンシュンと言い始める。
    「……ほんとだ」
     ぼそりと村雲が呟く。
     中腰でケトルを示す彼女と膝掛や布団に包まって毛布のお化けのようになっている村雲と、それは非常に奇妙な空間だった。少しの間我慢したのだが、彼女は堪えきれなくなって。肩を揺らす。
    「ふ、ふふ、ごめんなさい、ちょっと、ふふふ」
     何がおかしいかと問われると難しいが、どうにも。しかし彼女がそうしてくすくすとしていると、ややぽかんとしていた村雲も「ふへ」と力の抜けた笑い声を漏らした。
    「えへへ……」
    「あはは」
     控えめではあるが、村雲も笑っている。彼女はそれに何となく安堵して、そして嬉しくなった。
     なんだ、ちゃんと笑える子ではないか。
    「はい、おかわりどうぞ」
    「うん……ありがとう」
     沸いた白湯を注げば、村雲は柔らかく微笑んで再びマグカップを両手で包む。そんな村雲の様子がいつになく穏やかで、どこか打ち解けた雰囲気だったので彼女はそろりと尋ねてみた。気になっていることはいくつもある。
    「聞くのが遅くなりましたが、何か不便はありませんか? 困ってることや、欲しいものがあれば言ってください」
     そう聞くと、村雲は視線をマグカップの中に落として首を振る。濡れてややしんなりした髪が揺れた。
    「ううん……大丈夫、何も困ってない」
    「それなら安心しました。ごめんなさい、政府からは何の連絡もなくて。村雲さんを元の本丸に戻す方法、見つかってないんでしょうか」
     彼女と加州が村雲のことを報告してから、時の政府からは「こちらの都合で村雲は動かせないためそちらの本丸で保護するように」という指示以降音沙汰がない。迷子の刀剣男士が本丸に迷い込んでくるという事案が、どの程度の特異なことなのか彼女にはまだ想像ができなかった。一般的に考えてあまり良くないことだとは思うのだけれど、加州はここがまだ新しいから守りが弱いのかもしれないといっていたし、そういうときはよくあることだから、対応が後回しになっているのだろうか。それとも滅多にないことだから、何もわからずに政府も困っているのだろうか。人が足りず忙しいと彼女の研修さえままならない政府のことだから、他の事案に取り紛れ彼女の報告はなかったことにはなっていないだろうか。それはやや不安ではある。後でもう一度進捗を聞く連絡を入れてみようと彼女は思った。
    「すみません。私がちゃんとした一人前の審神者なら、もう少し打てる手も思いついたかもしれませんが」
     審神者の「さ」の字さえちゃんと理解できていない彼女では、どうしても。歯がゆい気持ちで彼女は唇を引き絞った。
     しかし彼女のそうした心配をよそに、村雲の方はいくらか暗い表情でマグカップの底を見つめていた。白い湯気がまだそこからは立ち上っている。
    「……君、審神者になりたい?」
    「え?」
     彼女はその問いに当惑した。そんなことを聞かれると思っていなかった。村雲の話をしていたのに、突然彼女の方に矛先が向いたのだ。それもそんな、根本的なこと。
    「……そりゃあ、私は、審神者になるためにここに呼ばれましたから」
    「そう、じゃなくて」
     ぎゅっと村雲がマグカップを握った。綺麗なピンク色に爪を塗ってある指先が白くなる。
     わかっている。今のは聞かれた問いに対する答えではない。だから彼女はやや視線を伏せた。
    「なりたくないとは、思ってません」
     それは嘘ではない。嘘ではないけれど。
    「ただ……向いてないんだろうなと、思ってます」
     審神者になるだけの能力の適性は、あるのかもしれないけれど。ただ本当に、それだけなのだと思う。
    「ど、どうして?」
     正直に答えたというのに、村雲は返事を聞いて何故だか焦ったように彼女に尋ねた。それに彼女は苦笑する。口に出すと少し気が楽になって、どこか軽い調子で村雲と話すことができた。
    「村雲さんだって、一番最初私に向いてないって言ったじゃないですか」
    「それは、その……でも、なんで」
     それを聞かれると、最初から話さなくてはならなくなる。だが不思議と、彼女は村雲にならそれを言ってもいいような気がしていた。
     村雲は、無関係だから。したがって彼女は素直に口を開く。
    「一目惚れだったんです」
     艶のある、真っ赤な鞘が、並べられた刀の中で一番に目についた。照明は他と変わらなかったはずだけれど、それでも。加州清光の拵だけが、一際光って見えた。だから五振の中から迷わずそれを手に取ったのだ。
    「刀なんて、縁がなかったので。最初はもっと悩むかと思ってました。でもどうしてだか、おもちゃ屋さんでお気に入りのぬいぐるみを見つけた子どもみたいに、どうしてもこの子がいいって、思ってしまって」
     そうして、彼女と加州はこの本丸に来た。暫くは何もできないけれど、それでも遠くないいつか、他にも仲間を迎えて審神者として、この本丸の始まりの一振として準備をする期間にしようと決めて。
     もちろん彼女とて何の心づもりもしないで本丸に着任したわけではないから、審神者になるための最初の研修が遅れることにはやや拍子抜けした。やはり自分は運が悪いのかもしれないなとも思った。けれどいきなり戦場に出るように言われるよりはずっといいかもしれない。そう思い直して彼女は前向きに、映像講座の視聴や本丸の環境を整えることに取り組んだ。それに幸いなことに加州は人当たりも良く、「刀の付喪神」なんて仰々しいものではなくて、年の近い友人のような気持ちでいられた。
     しかしそうして待機しているうちに、想像だにしていなかった心境の変化が彼女に起きた。
    「情けない話なんですが、何もしないうちから怖くなっちゃったんですよね」
    「……どうして?」
     村雲がおずおずと尋ねる。村雲がそれを疑問に思うということは、やはり普通の審神者はこんなところで躊躇ったりしていないのだろうなと彼女は考えた。覚悟が足りないことをここでも自覚させられる。彼女は眉を歪めた。
    「知識だけ、毎日取り入れてたんです、ここで。戦場がどれだけ恐ろしくて、歴史を守る役目は厳しくて。それから、刀剣男士がどれだけ傷つくのか」
     これまでの戦いの記録、殉職した審神者の数、刀剣男士の被害の程度の統計。ただ、彼女はパソコンの画面のまででいつか自分が行く戦場を見つめ続けた。
    「情けないって、笑ってくださいね。行く前からこんなに怯えて。でもいっそ、今すぐ行ってこいって命令された方が楽だったかもしれません。ここでずっと見ているより踏ん切りがついたかも。この戦いはこういうものなんだって、直に慣れたかもしれない。でも……もうちょっと、自信、ないんですよね」
     自分は、いつか加州に、そしてこれから迎えるかもしれない自分の刀剣男士達に傷つきに行くように言わなくてはいけないのだ。そんなことは、審神者として召集されたときからずっとわかっているはずだった。ただスタートラインでずっと足踏みだけをしている間に、これから先の道のりの景色だけがはっきりと見えるようになって、それが途方もなく険しく、より苦しいものに思えてきてしまった。
     もちろん刀剣男士を率いて戦うことは彼女の審神者としての役割であり、刀である刀剣男士達にしてみても同じこと。むしろ刀剣男士達はそのために力を貸して顕現してくれているのだから、躊躇うことではないし、躊躇ってはいけない。
     だが、今の加州はただの「刀」ではないと、彼女はそれだけは何よりも知っている。当たり前のように笑い、話し、一緒に食事を摂って、家事を分担して、ここで毎日暮らしている。
     そんな加州が傷つくのを見るのが怖いからなんて理由で、「審神者」である彼女が「刀剣男士」の加州にこのまま安全な場所にいてほしいとは言えない。言ってはいけないのだ。
    「自分がそんな風に考えてるって気づいたとき、ああ私、審神者向いてないんだなって、思っちゃったんです」
     一度、不意にそう思ってしまったら……もうだめだった。
     今まで全く気にも留めなかったようなことが、どんどん目についてくる。今の選択は、今の言動は、「審神者」として正しかっただろうか。いつも笑って彼女に接してくれる加州は、実は彼女の審神者としての適性のなさを見抜いているのではないだろうか。そもそも彼女に選ばれた加州の側に拒否権はない。本当は呆れているのではあるまいか。出陣してもいないのに戦場に対して怯えて、覚悟のない自分に対して、失望しているのでは。
     けれど、そんな風に加州を疑う自分が一番嫌だった。
    「ね、向いてないでしょう? 村雲さんの言う通りです。よくわかりましたね」
     自棄になって彼女は言った。じっとこちらを見つめたまま話を聞いていた村雲は激しく首を振る。
    「違、そうじゃなくて」
     しかし、彼女はそれを遮って大きく息を吸う。
    「合ってます、合ってますよ! 自分が審神者に向いてないって、審神者になるべきじゃないって、ずっと私が一番、そう思ってたんですから!」
     堪えきれずに彼女が声を荒げたのと、部屋の外で陶器が割れるような音がするのはほぼ同時だった。
     村雲がハッとして先に立ち上がる。襖に飛びつくようにして村雲がそこを開けると、そこに立っていたのは加州だった。この本丸には今彼女と加州と村雲しかいないのだから、それは何もおかしいことではない。おかしいことではないけれど。
    「……なに、それ」
     加州は一番近くに立っている村雲ではなく、その奥にいる彼女のことだけを真っ直ぐに見つめていた。色んな感情がないまぜになった視線を、彼女はただ正面から受けることしかできない。足元には砕け散った皿とこの間万屋で一緒に買った菓子が落ちていた。買いに行ったとき、加州はやはり元が日本刀だからか餡子や餅の方が好きだと言っていたけれど、彼女がたまにはチョコレートなんかもどうかと言ってみた。すると加州は「主が普段食べてるやつなら、食べてみよっかな」なんて笑っていた。
     だからたぶん、あのチョコレート菓子は彼女に持って来てくれたのだと思う。
    「なんで、なんでそれ! 俺に言ってくれなかったんだよ!」
     そう叫ぶと踵を返して、加州は行ってしまった。彼女はそれに答えることも、立ち上がることもできずに視線を下げる。
    「か、加州! 待って!」
     何故だか村雲の方が必死になって加州に呼びかけていた。
     今朝喧嘩していたはずなのに。わからないな、なんでだろう。彼女がぼんやり思っていると、村雲は再び彼女の前に戻ってきて手首を掴み引っ張る。
    「行って、早く! 行って、追いかけて!」
    「……でも」
    「君が選んだんだろ!」
     選んだ。そうだ、彼女が一方的に選んだ。加州には選択肢もなかったのに。
     彼女が唇を引き絞っていると、村雲は今度は肩を掴んで揺さぶった。何故この刀はこんなに必死になるのだ。ここには迷い込んできただけだというのに。
    「君が、加州のこと選んだんだろ! だったらちゃんと行って!」
    「……でも、全部、加州君聞いてたかもしれないのに」
     もう、彼女が加州に掛けられる言葉なんてないはずだ。悩んでいたことを、それもあんな内容の悩みを、気楽だからという理由で自分の刀ではなく他所の刀剣男士に相談して。内心はどう思っていたとしても、それでも彼女についてきてくれた加州に対する裏切りだ。
     二度と、加州は彼女のことを信じてくれないだろう。
     だが村雲は彼女の体を無理矢理起こさせると、泣き出しそうな顔で言った。そう言えば、初めてここに来たときも村雲は泣きそうだった。
    「それでもっ、俺が加州なら聞きたい! 君の口から、君の思ってること全部聞きたい! 今は直接聞けるんだから!」
     苦しそうな声で、村雲は強く言う。
    「君の、刀なんだから!」
     ……私の刀。
     廊下から、真っ直ぐこちらに向けられていた赤い瞳。ここに来てからずっと、彼女だけを見つめていてくれた。
     あの日、彼女が一目惚れした美しい姿と同じ色。
     彼女は弾かれたように立ち上がった。すると村雲が慌てて廊下に散らばった皿の破片を手で避ける。けれどその拍子にどこかを引っ掛けたのか、顔を僅かに顰めた。
    「いてっ」
    「っごめん! ごめん村雲さん、だ、だいじょ」
    「いいから、ここ踏まないで、早く行って!」
     もう一度ごめんと謝って、彼女は加州が消えた方に走る。本丸は広いけれど、今使っている範囲は狭い。広間や執務室の他に加州が向かいそうなのは彼の私室である隣の部屋だが、それは加州の背中が消えた方向とは逆だった。その廊下から一番行きやすい共有スペース、厨に向けて速足で進む背中を見つける。彼女はうまく出ない掠れた声で呼びかけた。
    「加州君! 加州君、待って!」
     たった一回そう言っただけで、加州は足の速度を緩やかに止めてくれた。それでも、その正面に回り込むことは憚られて悩む。だがどうしても伝えなくてはいけない言葉だけ、彼女は青年にしては華奢な後ろ姿に向けて叫んだ。
    「ごめん! 話せなくてごめん、色々、色々、わからなくてごめん! 私、加州君とどう接したらいいかわかんなかったから! うまく、うまく話せなくて、ごめんね!」
     自分が接しなくてはいけないのは「刀剣男士」なのだと、その意識が強くなればなるほど彼女は加州との距離を測りかねた。加州が親しみを込めて接してくれるたびに、これ以上感情移入してはいけないと思った。
     だって、心を寄せすぎてしまえば彼女は本当に戦えなくなってしまう。
    「っわかんないってなに? 俺上手くやれてなかった?」
     細く束ねた髪を揺らし、振り返った加州の瞳の赤は頼りなく震えていた。それに彼女は急いで首を振る。しかし加州は唇を震わせたまま続けた。
    「ご飯、作るのが上手くなかったから? 昨日の味噌汁、美味しくなかったから? 洗濯物、畳むの最初あんまり上手じゃなかったから? っ最初本丸に来た晩、うまく寝れなくて主に心配かけたからっ?」
     悲痛な加州の叫びに彼女は愕然として小さく息を吸った。そんなことを、まだ覚えていたのか。
     確かに就任初日の晩、眠る感覚がわからないと言って加州は部屋にやってきた。だがそれでも翌朝にはけろりとしていたのだ。「こんな感じねー。次から上手くやるよ、もう平気」なんて言って。
     もしかして、今までずっとそんな小さな失敗を数え続けていたのか。
    「違う、違うよ! そうじゃない、加州君が悪いんじゃない」
    「じゃあ何? あんたがなんか悩んでるなって、俺だってわかってたよ!」
     いつも明るく軽やかに笑っている、彼女のよく知る加州の姿はそこにはなかった。歯を食いしばり、眉を歪め、白い頬を真っ赤にしてただ感情をぶつけてくる加州を彼女は知らない。
    「でもどうしたらいいか、わかんなかった。俺今、出陣もできないし、遠征もできないし何もできないしっ! 練度も上がんないからめちゃくちゃ弱いし……っ、あんたと一緒に本丸の掃除したり、料理したり、楽しかったけど、でもそれしかできないからっ! あんたの刀として胸張れること、一個もないからっ!」
     ひび割れた声で加州が言うのを、彼女はただ目を見張って聞いた。そんな風に思っていたなんて欠片も想像していなかったのだ。
     想像できなかった。彼女の刀としての、加州の苦悩など。
    「だったらせめて、あんたの話聞くくらいしかできないじゃん! なのになんで話してくれなかったの? なんで言ってくれなかったの!」
    「っ、言えるわけない! 言えるわけないよ、加州君に! だってだめな主だって、加州君にだけは思われたくなかったから!」
     その問いに、反射で彼女は口を開いて言った。もう二人してがなりあっていた。木でできて、がらんとした本丸の廊下にはそれが酷く響いている。それもそのはず、ここには今彼女と加州と迷子の村雲しかいないのだ。
     でもその代わりに、どんな小さな言葉でも気持ちでも、きっと加州には届くだろう。
    「がっかりされたくなかった! 一緒に、こんな私でも一緒に、頑張って、ゆっくり進んでくれる加州君にだけは」
     毎日、ご飯どきになると加州は必ず執務室にやってきた。最初は野菜の皮むきはピーラーでしかできなかったくせに。最近は一丁前に全部包丁で剥いて。
    主に作ってあげたいから料理を教えてほしいと加州が悪戯っぽい表情で笑ってねだるから、彼女も一緒になって厨で料理を勉強する日々が続いた。加州が作る料理はいつも少しだけ塩辛かった。でももしかしたら、加州は塩味が強い方が好きなのかもしれない。
     庭に植える花を二人で選んだ。広い庭だから、他に刀が増えたら当番で世話をしようと言った。
     今のうちに、日当たりのいい部屋をお互いの自室にしてしまおうと笑いながら決めた。誰もいないから、先に来たものの特権だと言ってそうした。だから彼女の部屋のすぐ隣が加州の部屋なのだ。南側の、昼は気持ちのいい陽射しの差す部屋。
    「私が初めて選んだ刀の、加州君にだけは」
     あの日、小さな子どものように無邪気に選んだ綺麗な刀。一目で気に入った。今から選ぶのは政府からはこれからずっと一日も欠かさず一緒にいる刀だと聞いたから、この子しかいないと思ったのだ。
    「加州君にだけは、嫌われたくなかったから……」
     小さい声でしか、彼女はそう告げることができなかった。
     けれど、本当にただそれだけだった。
     審神者になること自体は、拒否したところで避けられないことをわかっていた。その上で、自分に審神者の素養しかないのなら仕方がない。うまく結果を出せずに叱責を受けたりすることや、他の審神者と比較されることは、辛くても耐えられないことではないだろう。そんなことは現世の社会でもあることなのだから。
     けれど、その刀にだけは。
     彼女が一目で気に入って、一緒にこの本丸に来てくれた、この刀にだけは。彼女は失望されたくなかったのだ。
    「な、なんで」
     震える声で加州が呟く。吃驚したような、困惑したような顔だった。それも初めて見る加州の表情だった。
    「お、俺が……俺が、頑張ってるあんたのこと、嫌いになるわけ、ないじゃん……」
     いい年をして恥ずかしいとわかっていたけれど、じわりと視界が涙で滲む。小さく声を漏らして俯けば、加州もまた幼い子どものようにおぼつかない足取りでこちらに歩み寄って彼女に抱きついた。
     それから暫く、彼女と加州とは廊下のど真ん中で抱き合い、わんわんと声を上げて泣いた。村雲が皿の破片を紙に集めておずおずとやってくるまで、ずっとそうしていた。



     カチリとパソコンの画面をクリックする。メモをするために一時停止していた政府の講習動画が動き出した。だがいまいち頭に入って来ないなと彼女は首を傾げた。そういえば学生時代から自分は座学で延々と説明を受けるよりも、実際にしてみた方が頭に入るタイプだったなあなんてことも思い出す。
    「雲さん、これ、現実問題として見といて役に立つの?」
    「……えぇ?」
     彼女がくるりと後ろを振り返れば、村雲はまたしても影法師のようにして執務室の壁に背を預けて座り込んでいる。けれど声を掛ければ、村雲はずるずると畳の上に手を突いて僅かにこちらに移動してきた。
    「……知らない、こんなの初めて見た」
     画面を覗き込んだ村雲は、微妙な表情で首を振る。もしかして、これは全審神者が視聴するべきものではないのだろうか。
    「えー、じゃあなんでこんなの支給されたんだろう。まあ今はこれしかできることがないのかもしれないけど」
    「わかんない……」
     村雲はそれだけ答えると、移動してきたままに彼女の斜め後ろで再び膝を抱えた。壁際には戻って行かないらしい。
     先日、彼女と加州が大声で怒鳴って叫んで更には泣いた日。おろおろとしてやってきた村雲は割れた皿を片付け、何となくで夕飯を作って出してくれた。それもあって加州は「朝はごめん」と村雲に謝り、彼女も「すみませんでした」と皿の破片で切った村雲の手を処置した。
     そのとき、おもむろに村雲が言ったのである。
    「……雲さんでいいから」
    「え?」
     幸い深く刺さったり切れたりしていなかった傷に消毒液を掛けて絆創膏を貼ると、そっぽを向いた村雲が繰り返す。
    「雲さんで、いいからっ」
    「……あ、はい、え?」
    「わん」
     一拍置いて、彼女は「雲さん」が村雲の愛称らしいと気づいた。なぜワンと鳴いたのかはわからなかった。耳と尻尾があるし犬が好きなのかもしれない。ともかく村雲は元の本丸で「雲さん」と呼ばれていたのだろうが、それをここで、見ず知らずの自分が使っていいものだろうか。
    「……いやその、それは私が呼んでいいものなんでしょうか」
    「……」
     しかしそう尋ねても村雲は明後日の方向を見たままなので、彼女は暫し悩んだ。あまり良くない気もするが、本刃がそう言うのなら、ひとまずそうしたほうがいいのかもしれない。もしかしたらその呼び名の方が落ち着くのやも。そう考えることにして、彼女はひとまずそれを了承した。
     ついでにそのとき楽な言葉遣いにしてほしいと言われたので、今の彼女はあまり村雲に気を遣わずに話しかけることにしている。残念ながら現状に進展はなく、好転をする兆しもない。こうなってくると、悪化していないだけましなのかもしれないが、少なくとももう少しの間は彼女と加州と村雲の三人暮らしになりそうなのだ。それならばよりやりやすい生活をした方がいいだろう。
    「はーい、主、おやつだよー。村雲も。休憩にしよ」
     結局あまりやる気は起きずに、それでもメモを取りつつ動画を見ていると加州が顔を出す。時計を見ると良い時間だった。
    「あ、うん。ありがとう清光。クッキーだ」
    「ありがとう」
     村雲もおとなしく加州からお盆を受け取り、いそいそと重ねてあった湯呑みを並べる。そのとき何気なく村雲が彼女の隣に座り直したので、ふと思い出した彼女は尋ねた。
    「あれ……隣嫌なんじゃなかったっけ?」
     すると村雲はぎょっとして、それからすぐに自分が言ったことを思い出したようで気まずそうに首を振る。
    「ち、ちが、それは、右側は嫌だってだけだから」
    「右側が? なんで」
     意味を解せなかった彼女は首を傾げて村雲に尋ねた。すると村雲ではなく、菓子を食べかけていた加州の方が「ああ」と答える。
    「あー、それ、主にはない感覚かも。俺たちの右側は、危ないから歩いたり座ったりしちゃダメ。何でかって言うと、ほら」
     わざわざ彼女の右側に回り、加州は腰から刀を抜くような動作をする。そこでやっと、彼女は「嫌」の意味を理解した。
    「あ、そうか、なるほど。刃が掠っちゃうかもしれないからか」
    「そ、ピンポーン」
     パチンと加州が指を鳴らす。それにふふと笑ってから……彼女はハッとした。
    「……今の政府の映像講座にあった気がする」
     とはいえ、それは「刀剣男士の右側は避けるように」と言う心得のみの説明だったような記憶もあるが。
    「えぇ?」
     彼女の呟きに、村雲が少し笑いながら言う。それに加州も片方の眉を上げたが、それでもどこか楽しげに肩を揺らした。
    「ちょっともー、ほんと頼むね主」
    「ごめんごめん。やっぱり実戦の方が頭に入るのかなあ。理屈まで理解しなきゃだめだね。でも先は長いし、頑張るよ」
     そもそもまだ、スタートラインを跨いですらいないのだし。しかし「ははは」と彼女が笑っていると、村雲がやや強張った表情でこちらを見ているのに気づいた。
    「……雲さん?」
     そういえば。
     彼女はもう一つ思い出して、わずかに息を吸った。聞こうか迷ったのだ。
     結局、村雲はどうして自分に「審神者は向いていない」と言ったのか。まだ答えてもらっていない。
    「……う、お茶冷めちゃった」
     だがそのうち村雲はすすと加州に湯呑を差し出す。加州は呆れたようにそれを押し戻した。
    「ちょっと、あんた俺より練度も何もかも上でしょー。しょうがないな、貸して」
    「ご、ごめん」
    「全く手のかかるお犬様だなー、もー」
     ぐちぐち言いながらも加州は温かいお茶を村雲の湯のみに注ぎ直した。生来面倒見がいいのだろうなあと彼女はそれを見てやはり微笑む。
     未だ状況は芳しくなく、ゆっくりの歩みだけれど、それでも。悪くはなっていない。小さく小さく、彼女と加州は確実に前に進んでいる。
    「あつっ」
    「えーっ、犬のくせに猫舌なわけ?」
    「あはは」
     まだ物の少ない執務室では、彼女たちの声はやはりまだよく響くような気がした。
    micm1ckey Link Message Mute
    2023/06/06 17:12:38

    【通販頒布中】明日、恋をする君の話。

    #雲さに #刀剣乱夢 #女審神者
    新米審神者の本丸に迷子の村雲江が来た話。

    ATTENTION!
    ・オリジナルの女審神者がいます。
    ・独自の設定、解釈を含みます。

    ご注意ください。

    6/25(日)JUNE BRIDE FES内開催、花嫁ノ守刀に参加します。
    【東5ホール の31a】からころりんにて頒布します。
    文庫判/180P/1500円(イベント頒布価格)

    通販予約開始しました→ https://ec.toranoana.jp/joshi_r/ec/item/040031073175/

    当日はどうぞよろしくお願いいたします。

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