冷たい心を溶かすはあなたのあたたかさ僕は足立透。アサシンを生業とし、秘術である影縫いを使って仕事をしている。
今日もまた、一つ仕事を終えた僕は、血の匂いを消すべく、
山奥の滝の方へ向かい、水浴びをした後、
宿を探すべく街へと降りた。
ふらふらと街をさまよっていると、見かけない露店を見つけたので、立ち寄ることにした。
こういった仕事をしていると、あまり顔なじみは作らない方がよいため、
見かけないところへ足を運ぶことが多い。
暖簾をめくると、一人の男性が切り盛りをしていた。
「いらっしゃい。…ん?あんたすごく疲れた顔してるな…。」
「適当に強めの酒とつまみを。」
「まぁまぁ。そんなんじゃ胃を壊しちまう。酒飲むのも準備運動な?」
そう言って、店主は簡単に食材を刻んだり下ごしらえをすると、
温かそうな汁物を出してきた。
「まずは身体をあっためて、心を穏やかに、な。」
差し出された食事に悪いことはないため、さっと体内へと取り込む。
すると、身体中温まる感覚と、どこか懐かしく、優しい味が染みわたった。
「おい、しい…。」
「ん!表情もよくなったな。
誰か人を殺してきたみたいな青白い顔していたからな、あんた。」
「…。」
あながち間違えではない言葉に、こっそり苦無に手をかけたが、
店主は構わず料理を続けていた。
「俺の名前は堂島だ。この辺をふらふらと放浪しながら料理屋を営んでいる。
お前さんもこの辺での仕事が多いのかい。」
「あぁ…そう、だな。」
「そうか!そうしたらまた見つけたときは、ひいきにしてくれ!
あったかいもんと心の安らぐ料理を提供するさ。」
これが僕と堂島さんの初めての出会いだった。
このときの僕は、もう二度と堂島さんには会わないと…そう思っていたのだ。
まさかあんなにも長い付き合いになるなんて…想像もつかなかった。