瞳に映るは番の心_1誰かが僕の瞳におさまり続けたのなら
僕はその人の全てを奪ってしまう
でも
瞳に映し続けても、失わず
互いに与え続けられるのならば
それは素敵なことだろう
僕もそんな人の傍にいられるのだろうか
僕の名前は足立透。
山奥でひっそり薬調合をして生計を立てている。
人里の方へは極力下りないことにしており、
僕の調合した薬は、中腹にある山小屋で人づてでのみ販売をしている。
そう、僕が信用のおける者と判断したヒト宛にしか渡していないのだ。
今日もまた、依頼の受けた薬の受け取りに仲介人がやってきた。
「足立さん?できとるー?」
「そこの机のものだよ。持ってって貰えるかな。」
仲介人の名前は『羅比理子(らびりす)』。
カラクリでできた体を持っているので、目を合わせても影響を受けない。
そのため、仲介人として遣えてくれている。
「そういやこの前、街で聞いたんやけど、
最近魔除けの効果抜群な商品を売ってるところがあるらしいんよ。
本当なん?って思っちゃうわなぁ。」
「ふぅん。真意確かめたいなら、持ってきたら?僕が視てあげてもいいよ。」
度々こういう紛い物の魔除けの調査をしてあげたりもしている。
そんなことがなぜできるかって?
それは、僕には厄介な能力…『邪眼』を持っているからなのだ。
ヒトが主だが、僕の目で捕らえられたものに『邪』を植え付けることができる。
それを解くことはできないのだが、もしその魔除けが本当なら、
僕の力をはね除けられるだろう。
僕の能力もまた魔の類いだろうからだ。
数日後、らびりすは、話していた魔除けの飾りを手に、僕のところを訪ねてきた。
「これがその魔除けやで。手提げにもつけられそうな小さいもんまであるんやで。」
渡された飾りをもつと、電撃が走ったような刺激を感じた。
(これは…本物なのか?)
魔除けの飾りはシンプルなものだったが、
手に持つだけで僕の力…『邪眼』の力が弱まっているように感じた。
(これは…試してみる価値があるかもね。)
これを持つことによる自身の影響はさておき、
もう少し効果を確かめたくなった僕は、らびりすから買い取ると、
日中はいつもの仕事に精を出すのだった。
「さて、と。」
夕方、一通り仕事を終えた僕は、らびりすから買い取った魔除けを机におき、
にらめっこをしていた。
「形を崩したら効果は薄れるのかな…。首飾りには出来そうか…。」
ぶつぶつと呟きながら、首ひもを追加で増やし、首から下げられるようにした。
魔除けの装備準備が整ったところで向かった先は、久方ぶりの人里だった。
僕が試そうとしていること。
それはこの魔除けの力で、僕の力『邪眼』がどれだけ抑えられているかということだった。
夜の灯りが灯され、酒を食らって楽しむ人々を他所に、僕はひたすら道を歩き続けた。
人々を遠くから眺められるような開けた通りに出ると、
道の端に寄り、少し町を眺めてみることにした。
夜の町にも関わらず賑やかな通り。
灯篭も明るく灯され、きらびやかな世界。
僕の世界とは真反対の、輝いている世界。
(僕が…望めない世界。)
そんなことを思っていると、本来の目的を忘れそうになったので、
その辺の人に声をかけてみることにした。
無論、この魔除けが通用するかを確かめるためだ。
「あの、道に迷ってしまって。どこか軽くお夕飯に預かれるところ、ご存じないでしょうか。」
とんとん、と肩を叩いて、耳元で囁いたあと、目線を相手に合わせてみる。
するとその相手もまた、特殊な力の持ち主だったのだ。
「あぁ、そうしたら…って、あんた人間か?」
「…?!」
目線があった先にいたのは、茶色混じりの硬い髪で、髭も少し生やした一人の男だった。
そう、これが僕と堂島さんとの出会いだったのだ。