縄文堂足_5しっかり勝ち残り、ようやくミナヅキとの決戦の権利を得た俺は、闘技場へ入った。
だが、次の瞬間、寒気ような感覚が全身を襲う。
「へぇ、お前、まだあいつのこと諦めてなかったの。仕方がないねぇ。コテンパンにしてやるよ…!」
そう言って、ミナヅキが片手を挙げると、体が麻痺したように動けなくなった。
「なん、だ…、これは…!」
なんとか顔をミナヅキの方に向けると体の回りがメラメラと炎で包まれているようだった。
『遼太郎の坊主…ありゃ、「ヒノカグツチ」だ…!!炎の力でエネルギーを食い止めてる!』
「ヒノカグツチ…?」
「へぇ、お前、こいつが見えるんだ。やっぱり精霊、ってやつ連れてたんだな。」
ヒノカグツチ、という精霊は名前のごとく火の精霊だ。
伝承によると、風林火山の力を兼ね備え、守護するモノの特性にあわせ、得意技が変わるという。
おそらくミナヅキは「山」の特性が強く、縛り系の能力が強く働くのだろう。
「まぁ、僕には関係ないけどね?」
そう言って、端から現れたのは足立だった。
「いけ、『マガツイザナギ』。この場に働く力を無に還せ。」
その号令と共に、動けなくなっていた体が動けるようになったが、
変わりにコウリュウが姿を消してしまった。
「戦うなら拳で、ね?」
にやりと笑った足立。
おそらく、無にしたのは、精霊の力そのものなのだろう。
「それなら、こいつで勝負、だな。」
足立が日々磨き上げてくれていた槍を取り出し、ミナヅキと対面で向き合い、構えた。
「足立ぃ…!お前、僕に逆らうとは良い度胸だ!全員皆殺しにしてやんよ!!」
一方のミナヅキは細長い石を研磨したような道具を二本、両手でそれぞれ持っていた。
あれがミナヅキの得物なのだろう。
「あんたの得物はその槍?よわっちそうだな。」
「馬鹿にするなよ?これでも勝ち進んできたのだからな。」
久々のピリピリとした感触。
緊張感。
少し俺も興奮気味だが、本来の目的を頭の片隅に置いておき、
ミナヅキの射程範囲を測り始めた。
少しずつ射程範囲もわかり、一気に攻める算段をつけていく。
さすがのミナヅキも焦ってきたようで、
剣の振るい方にも隙がでてきた。
「貴様、俺が劣性と見ているのか?残念だが、それはお前のほうだ。」
「?!」
ふと、今までのミナヅキではないような人格で語られ、慌てて距離をとった。
「来い、『ツキヨミ』。隠された力を照らし出せ。」
ミナヅキの後ろから現れたのは、巨人と思われる精霊だった。
そいつの頭についていたお月さんが突然輝き、辺りを照らすと、
ミナヅキの剣に炎が再び宿っていた。
「うぅっ…!」
一方で足立は唸り声をあげてしゃがみこんでいた。
「足立…!」
近寄ろうとすると、ミナヅキが道を遮ってくる。
「お前の相手は俺だろう。」
一気に劣勢となった俺は、再びミナヅキの炎に押され始めることとなった。
「しまいだな!おっさん!足立のことは諦めて、おうちでねんねーしてればよかったのによぉ!」
再び元のミナヅキに戻ったのか、顔をゆがめながらあざ笑い、俺を炎で身動きとれなくしていった。
『おい、遼太郎の坊主。
あいつの能力が戻ってるってことは、俺も戻ってるってこと、忘れてねぇだろうな。』
焦った俺に声をかけてきたのは、コウリュウだった。
「コウリュウ…!」
おそらくミナヅキのあの月のような精霊の力は、全てを照らしだす力。
足立が無に還し、なかったことにした精霊たちの力をも照らし出して、
再び有を持たせるほどの力があったわけで。
それは俺にも例外なく働いた、ということだ。
(足立には危害を加えることになってしまったのだが。)
「コウリュウ、すぐ力を貸してくれ。お前の目が必要だ。」
『言っただろう。足立の坊主を救い出すために力を貸すと。我は法王。
すべてを見通すと。お前は勝つ。だから黙って俺の力も借りて、勝ってこい。』
そこからは一瞬だった。
ミナヅキの猛攻も、コウリュウの目にかかれば止まって見えるようなものばかりで。
全てを避け、確実に攻撃を入れていく。
幸いにも、もう一人のあの冷静なミナヅキは戻ってこなかったので、
単調なやつの攻撃を完全に見切るのにそう時間もかからなかった。
…そして。
「ここまでだ、ミナヅキ。勝負ありだ。」
膝をついたミナヅキに、槍を差し出し、王手の体制を取り、勝利を宣言したのだった。