ヤクザ立さんとボス島さん_3その後もあれやこれやと足立と会話をして、俺の前にカウントを刻むターゲットを探ったのだが、
答えは見つからなかった。
「今日はもう遅い。いったん解散で、違った目線を考えよう。」
すると、足立はするりと腕を首に回してキスをしてきた。
「これが解決するまでは、えっちは我慢します。
でも、忘れないで。あなたの相棒は僕で、あなたの支えになりたいんだと。」
「あぁ。わかった。ありがとう。」
頭を引き寄せ、キスを返すと、俺は煙草の火を消して歩き始めた。
side:A
次の日。
堂島さんは僕の仕事場へやってきて、次のターゲットについて一緒に調べることになった。
「そういやお前、最近無茶するなと言って素直に聞くときは、
ギリギリのところでちゃんとやめてるよな、ハッキング。
能力は使っているようだが…コントロールはできるのか。」
「いや、自分ではストッパーかけられないので…ちょっとしたお供がコントロールしてくれるんですよ。
おいで、『magatsu』。」
そう呼ぶと、僕の画面には仮想のキャラクターのようなものが現れた。
そう、これがあらゆるものを制御するプログラム。
『MAintanance GAdget tool』を文字って
『magatsu』。
基本、僕を制御するときに使うのだが、普段はネットワークの中の小さなバグのようなもので、
あらゆる最新のプログラムや技術を吸収している。
こうやって呼び出すときだけひとつの大きなプログラムとなるのだ。
「magatsu、調査依頼したものの状況報告してくれる?」
「承知した。調べた結果、23通りのパターンを推測したので、それぞれのシュミレート結果を纏めた。
だが、どれも基準として設定された85%以上の正確さは導き出せなかった。」
「そう。ありがとう。」
会話をしている間、堂島さんは不思議そうに画面を睨みつけていたが、結果を聞くと、ふぅ、とため息をついた。
「さすがのお前もかなりお手上げか?」
「そうですね…。」
僕はそう言うと、少し赤目になり始め、本気モードで数百通りを漁り始めた。
だが、次の瞬間、堂島さんが肩をぽんと叩いた。
「だったら仕方がねぇ。俺が囮になってあいつを呼んで聞くしかねぇな。」
「あなたを危険に晒せと?!」
「あらかじめ作戦組んどけば危険じゃねぇよ。…そうだろう、俺の右腕よ。」
そこまで言われると、僕はもう何も言えない。
お手上げポーズを取って、降参の白旗を上げた。
「言い出したら聞きませんからね、あなた。わかりました。最良の作戦を弾き出す方にシフトします。」
ふぅ、と息を吐き、方向性をシフトしてキーボードを叩き始めると、
堂島さんは軽く僕の肩に手を添え、労いの言葉を残すと、その場を去っていった。
このとき、僕は気づけなかった。
堂島さんもまた切れ者なのだ。
別の考えも持ち合わせているであろうことに…。
side:D
そうして、タイムリミット当日の朝を迎えた。
「ボス、ちゃんと防弾着ました?」
「あぁ。」
「ピアスのカメラは?」
「着けたよ。お前とお揃いだな。」
「そう。あと…。」
足立は何度も入念に作戦のための装備を確認していた。
「子供じゃねぇんだ。ちゃんとしたさ。」
「ひとつでも忘れただけで、あなたの命の危険が高まるんですよ?自覚してます?」
ムッとした顔で睨み付けられると、なんだが可愛くて、頭を乱暴に撫でてやった。
「こういうときは、どっしり構えたもん勝ちさ。それじゃ、行ってくる。」
さすがに足立も観念したのか、最後に俺のジャケットを着せてくれた。
「それではボス。よい1日を。」
「あぁ。行ってくる。」
軽く口づけをして、俺は一人外へと踏み出した。
俺が向かった先は、廃れた倉庫がある港だった。
海をみながら一服をしつつ、気配を探る。
(1、2、3…まぁまぁ人はいるか。)
自分のファミリーの者以外の気配も幾つか感じて、ふぅ、とため息を溢した。
そろそろフィナーレへと進みだす頃合いだ。
「いるんだろう、幾月。もうかくれんぼは終いにしよう。」
声を張り上げ、辺りに視線を巡らすと、
ざく、ざく、と足音を立てながら杖を突いた一人の男が現れた。
「これはこれは、ヤソイナファミリーのボス、堂島遼太郎殿。このような廃屋に何用で?」
余裕たっぷりの表情で現れたのは、予想通り、幾月だった。
「たんまり俺の周りを死で埋め尽くしやがって。やるなら直接こい。」
「お前に直接攻撃はかなり無茶をせねばならんだろう。そんなのはごめんだ。
もっと効率的にダメージを与えなければな。」
「効率的に…か。」
その犠牲に何人もの人間が死んでいるのだ。
確かにそちらのほうが俺へのダメージ…精神的なものが強く圧し掛かるだろう。
その想定をもって、幾月は仕掛けていたのもわかっている。
「さて、堂島。答え合わせといこうか。12と13はだーれだ。」
そう。
この事件は時間になぞらえているかと思いきや、実はトランプの意味で事件は進んでいた。
それは足立とも話して、可能性を考えてあった。
「12は娘の菜々子で、13は俺だろう。生憎、菜々子はそう易々と殺せるところにはいねぇぞ。」
すると、馬鹿にしたような笑い方で、幾月は俺を見た。
「馬鹿が!あんな餓鬼じゃ、お前へのダメージはたりねぇんだよ。
12をクイーンととらえ、女だと決めつけたのが仇となったな。」
「…やはりそうか。」
「なんだって?」
俺が確信めいた言葉を発したので、幾月は眉を寄せ、俺のほうを睨み付けた。
「堂島さん、どういうことですか?菜々子ちゃん以外に候補があったんですか?」
マイクロのイヤホンマイクから、足立のあせる声が聞こえた。
無理もない。この考えは誰にも話していないのだ。
俺は足立の声を無視して話を続けることにした。
「あの事件をなぞるなら、12に俺を選んで終了なはずだ。
だがお前は調べていくうちに俺の切り札を知った。違うか。」
幾月は睨み付けた顔は崩さず、じっとしたままだった。
俺はそのまま話を続ける。
「お前は数字を表すために最初こそ時計を使っていたが、後半はトランプを使っていた。
そこで13まで続くのはわかっていたが、お前のことだ。もう一捻りあるとは思っていた。
それでふと、カードが破れているのに気がついてな。
やぶる…切れている…切れている札…切り札、と思ったわけだ。」
そう。
元々最初の予告の手紙は所々破かれたような形の紙だった。
最初はそれも怪しんだものだが、そこから連続で事件がすぐに発生していたので、気がつかなかった。
だが、俺は数日前、全ての証拠を並べて眺めていたとき、ふと思ったのだ。
これもまたメッセーなのではないかと。
そうするとなると、
12は予定通り俺で、13は俺の切り札の人間となる。
「だから12が俺で、13は俺の右腕である『足立透』だな。」
「なっ…!」
耳元で足立が絶句している声が聞こえた。
幾月の方は正解だったからか、あせる表情をとうとう表し始めた。
「俺を先に殺すことで、足立へのダメージを強める寸法だろう。
だがな。そんなんじゃあ、あいつは動揺しないさ。
ファミリーを路頭に迷わすようなことをしそうなやつを右腕に添えるわけがないだろう。」
幾月を睨み付けると、さらに動揺し始める幾月。
こういうやつは、一度ウイークポイントを見抜かれると、精神的に崩れやすいのだ。
それと同時に、どんな行動をとってくるか予測がつきにくくはなるのだが。
「試してみるか?まぁ、お前にはそこまで度胸はないと思っている。ここいらで仕舞にしよう。」
「…くそ。…くそ、くそ、クソがぁ!!!俺を見下すな!俺は偉い!
なんだってできるんだ!!!!」
「…!!」
そう言って、幾月はふらつく足に鞭打ち、支えていた杖からレイピアのような剣を取り出すと、
俺の胸のあたりを一突きついたのだった。
「くっ……。」
「この剣先には、ゾウをも倒す毒が塗ってある…。
お前こそもうおしまいだ!堂島遼太郎!!!苦しんで死ね!!」
「堂島さん!!!」
イヤホン越しから足立の悲鳴のような声が響く。
「…足立……お前の仕事を果たせ。俺を…しつ、ぼう、させる気か…?
こいつとの賭けに勝つんだ。冷静に…処理しろ。」
「…!」
勝ちを確信した幾月は、俺がぼそぼそと話す声も構いなく、ただただ俺を上から見ていた。
足立は未だに返事を返さず、黙ったままである。
俺もそこまで余裕がない状況ではあったため、普段そう声を荒げないのだが、
痺れを切らして叫んだ。
「足立!俺を信じろと言っただろうが!!」
「…!!!」
俺はいつになく激しい怒号を放ち、足立に喝を入れると、足立はいつも以上に冷たい声で指令を出した。
「ボスがやられた。総出で幾月とその一味を根絶やしにしろ。一人残らずだ。」
(ふぅ。ようやく…この面倒な一件が…片付く…な。)
足立の適格な指示で放たれた嵐のような銃声を聞きながら、俺は意識を手放したのだった。