縄文堂足_3菜々子を親戚の悠のところに預け、
俺は隣の集落…ミナヅキの治めるエリアへ出掛ける準備をした。
これでも俺はこの集落ではある程度の地位をもらっている。
それなりの格好をして向かわなくてはならない。
『遼太郎の坊主、俺も連れていけ。』
「いいのか。人との問題はあまり関わりたくないだろう。」
『いや、いい。ちぃと話したいやつがいるからな。』
「そうか。」
コウリュウも共に向かうことになり、俺は首飾りを装着し、外へと出た。
ミナヅキの領地まではそう迷わずとも行けるのだが、問題はどうやって足立を連れ出すかだ。
あいつはそうやすやすとあんなところへ戻ろうとはしないだろう。
それでももどったということは、何かあるのだろう。
そのあたりも調べて向かわなくてはならない。
そうこうしているうちに、ミナヅキの治める集落へと近づいてきた。
『遼太郎の坊主、考えがまとまってねぇが大丈夫なのか。』
「まぁ…とりあえず聞き込み、だな。」
そうして俺は、このあたりの大型の獣を退治しにきた、という体で、集落へと入ったのだった。
仕事をしながら情報収集をすると、この集落の貧困さをひしひしと感じた。
より良い食糧などは全てミナヅキに納めるようになっていた。
俺は私語とで得た食べ物を少し仲間に分けつつ、裏情報を仕入れていった。
わかったことは、ミナヅキが近々領地を広げようとしていること。
少し前に参謀らしき人が現れ、準備は万端らしいこと。
…おそらくその参謀は、足立なのだろう。
「あと、は…変な力をミナヅキが持っている、というやつか。
炎を操るってのは、どういうことなんだろうか…。」
潜伏しはじめて5日たったある日。
俺の仮住まいを訪ねてきた人がいた。
「どうぞ。」
扉が開かれ、入ってきた人物。
それは足立だった。
「あんた何やってるんですか。」
「足立!良かった、無事か。そんな薄着じゃ体壊しちまうだろう。」
薄手の一枚布でできた服を被っただけの格好の足立。
前のように体つきは痩せこけてしまっていた。
そしてチラリと覗いた首筋には、所有痕だらけの皮膚だった。
「これ、お前っ…!」
「逃げ出した罰です。それと可愛がられてるもので。」
「…っ!」
無表情で語る足立。
俺は何も言えず、握りこぶしをきつく結ぶことしかできなかった。
「…よく、俺が来ているとわかったな。」
「まぁ、裏技が僕にはあるので。」
裏技についてはよくわからなかったが、足立の要件をまずは聞くことにした。
「何もせずにここから立ち去ってください。菜々子ちゃんから伝言は受けとりましたよね?」
「あぁ。だから迎えに来た。」
「…それが迷惑だってわからないかな…!」
「…!」
足立はかなりの嫌悪を示す表情で俺を睨み付けた。
全てを拒絶する目。
はじめてであった頃のままの顔つき。
そこまで戻してしまうほど、ミナヅキとは何かがあったのだろうか。
「お前の言い分はわかった。だが俺もこちらで仕事をいくつか受けている状態だ。
せめてそれが片付くまではいさせてくれ。」
「わかりました。くれぐれも、主の住みかには近づかないでください。…それじゃ。」
要件だけ伝えると、足立はその場を去ろうと踵を返した。
俺はどうしてもあいつの本心を知りたくて、振られた腕を掴み、勢いよく抱き寄せた。
じっと足立を見つめ、コウリュウの見通しの目を発動させ、足立の心を探ってみる。
すると突然辺りが真っ赤に染まり、足立の心は何も見えない状態になった。
「あなたも…力を持つ人間だったわけだ。」
「なっ…?!お、お前、そいつは…?!」
「見られちゃ仕方がないですね。」
ゆっくり片手をあげると、赤い人間のような生物がゆっくりと実体化した。
「これは僕の守護精霊。『マガツイザナギ』。全てを無にすることができます。
…いまさっき、僕の心を無にしました。
もうあなたに何の感情もありません。これが僕の本心だ。」
「なっ…!あ、足立…お前…!」
「さぁ、あなたとはここで最後。仕事を終えたらとっとと帰ってください。」
そう言われ、パタリと閉じられた扉は、足立の心の扉そのもののようだった。