サメ太朗 しょんぼりサメになる永浦さんが、なんだか思い詰めたお顔でサメのキーホルダーを持ってリュックを背負って出ていくのを、サメ棚のみんなで見送ってしばし。永浦さんが外からカチャンって鍵を閉めた音がして、それまで固唾を飲んでたみんなが、一気にうわぁああ!ってなっちゃった。
「ねぇねえ、あれ、永浦さん、いつもの永浦さんと違ったよね?」
ってホホジロザメ(小)のちーちゃんが大慌てで、ホホジロザメ(大)のだいちゃんもうむむ…って唸ってる。と言っても、僕たちが永浦さんに会ったことがあるのはほんの数回なんだけどさ。
初めてスガナミのおうちに来たときは、スガナミはいなくって、永浦さんはしばらく待ってて、そんで帰ってった。次はスガナミと一緒にきて、ちょこっとお話ししてた。あんなデレたスガナミ見たことないよねってサメ棚のみんなで大騒ぎだったもんさ。スガナミは永浦さんの前で平静を装って見せてるつもりだったみたいだけど、サメにはあのデレデレはお見通しだったてなもんさ。
そんでねー、おうちでちゅーしてねー。永浦さんを送ってって帰ってきたスガナミが顔をまっかにしてたの。ばくばつしろ!
その後はまた、永浦さんの空振りが続いて、結局、スガナミと永浦さんが一緒にお家にいたのって、サメのじゃんけんで僕が永浦さんちに行く事が決まった日と後一回ぐらい?もー、スガナミが忙しいのは今に始まったこっちゃないけど、永浦さんとの時間も大事にしなよー。
解剖模型のモケー君も首をひねってる(どこが首かは知らんけど)。
「永浦さんって、言いたいことなんでも言う人かなと思ってたけど、なんか今日は何か我慢してたよな」
「あー、そだよね。スガナミは、永浦さんがなんでも言いたいこと言うのうんうんって聞いてたし、そうなんだと思ってたのに」
「今日は、地元帰りたいって言ってから、なんかいつもと違ったよね」
「違ったちがった」
「でもありゃ、スガナミが悪いよね」
「そーだそーだ、スガナミがわるい!」
ちーちゃんたちがワイワイ言ってる。うん、僕も、そう思う!
僕はね、おうちの外にいる永浦さんのことも、バスのときとサメ展行った時のことを知ってるけど、それでも、あんな永浦さん、見たことないんだよー。もー、こりゃ、てんぺんちいってなもんだよ!
えー、どーなるんだろ!あれ、永浦さんがあのままだったら、多分、もうこのおうちには来ないかもぐらいだよね?ヤダヤダヤダ!僕もう、すっかり永浦さんちの子になるつもり満々なのにー!ばかー!スガナミのばかー!
スガナミ、ギリギリ気づいてたみたいだけど、ちゃんと永浦さんとお話しできるのかな、ってジンベエザメくんがヤキモキしてる。だって、スガナミだよ?別に気の利いた事言えなんてプランクトン1匹分も期待しないけど、永浦さんのことは離しちゃだめだよ、あんなスガナミのことわかってくれて、サメのことも大事にしてくれる天使、もう二度と現れないよ?サメの神様の奇跡みたいなもんなんだから、って、ジンベエザメくん、おち、落ち着こ?ね?
落ち着いていられないよぅ、ってしょぼしょぼするジンベエザメくんをみんなでしょぼしょぼしながら、永浦さんがおうちに遊びにきた時、サメ棚で遊んでくれた思い出を振り返ってた。
僕とサメのじゃんけんをしてくれたことはもちろんだけど、モケー君でスガナミがサメの内臓の話するのをふんふんって聞いてくれたり、ジンベエザメとホホジロザメの食生の違いを、僕たちをよく見てスガナミに質問してたり。スガナミのだいじってわかってるから、絶対勝手に触らないんだけど、だけど僕たちのことを気にかけてくれてた。あぁ、サメの天使…。
あーもー、永浦さんとスガナミどうなったかな…。ジンベエザメくんとちーちゃんが涙腺ないのに泣きそうになってるのを、みんなも涙腺ないのに泣きそうになるのをこらえつつ慰めてたら、なんか、窓から見えるお日様もちょこっと暗くなってきたよ…。しょぼしょぼサメサメ…。
今日、スガナミ帰ってくるのかなぁ。4日帰ってきてないし、今日ぐらい帰ってくると思うけど…。っていうか、4日も帰ってないから永浦さんがあんなことになるんだよぅ!
もー、ほんと、これで僕が永浦さんちの子になれないなんてことになったら、スガナミには、歯が生え変わらないサメの呪いをかけることにする!フカー!