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    道なき未知を拓く者たち⑥ 農場と町での騒動による疲れが抜けきらない朝。リックは眠っていたい気持ちを宥めながら簡易ベッドから体を起こし、着替えを済ませてテントを出た。
     リックがテントから出て真っ先に姿を探したのはグレンだ。グレンは眠たそうに目を擦りながらも薪割りをしていた。リックはグレンに「おはよう」と挨拶しながら近づく。
    「昨日はお疲れ様。もう少し寝ていなくてよかったのか?」
     リックの問いにグレンは微笑みながら頷いた。
    「正直に言うと眠たいけど、きちんと仕事しないとね。リックの方こそ大丈夫か?」
    「ああ、大丈夫だ。それより、今から時間を貰えないか?ハーシェルも交えて三人で話したいことがある。」
    「薪の用意は十分できたから問題ないよ。」
     リックの頼みをグレンが快諾してくれたので、二人は揃ってハーシェルの家に向かった。家に到着し、玄関ドアをノックするとお目当てのハーシェル本人がドアを開けてくれた。朝早くにリックたちが訪ねてきたことにハーシェルは驚いた様子で目を瞠っている。
     リックが「おはよう、ハーシェル」と微笑むと続けてグレンも「おはよう」と片手を上げて挨拶した。
    「朝早くからすまない。あなたとグレンと三人で話したいんだ。すぐに済む話だから少しだけ時間を取らせてもらえないか?」
    「ああ、構わない。中に入ってくれ。」
     ハーシェルはそう言って脇に退いてくれたが、リックは首を横に振って断る。
    「他のみんなには聞かせたくない。家の外で話をさせてほしい。」
     リックの言葉にハーシェルは無言で頷き、家から出てドアを閉めた。
     リックは二人の顔を交互に見遣りながら話を切り出す。
    「話したいのは昨日のニーガンの行動についてだ。屋根から落ちてケガをした少年を彼が殺したことについて、それぞれに思うことがあると思う。」
     リックがそのように言うとグレンとハーシェルはハッとしたように顔を見合わせて、その次にリックに顔を向けた。その顔は微かに強張っている。
     昨日のニーガンの行動について否定的に思うのは無理もない。人道的な視点から考えれば残酷という他なく、ニーガンに対して恐怖心を抱いても不思議ではないのだ。ニーガンは仲間からそのように思われることを理解していたようだが、リックはそれを放置したくなかった。
    「ニーガンの行動や考えを冷酷だと思うのは当然だ。だが、彼を怖がらないでほしい。遠ざけないでほしい。彼が俺たちを守りたいと思っているのは本当なんだ。」
     ニーガンは誰よりも現実的に考えて物事を判断する。情や憐れみといったものを排除して「今の状況では何が最善なのか」ということを見極めるため、時に冷酷な人間に見えるだろう。
     しかし、それは仲間を守ることを最優先にするからなのだ。「仲間以外の人間を切り捨てるのは冷酷で残酷なことである」という意見を否定はしないが、全てを救えるほど今の世界は甘くない。何かを守るためには何かを捨てなければならない場合もある。それをニーガンは誰よりも理解している。
     リックは自分の甘さがニーガンに非情な選択をさせたのだと痛感している。だからこそ彼をフォローして守る義務があった。
    「昨日のニーガンは仲間を守ることを優先した。それは俺がしなければいけないことで、彼は俺の甘さを補ってくれただけだ。だから昨日のことは俺とニーガンの二人の決断だと考えてほしい。そして、彼を恐れて遠ざけないでくれ。……頼む。」
     黙って話を聞いていたグレンとハーシェルはリックの懇願に目を丸くする。
     そして、グレンは驚きを引っ込めて微笑みながらリックの肩に手を置いた。
    「ニーガンがいつも俺たちを守ろうとしてくれてるのはわかってるよ。一緒に旅をしてそれなりになるんだからさ。彼を怖がったり遠ざけようなんて少しも思ってない。だから安心して、リック。」
     グレンの言葉に同意するようにハーシェルが頷き、「彼を恐れてはいない」と言ってくれた。
    「ただ、昨日のことを全面的に肯定するのには抵抗がある。それだけだ。恐ろしくも疎ましくも思わない。」
     そのように語るハーシェルは穏やかな表情をしている。そのことにリックは肩の力を抜いた。
     グレンとハーシェルがニーガンを拒絶していないと知ってリックが安堵していると、今度はハーシェルが「私も話したいことがある」と口を開く。
    「君たちグループのことだが、農場に滞在しても構わない。基地が壊滅しているとわかったなら君たちに向かうべき場所はないはずだ。ここに残りなさい。」
     思いがけない申し出にリックは目を丸くしてグレンと顔を見合わせる。グレンもリックと同じように目を丸くしており、驚きを隠すつもりは全くないようだ。
     リックは戸惑いと共にハーシェルに視線を戻した。
    「いいのか?昨日、あんなことがあったのに……俺たちは無理やり居座るつもりはないんだ。本当に構わないのか?」
     リックが重ねて問いかけるとハーシェルはしっかりと首を縦に振った。
    「こんな世界だからこそ互いに協力して暮らしていくべきだろう。だが、信用がなければ成り立たない。リック、君を信用しているからこそ滞在を許可するということを忘れないでくれ。」
     ハーシェルから真っ直ぐな眼差しを向けられ、リックは身が引き締まるような心地がした。ハーシェルはリックという人間を信用してグループの滞在を許してくれたのだ。その信用を絶対に裏切ってはならない。
     リックは「もちろんだ」と深く頷いてハーシェルに握手を求めた。ところが、差し出した手を握り返してもらえない。リックが首を傾げるとハーシェルが少し厳しい表情をした。
    「条件が一つだけある。シェーンに勝手なことをさせないでほしい。」
     提示された条件にリックは顔を強張らせて手を下ろした。グレンの方からは息を呑む気配がした。
     ハーシェルはリックから目を逸らさないまま話を続ける。
    「昨日の納屋の件はシェーンが先導したそうだな。それについても腹立たしいが、彼の態度も許せない。彼の私たち家族に対する振る舞いは敬意に欠けるものだったし、納屋の件についての謝罪もない。だから今後は彼の勝手な行動を許さないでほしい。目に余るようなら彼一人だけ追放する。」
     真っ直ぐにこちらを見るハーシェルの目には微かな怒りがあった。昨日のシェーンの行いや態度はグリーン一家にとって最悪なものだった。だからこそリックはグループごと追放されることを覚悟していたのだから。
     とりあえず今は滞在することを許可されたとはいえ、シェーンの行動次第では取り消される可能性もある。グループのため、そしてシェーン自身のためにも彼をしっかり監督しなければならない。
     リックは顔を強張らせたまま「わかった」と首を縦に振った。その横ではグレンが何度も頷いている。
     ハーシェルは「話は終わりだ」と言って家の中に戻っていった。玄関ドアが閉じられてもリックはその場から動くことができなかった。仲間たちのところに戻って今の話を説明しなければならないが、シェーンの反発が大きいのは目に見えている。そのことを考えただけで溜め息が出そうだ。
     リックがぼんやりと立ち尽くしているとグレンから遠慮がちに「リック、戻ろう」と声をかけられた。彼の方に顔を向ければ心配そうな眼差しが返ってくる。
    「みんなに説明する時は俺も一緒に説明するから考え込みすぎるなよ。」
    「ああ、ありがとう。そうしてくれると助かる。」
     リックは小さく笑みながらグレンに感謝し、野営地に足を向けた。
     グレンも一緒に説明してくれるというのは心強いが、それでも憂鬱さが晴れることはなかった。


     結論から言えば、ハーシェルとの話の内容を告げた時のグループの雰囲気は最悪だった。農場に滞在することを許可されたのは喜ばしいが、シェーンの問題があるため手放しで喜ぶわけにはいかない。
     当然ながら、ハーシェルに名指しで「目に余るようであれば一人だけ追放する」と宣言されてしまったシェーンの怒りは激しかった。彼自身は昨日の納屋の件を正しい判断であり行動であったと考えているため、それを責められることに納得できないからだ。リックだけでなく他の仲間から「ウォーカーを排除したのは間違いではないが、やり方が間違っていた」と諭されても強く反発して怒りを撒き散らす。そのような姿に大人たちは戸惑い、子どもたちは怯えた。
     シェーンとの話し合いは最終的に話し合いではなくなってしまったため、リックはシェーンを納得させるのを諦めるしかなかった。リックは目を釣り上げて怒鳴るシェーンの言葉を遮るように「もういい」と頭を振った。
    「今はこれ以上話し合っても前に進まない。お前が冷静になったらもう一度昨日の件について話そう、シェーン。」
     リックが溜め息混じりに告げるとシェーンは唇を強く噛んで睨みつけてきた。出血しそうなほど強く噛んでいるのを見て「血が出るぞ」と言ってやりたかったが、余計なことを言えばシェーンは更に怒り狂うだろう。リックは喉元まで出かかった言葉を飲み込んで次の言葉を口にする。
    「シェーン、しばらくお前の単独行動を禁止する。常に誰かと一緒に行動してくれ。時間はかかるだろうが、きっとハーシェルもお前を信用してくれるようになる。それまで堪えてくれ。」
     リックはシェーンと目を合わせながら宣言し、その次に仲間たちを振り返った。反対意見があれば聞くべきだと思ったからだ。
     振り返って見た仲間たちの顔には戸惑いの色が浮かんでいたが、リックの意見に反対する者は一人もいない。反対意見が出なかったのでリックはシェーンの方に顔を戻した。
    「いいか、シェーン。納得できないだろうが、お前を追放させないためだ。昨日報告したようにフォートべニング基地は壊滅している。他に行く場所はない。俺たちはここで生きていくしかないんだ。わかってくれ。」
     リックが諭すとシェーンは顔を逸らした。まるで拒絶を示すような仕草に溜め息を吐きたくなる。
     シェーンはむっつりと押し黙っていたが、やがて小さな声で「わかったよ」と答えた。それに対してリックが声をかける前にシェーンは自分のテントに向かって歩き出す。アンドレアが「ちょっと、シェーン」と呼び止めても無視してテントの中に入ってしまった。
     全員の視線がシェーンのテントに注がれる中、ソフィアの声がポツリと落ちる。
    「……最近のシェーン、怖い。前は優しかったのに。ママがパパにいじめられてると助けてくれたのに。」
     ひどく悲しそうに呟くソフィアに慰めの言葉をかけてやれる者は一人もいなかった。誰もが最近のシェーンの異変に戸惑っているのだ。
     俯くソフィアにカールが「大丈夫?」と寄り添う姿を見遣りながら、リックはシェーンとどのように向き合っていけばいいのかを考える。
     シェーンは感情のコントロールを失いつつあるように見える。以前であれば怒りが沸騰しそうになると自身で抑えて冷静さを失うことはなかったのに、今の彼は自身を制御できていない。それは精神面の不安定さが影響しているからだろう。
     しかし、今のリックとシェーンの間には大きな溝が存在しているため冷静に話をするのが難しい。リックと話している時のシェーンは怒りを爆発させやすく、リック自身もシェーンの怒りに釣られてしまうのだ。これまでに何度か話し合いや悩みを相談するよう話を持ちかけたものの散々な結果に終わっている。今回のことでシェーンのリックに対する怒りが大きくなったと思われるので、彼と話をするのは今まで以上に困難だ。
     親友を見捨てたくはない。それでも今のままでは結果的に親友を見捨てることになりかねない。
     リックは出口の見えない迷路に入り込んでしまったような感覚を覚えて眉間にしわを刻んだ。


    ******


     農場に滞在することを許されてから数日が経ち、グループ全体の雰囲気は落ち着いていた。過酷な旅に戻らず定住できる安心感が皆に良い影響をもたらしたのだろう。
     しかし、シェーンの問題は解決していない。シェーンは単独行動をせず必ず誰かと一緒に動いているが、そのことに彼が不満を感じているのは表情が物語っている。これまで以上に不機嫌な顔をすることが多くなったシェーンを仲間たちは遠巻きに眺めるようになった。どのように接すればいいのかわからないのだ。
     シェーンとハーシェルの関係も改善していない。シェーンは納屋の件についての考えを変えていないためハーシェルに謝罪することはなく、それが原因でハーシェルのシェーンに対する印象はますます悪くなっていた。リックもどのようにフォローすればいいのかがわからず、シェーンと何度も話し合いの場を設けようとしたが本人から拒否されてしまってはどうしようもない。
     穏やかさと不穏さを孕む空気が日常の一部となったある夜、夕食後の和やかな時間を楽しむためにキャロルがハーブティーを用意してくれた。キャロルは各自のマグカップにハーブティーを注ぎ、それをソフィアが本人のところへ届けていく。その微笑ましい母と娘の姿に皆が笑みを浮かべる。
     配られたハーブティーを一口飲んだローリが「美味しい」と目を輝かせてキャロルを見た。
    「香りも味も最高。このハーブはどこで摘んだの?」
    「ありがとう。ハーブはマギーがくれたの。たくさん摘んだからって。」
    「じゃあ、明日お礼を言わなきゃね。」
     リックは楽しそうに会話をするローリとキャロルを眺めながら、グループとグリーン家が良い関係を築いていることに頬を緩めた。
     納屋の件で関係の悪化を心配したが、ハーシェル以外の人々もリックたちに良くしてくれている。それに応えるために仲間たちも積極的に農場の手伝いをしているため、支え合う関係が出来上がっていた。このまま上手くやっていきたいと心から思う。
     リックもハーブティーを楽しんでいると、キャンピングカーにいるデールにハーブティーを届けに行ったソフィアが困り顔で戻ってきた。その手には届けに行ったはずのマグカップがある。
     ソフィアは困り顔のままキャロルのところへ行って「デールがいない」と告げた。
    「車の中にも外にもデールがいなかった。これ、どうすればいいの?」
     ソフィアの言葉にキャロルも困惑している。
    「キャンピングカーの方へ歩いていく姿を見たから、てっきり中にいると思ってたわ。誰か彼を見てない?」
     その問いに皆は顔を見合わせてから首を横に振る。誰もデールの姿を見ていなかった。
     その時、俯き気味で考え込んでいたアンドレアが何かに気づいたようにパッと顔を上げた。
    「そういえば、デールは牧草地を気にしてた。牛が騒いでるような気がするって心配してたの。気のせいかもしれないとは言ってたけど、気になって様子を見に行ったのかも。」
     その報告にリックは焦った。もし牛が騒いでいたのがデールの気のせいではなかったなら何者かが農場に侵入した可能性がある。
     そして、暗闇に包まれた牧草地に入るのは危険と隣り合わせだ。照明のない牧草地は月のない夜は暗く、刈り取られておらず背丈のある牧草は身を潜めるには都合が良い。何者かが忍び寄って来ても気づくのは難しく、襲われても大声で助けを求めてくれなければ場所がわからずに救出が遅れてしまう。
     リックはマグカップを地面に置いて立ち上がり、デールを捜しに行こうとした。その時、牧草地の方から悲鳴が響いてきた。アンドレアが「デールの声よ!」と叫ぶと同時にリックは走り出す。
     デールの悲鳴は途切れることなく聞こえ、「助けてくれ!」という悲痛な声も風に乗って届いた。リックは仲間たちの足音やデールを呼ぶ声を背中に受けながら走り続ける。
    「デール!今助けに行く!」
     助けを求める声に応えようとリックも声を張り上げたが、直後にデールの絶叫が響き渡った。その声に最悪の展開が脳裏を過る。
    「デール!デール、今行くから!」
     月明かりが微かに照らす中、リックの向かう先では黒い塊が動いていた。目を凝らしてみれば人影であるとわかる。
     更に近づいていくとデールが地面に仰向けで倒れており、その上に乗り上げている男のウォーカーが見えた。デールの体からは腹部を中心におびただしい量の血液が流れている。知らぬ間に農場に入り込んだウォーカーが彼を襲ったのだ。
     リックは携帯していたナイフでウォーカーの頭を刺し、動かなくなったウォーカーをデールの上から退かした。ウォーカーから解放されたデールの体を見てリックだけでなく後から追いついた仲間たちも言葉を失う。デールの腹は大きく裂かれて腸が引きずり出されていた。誰が見ても手遅れなのだとわかる状態にリックの手が震える。
     そこへ現れたのは騒ぎを聞きつけてやって来たグリーン家の人々であり、ハーシェルが息を切らしながら「何があった⁉」と尋ねてきた。
     リックは体ごと振り返り、ハーシェルの両肩を掴んで懇願する。
    「ハーシェル、デールを助けてくれ!すぐに家まで運んで手術をしてほしい!」
     理性では「この傷の状態では助からない」と理解していても感情がデールの命を諦めることを拒む。大切な仲間を死なせたくなかった。
     ハーシェルは驚いたようにリックを見てから視線をデールに移した。デールを見て黙り込んだハーシェルの表情は険しく、彼はリックに視線を戻すと落ち着いた口調で話す。
    「リック、手術はできない。この状態で家まで運ぶのは無理だ。」
     その返事にリックは頭を振って「頼むから!」と叫んだ。
    「家まで運ぶのが無理ならここで手術をしよう!そうすれば──」
    「リック!」
     ハーシェルが大声を出したことによりリックは我に返る。目の前のハーシェルは辛そうな顔をしていた。
    「リック、手術をしても彼は助からない。手遅れなんだ。……本当に残念だ。」
     諭すようなハーシェルの言葉が頭に染み込むと仲間たちのすすり泣く声がリックの耳に届いた。周りを見渡せば、仲間たちがデールを囲んで泣いている。
     リックはフラフラと歩いてデールの傍らに立ち、痛みに呻く彼の顔をぼんやりと見下ろした。
     デールは顔を歪めて痛みに耐えていた。いや、耐えようがない。彼の腹部の傷は手の施しようがないほどひどいのだから。
    (これは現実なのか?)
     リックはデールを見下ろしながら呆然とするしかなかった。容赦のない現実に心が追いつかない。
     リックは以前、仲間たちに「俺がみんなを守る」と誓った。それは軽い気持ちで言ったのではなく「絶対に仲間を守り抜く」という強い気持ちからのものだった。どのようなことをしてでも仲間を守ると決めて、そのように行動してきたつもりだ。
     しかし現実はどうだろうか?デールはウォーカーに襲われて今にも息絶えようとしている。これが示すのは一つだけ。「リックは仲間を守れなかった」ということだ。
     仲間を守れなかった現実に打ちのめされるリックの近くで座り込むアンドレアが、誰に向けてというわけでなく訴える。
    「デールが苦しそう。誰か彼を楽にしてあげて。」
     悲痛な訴えがリックの鼓膜を揺らした。
     「デールを楽にしてあげる」というのは治療するという意味ではない。治療が無意味である以上、デールを苦しみから解放するには死なせてやるしかない。
     リックは腰に下げた拳銃に目を向けた。この拳銃は自身や仲間を守るために使ってきたものであって仲間の命を奪うためのものではない。それでも今、デールにしてあげられるのはこの拳銃を彼に向けることだけだ。
     リックはホルスターから拳銃を取り出してデールの額に向けて構える。そうするとデールと目が合った。
    「……デール、すまない。」
     守ってあげられなくて。
     こんな形でしか救えなくて。
     伝えたいことはたくさんあったが、胸が苦しくてそれ以上は何も言えなかった。それでもリックが伝えたかったことを察したようにデールが小さく頷く。その表情が不思議なほど穏やかに見えたのでリックは涙が溢れてくるのを自覚した。
     視界が霞む。溢れた涙のせいでデールの顔がぼやけてしまう。リックは瞬きを繰り返して涙を散らし、改めてデールの顔を見つめる。そしてデールの額にしっかりと照準を定めると引き金に指を掛けた。それを見たデールが目を閉じる。
     ──銃声、発砲の反動、火薬の匂い、すすり泣く声。
     銃声の乾いた音が響いた後は一帯を仲間たちの泣き声が埋め尽くした。
     頭を撃ち抜かれたデールはピクリとも動かない。そして同時に痛みに顔を歪めたり呻くこともなかった。彼は地獄のような世界で生きる苦しみと腹を裂かれた痛みから解放されたのだ。
     リックは拳銃を構えていた腕を下ろしてデールの顔を見つめた。リックの脳は思考することを放棄し、涙腺は制御を失って涙が頬を伝い落ちていく。
     その時、リックは拳銃を握る手に温もりを感じた。視線を手の方に向けると長い指がリックの手に触れているのが見えた。それはニーガンのものだった。
     ニーガンはリックの隣に立ち、リックの指を拳銃から一本ずつ丁寧に剥がしていく。リックの手から解放された拳銃はニーガンによってホルスターに戻された。その全てを見届けてからリックはニーガンの顔を見上げる。
    「ニーガン……」
     呟くように名前を呼べば優しい手付きで頬を撫でられた。
     そしてリックはニーガンに片手で頭を引き寄せられて、その顔を目の前の厚い胸板に埋めることになった。それにより視界からデールや仲間たちの姿が消えた。
     リックがニーガンの胸に顔を埋めたままでいると優しい声が降ってくる。
    「リック、辛いことを背負わせて悪かった。デールのために、それから俺たちのために……本当に感謝してる。」
     ニーガンからの感謝の言葉に対してリックは何も言うことができなかった。止まらない涙のせいで上手く声が出せないのだ。それでも何も言わずに泣かせてくれるニーガンには全てお見通しなのだろう。
     リックはこのグループのリーダーだ。仲間を失った悲しみに打ちひしがれる皆を励まして支えていかなければならない。誰よりも先に立ち直って顔を上げるべきなのかもしれない。
     しかし、ニーガンはリックに仲間の死を悼んで泣くことを許してくれた。それならば今だけはその優しさに甘えてしまいたい。
     悲しみから立ち直るために。
     悲しみに暮れる仲間を支えるために。
     今まで以上に皆を守れるように。
     リックは再び立ち上がるためにデールの死をきちんと悲しむことに決めた。ニーガンの胸から顔を離すのは涙が止まった時。そうしたら他の皆を励ますのだ。
     その思いを受け止めるように、ニーガンの手がリックの頭を優しく撫でた。


     デールの葬儀は翌日になってから行われた。遺体の損傷はハーシェルが上手く処置してくれたおかげで目立たず、皆は泣きながらも「眠ってるみたいだ」と微笑んだ。
     デールの葬儀が終わったのは昼近くだったので、ハーシェルの厚意により全員が彼の家で昼食を取った。その際にハーシェルから思いがけない話があった。
    「テントで寝起きするのをやめて、この家で一緒に暮らそう。最近では朝晩の気温も下がってきた。冬になればテントで過ごすのは難しくなってくる。ぜひ家に入ってほしい。」
     ハーシェルからの申し出にグループ全員が驚いて食事の手を止めた。
     リックはナイフとフォークを置いてハーシェルに顔を向ける。
    「ありがたい話だが、俺たち全員が家で寝泊まりするのは難しいんじゃないか?部屋数が足りないと思う。納屋を使わせてもらえれば十分だ。」
     ハーシェルの家には空いている客室があるが、そこにグループ全員が入るのは無理だ。納屋であればグループ全員が入ることは可能であり、多少狭くなっても仕切りを作って個人のスペースを確保することもできる。そのように考えたリックは納屋を使うことを提案したが、ハーシェルは首を横に振った。
    「リック、デールがウォーカーに襲われたのは生活の場が屋外だったことも原因だと私は考えているんだ。君たちをもっと早く家に入れるべきだったと……そう思っている。」
     そのように語るハーシェルの顔には後悔が浮かんでいる。
     ハーシェルはリックたちをもっと早く家で寝泊まりさせるべきだったと悔いているが、デールがウォーカーに襲われたのはグループ内で報告を怠ったのが原因だ。デールはリーダーであるリックに牛が騒いでいることを知らせるべきで、それを知っていたアンドレアも同じだ。そしてリックたちも仲間の姿が見えないことをもっと気にしなければいけなかった。ハーシェルが責任を感じる必要はない。
    「ハーシェル、デールが死んだのは俺たちグループの責任だ。あなたが自分を責めることはない。」
     リックの気遣いにハーシェルは「ありがとう」と微笑んだ。
    「デールの件を別にしても君たちに部屋を提供したい。これは私の独断じゃなく話し合って決めたことだ。」
     ハーシェルがそのように話すとマギーとベスだけでなくパトリシアとジミーも頷いた。
     リックはグリーン農場の人々の顔を見つめてからハーシェルに視線を戻す。
    「あなたたちの厚意に心から感謝する。本当にありがとう。迷惑をかけてしまうが、よろしく頼む。」
     そう言ってリックが微笑むとハーシェルも微笑み返してくれた。そして仲間たちから歓声が上がる。
     リックは嬉しそうに笑う仲間たちの顔を見て久しぶりに幸せな気持ちになった。ようやく皆を安心させられたことに胸を撫で下ろし、仲間たちの陰りのない表情を見られたことが嬉しかった。ローリの出産に対する不安も解消されたので心がとても軽かった。
    (もう大丈夫だ。大きな心配がなくなったんだから、きっといろんなことが上手く回っていく)
     油断してはいけないが、今は未来への希望を信じたい。その気持ちを抱いたのは恐らくリック一人だけではないだろう。
     和やかなランチタイムが終わると早速引っ越し作業が始められた。テントをしまって、その他の荷物を家の中に運び込むだけの引っ越しであっても簡単に終わるわけではない。思っていたよりもグループ全体で所持している荷物が多いので整理するだけでも時間がかかり、その荷物を家のどこに収納するのか決めるのもなかなか難しい。相談する声が飛び交う中での引っ越しは賑やかだ。
     その引っ越し作業の最中に部屋割りを決める際、リックは「自分はキャンピングカーで寝る」と宣言した。一人でも家の中で寝起きする者が少ない方が窮屈さがマシになると考え、キャンピングカーであればテントを使うよりも負担が遥かに軽いと考えたのだ。リック一人だけ家の外で寝起きすることに反対意見が出たが、ニーガンが次のように提案して援護してくれた。
    「俺もリックと一緒にキャンピングカーで寝る。中を整えれば快適に寝られるさ。それに、もし何かあっても二人なら対処できる。それなら問題ないだろ?」
     それによりリックとニーガンはキャンピングカーを寝室とすることに決まった。負担の偏りに最後まで渋い顔をする者はいたが、「負担だとは思っていない」と説得してどうにか納得してもらうことができた。
     仲間たちの了承を得たリックとニーガンはキャンピングカーを家の正面に移動させて自分たちの寝床を整え始める。まずは二台あるソファーベッドのそれぞれにマットレスを敷いて寝心地の改善を行った。シーツも敷いてベッドを整えた次は荷物整理に取りかかった。グループの荷物や他の仲間の私物は家に運び込んだので、それぞれの私物を持ち込んで収納していく。私物が少ないため荷物整理はすぐに終わってしまった。
     最後に取り組むのは寒さ対策だ。本格的な冬になると暖房なしの車内は凍りそうなほど寒くなるので対策は不可欠だった。リックとニーガンは向かい合って各自のベッドに座り、マットレスの具合を確かめながら寒さ対策について話し合う。
    「農場に断熱材はないそうだ。町に探しに行ってもいいが、この前の奴らに遭遇する可能性を考えるとな……」
     リックがそう言って眉間にしわを寄せると、ニーガンから「断熱材は諦めろ」という言葉が返ってきた。
    「向こうは俺たちを捜してる可能性がある。町に行くのは緊急時だけにするべきだ。代わりにダンボールを壁や窓に貼ればいい。ダンボールなら農場にもあるんじゃないか?」
    「そうだな、ハーシェルに聞いてみるよ。もしダンボールがなかったら別の方法を考えよう。」
    「問題ない。その時は抱き合って眠ればいいさ。」
     ニーガンはそう言ってニヤッと笑った。お得意のジョークにリックは思わず声を上げて笑った。
    「こんなに狭いベッドじゃ一緒に寝られないぞ。俺が蹴落とされる。」
     リックがニーガンのジョークに乗っかるとニーガンも愉快そうに笑う。
    「俺の寝相は上品だって知らないらしいな。そんなに心配ならしっかり抱っこしててやるよ。シートベルト付きのベッドなら安心だろ?」
    「絞め殺されそうだから遠慮する。」
     冗談を言い合ったリックとニーガンは満足するまで笑った。こんなにも心置きなく笑ったのは随分と久しぶりな気がした。
     笑いが治まり、リックはニーガンと改めて視線を重ねる。
    「ニーガンと二人だけで寝るのは久しぶりだな。二人旅をしていた時以来だよな?」
     リックの問いにニーガンは頷いて答えた。
    「あの頃は毎日お前の寝顔を観察させてもらってた。毎日見てても飽きなかったぞ。」
     ニーガンの思わぬ告白にリックは目を丸くして、それから頬を赤らめる。
     まさか寝顔を観察されているとは思わなかった。みっともない寝顔を晒していたのではないかと考えると恥ずかしくなる。
     リックは抗議のためにニーガンを睨んだ。
    「『間抜けな寝顔だ』と笑ってたのか?そうだとしたらひどい。」
     リックの抗議にニーガンは「拗ねるなよ」と肩を揺らして笑った。その次には穏やかな笑みを浮かべてリックの抗議に対する答えを口にする。
    「可愛い寝顔だと思ってた。しんどい旅の中での俺の楽しみの一つだった。嘘じゃない。」
     そのように語るニーガンの目は優しかった。声には実感が籠もっているのがリックにもわかり、先ほどまでとは違う意味で恥ずかしくなった。
     幼い頃は別として、ある程度の年齢に到達してから「可愛い」と言われた記憶はない。中性的な顔立ちをしているわけでもなく、年齢的にも若いとは言えない。「可愛い」という言葉は似合わないだろう。
     しかし、ニーガンは嘘を吐かない男だ。彼が「可愛い」と言うならば彼は本気でリックの寝顔を可愛いと思っている。その事実がなんだか無性にむず痒い。
     リックはごまかすように咳払いをしてから「その話はもういい」と話を戻す。
    「とにかく、俺が言いたかったのは二人旅の時を思い出して懐かしいということだ。大変だったが楽しいこともあったな、と思って。」
    「ああ、俺もだ。また前みたいに話そうぜ。いろんなことを、な。」
     嬉しそうに笑うニーガンに向けてリックはしっかりと頷いた。
     二人だけで旅をしていた頃とは異なり、グループで行動するようになってからリックがニーガンと語り合う時間は少なくなっていた。リーダーになったことも影響しているが、関わる相手が多くなったからだろう。リーダーであるリックと頼りがいのあるニーガンは他の仲間との会話の方が多いのだ。
     だが、今日からは就寝前に語らう時間を持つことができる。難しい話は抜きにして親しい友と穏やかな時間を過ごすことを期待するのはニーガンだけでなくリックも同じ。
     思いがけず転がり込んできた幸運にリックとニーガンは揃って笑顔を浮かべた。


    *****


     デールの葬儀とグループの引っ越しが終わってもリックたちにのんびりしている暇はない。町で遭遇した無法者たちの対策として防御体制を強化することになったからだ。
     皆で話し合った結果、複数箇所にある農場の出入り口を封鎖して正面の一箇所だけを使用し、その付近に見張り台を設置して人の出入りを管理することに決めた。襲撃を受けて銃撃戦になった場合に備えて防護柵を設置することも決定したので木材を急いで用意する必要がある。その作業と平行して冬に備えて保存食の確保も行わなければならないのだから全員が一気に多忙になった。
     当然、リーダーであるリックの忙しさは際立っている。農場の持ち主であるハーシェルとの打ち合わせや仲間たちへの指示、そして自らも作業を行うのだから休憩する時間もない。
     そんなリックが作業の合間を縫って地図を片手に見回りのコースを考えながら歩いていると、カールがこちらに向かって歩いて来る姿が見えたので足を止めた。カールはリックの正面まで来て窺うような視線を投げかけてくる。
    「父さん、今は何してるの?」
    「歩きながら見回りのコースを考えているんだよ。悪い奴らを警戒するなら見回りが必要だからな。それより、お前は母さんたちの手伝いをしてるはずじゃなかったのか?」
     リックが問いかけるとカールは気まずそうに視線を逸した。
    「つまらないし疲れたから、父さんの手伝いをするって言って出てきた。」
     正直な答えにリックは苦笑いを浮かべる。
     ローリに黙って出てきたわけではないのなら今回だけは見逃すとしよう。それに、カールが家の手伝いを抜けてきたのは先ほど述べた理由だけではなさそうだ。
     リックは地図を折りたたんで上着の内ポケットに入れて、カールに「付いておいで」と声をかけてから歩き出す。
    「どこに行くの?」
     慌てたように隣に並んだカールに質問され、リックは遥か前方に見える納屋を指差した。
    「納屋だ。あそこで話をしよう。今朝からずっと俺に話したいことがあるんだろう?」
     リックがそのように告げればカールは少し泣きそうな顔で頷いた。
     リックはカールが自分に話しかけたがっていることに気づいていた。朝からソワソワと落ち着かず、チラチラとこちらを見て様子を窺う息子に声をかけようとしたことは何度もあったが、その度にカール本人が逃げるようにローリやソフィアの方に行ってしまうので話すタイミングを失っていたのだ。そんなカールが自ら足を運んできたということは話をする決心がついたのだろう。それならばゆっくりと話せる場所に移動すべきだ。
     リックはカールを連れて納屋の二階に上がり、明かり取り用の大きめの窓の窓枠に並んで座った。
    「さて、カール。俺に話したいことは何だ?」
     リックがカールに顔を向けると決意の宿った眼差しが返ってくる。
     カールは一つ深呼吸をして、ジーンズの後ろのポケットから拳銃を取り出した。差し出されたそれにリックは目を瞠る。
     カールは「ごめんなさい」と謝ってから話し始めた。
    「訓練以外でも拳銃を持ってみたくて、デールがキャンピングカーから離れた時に盗んだんだ。これを持って一人で森に入ったら沼に嵌って動けないウォーカーを見つけて、石をぶつけた。そしたらウォーカーの足が沼から抜けて近づいてきたから怖くて逃げたんだ。……デールを襲ったウォーカーだよ。」
     衝撃的な告白にリックは言葉を失う。知らない間に我が子が危険なことをしていたことと、我が子をきちんと見守ってやれていなかったことにショックを受けた。
     カールは父親が何も言わないことには構わず告白を続ける。
    「デールが死んだのは僕のせいだ。僕がウォーカーで遊んだりなんてしなかったら……逃げないでウォーカーを撃ってたらデールは死ななかった。僕のせいなんだ。」
     リックは自分を責めるカールの肩に手を置いて顔を覗き込み、微かに潤む目を見つめながら告げる。
    「デールの身に起きたことはお前のせいじゃない。」
     その言葉を否定するようにカールは首を横に振った。
    「でも、デールは死んだんだよ。」
     それに対してリックは「ああ、そうだな」と頷く。
    「死で溢れた世界だから。……カール、人は誰でも必ず死ぬ。俺も、母さんも、そしてお前も。今の世界は前よりも死が近い。だからこそ死を避ける努力をしなきゃならない。」
     リックが落ち着いた口調で語るのと同じようにカールも落ち着いた様子で話に耳を傾けている。
     リックはカールが差し出す拳銃の上に手を置いた。
    「これはお前が持っていろ。自分や仲間を守るために必要なものだ。」
    「……僕が持っていてもいいの?」
     躊躇いがちに尋ねてきたカールにリックは「お前が持つべきだ」と答えた。
    「お前に普通の子ども時代を過ごさせてやりたいが、それは無理だ。もうお前を子ども扱いはしない。その拳銃で自分やみんなを守ってほしい。」
     ひどい父親だという自覚はある。無邪気な子どものままでいられる時間を奪いたくはないが、それではカールを守れない。世界は誰に対しても過酷で残酷なのだ。
     リックは真剣な表情で話に聞き入る我が子に最も伝えなければならないことを告げる。
    「もっとお前のためになることを言ってやれたらよかったんだがな。俺には向いてない。だが、これだけは言わせてくれ。──カール、お前は安全じゃない。それを忘れるな。」
     その言葉を告げた瞬間、リックは胸の痛みをハッキリと感じた。我が子に「お前は安全ではない」と告げて平気な親がどこにいるというのだろう?できるものなら「何も心配しなくて大丈夫だ」と言って安心させてやりたい。
     しかし、そのような嘘を吐くことはできなかった。誰もが安全ではない世界で生きていく子どもには「お前は安全ではない」と教えるべきだ。自分が安全な状態ではないという自覚があれば常に自身を守る行動を取ることができる。だからリックはカールにありのままの事実を伝えたのだ。
     父からの言葉にカールは取り乱すことなく無言で頷いた。それを見てリックは拳銃から手を離し、カールはそれをジーンズのポケットに戻した。
     カールは拳銃をポケットにしまうと再び顔をこちらに向ける。
    「本当はね、父さんより先にシェーンとニーガンに話したんだ。」
    「シェーンとニーガンに?なぜだ?」
     リックが首を傾げると、カールは「父さんに怒られたくなかったから」と肩を竦めた。
    「二人が一緒に作業してるところに行って、父さんに話したこととと同じ話をした。それから『父さんに拳銃を返しておいて』って頼んだらシェーンに怒られた。『心から後悔してるなら逃げるな。自分でリックに話をして返せ』って。」
    「シェーンがそう言ったのか?」
    「うん。ニーガンにも『俺たちから話を聞かされる方がリックは怒るし、お前に失望するぞ』って言われた。だから自分で父さんに話さなきゃいけないんだって思って……がっかりした?」
     不安げに見上げてくるカールの頭をリックは優しく撫でてやった。微笑みながら「そんなことはないよ」と答えるとカールも小さく笑みを浮かべる。
    「お前に失望したことなんて一度もない。いつだってお前を誇りに思ってる。正直に話してくれてありがとう、カール。」
     そのように告げた途端にカールが抱きついてきたので、リックは小さな背中に腕を回した。
     リックはカールを抱きしめたまま最近の自分の行動を振り返り、カールと関わる時間が少なかったことを反省する。グループのことや農場に滞在すること、そしてローリとシェーンとの関係のことで頭がいっぱいでカールをしっかりと見ていてやれなかった。それがカールの心を荒ませたのは間違いなく、危険な行動に走らせたのだろう。これからはカールのことをきちんと見守ってやらなければならない。
     リックは抱きしめる腕に力を込めながら最愛の息子に向けて囁く。
    「愛してるよ、カール。」
     それに対して「僕も愛してるよ」というカールの嬉しそうな声が返ってきた。
     その後しばらくリックとカールは納屋に留まって会話を楽しんだ。話したのは過酷な現実の話ではない。共通の思い出や旅の中での楽しかった出来事、その他にもたくさんの楽しい話をした。
     楽しくて穏やかな父と息子の二人だけの時間。その時間が二人の結びつきを強くしてくれたような、そんな気がした。
    「ニーガン!そろそろ作業を終わらせて戻ってこいよ!薄暗くなってきたぞ!」
     ニーガンは遠くから呼びかけてきたTドッグの声に釘を打つ手を止めて、了解を示すために片手を上げた。そして工具箱に使ったものを戻しながら辺りを見渡す。
     最近は日没が早い。朝と夜には冷え込みも強くなっており、秋が深まっていることがわかる。冬の訪れも遠くないだろう。
     工具をしまい終えたニーガンは工具箱を持って家に向かって歩き出す。のんびりと歩きながら周囲に視線を巡らせていると、森の方へ向かう者たちの姿があった。リックとシェーンだ。
     連れ立って森に入っていく二人を見て嫌な予感に胸が騒ぐ。これから夜になろうというのに森に入るのは懸命な判断ではない。何か良くないことが起きているのだ。
     ニーガンは急いで家に戻り、家の前に立っていたTドッグに工具箱を押し付けながら問う。
    「おい、リックとシェーンは何で森に行った?もうすぐ日が沈むんだぞ。止めなかったのか?」
     Tドッグはニーガンの勢いに圧倒されながらも答える。
    「シェーンが森の中で人影を見たらしい。二人で様子を見に行くからみんなは家の中にいろってリックに言われた。」
     Tドッグの返答を聞いてニーガンは眉根を寄せた。
     怪しい人物を捜索するという理由にしては捜索に当たるのがリックとシェーンの二人だけというのはおかしい。通常は男五人の中から四人を捜索担当にして、残る一人に農場にいる仲間たちを守らせるはずだ。その方が効率が良い。
    (シェーンの野郎、リックを殺すつもりだな。リックもそれをわかった上で奴と二人だけで森へ行った)
     この最悪の予想は外れていないだろう。最近のシェーンは以前よりも他者を寄せ付けなくなって孤立を深めていた。精神的に追い詰められて、その末にリックの殺害を選んでもおかしくない。
     更に悪いのがリックがそれを察しているであろうということだ。日頃から憎しみをぶつけられていたリックがシェーンからの殺意に気づかないはずがない。「森の中で人影を見た」というのが自分を誘き出すための口実だと知りながら森に入ったのなら、リックの目的は一つだけだ。
    「俺は二人を追いかける。みんなにもそう言っておけ。」
     ニーガンはTドッグにそれだけを告げて走り出す。後方ではTドッグが慌てたように「リックが家にいろって言ってるんだぞ!」と叫んでいるが無視だ。
     二人が入った辺りから森に足を踏み入れると暗さが増した。懐中電灯を持ってこなかったのは痛いが、取りに戻る余裕はない。更に不満があるとすればルシールを持ってこなかったことだ。作業には邪魔なので家に置いてきたのだが、常に携帯しておけばよかったと思う。他の武器は所持しているが、気分の問題だ。
     ニーガンは目を凝らして二人が歩いた痕跡を探しながら森の中を歩き続ける。そのうちに後方から微かに足音が響いてきた。しっかりとした足取りから相手がウォーカーではなく生きた人間だとわかり、ニーガンは携帯している拳銃を手に取った。
     そして一瞬にして体ごと振り返り、素早く拳銃を構える。その先には目を丸くしたカールがいた。
    「カール⁉こんなところで何してる!」
     ニーガンが拳銃を下ろすとカールはホッと息を吐いてから答える。
    「ニーガンとTドッグの話が聞こえたから父さんたちを捜しに来た。父さんが心配なんだ。邪魔しないから僕も一緒に行かせて。」
    「そんなことできるわけないだろうが。だめに決まってる。夜の森は危ないんだぞ。」
    「じゃあ、今から僕を一人で帰らせるの?夜の森は危ないって言ったのはニーガンだよ。それとも農場まで送ってくれる?」
     こちらを睨むように見上げるカールにニーガンは溜め息を吐いた。
     すっかり暗くなった森の中を子ども一人で歩かせるわけにはいかない。だからといって家に連れ帰る時間はない。つまり、カールと一緒にリックたちを捜すという選択肢しかニーガンには残されていないのだ。
     ニーガンは「付いて来い」と言ってカールに背を向けて歩き出す。そうするとカールが後ろを付いてくる気配がした。
    「お前は父親に似たな。」
     ニーガンがそう言うとカールが横に並んでキラキラした目で見上げてくる。どうやら今の一言が嬉しかったようだ。
    「本当っ?ねえ、どこが似てる?」
    「こら、声を抑えろ。……さっきみたいに反論しにくい理由を揃えて説得するところがリックに似てる。あいつをよく観察して勉強したのか?」
    「うん、そうだよ。父さんは僕の憧れだから、父さんみたいになりたいんだ。」
    「それなら何が危険か判断できるだろ?今回みたいなことは二度とするな。」
     ニーガンはカールと言葉を交わしながらもリックたちの足跡を見落とさないように注意し、周囲への警戒も忘れない。自分一人ではなくカールもいるので油断は絶対にできなかった。
     カールも周りに視線を遣りながら会話を続ける。
    「怒られて当たり前のことをしてるってわかってる。でも、何か嫌な感じがして心配だったんだ。僕も父さんを守りたい。……今まではニーガンが父さんを守ってたんだろうけど、これからは僕が父さんを守るんだからね。」
     カールはこちらに挑戦的な顔を向けて宣言した。ニーガンは思わず目を丸くしてカールを見つめる。
     どうやらカールはリックに頼られているニーガンに嫉妬しているらしい。ニーガンとリックの関係が背中を預けて守り合うものだと理解しているのだ。それはカールが父親との間に望む関係性であり、それを手にしているニーガンはライバルだと言える。要するに今のはライバル宣言だ。
     ニーガンは笑いながらカールの頭をポンポンと叩く。
    「ライバルだと認められるのは嬉しいね。頑張れよ、俺は手加減してやらないからな。」
    「子ども扱いしないでよ。」
     子ども扱いに顔をしかめるカールの頭をもう一度軽く叩いてから、ニーガンは顔を正面に戻した。カールの顔が絶望に染まることがないようにリックを守らなければならない。
     ニーガンは「間に合ってくれよ」という願いを胸に秘めながら地面を踏みしめた。


     リックたちの足跡を追い続けたニーガンが辿り着いたのは森を抜けた先にある広い丘だった。その丘の上でぼんやりとした月明かりに照らされているのはリックとシェーンの二人。リックと向かい合って立つシェーンは拳銃を構えている。
    「父さん……!」
     ニーガンの耳には隣に立つカールの呟く声が聞こえた。父を見つめる少年の顔は青ざめている。
     拳銃を向けられたリックを見てカールが二人の方に駆け出そうとしたが、ニーガンは「待て、カール」と止めて二人の様子を見守ることにした。
     ニーガンとカールが来たことに気づかない二人は相変わらず向かい合ったままだ。冷静な表情を崩さないリックとは対照的にシェーンが感情を顕にして怒鳴る。
    「俺がローリとカールを守ってきた!お前以上にな!俺の方が良い夫にも良い父親にもなれる!俺の方が二人に相応しい!」
     激しい感情を叩きつけるシェーンは明らかにリックの心を傷つけようとしていた。
     しかし、ニーガンにはシェーンがリックだけでなく自分自身にも言い聞かせているように感じられた。表情から余裕のなさが窺えるので虚勢を張っているようにも思える。
     ひどい言葉をぶつけられてもリックの表情は少しも揺らがないため、彼が今の状況をどのように感じているのか全くわからない。それが余計にシェーンの怒りや苛立ちを煽った。
    「お前が戻ってくるまでは俺とローリとカールの三人で完璧だった!お前が全部壊した!お前が俺から何もかも奪ったんだ!」
     それはシェーンの心からの叫び。ずっと心の奥底に閉じ込めてきた憎しみが噴出している。
     恐らくシェーンは自分がリックの代わりにさえなれないのだと気づいているだろう。だが、それを認めるわけにはいかない。それを認めてしまえば自分の居場所がどこにもないのだと認めることになってしまうからだ。リックを傷つけているのか自分自身を傷つけているのかわからないような彼の姿は哀れだ。
     しかし、強い憎しみをぶつけられたリックの反応はニーガンにとって意外なものだった。
    「だから俺を殺すのか?」
     リックは恐ろしいほど落ち着いた声でシェーンに問いかけた。冷たさすら感じられる声音にシェーンの激しい怒りが一気に鎮火した。
     拳銃を構えたまま固まるシェーンにリックが更に言葉を続ける。
    「俺を殺して、二人に嘘を吐いて、『死んだ親友の家族を守る優しい男』を演じて、そうやって彼女たちの傍に留まるのか?偽りだらけの人生だな。シェーン、お前はそれに耐えられない。」
     そう言ってリックは一歩前に出る。そして「今ならやり直せる」と訴えた。
    「シェーン、何もなかったことにして一緒に農場へ──ローリとカールのところへ戻ろう。」
     和解を持ちかけるリックの声は優しい。それがニーガンには不気味に思えた。
     ニーガンはリックとシェーンの顔を交互に見る。シェーンの顔には激しい怒りが見えず、リックの言葉に心が揺れているのがハッキリとわかった。もうシェーンにはリックを殺せない。
     しかしリックはどうだ?穏やかな表情を見せながらもその手はジーンズの後ろポケットに伸びている。そこには小型のナイフがあるはずだ。リックはシェーンを殺すつもりでいる。
     そのことに気づいた瞬間、ニーガンは「そこまでだ!」と大声を出した。
    「お前たち二人だけでの話し合いは終わりにしろ!良い結果になんてなるわけがない!」
     大声を出しながら歩くニーガンにリックとシェーンから驚愕の眼差しが注がれた。そしてカールの存在に気づくとリックはポケットに伸ばしかけた手を下ろし、シェーンも拳銃をホルスターに収める。
     ニーガンの隣を歩くカールは「父さん、ごめんなさい」と謝罪を口にした。
    「父さんが心配で無理やり付いてきたんだ。だからニーガンを怒らないで。」
     カールの真摯な訴えにリックは戸惑った表情をしながらも頷いた。
     ニーガンは二人の傍に立つとシェーンに顔を向ける。
    「シェーン、俺はお前に自分を見つめ直した方がいいって言ったよな?自分にとって一番大事な人間が誰なのか気づかないと取り返しのつかないことになるとも忠告してやった。それなのにこの結果か?」
     呆れ混じりに言えばシェーンが睨みつけてきた。それに構うことなく言葉を重ねる。
    「お前が一番大事に思って愛してるのはリックだ。リックが死んだと思った時、お前はその現実に耐えられなかったのさ。だからリックが大事にしてるローリとカールを愛して執着した。」
    「俺にとって一番大事なのが、リック……?」
     シェーンは「考えもしなかった」という様子で目を瞠った。
     リックの方にチラッと目を遣れば、リックも驚きを隠せずにシェーンを凝視している。リックもそのように思ったことがなかったのだろう。
     何で俺が教えてやらなきゃいけないんだ、とボヤきたくなるのを堪えてニーガンは言う。
    「シェーンはリックなしで生きられない哀れな男だ。リックがいなけりゃ居場所を失う。代わりの居場所をローリとカールに求めたが、それをリックに盗られたように感じて逆恨みしたってことだ。」
     シェーンから反論の言葉は出てこなかった。その顔は強張っているが怒っている様子はない。リックもシェーンを見つめたまま何も言わない。
     ニーガンは完全に沈黙してしまった二人には構わず指摘を続ける。
    「リックが死んだと思って情緒不安定なシェーンの拠り所になったのはリックの家族であるローリとカール。だが、リックが戻ってきたら二人はリックのところに戻るし、そのリックは新しい相棒を連れてた。それで居場所を失ったように感じたシェーンは追い詰められた。お前たちの仲が拗れた原因はそれだ。それくらい気づけ。」
     ニーガンは今度はリックの方に顔を向けて次のように告げる。
    「リック、シェーンはどれだけお前を憎もうと恨もうと結局はお前を一番愛してる。だからこの男がお前の傍で生きることを許してやれ。お前もシェーンを失いたくないはずだ。そうだろう?」
     リックはしばらくニーガンの目を真っ直ぐに見つめたまま黙り込んでいたが、やがて深く頷いた。
     次に、リックはシェーンに顔を向ける。それにより二人の視線が重なり合った。
    「……俺はお前に憎まれていることもお前を憎むことも辛くて、ひどく疲れていた。だからお前が俺を殺そうとしていると気づいた時は、逆に俺がお前を殺してやろうと……全部終わりにしたかったんだ。だが、本当は殺したくない。お前が今でも大好きだから。」
     リックはシェーンに近づくとシェーンの頭を引き寄せて額同士を触れ合わせた。
    「シェーン、俺たちは今、ギリギリのところにいる。越えてはいけない線を越える前にやり直そう。過去をなかったことにはできないが、これから新しく信頼を積み上げていくことはできるはずだ。だから一緒に農場に帰ろう。」
    「お前は本当にそれでいいのか?俺は、俺がお前にしたことは……」
     それ以上は何も言えなくなったシェーンにリックが微笑む。
    「構わない。これからも助け合って、支え合って生きていこう。なあ、兄弟。」
     リックの穏やかな声にシェーンは苦しそうに唇を噛み、「すまなかった」と吐き出してリックの肩に手を置いた。
    「もう一度チャンスを貰えるなら、俺はお前たち家族を守りたい。お前たちと一緒に生きていきたい。それがずっと俺の望みだったのに、俺自身が歪ませちまった。本当に悪かった。」
     声を震わせて謝るシェーンにリックは「いいんだ」と答えた。
     二人が体を離すとシェーンは手の甲で目元を擦る。擦った手を離した彼の目は潤んでいた。シェーンは目を潤ませたままニーガンとリックを交互に見遣り、「話さなきゃならないことがある」と言った。
    「オーティスは俺が死なせた。彼の脚を撃って転倒させて、ウォーカーがそっちに行くように仕向けた。……死ぬのが怖かったからやったことだ。言い訳はしない。こんな奴は農場に置いておけないって言うなら出ていく。」
     シェーンはそう言って断罪を待つように項垂れた。
     ニーガンは「やっぱりな」という感想を抱きながらリックを見る。そして、こちらを見ている彼に「お前に委ねる」という意味を込めて頷いた。カールの父親はリックであり、そのカールを助けるためにシェーンは危険な場所へ行ったのだ。これはリックが決断しなければならない。
     リックはニーガンに向かって頷いてからシェーンの方に視線を戻し、「俺も話すことがある」と切り出した。
    「お前がオーティスを犠牲にしたことには気づいていた。」
     リックの言葉にシェーンはハッとしたように顔を上げる。
     リックはシェーンを見つめながら、その顔に罪悪感を浮かべた。
    「気づいていたが、それを指摘するとお前を責めることになると思ったから何も言わなかった。だが、それが却ってお前を苦しめたのかもしれない。シェーン、すまなかった。」
    「お前が謝ることじゃない。」
    「いや、謝らせてくれ。苦しめて悪かった。その罪は俺も一緒に背負う。これからは一人で背負わなくていい。」
     リックの言葉を聞いたシェーンの顔がクシャッと歪む。彼は泣くのを堪えるような表情を見せた後、深く息を吐き出した。それは安堵の吐息のように思えた。
     息を吐き出したシェーンは穏やかな表情でリックを見つめる。
    「──リック、ありがとう。」
     感謝を告げた時のシェーンは柔らかな笑みを浮かべていた。その笑みはニーガンが一度も見たことがないものだった。ようやく心の底から笑えるようになったということなのだろう。
     シェーンは笑みを消すと、黙って成り行きを見守っていたカールの正面に膝をついた。カールは何も言わずに目の前のシェーンを見据えている。
    「カール、お前の父さんを傷つけようとして悪かった。許してもらえるとは思わない。だから、これからは命懸けでお前たち家族三人を守る。そのことを許してくれ。」
     それに対してカールはしっかりと頷いた。
    「うん。父さんにしたことを今すぐに許すのは無理だし、これからも許せるのかわからない。でも、シェーンが僕たちを命懸けで守ってきてくれたことはわかってる。だから、これからは絶対に父さんを守って。約束だよ。」
     カールの冷静な返事に驚く大人三人を気にした様子もなくカールは小さく笑みを浮かべる。その大人びた笑みにニーガンは思わず感嘆の溜め息を零した。将来、この少年は大物になりそうだ。
     ニーガンはシェーンがカールに向かって「わかった」と頷くのを見届けてからリックに目を向ける。彼は安心したように息子と親友のやり取りを見守っていたが、目線を上げてこちらを見た。彼は声に出すことなく「ありがとう」と言って嬉しそうに微笑んだ。その笑みの美しさにニーガンも自然と頬が緩む。
     自分はリックと彼の親友が辿る悲劇の運命を回避することに成功したのかもしれない。そのように考えると自分が誇らしかった。


    *****


     シェーンとの間に存在した大きな問題が解決し、リックは心からの喜びと安堵を感じていた。
     しかし、その時間は長くは続かなかった。「みんなが心配しているから早く帰ろう」と四人揃って歩き出して間もなく、リックは後ろが騒がしいことに気づく。何事かと振り返って見た光景の恐ろしさに声が出ない。
    「──っ!……ウォーカーの群れだ!」
     リックの声に他の三人も振り返って後方を確認し、驚きと恐怖に目を見開く。丘の向こうから巨大なウォーカーの群れがリックたちを追いかけるようにして歩いてくるのだ。大人三人だけでは対処できない規模の群れは悪夢としか言いようがない。追いつかれたら全員が貪り食われてしまう。
     リックはウォーカーの大群を目に映しながら仲間たちに向けて叫ぶ。
    「走れ!追いつかれたらお終いだ!」
     その声を合図に全員が走り出す。
     森の中に入ってもウォーカーを振り切ることはできない。足音が響かないように歩いて逃げるには群れとの距離が不十分なため、リックたちは走って逃げるしかなかった。それは足音によってウォーカーを引き寄せてしまうことに繋がる。
     四人は懸命に走って森を抜けたが、帰り着いた農場は既にウォーカーの群れに入り込まれていた。農場全体を見回したシェーンが「不味いぞ!」と焦りを見せる。
    「家が襲われたらあいつらが危ない!どうにかしないと!」
     その声を聞き、リックは深呼吸をして自身を落ち着かせた。家に残った仲間たちを助けたいが、まずは自分たちが安全を確保する必要がある。
     そのように考えたリックは農場の様子を改めて観察し、今いる場所から近い建物である納屋に逃げ込んで当面の安全を確保することに決めた。幸いにも家に近づくウォーカーの数は少ないので、家にいる仲間たちをどのように救出するか考えるのはそれからでも遅くない。
    「とりあえず納屋に行くぞ!安全を確保してから他のことを考えるべきだ!」
     リックの提案に三人は「わかった」と頷き、納屋に向かって一斉に走り出す。
     リックたちは襲いかかってくるウォーカーを避けながら走り、全員が無事に納屋に滑り込むと扉を閉めて板で封じた。これで少しの猶予は得られたが、扉を押し破ろうとするウォーカーの勢いは凄まじい。古い木製の扉は数分で壊されてしまうだろう。
     リックは呼吸を整えてから納屋の中を探索してガソリンタンクを見つけた。持ってみると中には十分な量が入っていることがわかる。リックは仲間たちを振り返って「これを使おう」と提案した。その提案にニーガンが訝しげな顔をする。
    「そのガソリンで何をするつもりだ?それだけじゃウォーカーを処理し切れないぞ。」
    「ウォーカーを全滅させたいわけじゃない。火を起こしてウォーカーを納屋に引きつけるんだ。そうすれば家の方に向かうウォーカーの数を減らせる。」
     リックは三人の顔を見ながら作戦を説明する。
    「扉から納屋の真ん中までの範囲にガソリンを撒いて、俺が大声でウォーカーを引き寄せてから扉を開ける。ウォーカーが真ん中辺りに来たら俺は二階に上がるから、俺の合図で火をつけてくれ。」
     その説明にニーガンとシェーンは渋い顔をして、カールは不安げに眉を下げる。
    「自分のタイミングで合図を出せば俺が火に巻き込まれることはない。大丈夫だ。」
     リックは三人を安心させるためにそのように言ったが、シェーンが「だめだ、俺がやる」と名乗り出た。
    「リックにだけ危険なことをさせるわけにいかない。俺がやるからお前は上に行け。」
    「ありがたいが、俺が考えた作戦だ。他の人間に危険なことを任せて自分は見ているだけなんてできない。俺に任せてくれ。」
     リックはシェーンにそのように告げてからニーガンを見る。ニーガンは眉間に深くしわを刻んでいたが、何も言わずに頷いてくれた。一度決めたらリックは譲らないと理解してくれたようだ。
     リックは続けてカールに顔を向け、心配そうに見上げてくる我が子の肩に手を置く。
    「大丈夫だから心配するな。俺を信じろ。」
    「……わかった。」
     カールが頷けばシェーンも渋々といった様子で「サポートする」と言ってくれた。仲間からの賛同が得られたリックは早速ガソリンタンクの中身を床に撒く。その間にシェーンがカールを上に連れていってくれた。
     そしてガソリンを撒き終わると携帯していたライターをニーガンに差し出す。
    「俺が合図したら着火させて放り投げてくれ。」
    「任せろ。……絶対に失敗するなよ。俺はお前が死人どもに食われるのも焼けるのも見たくない。」
     睨むようにこちらを見るニーガンからは必死さを感じる。危険な役目を担うリックをひどく心配しているのだ。
     リックはニーガンを少しでも安心させたくて「ああ、わかった」と微笑んだ。その笑みに対してニーガンは頷き、ライターを受け取った。
     リックはニーガンが梯子を上ったのを確認してから扉に近づく。ウォーカーが扉を打ち付ける勢いは先程よりも激しさを増しており、扉の軋む音が大きくなってきた。扉が破られるまで時間がない。
     リックは「ここにいるぞ!来いよ!」と叫んだり扉を叩くなどして外にいるウォーカーを刺激した。それにより外にいるウォーカーの騒ぐ声が大きくなった。それを合図に扉を開けると多くのウォーカーが一気に納屋の中に入ってきたため、リックはウォーカーを挑発しながら後ろに下がる。
     先頭のウォーカーが納屋の真ん中まで来たところでリックは梯子に飛び付き、腐り切った手が自身に届く前に梯子を上って大声を出す。
    「今だ!やれ!」
     リックの合図を受けて二階にいたニーガンが火のついたライターを階下へ投げ込んだ。ライターがウォーカーの群れに飲み込まれると同時に下の階が炎に包まれる。勢い良く燃える炎は納屋の中に置かれたものを次々と焼いていき、その勢いを増していく。
     リックは他の三人に納屋の外へ出るように促して、明かり取り用の窓から屋根へ出た。そこへキャンピングカーが近づいてくる。視線を上げた先では数台の車が牧草地を走り回っており、農場に残っていた仲間たちが車の中からウォーカーを狙撃していた。
     キャンピングカーを運転しているのはジミーで、ニーガンがジミーに向かって「車をここに停めろ!」と指示を飛ばす。その指示によりジミーがキャンピングカーを納屋に寄せて停めてくれたので全員が無事に車の上に飛び移ることができた。
     リックはカールと共に車の上から下りて運転席側に回ったが、悲鳴と共にフロントガラスに大量の血が飛び散ったのを見てジミーがウォーカーに襲われたのだと知る。これではキャンピングカーに乗って移動することはできない。
     リックはジミーを死なせてしまったことに悔しさとやり切れなさを感じるが、「彼の死を嘆くのは後だ」と気持ちを切り替える。今は生き残って仲間を救出することだけを考えるべきだ。
     リックは「ニーガン!シェーン!こっちだ!」と呼びかけてからカールを連れて納屋の裏側を通って家を目指す。
     ウォーカーから逃げながら家に向かう途中、リックは後ろの様子が気になって振り返った。ニーガンもシェーンも付いてきていない。
    「ニーガン!シェーン!」
     走りながらもう一度名前を呼んでも返ってくる声はなかった。納屋から出た時点ではぐれてしまったのだろう。
     リックはグッと唇を噛んでから顔を正面に戻した。
    (大丈夫、二人とも戦い慣れているから切り抜けられる。後で必ず会える)
     それは確信したものではなく自身に言い聞かせるためのものだった。
     これほどの数のウォーカーに襲われて誰も失わずに済むことは有り得ない。実際にビリーを失ったばかりだ。だからニーガンやシェーンが死ぬ可能性はゼロではない。それでも今は二人とはぐれたことに動揺していてはだめだ。
     リックは自身を奮い立たせてカールと共に走り続け、ようやくハーシェルの家まで辿り着くことができた。家の正面ではハーシェルがライフル銃でウォーカーを倒しているが、その背後から近づくウォーカーに彼は気づかない。
    「ハーシェル!」
     名前を叫ぶと同時に拳銃でウォーカーの頭を撃ち抜くと、振り返ったハーシェルが驚きに目を瞠った。
     リックはハーシェルに駆け寄って「ローリは⁉」と尋ねたが、ハーシェルは首を横に振る。
    「わからない!だが、私に逃げるよう促してきたから逃げたはずだ!」
     返事を聞き、リックは滲んでくる涙を散らそうと瞬きを繰り返す。
     ニーガンたちとはぐれてしまい、ローリの所在もわからない。牧草地を走り回っていた仲間たちの車も知らぬ間に見えなくなっている。皆が無事なのか心配で仕方ないが、今は目の前にいる二人を安全な場所まで連れていかなければならない。
     リックは嫌な想像から目を逸らしてハーシェルの腕を掴んだ。
    「逃げるぞ!これ以上は無理だ!」
     リックの呼びかけをハーシェルは頭を振って拒否する。
    「できない!ここは私の農場だ!農場を捨てるなんて──」
    「農場は諦めて逃げるんだ!死にたいのか⁉」
     リックが強い口調で言い放てばハーシェルの瞳が揺れた。そして彼は農場を見渡してからリックの方に顔を戻す。揺れる瞳はそのままに、ハーシェルは確かに頷いた。農場を手放して逃げると決めたのだ。
     リックはハーシェルから手を離すと近くに停めてあった車に乗り込んでエンジンを掛ける。後部座席にカールが座り、助手席にはハーシェルが乗り込んだ。ドアが閉まったのを確認するとウォーカーに群がられる前に車を発進させる。
     リックは農場の出入り口を目指しながら改めて農場に視線を巡らせた。そして、そこにある光景に言葉を失う。
     リックたちが火をつけた納屋は全体が炎に包まれていた。
     家畜が歩き回っていた牧草地はウォーカーで溢れていた。
     古めかしくも美しい家にウォーカーが次々と入り込んでいった。
     そこに「最後の楽園」と称すべき穏やかな農場の姿はどこにもなかった。リックは美しかった農場の末路を目に焼き付けてから顔を正面に戻す。振り返ってもう一度眺めようとは思わなかった。
     三人だけの車内は静かだ。疲労と喪失感が口を開くのを邪魔するせいで誰も一言もしゃべろうとしない。その沈黙はリックたちに容赦なく現実を突きつける。
     自分たちは愛しき我が家を失ったのだ、と。


    *****


     ニーガンはリックの「ニーガン!シェーン!こっちだ!」という呼びかけを耳にしながらも、その声とは反対方向である牧草地に向かって走る。リックとカールの後に続いてキャンピングカーの屋根から下りたものの、集まってきたウォーカーに進路を阻まれて二人の方に行くことができないのだ。声が聞こえてきた方向から考えると二人は納屋の裏側を通ってハーシェルの家を目指すつもりだろう。それならば自分は牧草地を突っ切って彼らとの合流を目指すべきだ。
     ニーガンは共に逃げているシェーンに向かって「牧草地を突っ切るぞ!」と大声で告げた。そうすると隣に並んだシェーンから「どこへ行くつもりだ?」と尋ねられたので、前方を見つめたまま答える。
    「ハーシェルの家だ!リックたちは家を目指すはずだから、俺たちも家に行けば合流できる。」
    「わかった、急ごうぜ。」
    「シェーン、周りには注意しろ。気を抜くとウォーカーに齧られちまう。」
     ニーガンはシェーンに注意を促しながら近くにいたウォーカーの頭をナイフで刺した。シェーンも同じようにウォーカーを倒しながら鼻で笑う。
    「あんたこそ、いつもみたいにヘラヘラしてるとウォーカーに抱きつかれるぞ!」
    「それは遠慮したいもんだな!」
     その後は会話らしい会話をする余裕もなく走った。農場を襲う群れの規模はかなりの大きさらしく、ウォーカーは無限に沸き続けている。ウォーカーを排除するために走り回っていた仲間たちの車も撤退し始めていた。
     ニーガンはシェーンとフォローし合って走り続け、ウォーカーを避けるために迂回しながらも確実に家に近づいていった。その時、シェーンがある方向を見て目を見開く。
    「ローリ!ベス!──不味い!」
     焦りの滲む声に釣られてそちらを見ると、ローリとベスが手を取り合って必死に走る姿が見えた。ローリは手にした拳銃で近寄ってくるウォーカーからベスを守りながら走っていた。その彼女たちが向かう先にはTドッグと車の姿があり、彼はローリたちに「早く来い!」と必死に呼びかけている。
     ニーガンがローリとベスの方に行かなければならないと思った瞬間に別方向から銃声が聞こえてきたため、今度はそちらに視線を向けた。銃声がしたのは道具小屋の方で、その付近に誰かが立っている。
    「シェーン、道具小屋の近くに誰かいる。」
    「何だって?」
     シェーンはニーガンが指差した方を目を細めて眺めた。
    「……キャロルとソフィアじゃないか?あっちも厳しい状況だな。ウォーカーに囲まれそうになってる。」
     シェーンの答えを聞いてニーガンは決断した。リックたちと合流するのを諦めて他の仲間を救う。それが今の最善の行動だ。
     ニーガンは隣を走るシェーンに顔を向けて彼と目を合わせる。
    「お前はローリたちと脱出しろ。俺はキャロルとソフィアを助けに行く。」
    「リックたちはどうする?あいつらを置いていけないっ。」
    「家に誰もいないとわかったら俺たちとの合流を待たずに脱出するはずだ。リックならカールを守って脱出すると信じて、お前は彼女たちを無事に逃がすことを優先しろ。」
     そのように言えばシェーンは数秒黙った後に「わかった」と答えた。彼はこちらを真っ直ぐに見て口を開く。
    「死ぬなよ、ニーガン。」
     シンプルな言葉にニーガンはニッと笑った。
    「お前もな。さあ、行け。」
     シェーンはニーガンの言葉に一つ頷いてから進路をローリたちの方に変えた。その後ろ姿をチラッと見てから、ニーガンは進路を道具小屋の方へ向けた。


     道具小屋を目指すのは簡単ものではなかった。次から次へと迫ってくるウォーカーを倒しながら進むので時間が掛かって仕方ない。ニーガンは舌打ちを漏らしながらも地道に前進し続ける。 
     道具小屋の近くでウォーカーと戦っていたのはシェーンの言った通り、キャロルとソフィアだった。拳銃を構えて冷静にウォーカーを撃ち殺すキャロルの傍らに立つソフィアはルシールを使ってウォーカーの体を押し返している。ソフィアがウォーカーを押し返すことにより接近を許さず、キャロルも落ち着いて対処できているようだ。
     ニーガンが二人との距離を縮めていくと、こちらに気づいたキャロルがホッとしたように笑みを浮かべた。
    「ニーガン!無事だったのね!」
     そう言ったキャロルの声には歓喜の響きがあり、ソフィアも嬉しそうに笑っている。
     ニーガンはナイフで頭を刺したウォーカーを地面に転がすと親子の前に立った。
    「待たせたな。ケガはないか?」
    「私もこの子も大丈夫。」
     キャロルがそのように答えると、ソフィアが一歩前に出てルシールを差し出してきた。
    「バットを勝手に使ってごめんなさい。武器になるものが欲しかったの。」
     ニーガンは差し出されたそれを受け取り、じっくりと眺める。
     状況を考えればルシールを取り戻すのは諦めるしかなかったが、諦められない気持ちがあったことは否定できない。だからこそ手元に戻ってきてくれたことが心から嬉しい。
     ニーガンは微笑みと共にソフィアの頭を撫でる。
    「謝らなくていい。寧ろ助かった。礼を言うよ、スイートハート。」
     感謝と共にウインクを飛ばすとソフィアは楽しそうに笑った。緊張が解れたなら何よりだ。
     ニーガンは手元に戻ってきたルシールを握り直す。そうすると全身に力が行き渡るような気がした。
     ニーガンは短く息を吐いて周囲を見回し、少し離れた場所に停まっている車をルシールで指し示す。
    「あの車で逃げるぞ。援護するから車まで走れ。」
     その指示にキャロルとソフィアは頷き、連れ立って走り出した。走り出した二人を追うウォーカーの頭をルシールで殴り潰しながらニーガンも車に急ぐ。
     車に辿り着いたキャロルは娘を先に乗せてこちらを振り返った。そしてハッとした顔をすると拳銃をニーガンの方に向けて構える。
    「伏せて!」
     ニーガンはキャロルが叫ぶと同時に身を屈めた。直後に発砲音が響き、背後で何か重いものが地面に落ちるような音が聞こえた。振り返ってみると額に穴の開いたウォーカーが倒れていた。
     ニーガンはウォーカーを見遣ってから、安心したように息を吐くキャロルに近づく。
    「俺の後ろにウォーカーがいたんだな。助かった。」
    「噛まれなくてよかった。行きましょう。」
     キャロルはそのように言って運転席に乗り込んだ。ニーガンが助手席に座ってドアを閉めると、既に後部座席に乗っていたソフィアが上半身を乗り出してニーガンとキャロルを交互に見る。
    「二人とも大丈夫?ケガしてない?」
     それに対してキャロルはエンジンを掛けながら「ケガはないわ」と答え、ニーガンも「問題ない」と返した。二人の答えに安心したソフィアは頷いてから車のシートに深く座った。
     ソフィアがきちんと座ると車が動き出す。群がってきたウォーカーを跳ね除けて車は進み、無事に農場から脱出することができた。
     農場が見えなくなってきた辺りでニーガンは口を開く。
    「よくやった、キャロル。しっかりとソフィアを守って戦えてた。君は強くなったな。」
     ニーガンの称賛に対してキャロルは「ありがとう」と微笑む。
    「あなたに叱られたおかげね。私がソフィアを守れるようにならなきゃいけないと思えたから……戦えるようになってよかったと心の底から思う。」
     ニーガンは実感を込めて話すキャロルの横顔を見つめながら小さく笑んだ。
     キャロルは変わった。自分は守られるだけの存在であると主張して泣いていた彼女はどこにもいない。大切な人を守るために自ら戦う強さを得たキャロルを誇らしく思う。状況は最悪であってもニーガンの心は温かなもので満たされていた。
     ニーガンはキャロルから視線を外して前方に顔を向ける。
    「他の奴らの状況だが、俺はリックとカール、それからシェーンと一緒に逃げてた。途中でリックとカールとはぐれたが、二人は一緒にいるはずだ。心配しなくていい。君たちと合流する前にローリとベスを見つけたからシェーンには二人を助けに行かせた。近くにTドッグもいたから、あいつもシェーンたちと一緒にいるだろう。」
    「リックとカールが心配だけど、二人が一緒にいるなら大丈夫ね。リックならカールを守ってくれる。私たちはアンドレアと一緒に逃げようとしたんだけど、ウォーカーと戦っている間に彼女と距離が開いてしまって……」
     言い淀むキャロルをフォローするようにソフィアが「いなくなったの」と続きを引き継いだ。
    「ウォーカーがたくさん来て、アンドレアはウォーカーを倒しながら歩いていっちゃった。そのうちに私にもママにもアンドレアが見えなくなって、どこに行ったのかわからなくなった。」
     ソフィアの話を聞き、ニーガンは話の真偽を確かめるようにキャロルを見た。そのキャロルの表情は曇っている。
    「アンドレアはウォーカーを倒すことに集中し過ぎたんだと思う。私たちから離れないように何度も呼びかけたけれど聞こえてないみたいだったわ。」
     ニーガンは「そうだったのか」と答えて顔を正面に向けた。そして眉間にしわを刻んで考え込む。
     アンドレアは一人でも問題なく戦えるようになったが、農場を襲ったウォーカーの数は多過ぎる。一人で対処するのは難しい。無事に脱出していることを願うしかないだろう。
     アンドレアについてはそのように区切りをつけて、他の者たちについて尋ねる。
    「アンドレア以外の奴らはどうだ?何か知らないか?」
    「グレンとマギーはウォーカーに対処するために車で出ていって戻ってきてない。無事であることを願うわ。ハーシェルは家の前でウォーカーを撃ってた。ローリが呼びに行っても来なかったから、もしかしたら農場に残ってるのかもしれない。」
    「誰かが無理やり脱出させてるといいんだがな。……ジミーは死んだ。キャンピングカーでウォーカーに襲われた。」
     その報告にキャロルは悲しげに顔を歪め、後ろからはソフィアのすすり泣く声が聞こえた。
     しばらく沈黙が続いた後、キャロルから「これからどうすればいい?」と尋ねられた。
    「みんなが無事なのかわからないし、行く当てもない。どうすればいいか全然わからないわ。」
     ニーガンもすぐには答えを返せなかった。
     仲間と連絡を取る手段はない。農場に戻って捜すことも不可能だ。安全な場所を求めて彷徨えば仲間と合流できる確率は下がるだろう。
     ニーガンもキャロルも黙り込む中、ソフィアが体を乗り出してこう言った。
    「ねえ、道路に戻ろう。」
     予想もしていなかった提案にニーガンとキャロルは目を丸くした。
    「道路?どういうこと?」
     キャロルが首を傾げるとソフィアは母に顔を向けて答える。
    「農場に行く前にキャンプしてた場所ならわかりやすいでしょ?みんなも来ると思う。だから道路に戻ってみんなを待ってみようよ。ねえ、ママ。」
     娘の提案にキャロルは困惑した様子でニーガンにチラッと視線を寄越す。
     ニーガンはソフィアの提案を悪くないと感じた。皆が立ち寄りそうな場所といえば農場に来る前に留まっていた公道しかない。ソフィアと同じ発想をする者は必ずいるはずだ。
    「ソフィアの案は的外れじゃないな。行ってみる価値はある。キャロル、場所はわかるか?」
    「ええ、覚えてる。行ってみましょう。」
     キャロルは頷いてアクセルを踏み込んだ。小さな希望を得て気が急くのだろう。
     ニーガンは車の揺れに身を任せながら正面を見据えた。
     リックは無事だ。他の仲間たちも生きているはず。だから必ず会える。あの道路で。


    *****


     無事に農場を脱出したリックはカールとハーシェルと共に大量の車が停まる公道の上にいた。農場に来る前に野営していた場所は他よりも空いたスペースが多くてわかりやすいため、仲間たちを待つならそこが適していると考えたからだ。
     しかし、母を心配するカールは農場に戻りたがった。「農場はウォーカーの巣になってしまったから戻れない」と諭しても機嫌を悪くするだけだった。
     拗ねたカールにリックが困り果てているところへハーシェルから「少し構わないか?」と声をかけられた。リックが「大丈夫だ」と応じるとカールから少し離れた場所へ連れていかれる。
     ハーシェルはカールの様子を気にしながら、声を潜めて話し始める。
    「リック、君は息子の安全を最優先にすべきだ。ここを離れて安全な場所で待っていてくれ。私がここでマギーたちを待つ。」
     信じられないような提案にリックは目を瞠った。そして瞬時に首を横に振る。
    「それはだめだ。ここは安全じゃない。だからこそ一緒に行動しないと。」
    「リック、私はどうなってもいいんだよ。農場を失って、娘たちもどうなったかわからない。だが、君にはカールがいる。最も大切なのはカールを守ることだ。」
     ハーシェルの言葉にリックは目を釣り上げて「絶対にだめだ!」と声を荒らげた。
    「あなたは自分のことがどうでもいいのかもしれないが、俺はよくない。今はマギーとベスの無事を信じろ。いいか、ハーシェル。俺は絶対に離れないからな。」
     リックが語気を強めて言い放つとハーシェルはそれ以上何も言わなかった。
     ハーシェルは自分たち親子を案じてくれているからこそ今のような提案をしたのだとリックは理解している。だが、それを受け入れるわけにはいかない。ハーシェルは大切な仲間だ。絶対に失いたくない。
     それからしばらくの間、リックたち三人はフラリと現れるウォーカーを避けながら仲間たちの合流を待った。じりじりと時間だけが流れていき、遂にハーシェルが「行こう」と声をかけてきた。
    「リック、農場を襲った群れが来る前に移動しよう。もう一度言うが、君が優先すべきなのはカールを守ることだ。いいな?」
     反論を許さない声音にリックは頷く他なかった。
     リックはカールの正面に膝を着き、強張った表情の息子の顔を見つめる。そして重い口を開く。
    「……カール、本当に残念だが、これ以上ここにいられない。ウォーカーが来てしまう。」
     その言葉にカールが悔しそうに俯いた時、微かに車の走行音が響いた気がした。
     リックは立ち上がって音の方に振り返る。そうするとこちらに向かって走ってくる車の姿が目に飛び込んできた。一台、二台、三台──どの車にも仲間の笑顔が見える。
     三台の車は空いたスペースに停まり、そこから次々と仲間たちが降りてきた。一台目の車からニーガンが降りてきて、彼に続いてキャロルとソフィアが姿を見せる。ニーガンは笑顔でこちらに近づいてくると「リック!」と両腕を広げた。
    「ニーガン!」
     リックは喜びを全身で表すようにニーガンの胸に飛び込んだ。そのリックを受け止めたニーガンが抱き返してくれたので、彼の温もりを強く感じられる。
    「無事でよかった……!あんたなら無事でいてくれると信じてたが、やっぱり心配だったんだ。本当によかった。」
     リックが心からの安堵を伝えればニーガンが目を細めて笑う。
    「お前を放り出して死ぬわけないだろ?お前たちも無事でよかった。ハーシェルも一緒だったんだな。」
     ニーガンはそのように言いながらハーシェルを見た。ハーシェルはニーガンと目を合わせて頷いてから、駆け寄ってきた娘たちと再会を喜び合う。
     ニーガンと喜びを分かち合ったリックは近くで抱き合っているローリとカールに近づいた。リックが近づいてきたことに気づいたローリは目に涙を浮かべながら微笑んだ。その嬉しそうな笑みにリックも笑みを返す。
     そして、少し離れた場所で穏やかに微笑むシェーンに足を向けた。
    「シェーン、無事でよかった。途中ではぐれたから心配していた。ケガはないか?」
    「ああ、問題ないさ。リックならカールを連れて脱出できると信じてたが、合流できてホッとした。本当によかったよ、お前たちが生きててくれて。」
     そう言って笑うシェーンの顔に陰りはない。彼が生きていてくれたことと同じくらいにそれが嬉しい。
     リックはシェーンの健闘を称えるように彼の肩を叩いてから仲間たちを振り返った。互いの無事を喜び合う仲間たちを眺めて、アンドレアとパトリシアの姿がないことに気づく。
    「アンドレアは?パトリシアもいないが、二人は一緒にいたのか?」
     リックが問いかけるとキャロルが首を横に振った。
    「アンドレアは途中ではぐれてしまったの。農場を脱出できたのかもわからない。」
     続けてベスが「パトリシアはウォーカーに捕まった」と涙声で話す。
    「私、彼女と手を繋いでいたの。一緒に逃げていたのに、それなのに……!」
     ベスは言葉に詰まり、両目からポロポロと涙を零し始めた。ハーシェルは辛そうな表情をしながらも親しい人の死に涙を流す娘の背中を撫でる。
     リックはアンドレアとパトリシアについての報告に肩を落とした。辛い報告の後だが、ジミーについても話さなければならない。
    「パトリシアのことは残念だ。ジミーについても悲しい報告をしなきゃならない。彼はウォーカーに襲われて死んだ。助けられなくてすまない。」
     リックがジミーの死を告げるとベスが堪えきれないといった様子で父の肩に顔を埋めた。傍らに立つマギーは目を潤ませてベスの背中を宥めるように擦る。
     悲しい知らせの連続に重い沈黙が落ちたが、そのうちにグレンが「アンドレアのことなんだけど」と話を切り出した。
    「彼女がウォーカーに襲われた姿を誰も見てないなら無事だって可能性はあるんじゃないか?無事でいるなら助けたい。捜しに行こう。」
     その提案にリックは首を横に振る。
    「それはできない。農場に戻るのは危険過ぎる。だが、ここで待つことはできる。これだけの人数がいれば見張りは問題ない。グレン、それで許してくれ。」
     リックがそのように告げるとニーガンが「俺もリックに賛成だ」と言ってくれた。
    「あの群れはしばらく農場やその周辺に留まるはずだ。俺たちの装備じゃ近づくことさえできない。言っておくが、ここに長く留まるのもリスクがあるんだぞ。グレン、今の俺たちに武器がどれだけ残ってるのか考えたか?」
     諭すように話すニーガンの表情は厳しいものだった。グレンは叱られた子どものように「ごめん」と項垂れる。そんなグレンの肩を励ますように叩いたのはシェーンだ。
    「とりあえず周りを警戒しながらアンドレアを待つってことでいいだろ?ついでに使えそうな物資を探そうぜ。リック、それでいいか?」
     シェーンの問いかけにリックは頷いた。着の身着のままで逃げてきたせいで食料や武器だけでなく着替えもない。大至急で物資を集める必要がある。
     リックは仲間たちを三つのグループに分けて、一つのグループは野営地だった地点に留まってアンドレアを待ち、残りの二つのグループで物資調達を行うことに決めた。その指示に誰からも異論はなく、解散を告げれば各自の役割を果たすために散っていく。
     それぞれに作業をしながらアンドレアを待って一時間。待ち人である彼女が現れる気配は欠片もなかった。
     リックは腕時計を見て溜め息を落とすと全員を呼び集めた。
    「タイムリミットだ。ウォーカーも増えてきたし、これ以上は待てない。出発する。」
     そのように告げながら、リックは喉に異物が詰まったような感覚を味わっていた。行方のわからない仲間の捜索に行けず、これ以上は到着を待つこともできない。生きている可能性があると知りながら置き去りにするように旅立たねばならないことが何よりも辛くて情けなかった。
     リックの宣言に沈んだ表情を見せる仲間たち一人ひとりの顔を見ながらリックは言葉を続ける。
    「アンドレアを待ちたい気持ちはわかる。俺だって捜しに行けるものなら行きたいし、いつまでも待っていたい。彼女を見捨てるようなことはしたくない。だが、俺にはみんなを守る責任がある。もう誰も失いたくないんだ。だから……許してほしい。」
     その心からの願いを誰も拒否しなかった。誰もが憂いを顔に浮かべながらも頷き、労りの眼差しを向けてくれる。それだけでリックは救われた気持ちになった。
     その時、ローリが「手紙を書くわ」と落ち着いた口調で話す。
    「『ウォーカーが来るから移動する、あなたが私たちに追いつくのを待ってる』って。彼女がここに来た時に少しでも励みになるように手紙を置いていきましょう。」
     ローリの言葉にキャロルが微笑みながら「そうしましょう」と頷いたのをきっかけに、他の仲間たちも次々と頷いた。
     リックはこちらを見つめるローリと目を合わせながら笑みを浮かべる。それだけで賛成の気持ちがローリに伝わり、彼女は嬉しそうに笑った。
     リックはローリから視線を外し、全体を見渡して次の指示を出す。
    「じゃあ、ガソリンを補充した車に集めた物資を積んでくれ。物資を積み終わったら出発だ。周りへの警戒を怠らないように気をつけろ。」
     指示を出せば皆はすぐに作業に取り掛かる。集められるだけ集めた物資を手分けして車に積んだので作業は大した時間をかけずに終わった。皆は出発の準備が終わると速やかに車に乗り込んでいく。
     リックはローリとキャロルが一緒に考えて書いた手紙を受け取り、近くに停まっている車のフロントガラスに置いてワイパーで固定した。そして、しっかりと固定されたことを確かめると自分の乗る車に向かって歩いていく。
     リックは先頭の車の運転席に乗り込んでエンジンを掛けた。その時、視界の端にウォーカーの姿を捉える。獲物を見つけて向かってこようとするウォーカーはガードレールに阻まれて道路に出てこられないようだが、そのうちに何かの弾みで障害物を乗り越えるだろう。
     リックはウォーカーをチラリと見てから視線を真正面に戻した。そしてアクセルを踏み込んで車を発進させる。
     走り出した車はガードレールの向こう側にいるウォーカーの前を通り過ぎて真っ直ぐに続く道を進む。この道の先に何が待っているのか、それはリックにも誰にもわからない。


    *****


     ウォーカーの巣窟となったグリーン農場から少しでも離れるためにリックたちは車で移動し続けた。農場に集まったウォーカーが流れてくることが恐ろしかったからだ。
     休憩を挟みながらの移動ではあったが、昨夜からの疲れが全身に伸し掛かっている。精神的ダメージを受けているせいで肉体的疲労だけでなく精神的疲労も大きかった。誰もが顔に疲れを浮かべて口を閉ざす状況を見過ごすわけにはいかず、リックは夕方になる前に移動するのをやめて休息を取ることに決めた。
     車を停めたのは森の中を走る道路だ。この辺りの木は葉が全て落ちており、葉のない寂しげな木々が生える森は視界を遮るものが何もなかった。そのため遠くまで見通せるのだが、それは自分たち以外の者からもこちらの様子が見えるということになる。それはウォーカーや悪意のある相手の接近を許しやすいということに他ならない。通常であれば見張りの人数は一人だが、今夜は二人体制にするべきだろう。
     リックは仲間たちと共に野営の準備を行い、薄暗くなる頃には焚き火の炎で辺りを照らすことができるようになった。その焚き火の周りに集まって数少ない食料を分け合う。
     簡素な食事が終わった頃、リックは立ち上がって「聞いてくれ」と仲間たちに呼びかける。
    「俺たちはこれから当てのない旅に出る。どこかに必ず安全な場所があると信じているが、それを見つけられるのがいつになるかわからない。それなのに物資や武器は十分じゃない。だから今まで以上に過酷な旅になると予め言っておく。」
     元々所持していた荷物の大半はハーシェルの家に運び込んでいたため旅に必要な道具がほとんどない。もちろん食料を車に積んでいるはずもなく、何もかもかき集めたもので凌ぐしかない状態だ。そのため今後の旅はかなり厳しくて過酷なものになる。それはどうしても避けられない。
     グループの現状を語るリックの話に耳を傾ける全員が無言だった。隣り合う相手と寄り添い合う者。焚き火に視線を注ぐ者。森を覆う暗闇に目を凝らす者。その誰の顔にも厳しさがある。
     リックは仲間たちと同じように厳しい顔付きで話し続ける。
    「この旅を乗り越えるには今まで以上に一人ひとりが強くなって団結する必要がある。全員で協力し合って支え合うんだ。そうしないと俺たちが生き延びることはできない。もうすぐ冬がやってくるから不安は大きいだろうが、乗り越えよう。みんなで一緒に。」
     そのように呼びかけると皆の視線がリックに集まった。
     その時、ニーガンが「俺にも言わせろ」と言って手を上げた。ニーガンは全体を見回しながら語る。
    「今までリックがリーダーとして俺たちを引っ張ってきた。リックの努力が俺たちを守ってきた。だがな、それに甘えるな。これから先もこいつにリーダーを任せるなら負担を減らすべきだ。全員が伸し掛かれば……」
     ニーガンはそこで言葉を切ってリックに視線を寄越した。そして、すぐに他の仲間たちに視線を移すと鋭い声で言い放つ。
    「リックは潰れる。そうならないためにも全員が自分一人で立てるようになれ。それくらいの覚悟が必要だ。」
     その力強い声にリックの胸は震えた。
     ニーガンはリックの仕事を補佐するだけでなく、仲間たちに厳しい言葉を投げかけて自立を促すことでリックを支えようとしてくれている。厳しいことを言うのは嫌な役回りだろう。ニーガンにとっては損だ。それでも彼はリックのために言ってくれた。
     リックはニーガンへの感謝の気持ちで胸がいっぱいになりながら、仲間たちにもう一度呼びかける。
    「全員が生き延びるために力を貸してほしい。俺一人だけじゃ無理だ。」
     その呼びかけに対する返事を皆は頷くことで示した。言葉は何もない。それでも力強い眼差しが「もちろんだ」と告げている。
     リックは全員の顔を見て、グループが一つにまとまったことを確信した。「自分も強くなる」と決意したことが顔を見ただけでわかるのだ。
    (みんなと一緒なら乗り越えていける。いや、絶対に乗り越えてみせる)
     その決意は絶対に曲げない、とリックは自分自身に誓った。


     仲間たちを頼もしげに見つめるリックの背後で風が舞う。その風の冷たさにリックは思わず振り返った。
     厳しい冬が、やってくる。

    To be continued.
    ♢だんご♢ Link Message Mute
    2020/08/23 14:34:35

    道なき未知を拓く者たち⑥

    #TWD #ニガリク ##TWD ##ニガリク


    pixivに投稿した作品と同じものです。
    「リックを最初に拾ったのがニーガンだったら?」というIFストーリー『生まれ落ちた日』の続編。
    農場に滞在することを許されたリックたちは問題を抱えながらも穏やかな日々を過ごしていたが、仲間の身に悲劇が起きる。


    ドラマの展開に沿ったストーリーですが、オリジナル要素を盛り込んでいます。納得できない展開になってもご容赦ください。
    この章が前半最後の話となります。先はまだまだ長いです。
    よかったら、どうぞ。

    more...
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    • リック受まとめ #ダリリク  #シェンリク  #腐向け  #TWD  #ニガリク ##ダリリク ##シェンリク ##ニガリク ##TWD


      privatterで投稿したものと今までに投稿していないものをまとめました。
      平和な世界だったり、ドラマ沿いだったりごちゃ混ぜです。



      ◆今日のダリリク:相手が風呂を上がっても髪を乾かさないので仕方なくドライヤーをかけてやる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       髪を濡らしたままバスルームから出てきたリックを見て、ダリルは眉間に思いきりシワを寄せた。
       リックが「疲れた」と何度もボヤきながらバスルームに入っていった時点でこうなることは予想していたが、予想通りになったからといって喜ぶことはできない。
       ダリルは髪の先から雫を滴らせるリックを捕まえるとバスルームへ引きずっていき、ドライヤーの熱い風をリックの髪に吹きかけ始める。
       乱暴な手つきで髪を乾かしてやるとリックが苦笑いを浮かべた。
      「放っておいてくれて構わないんだぞ?」
      「バカか。風邪でも引かれたら困る。」
       それも理由の一つではあるが、リックに構いたいというのが一番の理由。
       普段は頼もしく凛々しい男がダリルの前では気を緩めて無防備になるのが嬉しい。それだけ自分に心を許しているということなのだと思うと甘やかしてやりたくなる。
       そんなことをリック本人に言うつもりは少しもない。
       そんなわけで、ダリルは緩みそうになる顔を引き締めながらリックの髪を乾かし続けたのだった。

      End




      ◆今日のシェンリク:昼下がり、相手が楽しそうに洗濯物を干しているのを、洗濯物をたたみながら眺める
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       今日は仕事は休み。
       そのためシェーンはリックと共に惰眠を貪り、遅めの朝食……ではなく昼食を食べてから活動を始めた。
       洗濯機を回しながら食器洗いや掃除を行い、それが終わると昨夜干した洗濯物を取り込んでいく。
       洗濯物の取り込みが終わった時点でリックが洗い終わった衣類を持って姿を見せた。
      「干すのは俺がやるからシェーンは洗濯物をたたんでおいてくれ。」
      「任せろ、相棒。」
       仕事中のような受け答えに笑い合いながら各自の仕事に取りかかる。
       Tシャツをたたみ、ジーンズをたたみ、タオルをたたみ……。
       シェーンはキレイにたたんだ衣類を並べながら洗濯物を干すリックに目を向ける。
       物干しに洗濯物を干していくリックの顔には笑みが浮かんでいる。それだけでなく鼻歌まで歌っているようだ。
       「何がそんなに楽しいのだろう」と首を傾げかけて、シェーンは自分の口元も緩んでいることに気づいた。
       ああ、そうか。二人一緒なら何をしていても楽しい。
       シェーンはリックも自分と同じなのだと気づき、自分の笑みがますます深いものになっていくのを自覚した。
       これが終わったら次は何をしようか?
       リックと一緒ならどんなことをしても楽しいに違いない。
       そんな風に心を弾ませながら最後の一枚をたたみ終わると、洗濯物を干しているリックの方へ足を運ぶことにした。

      End




      ◆今日のニガリク:無意識に「おかえり」と言うと相手が驚いた顔で「ただいま…」と小声で返すので、何だかお互いに恥ずかしくなる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       遅くなるなら遅くなるって連絡しろ、クソ野郎。
       リックは怒りと共に冷めきったスパゲッティの皿にラップを貼ってから冷蔵庫を開けた。
       夕食の時間になっても帰ってこなかったニーガンからの連絡は未だにない。「夕食はいらない」という話もなかったので用意はしておいたのだが、日付が変わるまで残り三十分という時間になっても玄関のドアは開かなかった。
       ニーガンという男は他人の思い通りになるような人間ではないと知っていたが、少しは一緒に暮らしている者の身にもなってほしいとリックは常々思っている。
      「どこかの女の部屋にでも転がり込んだのかもな。」
       リックは吐き捨てるように言いながら冷蔵庫の扉を乱暴に閉めた。
       あんな男と一緒に暮らしている自分がバカなのだとわかっていても腹を立てずにいられない。
       ニーガンの言動一つに振り回され、翻弄され、感情が揺れ動く自分が情けなかった。それなのに離れずにいることも情けなくて悔しい。
       「早く帰ってきてほしい」だなんて惨めだ。
       リックは静まり返った部屋の中心に佇み、ボンヤリと床を見つめる。ニーガンがいるとうるさいと感じるのに、今はこの静けさが嫌いだ。
       どうしても「ただいま」の声が聞きたい。
       その時、ドアの開く音が微かに響く。その音に導かれるように玄関へ向かうと、そこにはニーガンの姿があった。
       ニーガンはリックを見ると普段通りの笑みを浮かべた。
      「文句は後にしろよ。説明してやるから、先にシャワーを浴びさせて……」
      「おかえり。」
       リックの口から滑り落ちた言葉にニーガンが驚いた顔をする。それは演技ではなく心からのものだとリックは確信した。
       ニーガンは驚きの表情を浮かべたまま口を開く。
      「……ただいま。」
       それは小さな声だった。
       そのことが妙な恥ずかしさを呼び起こしたため、リックは片手で顔を覆って俯いた。
      「どうして俺が恥ずかしくならなきゃいけないんだ?」
      「それは俺のセリフだ。……文句を言われると思ったのに、今のは反則だ。」
       意外にも近くで声が聞こえたためリックが顔を上げると拗ねた顔のニーガンが目の前にいた。
       リックは一歩後ろへ下がろうとしたが、ニーガンに抱き寄せられたためそれは叶わない。
       珍しく真剣な表情のニーガンは唇同士が触れそうな近さで囁く。
      「リック、もう一度『おかえり』と言ってみろ。」
       結局、この男には逆らえない。
       そう思いながら「おかえり」と口にするとニーガンは満足げに微笑む。
       そして「ただいま」と共に与えられたのは熱い口付けだった。

      End




      ◆ダリリク/制限付きの逃避行

      「笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか」
      https://shindanmaker.com/750576

      【制限付きの逃避行】

       ダリルの視線の先には難しい顔をして考え込むリックがいる。
       出会ったばかりの頃のリックはもっと表情豊かな男だったように思う。良いものも悪いものも表情に出していたように思う。
       しかし、リーダーとしての重さが増していくとリックの顔からは表情が消えていった。
       きっと、背負い過ぎたのだろう。
       きっと、失い過ぎたのだろう。
       それをどうにかしてやりたくても運命は過酷なもので、誰にもリックを救えない。
       だからダリルはリックの傍に行く。頬を撫でてやることしかできなくても、その一瞬だけリックに表情が戻るからだ。
       ダリルがリックの隣に立つとリックは視線だけを寄越してきた。
      「また考え事か?」
      「ああ、別に大したことじゃない。」
       嘘つきめ。
       そう言ってやりたかったが、言ったところで苦笑するだけだろう。
       ダリルは何となくリックに触れたくなって頬に掌を這わせた。そうするとリックは目を細めて幸せそうな笑みを浮かべる。
       笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか?
       ダリルは最近では滅多に笑わなくなった想い人に胸を痛め、自分にできることの少なさに落胆する。
       自分と過ごす時間だけでもリックが幸せだと思えるのならいくらでも傍にいるのに。
       そんなダリルの思いをやんわりと拒むようにリックが離れていく。
      「……もう行かないと。」
       小さく呟いたリックの顔からは表情が消えていた。
      「そうだな。」
       次にリックの笑顔に会えるのはいつになるのだろう?
       リックの傍にいたいのは彼のためなのか、それとも自分のためなのか、ダリルにはそれさえわからなくなった。

      End




      【この熱さをもたらすもの】ダリリク

       照りつける太陽が俺の背中を焼く。
       ジリジリと焦げつく背中に滲む汗は不快さしか与えてくれず、眉間にしわが寄ったのを自覚する。
       作業する手を止めて休めばいいのに「もう少しだけ」と作業を止められない。生き急ぐつもりはないが、小さな焦りが自分の中に存在しているせいなのかもしれない。
       思わず自分に苦笑を漏らした時、後ろから足音が近づいてきた。
      「仕事中毒か?水でも飲んで休め。」
       姿を見せたのはダリルで、彼は水の入ったペットボトルを手にして立っている。
       差し出されたペットボトルを受け取りながら礼を言うと、ダリルの手の甲が俺の頬に触れた。
      「おい、かなり熱いぞ。気分は悪くないか?」
      「大丈夫だ。だが、そろそろ切り上げた方がいいかもしれないな。」
      「あんた、結構汗かきだよな。脱水症状でぶっ倒れても知らねーぞ。」
       ダリルは呆れ顔で俺の頬を軽く叩いた。
       休まずに仕事を続けてしまうのは俺の悪い癖だ。そんな俺をダリルはいつも心配してくれる。
       本当に良い奴だな、と思わず笑みが溢れた。
      「気をつける。それにしてもお前は本当に俺のことをよく見ているよな。そんなに俺のことが好きなのか?」
       笑い混じりに冗談を言ってみた。
       「バカか」と呆れ顔をするダリルを想像していたが、予想とは違ってダリルは目を丸くして俺を見る。その顔が真っ赤に染まるのは一瞬のことだった。
       予想外の反応に何も言えずにいるとダリルが耳元に唇を寄せてくる。
      「好きだけど、何か文句あるか?」
       低く囁かれて背筋にゾクリとしたものが走る。
       ダリルは俺から体を離し、鼻を鳴らして去っていく。それを見送ることができないのは全身が硬直してしまったからだ。
       ああ、熱い。頬が燃えるように熱い。
       思いがけずダリルから与えられた熱に逆上せそうな気がした。

      End




      【Strawberry】ニガリク

       ああ、今日もよく働いた。
       そんな充実感と共にリックは体を伸ばす。
       スッキリと晴れた青空の下で作業をするのは気分が良い。そのためか今日はいつもより張り切って仕事をしたような気がする。
       休むことなく動き回ったので、さすがに体が重い。リックは休憩のために近くの家の壁に背中を預けて座った。
       吹き抜ける風の柔らかさが心地良い。
       耳に届く住人たちの賑やかな声が穏やかな気持ちにさせてくれる。
       様々な困難を乗り越えたアレクサンドリアは希望に満ちた町へと変わりつつある。
      (幸せだなぁ)
       素直にそう感じたリックは微かに笑みを浮かべた。


       リックが幸せな気分を満喫していると足音が近づいてくる。その足音の方へ顔を向ければニーガンが歩いてくる姿が見えた。
       ニーガンのシャツの袖には泥が付いている。畑仕事を嫌がらずに行うニーガンを意外に思ったのはそんなに最近のことではない。
       敵対し、憎み、戦争までした相手と手を取り合って生きていることが信じられないが、目の前にあるのは全て現実だ。そのことが不思議で、おかしくて、そして嬉しい。
       リックがクスクスと笑っていると目の前に来たニーガンが呆れたような顔をする。
      「働きすぎておかしくなったのか?」
      「違う。気にしないでくれ。」
       まだ笑いの余韻を残すリックにニーガンは顔をしかめたが、それ以上は追及せずにリックの正面にしゃがんだ。
       リックの前にしゃがんだニーガンの手には苺が乗っている。畑で育てていたものを持ってきたのだろう。
      「見事な出来だな。ニーガンが農作業が好きだなんて意外だった。」
       そう言ってやるとニーガンはニヤリと笑う。
      「小さなレディだと思えば手間をかけるのも惜しくない。」
       「何だそれ」とリックが笑っているとニーガンはリックの唇に触れた。
      「お前に一番に食わせてやる。口を開けろ。」
       その言葉に従ってリックは口を開けたが、ニーガンは苺を自分で咥えてしまう。
       一番に食べさせてくれるのではなかったのか?
       リックがそんな疑問を抱いているとニーガンが顔を近づけてきた。そしてニーガンが咥えた苺がリックの唇に触れる。「食べろ」という意味なのだと理解したリックは苺をかじった。
       かじった瞬間に口の中に果汁が広がり、甘く爽やかな香りが鼻を通り抜ける。リックは自分を真っ直ぐに見つめてくる瞳を見つめながら苺を咀嚼した。
      「美味い。」
       正直な感想を告げると、それを待ちかねていたかのように残り半分の苺がニーガンの口の中へと消える。
       ニーガンは己の唇に付いた苺の汁を舐め取りながら囁く。
      「お前のためにこの俺が育てた苺だ。全部食えよ、リック。」
      「……本当に押し付けがましい奴だな、あんたは。」
       溜め息混じりのリックの言葉を気にしていない様子でニーガンは再び苺を咥えた。
       リックは「仕方ない」と苦笑してからその苺を咥える。さっきよりも深く咥えれば唇同士が触れ合う。
       そして思いきって苺をかじれば触れ合うだけのものが深い口付けへと変わった。
       苺の甘い汁と共に舌を絡め合えば奇妙な背徳感に背筋がゾクリとする。その背徳感を嫌だと思わないのは目の前の男との甘い時間に溺れているせいだ。
      (甘い、さっきよりもっと)
       この甘さは自分だけのもの。ニーガンが自分のために育てた苺をニーガン自ら与えてくれることで生まれた甘さだ。
       そう認識した時、何度も噛むことでドロドロになった苺が喉を下りていった。
       まだ食べ足りない、と思ったリックは軽く口を開けて「もっと」と強請る。
       「仕方ない奴だ」とニーガンが楽しげな笑みを浮かべながら咥えた苺がリックにはこの世で一番美味しそうなものに見えた。

      End




      【唐突に告げる】シェンリク

      「愛してる。」
       シェーンの鼓膜を震わせたリックの一言は何の脈絡もないものだった。
       シェーンとリックは二人がけのソファーに並んで映画を観ている真っ最中。
       観ているのは恋愛ものの映画ではない。そういったジャンルに興味はなかった。ついさっきまでビール片手にストーリーにツッコミを入れて笑い合っていただけなのだ。
       それなのに突然リックが愛の言葉を口にしたため、シェーンは目を丸くして隣に顔を向けた。
      「何だよ、急に。」
       そう尋ねればリックは楽しそうに笑った。
      「何となく言いたかっただけだ。」
      「そんなムードじゃなかったぞ。」
       変な奴、と苦笑しながら新しいビールに口を付ける。
       突然のことに驚きはしたが、悪くはない。
       相手のことを常に愛しく思っているのはシェーンも同じだ。
      「愛してる。」
       今度はシェーンが愛の言葉を口にした。
       シェーンが再び隣へ顔を向ければリックも同じようにシェーンを見ていた。
       目が合った時、リックの目尻が垂れて幸せそうな笑みが浮かんだ。
       そんなリックを「愛しいな」と改めて思ったシェーンの口も弧を描いていた。

      End
      #ダリリク  #シェンリク  #腐向け  #TWD  #ニガリク ##ダリリク ##シェンリク ##ニガリク ##TWD


      privatterで投稿したものと今までに投稿していないものをまとめました。
      平和な世界だったり、ドラマ沿いだったりごちゃ混ぜです。



      ◆今日のダリリク:相手が風呂を上がっても髪を乾かさないので仕方なくドライヤーをかけてやる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       髪を濡らしたままバスルームから出てきたリックを見て、ダリルは眉間に思いきりシワを寄せた。
       リックが「疲れた」と何度もボヤきながらバスルームに入っていった時点でこうなることは予想していたが、予想通りになったからといって喜ぶことはできない。
       ダリルは髪の先から雫を滴らせるリックを捕まえるとバスルームへ引きずっていき、ドライヤーの熱い風をリックの髪に吹きかけ始める。
       乱暴な手つきで髪を乾かしてやるとリックが苦笑いを浮かべた。
      「放っておいてくれて構わないんだぞ?」
      「バカか。風邪でも引かれたら困る。」
       それも理由の一つではあるが、リックに構いたいというのが一番の理由。
       普段は頼もしく凛々しい男がダリルの前では気を緩めて無防備になるのが嬉しい。それだけ自分に心を許しているということなのだと思うと甘やかしてやりたくなる。
       そんなことをリック本人に言うつもりは少しもない。
       そんなわけで、ダリルは緩みそうになる顔を引き締めながらリックの髪を乾かし続けたのだった。

      End




      ◆今日のシェンリク:昼下がり、相手が楽しそうに洗濯物を干しているのを、洗濯物をたたみながら眺める
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       今日は仕事は休み。
       そのためシェーンはリックと共に惰眠を貪り、遅めの朝食……ではなく昼食を食べてから活動を始めた。
       洗濯機を回しながら食器洗いや掃除を行い、それが終わると昨夜干した洗濯物を取り込んでいく。
       洗濯物の取り込みが終わった時点でリックが洗い終わった衣類を持って姿を見せた。
      「干すのは俺がやるからシェーンは洗濯物をたたんでおいてくれ。」
      「任せろ、相棒。」
       仕事中のような受け答えに笑い合いながら各自の仕事に取りかかる。
       Tシャツをたたみ、ジーンズをたたみ、タオルをたたみ……。
       シェーンはキレイにたたんだ衣類を並べながら洗濯物を干すリックに目を向ける。
       物干しに洗濯物を干していくリックの顔には笑みが浮かんでいる。それだけでなく鼻歌まで歌っているようだ。
       「何がそんなに楽しいのだろう」と首を傾げかけて、シェーンは自分の口元も緩んでいることに気づいた。
       ああ、そうか。二人一緒なら何をしていても楽しい。
       シェーンはリックも自分と同じなのだと気づき、自分の笑みがますます深いものになっていくのを自覚した。
       これが終わったら次は何をしようか?
       リックと一緒ならどんなことをしても楽しいに違いない。
       そんな風に心を弾ませながら最後の一枚をたたみ終わると、洗濯物を干しているリックの方へ足を運ぶことにした。

      End




      ◆今日のニガリク:無意識に「おかえり」と言うと相手が驚いた顔で「ただいま…」と小声で返すので、何だかお互いに恥ずかしくなる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       遅くなるなら遅くなるって連絡しろ、クソ野郎。
       リックは怒りと共に冷めきったスパゲッティの皿にラップを貼ってから冷蔵庫を開けた。
       夕食の時間になっても帰ってこなかったニーガンからの連絡は未だにない。「夕食はいらない」という話もなかったので用意はしておいたのだが、日付が変わるまで残り三十分という時間になっても玄関のドアは開かなかった。
       ニーガンという男は他人の思い通りになるような人間ではないと知っていたが、少しは一緒に暮らしている者の身にもなってほしいとリックは常々思っている。
      「どこかの女の部屋にでも転がり込んだのかもな。」
       リックは吐き捨てるように言いながら冷蔵庫の扉を乱暴に閉めた。
       あんな男と一緒に暮らしている自分がバカなのだとわかっていても腹を立てずにいられない。
       ニーガンの言動一つに振り回され、翻弄され、感情が揺れ動く自分が情けなかった。それなのに離れずにいることも情けなくて悔しい。
       「早く帰ってきてほしい」だなんて惨めだ。
       リックは静まり返った部屋の中心に佇み、ボンヤリと床を見つめる。ニーガンがいるとうるさいと感じるのに、今はこの静けさが嫌いだ。
       どうしても「ただいま」の声が聞きたい。
       その時、ドアの開く音が微かに響く。その音に導かれるように玄関へ向かうと、そこにはニーガンの姿があった。
       ニーガンはリックを見ると普段通りの笑みを浮かべた。
      「文句は後にしろよ。説明してやるから、先にシャワーを浴びさせて……」
      「おかえり。」
       リックの口から滑り落ちた言葉にニーガンが驚いた顔をする。それは演技ではなく心からのものだとリックは確信した。
       ニーガンは驚きの表情を浮かべたまま口を開く。
      「……ただいま。」
       それは小さな声だった。
       そのことが妙な恥ずかしさを呼び起こしたため、リックは片手で顔を覆って俯いた。
      「どうして俺が恥ずかしくならなきゃいけないんだ?」
      「それは俺のセリフだ。……文句を言われると思ったのに、今のは反則だ。」
       意外にも近くで声が聞こえたためリックが顔を上げると拗ねた顔のニーガンが目の前にいた。
       リックは一歩後ろへ下がろうとしたが、ニーガンに抱き寄せられたためそれは叶わない。
       珍しく真剣な表情のニーガンは唇同士が触れそうな近さで囁く。
      「リック、もう一度『おかえり』と言ってみろ。」
       結局、この男には逆らえない。
       そう思いながら「おかえり」と口にするとニーガンは満足げに微笑む。
       そして「ただいま」と共に与えられたのは熱い口付けだった。

      End




      ◆ダリリク/制限付きの逃避行

      「笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか」
      https://shindanmaker.com/750576

      【制限付きの逃避行】

       ダリルの視線の先には難しい顔をして考え込むリックがいる。
       出会ったばかりの頃のリックはもっと表情豊かな男だったように思う。良いものも悪いものも表情に出していたように思う。
       しかし、リーダーとしての重さが増していくとリックの顔からは表情が消えていった。
       きっと、背負い過ぎたのだろう。
       きっと、失い過ぎたのだろう。
       それをどうにかしてやりたくても運命は過酷なもので、誰にもリックを救えない。
       だからダリルはリックの傍に行く。頬を撫でてやることしかできなくても、その一瞬だけリックに表情が戻るからだ。
       ダリルがリックの隣に立つとリックは視線だけを寄越してきた。
      「また考え事か?」
      「ああ、別に大したことじゃない。」
       嘘つきめ。
       そう言ってやりたかったが、言ったところで苦笑するだけだろう。
       ダリルは何となくリックに触れたくなって頬に掌を這わせた。そうするとリックは目を細めて幸せそうな笑みを浮かべる。
       笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか?
       ダリルは最近では滅多に笑わなくなった想い人に胸を痛め、自分にできることの少なさに落胆する。
       自分と過ごす時間だけでもリックが幸せだと思えるのならいくらでも傍にいるのに。
       そんなダリルの思いをやんわりと拒むようにリックが離れていく。
      「……もう行かないと。」
       小さく呟いたリックの顔からは表情が消えていた。
      「そうだな。」
       次にリックの笑顔に会えるのはいつになるのだろう?
       リックの傍にいたいのは彼のためなのか、それとも自分のためなのか、ダリルにはそれさえわからなくなった。

      End




      【この熱さをもたらすもの】ダリリク

       照りつける太陽が俺の背中を焼く。
       ジリジリと焦げつく背中に滲む汗は不快さしか与えてくれず、眉間にしわが寄ったのを自覚する。
       作業する手を止めて休めばいいのに「もう少しだけ」と作業を止められない。生き急ぐつもりはないが、小さな焦りが自分の中に存在しているせいなのかもしれない。
       思わず自分に苦笑を漏らした時、後ろから足音が近づいてきた。
      「仕事中毒か?水でも飲んで休め。」
       姿を見せたのはダリルで、彼は水の入ったペットボトルを手にして立っている。
       差し出されたペットボトルを受け取りながら礼を言うと、ダリルの手の甲が俺の頬に触れた。
      「おい、かなり熱いぞ。気分は悪くないか?」
      「大丈夫だ。だが、そろそろ切り上げた方がいいかもしれないな。」
      「あんた、結構汗かきだよな。脱水症状でぶっ倒れても知らねーぞ。」
       ダリルは呆れ顔で俺の頬を軽く叩いた。
       休まずに仕事を続けてしまうのは俺の悪い癖だ。そんな俺をダリルはいつも心配してくれる。
       本当に良い奴だな、と思わず笑みが溢れた。
      「気をつける。それにしてもお前は本当に俺のことをよく見ているよな。そんなに俺のことが好きなのか?」
       笑い混じりに冗談を言ってみた。
       「バカか」と呆れ顔をするダリルを想像していたが、予想とは違ってダリルは目を丸くして俺を見る。その顔が真っ赤に染まるのは一瞬のことだった。
       予想外の反応に何も言えずにいるとダリルが耳元に唇を寄せてくる。
      「好きだけど、何か文句あるか?」
       低く囁かれて背筋にゾクリとしたものが走る。
       ダリルは俺から体を離し、鼻を鳴らして去っていく。それを見送ることができないのは全身が硬直してしまったからだ。
       ああ、熱い。頬が燃えるように熱い。
       思いがけずダリルから与えられた熱に逆上せそうな気がした。

      End




      【Strawberry】ニガリク

       ああ、今日もよく働いた。
       そんな充実感と共にリックは体を伸ばす。
       スッキリと晴れた青空の下で作業をするのは気分が良い。そのためか今日はいつもより張り切って仕事をしたような気がする。
       休むことなく動き回ったので、さすがに体が重い。リックは休憩のために近くの家の壁に背中を預けて座った。
       吹き抜ける風の柔らかさが心地良い。
       耳に届く住人たちの賑やかな声が穏やかな気持ちにさせてくれる。
       様々な困難を乗り越えたアレクサンドリアは希望に満ちた町へと変わりつつある。
      (幸せだなぁ)
       素直にそう感じたリックは微かに笑みを浮かべた。


       リックが幸せな気分を満喫していると足音が近づいてくる。その足音の方へ顔を向ければニーガンが歩いてくる姿が見えた。
       ニーガンのシャツの袖には泥が付いている。畑仕事を嫌がらずに行うニーガンを意外に思ったのはそんなに最近のことではない。
       敵対し、憎み、戦争までした相手と手を取り合って生きていることが信じられないが、目の前にあるのは全て現実だ。そのことが不思議で、おかしくて、そして嬉しい。
       リックがクスクスと笑っていると目の前に来たニーガンが呆れたような顔をする。
      「働きすぎておかしくなったのか?」
      「違う。気にしないでくれ。」
       まだ笑いの余韻を残すリックにニーガンは顔をしかめたが、それ以上は追及せずにリックの正面にしゃがんだ。
       リックの前にしゃがんだニーガンの手には苺が乗っている。畑で育てていたものを持ってきたのだろう。
      「見事な出来だな。ニーガンが農作業が好きだなんて意外だった。」
       そう言ってやるとニーガンはニヤリと笑う。
      「小さなレディだと思えば手間をかけるのも惜しくない。」
       「何だそれ」とリックが笑っているとニーガンはリックの唇に触れた。
      「お前に一番に食わせてやる。口を開けろ。」
       その言葉に従ってリックは口を開けたが、ニーガンは苺を自分で咥えてしまう。
       一番に食べさせてくれるのではなかったのか?
       リックがそんな疑問を抱いているとニーガンが顔を近づけてきた。そしてニーガンが咥えた苺がリックの唇に触れる。「食べろ」という意味なのだと理解したリックは苺をかじった。
       かじった瞬間に口の中に果汁が広がり、甘く爽やかな香りが鼻を通り抜ける。リックは自分を真っ直ぐに見つめてくる瞳を見つめながら苺を咀嚼した。
      「美味い。」
       正直な感想を告げると、それを待ちかねていたかのように残り半分の苺がニーガンの口の中へと消える。
       ニーガンは己の唇に付いた苺の汁を舐め取りながら囁く。
      「お前のためにこの俺が育てた苺だ。全部食えよ、リック。」
      「……本当に押し付けがましい奴だな、あんたは。」
       溜め息混じりのリックの言葉を気にしていない様子でニーガンは再び苺を咥えた。
       リックは「仕方ない」と苦笑してからその苺を咥える。さっきよりも深く咥えれば唇同士が触れ合う。
       そして思いきって苺をかじれば触れ合うだけのものが深い口付けへと変わった。
       苺の甘い汁と共に舌を絡め合えば奇妙な背徳感に背筋がゾクリとする。その背徳感を嫌だと思わないのは目の前の男との甘い時間に溺れているせいだ。
      (甘い、さっきよりもっと)
       この甘さは自分だけのもの。ニーガンが自分のために育てた苺をニーガン自ら与えてくれることで生まれた甘さだ。
       そう認識した時、何度も噛むことでドロドロになった苺が喉を下りていった。
       まだ食べ足りない、と思ったリックは軽く口を開けて「もっと」と強請る。
       「仕方ない奴だ」とニーガンが楽しげな笑みを浮かべながら咥えた苺がリックにはこの世で一番美味しそうなものに見えた。

      End




      【唐突に告げる】シェンリク

      「愛してる。」
       シェーンの鼓膜を震わせたリックの一言は何の脈絡もないものだった。
       シェーンとリックは二人がけのソファーに並んで映画を観ている真っ最中。
       観ているのは恋愛ものの映画ではない。そういったジャンルに興味はなかった。ついさっきまでビール片手にストーリーにツッコミを入れて笑い合っていただけなのだ。
       それなのに突然リックが愛の言葉を口にしたため、シェーンは目を丸くして隣に顔を向けた。
      「何だよ、急に。」
       そう尋ねればリックは楽しそうに笑った。
      「何となく言いたかっただけだ。」
      「そんなムードじゃなかったぞ。」
       変な奴、と苦笑しながら新しいビールに口を付ける。
       突然のことに驚きはしたが、悪くはない。
       相手のことを常に愛しく思っているのはシェーンも同じだ。
      「愛してる。」
       今度はシェーンが愛の言葉を口にした。
       シェーンが再び隣へ顔を向ければリックも同じようにシェーンを見ていた。
       目が合った時、リックの目尻が垂れて幸せそうな笑みが浮かんだ。
       そんなリックを「愛しいな」と改めて思ったシェーンの口も弧を描いていた。

      End
      ♢だんご♢
    • 飽きたなら、さようなら #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク

      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7辺りのニガリク。
      ニーガンに素っ気なくされるようになったリックが徴収の前日に調達に出かけるお話。


      ニーガンに素っ気なくされるリックを書いてみたかったので挑戦してみましたが、あんまり素っ気ない感じがしないかもしれません。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • リック受けまとめ2 ##TWD ##ニガリク ##ダリリク ##メルリク

      ぷらいべったーに投稿した作品のまとめです。
      ほぼニガリクでした。
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • スコット受まとめ #蜘蛛蟻  #隼蟻  #盾蟻  #腐向け ##蜘蛛蟻 ##隼蟻 ##盾蟻


      診断メーカーのお題で書いたものをまとめました。privatterに投稿していたものです。




      ◆今日の隼蟻:洗う係と拭く係とで別れて、口論しながらも見事な連携プレーで食器を洗う
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

      「だーかーら!今日は俺が夕飯作るって言っただろ!?しかも言ったのは朝!」
       スコットが泡だらけの皿を水で洗いながら怒鳴ると、その隣ではサムが洗い終わった食器を乾いたタオルで拭きながらしかめっ面をする。
      「俺がやりたくてやってるだけだ。俺としては何で怒られなきゃならないのかが理解できないね。」
      「疲れて帰ってきた奴にさせたくなかったのがわかんないのか!?あー、俺の優しさが無駄になった!」
       やけくそ気味に言い放ったスコットの言葉に対してサムが「自分で言うな」とツッコむと、スコットの機嫌はますます下降していく。
       今日の任務はサムだけだったので、スコットは今夜の食事は自分が作ろうと思っていた。毎日食事を作ってくれるサムへの感謝のためでもあったからだ。
       それなのに買い出しで家を留守にした間にサムが帰宅し、スコットが帰宅する前に夕食を作ってしまったのである。
      「あんたに美味いものを食べさせてやりたいと思うのがそんなにダメか?」
       サムはスコットが渡した皿を受け取って手際良く水分を拭き取った。
      「そうじゃなくてっ……サムに少しでも楽をさせてやりたい俺の気持ちも考えろってこと。」
       差し出されたサムの手にスコットは洗い終わった皿を乗せる。その皿の水気もサムの手によってあっという間に消え失せてしまった。
      「あんたを喜ばせたい俺の気持ちも考えてほしいね。……早く次を渡せ。」
      「はいはい、これで最後だよ。」
       スコットが不機嫌そうに最後の皿を渡すと、サムは目を丸くしてスコットの顔を見た。
      「最後?これで終わりか?」
      「何か問題でも?」
      「早いな。もう洗い終わったのか。」
      「……ケンカしても連携プレーはバッチリだな、俺たち。」
       その事実が二人の仲の良さを表しているようで、不思議と笑みが浮かんでくる。
       こうなってしまえば怒りは萎んで消えてしまい、後は仲直りをするだけとなる。
       スコットとサムは向かい合うと互いの体に両腕を回して抱きしめ合った。
      「サム、ごめん。ムキになって怒り過ぎた。」
      「俺こそ悪かった。スコットの気持ちは嬉しかったんだ。」
       謝り合ってハグをすればケンカはお終い。
       残りの時間は甘く穏やかな時間を過ごすことにしよう。

      End




      ◆今日の蜘蛛蟻:なんだか無性に甘いものが食べたいと思ってドーナッツ1ダース買って帰ったら相手も1ダース買ってた
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       お腹が空いたな、と思った帰り道。
       甘いものが食べたいな、と思って回り道。
       良さそうな店を探すピーターの鼻に届いたのは美味しそうなドーナツの香り。
       甘い香りに誘われてフラフラと店に入れば数えきれないほどたくさんのドーナツ。種類の豊富さは選ぶ楽しさを与えてくれる。
      (スコットさんは何が好きかな?)
       同棲中の恋人の好みを思い出しながらドーナツと見つめ合うが、どれも魅力的で一つだけ選ぶのは無理そうだ。
       それならば何種類も買って帰ればいいではないか。
       「我ながら名案だ」とピーターは笑みを浮かべ、澄まし顔で並ぶドーナツたちを次々と指名する。
       ドーナツを購入し、「ありがとうございました」と店員の声を背に受けながら店を出たピーターの手には大きな箱。その中にはドーナツが一ダースも詰まっていた。
       買い過ぎたかな、と思いながらも家に向かう足はステップを踏みそうな勢いだ。
       腹の虫を鳴かせながら家に帰れば愛しいスコットが出迎えてくれる。
      「見て、スコットさん。ドーナツ買ってきたんだ。」
       そう言ってドーナツの入った箱を差し出すとスコットは「えっ!」と言って目玉が飛び出そうな勢いで目を丸くした。
       どうしたのかと尋ねればスコットは気まずそうにダイニングテーブルを指差す。
       そこにあったのはピーターと同じ柄と大きさの箱。
      「俺もドーナツを買ってきたんだ。ピーターが喜ぶかと思って。……一ダース。」
       ピーターは困り顔で頬をかくスコットに抱きつきながら「僕たちの相性は最高だね!」と頬にキスを贈ったのだった。

      End




      ◆今日の盾蟻:仕事で疲れ切った帰り道、家の明かりが灯っているのを見て不意に泣きたくなった(相手には絶対言わないが)
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       すっかり暗くなった通りを歩きながらスティーブは冷たい風に体を震わせる。
       今日の任務は予定よりも時間がかかった。想定外の出来事が起きるのは当然で、そのための心構えは常にできている。
       しかし、疲れるものは疲れる。超人的な肉体を持つスティーブであっても疲れが溜まるのは避けられず、今日は特に疲れが大きい。
       重いものを引きずるように歩きながらの帰り道は気分まで重くさせた。
       暗い道を寒さに震えながら歩くのは妙に落ち込む。通りすがりの相手から嫌なことを言われたわけでもないのに……というより、誰とも擦れ違わないのだが。
      (なんだか情けないな)
       自分自身に対して苦笑しながら歩くうちに我が家が見えてきた。
       狭くはないが広いとも言いきれない小さな家には柔らかな明かりが灯っている。
      (スコット、まだ起きていたんだな)
       同棲を始めたばかりの恋人には帰るのが遅くなると連絡は入れてある。先に寝ていてほしいとも伝えておいたはずだ。
       それでも彼はスティーブの帰りを起きて待っていたらしい。

      ───ああ、一人じゃないことがこんなにも嬉しい。

       そう思った途端に鼻の奥がツーンとして、目の奥が熱くなって、瞬きを繰り返さなければ涙が溢れてしまいそうな気がした。
       スコットという存在が自分の心に温もりを与えてくれることが幸せで……幸せだからこそ泣きたくなる。
       スティーブは家の玄関の前に立つと頬を軽く叩いた。
       泣きそうになったなんて絶対に悟られたくない。いつも通りの自分でスコットに会いたい。
       「よし!」と小さく声を出してからドアを開ければ、愛しい笑顔がスティーブを迎えてくれた。

      End
      #蜘蛛蟻  #隼蟻  #盾蟻  #腐向け ##蜘蛛蟻 ##隼蟻 ##盾蟻


      診断メーカーのお題で書いたものをまとめました。privatterに投稿していたものです。




      ◆今日の隼蟻:洗う係と拭く係とで別れて、口論しながらも見事な連携プレーで食器を洗う
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

      「だーかーら!今日は俺が夕飯作るって言っただろ!?しかも言ったのは朝!」
       スコットが泡だらけの皿を水で洗いながら怒鳴ると、その隣ではサムが洗い終わった食器を乾いたタオルで拭きながらしかめっ面をする。
      「俺がやりたくてやってるだけだ。俺としては何で怒られなきゃならないのかが理解できないね。」
      「疲れて帰ってきた奴にさせたくなかったのがわかんないのか!?あー、俺の優しさが無駄になった!」
       やけくそ気味に言い放ったスコットの言葉に対してサムが「自分で言うな」とツッコむと、スコットの機嫌はますます下降していく。
       今日の任務はサムだけだったので、スコットは今夜の食事は自分が作ろうと思っていた。毎日食事を作ってくれるサムへの感謝のためでもあったからだ。
       それなのに買い出しで家を留守にした間にサムが帰宅し、スコットが帰宅する前に夕食を作ってしまったのである。
      「あんたに美味いものを食べさせてやりたいと思うのがそんなにダメか?」
       サムはスコットが渡した皿を受け取って手際良く水分を拭き取った。
      「そうじゃなくてっ……サムに少しでも楽をさせてやりたい俺の気持ちも考えろってこと。」
       差し出されたサムの手にスコットは洗い終わった皿を乗せる。その皿の水気もサムの手によってあっという間に消え失せてしまった。
      「あんたを喜ばせたい俺の気持ちも考えてほしいね。……早く次を渡せ。」
      「はいはい、これで最後だよ。」
       スコットが不機嫌そうに最後の皿を渡すと、サムは目を丸くしてスコットの顔を見た。
      「最後?これで終わりか?」
      「何か問題でも?」
      「早いな。もう洗い終わったのか。」
      「……ケンカしても連携プレーはバッチリだな、俺たち。」
       その事実が二人の仲の良さを表しているようで、不思議と笑みが浮かんでくる。
       こうなってしまえば怒りは萎んで消えてしまい、後は仲直りをするだけとなる。
       スコットとサムは向かい合うと互いの体に両腕を回して抱きしめ合った。
      「サム、ごめん。ムキになって怒り過ぎた。」
      「俺こそ悪かった。スコットの気持ちは嬉しかったんだ。」
       謝り合ってハグをすればケンカはお終い。
       残りの時間は甘く穏やかな時間を過ごすことにしよう。

      End




      ◆今日の蜘蛛蟻:なんだか無性に甘いものが食べたいと思ってドーナッツ1ダース買って帰ったら相手も1ダース買ってた
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       お腹が空いたな、と思った帰り道。
       甘いものが食べたいな、と思って回り道。
       良さそうな店を探すピーターの鼻に届いたのは美味しそうなドーナツの香り。
       甘い香りに誘われてフラフラと店に入れば数えきれないほどたくさんのドーナツ。種類の豊富さは選ぶ楽しさを与えてくれる。
      (スコットさんは何が好きかな?)
       同棲中の恋人の好みを思い出しながらドーナツと見つめ合うが、どれも魅力的で一つだけ選ぶのは無理そうだ。
       それならば何種類も買って帰ればいいではないか。
       「我ながら名案だ」とピーターは笑みを浮かべ、澄まし顔で並ぶドーナツたちを次々と指名する。
       ドーナツを購入し、「ありがとうございました」と店員の声を背に受けながら店を出たピーターの手には大きな箱。その中にはドーナツが一ダースも詰まっていた。
       買い過ぎたかな、と思いながらも家に向かう足はステップを踏みそうな勢いだ。
       腹の虫を鳴かせながら家に帰れば愛しいスコットが出迎えてくれる。
      「見て、スコットさん。ドーナツ買ってきたんだ。」
       そう言ってドーナツの入った箱を差し出すとスコットは「えっ!」と言って目玉が飛び出そうな勢いで目を丸くした。
       どうしたのかと尋ねればスコットは気まずそうにダイニングテーブルを指差す。
       そこにあったのはピーターと同じ柄と大きさの箱。
      「俺もドーナツを買ってきたんだ。ピーターが喜ぶかと思って。……一ダース。」
       ピーターは困り顔で頬をかくスコットに抱きつきながら「僕たちの相性は最高だね!」と頬にキスを贈ったのだった。

      End




      ◆今日の盾蟻:仕事で疲れ切った帰り道、家の明かりが灯っているのを見て不意に泣きたくなった(相手には絶対言わないが)
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       すっかり暗くなった通りを歩きながらスティーブは冷たい風に体を震わせる。
       今日の任務は予定よりも時間がかかった。想定外の出来事が起きるのは当然で、そのための心構えは常にできている。
       しかし、疲れるものは疲れる。超人的な肉体を持つスティーブであっても疲れが溜まるのは避けられず、今日は特に疲れが大きい。
       重いものを引きずるように歩きながらの帰り道は気分まで重くさせた。
       暗い道を寒さに震えながら歩くのは妙に落ち込む。通りすがりの相手から嫌なことを言われたわけでもないのに……というより、誰とも擦れ違わないのだが。
      (なんだか情けないな)
       自分自身に対して苦笑しながら歩くうちに我が家が見えてきた。
       狭くはないが広いとも言いきれない小さな家には柔らかな明かりが灯っている。
      (スコット、まだ起きていたんだな)
       同棲を始めたばかりの恋人には帰るのが遅くなると連絡は入れてある。先に寝ていてほしいとも伝えておいたはずだ。
       それでも彼はスティーブの帰りを起きて待っていたらしい。

      ───ああ、一人じゃないことがこんなにも嬉しい。

       そう思った途端に鼻の奥がツーンとして、目の奥が熱くなって、瞬きを繰り返さなければ涙が溢れてしまいそうな気がした。
       スコットという存在が自分の心に温もりを与えてくれることが幸せで……幸せだからこそ泣きたくなる。
       スティーブは家の玄関の前に立つと頬を軽く叩いた。
       泣きそうになったなんて絶対に悟られたくない。いつも通りの自分でスコットに会いたい。
       「よし!」と小さく声を出してからドアを開ければ、愛しい笑顔がスティーブを迎えてくれた。

      End
      ♢だんご♢
    • スコット受け他まとめ ##アントマン ##蜘蛛蟻 ##スコット ##ロケット ##トニー

      ぷらいべったーに投稿した作品のまとめです。
      CPあり・なしの話がごちゃまぜ。CPありは蜘蛛蟻のみ。
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • ある寒い日のこと #ウースコ  #アントマン  #腐向け ##ウースコ ##アントマン


      自宅軟禁期間のウースコ。
      寒い日にスコットの自宅を訪ねるジミーのお話。

      寒い日は妄想がはかどるので書いてみました。ウースコというよりもウースコ未満かもしれません。
      いつも「ウーさん」と呼んでいるのでCP表記をウースコにしましたが、ジミスコの方がいいんでしょうか?
      とりあえずウースコでいこうと思います。
      短い話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 赤ずきんとおばあさん #蜘蛛蟻  #ピタスコ  #腐向け  ##蜘蛛蟻


      小説投稿機能のお試し。
      ぷらいべったーで投稿したものを少し手直ししました。タイトルのセンスがないのはお許しください。
      ピーターが遊びに来るのを待つ心配性なスコットのお話。
      よかったらどうぞ〜。
      ♢だんご♢
    • 本能が「欲しい」と囁いた #ニガリク  #TWD  #腐向け  #オメガバース  ##ニガリク  ##TWD

      pixivにも投稿した作品です。
      S7のニガリクで、オメガバース設定を使用しています。
      ネタバレになるので詳細は控えさせていただきます。

      好きなように設定を詰め込んでいますが、よかったらどうぞ。


      2018.6.21 一部を修正しました。
      ♢だんご♢
    • 小さなバースデーパーティー ##TWD ##リック ##カール

      アンディの誕生日にグライムズ親子の誕生日ネタで1つ。
      放浪中の親子の誕生日のお話。短いです。
      ♢だんご♢
    • さよなら、私のアルファ #ニガリク  #TWD  #腐向け  #オメガバース  #オリジナルキャラクター  ##ニガリク  ##TWD

      pixivにも投稿している作品です。
      【本能が「欲しい」と囁いた】の続きになります。
      ニーガンが運命の番と出会ったため、サンクチュアリを出ていくことにしたリックのお話。


      オリジナルキャラクターが複数名登場します。出番が多く、ニガリクの子どもも登場するので苦手な方はご注意ください。
      詳細は1ページ目に案内がありますので、そちらをご覧ください。
      ニガモブ要素を少し含みますし、ニーガンがひどい男です。
      よかったらどうぞ。


      2018.6.21 一部を修正しました。
      ♢だんご♢
    • ベッドひとつぶんの世界 #TWD #ダリリク #ニーガン #腐向け ##TWD ##ダリリク

      pixivに投稿したものと同じ作品です。
      S7辺りのダリリク。
      ニーガンの部下になったダリリクと、二人を見つめるニーガンのお話。


      ダリリクが揃ってニーガンの部下になったら、互いだけを支えにして寄り添い合うのかなーと妄想したので書きました。
      寄り添い合うダリリクはとても美しいと思います。
      CPもののような、そうでないような、微妙な話ではありますが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • ちょっとそこまで逃避行 #蜘蛛蟻 #ピタスコ #腐向け ##アントマン ##蜘蛛蟻


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      スパイダーマンFFH後の蜘蛛蟻。
      FFHのネタバレを含むのでご注意ください。
      辛い状況にあるピーターがスコットの家に逃避行するお話。


      FFHが個人的に辛すぎたので自分を救済するために書きました。
      蜘蛛蟻というより蜘蛛蟻未満?
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 数値は愛を語る #蜘蛛蟻 #腐向け #Dom/SubAU ##蜘蛛蟻

      pixivに投稿したものと同じものです。
      Dom/Subユニバース設定で、Switch×Subの蜘蛛蟻。
      ピーターに惹かれながらも寄せられる想いに向き合うことができないスコットさんのお話。
      特にどの時間軸というのはなく、設定ゆるゆるです。


      突然降ってきたネタに萌えてしまったので勢いで書きました。スコットさんがヘタレです。
      特殊設定なので「大丈夫だよ!」という方は、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • プリンシパルとアンサンブル(前半) #TWD #ニガリク #腐向け #夢小説 ##TWD ##ニガリク

      S7の頃。救世主として日々を過ごす主人公が偶然リックと関わり、それをきっかけにリックやニーガンと深く関わるようになるお話。

      夢小説なので主人公はドラマに登場するキャラクターではありません。夢主がキャラクターたちと関わるのを楽しみつつニガリクを堪能する作品です。
      夢小説とCP小説を合わせた作品なので苦手な方はご遠慮ください。
      主人公とキャラクターが恋愛関係になる展開もありませんのでご了承ください。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 家族写真 #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7辺りのニガリク。
      大切にしてる家族写真をニーガンに奪われたリックのお話。

      「ニーガンはグライムズ親子の写真を勝手に持って帰りそう」と思ったので書いてみました。
      特に盛り上がりのない私向けの話です。お暇な時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 道なき未知を拓く者たち③ #TWD #ニガリク ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      「リックを最初に拾ったのがニーガンだったら?」というIFストーリー『生まれ落ちた日』の続編。
      リックは食料調達のためにシェーンとカールと共に森に入り、その最中に事件が起きる。それはグループの運命を変えるものだった。


      ドラマの展開に沿ったストーリーですが、オリジナル要素を盛り込んでいます。納得できない展開になってもご容赦ください。
      ニガリクタグを付けたら詐欺になりそうなくらいにニガリク要素が少ないです。ニガリクを探せ!という気持ちで読んでください。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 僕はコーヒー豆を挽かない #TWD #ダリリク ##TWD ##ダリリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S5でアレクサンドリアに到着した後。
      「生きてきた世界が違う」という理由でリックや仲間と距離を置くダリルを心配するリックのお話。


      ほんのりダリリクの味がするお話です。
      アレクサンドリアに着いたばかりのダリリクの何とも言えない距離感も良いですね。
      タイトルについては深く考えずに読んでいたたければありがたいです。
      地味な話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • Restart #蜘蛛蟻 #ピタスコ #最新作のネタバレあり ##蜘蛛蟻


      ※スパイダーマンNWHのネタバレを含むのでご注意ください。


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      スパイダーマンNWH後。
      パトロール中のピーターがスコットに出会うお話。
      蜘蛛蟻未満だけど後々に蜘蛛蟻が成立するという解釈で書いているので蜘蛛蟻です。


      スパイダーマンNWHは面白い映画でしたね。
      でも個人的にとてもしんどい展開だったので自分を救済するために書きました。蜘蛛蟻は癒やし。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 侵入者との攻防 #ロケスコ #腐向け ##ロケスコ


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      アベンジャーズ・エンドゲームでのロケスコ。
      毎朝ロケットが自分の上で寝ていることに困惑するスコットのお話。


      エンドゲームを観て見事にロケスコにすっ転んだので書いてみました。
      口調が掴みきれてないので違和感があったら申し訳ないです。
      短い話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 亡霊殺し #TWD #ダリリク #腐向け ##TWD ##ダリリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S2終了後のダリリク。
      リックの傍にシェーンの亡霊が見えるダリルのお話。ほんのりシェンリク風味もあります。

      盛り上がりが特にない私得なダリリクです。ダリリク未満かもしれません。
      じんわりとリックへの執着を滲ませるダリルが好きなので書いてみました。
      本当に暇な時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 雛の巣作り #ニガリク  #TWD  #腐向け  #オメガバース  ##ニガリク  ##TWD

      pixivにも投稿している作品です。
      【本能が「欲しい」と囁いた】の番外編。
      ニガリクが番になって1年が経った頃のお話。
      よかったら、どうぞ〜。


      2018.6.21 一部を修正しました。
      ♢だんご♢
    • 罪な味 #TWD #リック #シェーン #カール #ダリル #ニーガン ##TWD


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      リックと誰かの食にまつわるお話。
      時期も長さもバラバラ。基本的にほのぼのですが、ニーガンとの話はほのぼのしてません。


      ・【ピザ】 リック&シェーン
       アポカリプス前。「ピザの魅力には抗えません」というお話。

      ・【ケーキ】 リック&カール
       アポカリプス前。「いつもと違う食べ方をすると楽しくて美味しい」というお話。

      ・【肉】 リック&ダリル
       平和な刑務所時代。「調味料は偉大だ」というお話。

      ・【フルーツティー】 リック&ニーガン
       S7辺り。「悔しいけれど美味しいものは美味しい」というお話。


      リックに美味しいものを食べてほしいと思ったので書いてみました。ニーガン以外はほのぼのしてます。
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 特に何も始まっていない二人 #TWD #ダリリク #腐向け ##TWD ##ダリリク

      pixivに投稿した作品と同じもです。
      平和な刑務所時代のダリリク。
      特に何も始まってないけれど仲よしなダリリクの詰め合わせ。

      CPというよりブロマンスなダリリクです。お互いに相手を大事に思ってることが滲み出るダリリクが好きです。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 道なき未知を拓く者たち① #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      「リックを最初に拾ったのがニーガンだったら?」というIFストーリー『生まれ落ちた日』の続編。
      リックの家族を捜す旅に出たリックとニーガンだったが、過酷な世界での旅は簡単なものではなく……。


      ドラマの展開に沿ったストーリーですが、オリジナル要素を盛り込んでいます。納得できない展開になってもご容赦ください。
      長編なのでのんびり書いています。次の章を投稿できるのがいつになるのか不明です。
      完全に私得な話なのでお暇な時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • プリンシパルとアンサンブル(後編) #TWD #ニガリク #腐向け #夢小説 ##TWD ##ニガリク


      S7の頃。前作の続きで、ケガの治療のためにサンクチュアリに滞在するリックを世話する主人公がリックとニーガンの関係性を目の当たりにするお話。

      夢小説なので主人公はドラマに登場するキャラクターではありません。夢主がキャラクターたちと関わるのを楽しみつつニガリクを堪能する作品です。
      夢小説とCP小説を合わせた作品なので苦手な方はご遠慮ください。
      主人公とキャラクターが恋愛関係になる展開もありませんのでご了承ください。
      前編よりも主人公がリックに肩入れしています。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 恋しい、と獣は鳴いた #TWD #ダリリク #ニガリク #腐向け #オメガバース ##TWD ##ダリリク ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7辺りのダリリク・ニガリク。
      リックと番になっているダリルがリックと引き離されて情緒不安定な時にニーガンと話すお話。ダリルとニーガンのちょっとしたバトル。


      「αが番のΩに依存する」という設定で書きたくて書いてみました。会話してるだけなので特に盛り上がりのない地味な仕上がりです。
      気が向いた時にでもどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 彼らが愛したのは「   」です #TWD #セディリク #ゲイリク #ニガリク #妊夫 #腐向け ##TWD


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S8終了後。
      ニーガンの子どもを妊娠したために孤立するリックを支えるセディク、ゲイブリエル、ニーガンのお話。セディクがメインです。

      ※注意
      ・男性の妊娠、出産、授乳の表現あり
      ・リックへの差別、迫害要素あり
      ・全体的に重苦しい展開


      CP要素があるような無いような微妙なところです。
      重苦しい雰囲気の話なのでご注意ください。
      本当に気が向いた時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 生まれ落ちた日 #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S1初回。
      ニーガンが病院でリックを見つけるお話。
      S1初回にニーガンを放り込んだだけ。ニーガンの過去について原作の設定を使っているので未読の方はご注意ください。


      S1の時点でニガリクが出会っていたら最強コンビになったのでは?という妄想を形にしてみました。別人感が強いです。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 赤い糸の憂鬱 #TWD #カルリク #ニガリク #腐向け ##TWD ##カルリク ##ニガリク

      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7のカルリク・ニガリク。
      リックとニーガンが赤い糸で繋がっているのが許せないカールのお話。
      特殊な設定がありますが、深く考えない方がいいかも?


      カルリクとニガリクで三角関係が読みたくて書きました。カールの前に立ち塞がるニーガン美味しいです。
      「カールは赤い糸が見える」という特殊設定がありますが、深く考えず雰囲気を味わって頂ければと思います。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 「大丈夫」の言葉 #TWD #ダリリク #腐向け #ケーキバース ##TWD ##ダリリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      平和な刑務所時代のダリリク。
      リックが「ケーキ」であることを知ったダリルが思い悩むお話。
      ケーキバース設定を使っています。この話にグロテスクな要素はありませんが、ケーキバース設定自体がカニバリズム要素を含むので苦手な方はご注意ください。


      リックのことが好きすぎて思い詰めるダリルが大好物なので書いてみました。
      盛り上がりの少ない私得な話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
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