わくわくシャーク バスにのるフカー。
もー、また子供の視界にはいらなかったよー。
さらばーって心の胸ビレを振って連れてかれるサメなかまを見送るのも何匹目かなぁ。ここに来たのは春だったのに、気が付いたらもう店員さんの服も半袖になっちゃってさー。てか、やっぱり場所だよ、場所!
そりゃ僕はかわいいよ。サメぬいのなかでも群を抜くかわいさなのは分かってるから、棚の目立つ上のほーにチンレツしちゃいのは分かる。でもさー、そうすると子供の視界に入んないんだよねー。オヤゴさんが僕を見てオコさん連れてきても、オコさんは自分の視界にはいるサメを選んじゃいがちだからさー。いや、サメなかまがお迎えされてくのはよろこばしーことなんだけどさー。でも、僕も、そろそろここで人間カンサツするの飽きてきたんだよねー。
まぁ、いいけどさー。
とりあえずフカ寝しよ!フカすぴー。
…ん?
なんか目線感じる…。
…目線?!
心の胸ビレでまぶたをこすったら(まぶたないけど)、目の前に人間のカオ!
うわぁ、背が高い子供!…ん?違う、オトナ?ビッグボーイ?
でもなんかこのサメ好きオーラは、毎週シャークタウンに来てるヨシハラコーヘイくん(5さい)みたいな気配!
キミ、サメ好きでしょ!サメの僕の目はごまかせないよ!
すっごい目があう!
キミに決めた!
ねー、ねー、僕を連れて帰らない?
多分ねー、僕、いい仕事すると思うよ?!
なんたって素敵なサメぬいだからね。ほら、ちゃんとエラも5対ついてんだよー。
ほんとさ、最近エラのとこが手抜きのぬいとかあって、ほんとどうかと思うよね!
わっ!だっこされた!
これは、これはもしかする?もしかする?
わくわくシャーク!!!
たくさんのサメ仲間がピッってしてもらってたとこに連れてってもらって、僕もピッてされて、わーい!ほんとに連れてってもらえるー!
あがー。シャークタウンのジンベエザメ模様の紙袋に入るのはあこがれたけどさー、店員さーん、なんで頭を下に入れて…これじゃ頭かくして尾びれ隠さずだよー!あがー!
って思ってたら!
ビッグボーイがお店を出た途端に、頭を上に出してくれた。
わー、よく見えるー!
ってか、やっぱりこのビッグボーイ、サメ好きだよね!
サメのケアが行き届いてるよー。
あ、ちょっと早いけどお昼ご飯ですか。そだよねー、おなかすくよねー。
すぐあくから名前呼びます、ってあぁ、へぇ!「スガナミ」っていうんだ!
ナミって海のナミだよね?
わぁ、いい名前!スガナミ、よろしく!
案内されたお店で、もそもそサンマ定食食べたスガナミ(めっちゃサンマ食べるの上手!身が全然骨に残ってないの!まぁ、サメだったら骨ごと食べちゃうけど)は、リュック背負って、僕の入った紙袋提げて、シャークタウンの外に出た。
わーい!お外!おそと!
もー、何か月ブリって感じだよー。
あっつ!陽射しがあっつい!
なつだー!
スガナミがぷらぷら紙袋揺らしてくれるのも気持ちよくって、ぴかぴかのお空を見ながらお外歩くのサイコー!
え、あれに乗るの?バスまっか!かっこいい!
一番後ろの席にスガナミが座って、僕もおとなり。
わーい、前がよく見えるー!
しゅっぱつー!
街の中をみるのが楽しくて、きょろきょろ見てたら、次のとまるとこに来た。
ドアが開いて、たくさん荷物を持った女の子が乗ってきた。
かわいー!こんちは!
「先生…」
ん、あれ?スガナミと知り合い?
スガナミもぺこりって頭さげてる。
せんせい?スガナミは先生なの?
でも子供を引率したりしてなかったけどなー。
あ、ここに座っていただく、はい、どうぞ、うん、僕の紙袋は窓側に寄せていただいて結構ですよ。あ、二人の様子が見れる向きだ。うれしいなー。こんちは!ぼく、スガナミんちのサメになったサメです!
あ、女の子がお見送りの男の子に手を振ってる。
わー、爽やかで金髪でイケメン!カレシかなぁ。シャークタウンにもねぇ、デートってので二人で来てる人間いたんだよー。
うわ、スガナミがめっちゃみてる。
そんでフーンって頷いてる。
あぁ、カレシですか、って顔にかいてあるー。わかりやすっ!
そんなスガナミをみて、女の子がきっぱりと「幼馴染です」って言う。
「何も聞いていませんが」って、いや、顔にかいてあるんだって。
あ、こいつ話聞いてない、って顔した女の子が、僕を見て話題を切り替えた。
ねー、ほら、僕、いい仕事するじゃーん。
「かわいいですね シャークタウンですか」
かわいいでしょう!シャークタウンです!
「あっ…これは 東京の同僚に」
えっ?!
えっ?!
そうなの?
えっ?!
ぼく、すっかりスガナミんちのサメになる気満々だったんだけど?
えー、あんまサメ好きじゃないかもしれない人とこ行くのやなんだけどー。
「僕はサメの生態に興味があるだけです」
ん?え?
いや、なんか、この流れでそれ言うって、もう、完全にテレかくしじゃない?
だってさー、フカ寝してる僕を起こすほどのサメ選びオーラ出してたんだよ?
さっきの、ウソだといいなー。
「生態…ですか」
ほら、女の子もさっぱりポカーンだよ。
「サメは自然治癒力が高いんです。400年生きている個体も存在するというし、動物界最強の生命力には惹かれるものがあります」
ねー!そうなんだよ!サメはしぜんちゆりょくがたかいし、400年生きてるサメはねー、ニシオンデンザメっていうの!
それにやっぱり、『最強』ってさいきょうにかっこいいよね!
ってめっちゃスガナミ語るやん。オタクのやつやん。
うわぁ、女の子のすんげえドン引きっぷり。これもまさにオタクが浴びるやつ。
「いいです」
すねるなよー、スガナミー。
スガナミのサメへの思いは僕が受け止めてやるよ、な、元気出せ?
「あっ、うちの祖父、カキの養殖やってんです。これ、登米の皆さんにってお土産にもらったんで、先生も食べてください。すごくおいしいんですよ」
あぁ、ドン引いたのにいい感じに話題を変えてくれるあなた、ほんと天使ですよ。
ほんとスガナミがこんなですみませんね。
「僕は人生で3回カキを食べて、3回ともひどくあたっているので、リスク回避のためにもう食べないことにしています」
っておいぃい!スガナミ!
包んで!もうちょっとこう、ことばを!ワカメかコンブか、なんでもいいから!
ほらー、女の子もしょんってしちゃったじゃーん。
そんで気まずくなったからなんか取り出して読み始めるとか、もーすみませんね、スガナミがブアイソで。
あ、女の子もなんか、ご本読む。
ほうほう、なんか読む同士ですか、ってスガナミがけげんそー。
そうなの?
うわぁ、言うてる間に女の子寝落ち!
めっちゃガクンガクンしてるー。
スガナミー。もっとちゃんと支えてあげなよー。
あぁ、あぁ言ってないでさー。
あぁ、自分のリュックも落ちて、もー、がんばー。
あ、いっぱい人が乗ってきた!
うわー、赤いシャツばっか!
「すいません…。あの、すいません。すいません、すいません。詰めてもらってもいいですか」
あぁ、確かに広いとこにふたりといっぴきで座っちゃってるもんねぇ。
すみません、すみません。
うわ、むぎゅ。
スガナミが窓際につめてきて、女の子がさっきより近くなった。
わー、改めてこんちは!おはよ!
バスが動き出して、起きた女の子とスガナミがなんか気まずそう。
んで、スガナミが話題を振った!スガナミが!
やればできるんだー。
「気象予報士試験 受けるんですか?」
「試験を受けようっていうより、気象予報士の仕事に興味があって」
フムフム?
よくわかんないけど、ナルホド?!
「だとしたら、買う本が間違ってます」
って、スガナミがまたしおっしおな言い方~。
じゃあ、何読めばいいんだよぅ!
「じゃあ、先生はお医者さんになろうと思った時、最初にどんな本を読んだんですか?」
おぉ、女の子が聞いた!
さすが!
ってかねー、この女の子、多分カワウソザメみたいに好奇心旺盛なんだと思う!
すてき!
お医者さんになろうと思った時、ってことは、スガナミってお医者さんなの?
かしこ!スガナミ、かしこじゃん!
へぇえ~。
「『ブラック・ジャック』です」
「あぁ」
「嘘です」
「えっ」
…なにこの漫才。
てか、お医者さんのスガナミとキショヨホーシに興味がある女の子と、そもそもどういう関係なんだろ。
まぁ、顔は知ってる、ぐらいな感じだったけど、話すと仲いいってか、妙にかみ合うとこあって、おもしろ!
「とにかく、その本は少しハードルが高すぎますね。漫画とか絵本から始めた方がいいんじゃないですか?永浦さんの場合」
「私の場合」
ナガウラさんっていうんだ!こんちは、ナガウラさん!
てか、感じ悪いなー、スガナミ。なんかこう、さぁ、モノはいいようってか!あるでしょ!
「中村先生は、本当に「ブラック・ジャック」を読んで医者になったそうですから」
ほほぅ、ナカムラセンセイというひともいる、なるほど?
「先生は、中村先生に頼まれて登米に通うようになったんですよね?」
トメ?トメってとこに通うの?通ってるの?
スガナミはどこからきてるの?タイヘイヨー?インドヨー?
「ええ。中村先生が登米に診療所を立ち上げたのは知っていたんですが、今年になって、手伝ってほしいと言われてしかたなく」
「しかたなくですか…」
なんかナガウラさんがちょっこし残念顔。
あれかな、ナガウラさんはトメのひとなのかな。
それでしかたなくっていわれちゃったらショボンだよねー。
「中村先生は、僕の指導医です。頭が上がらないんです」
いいこときいた!ナカムラセンセイにスガナミは頭が上がらない。
メモメモ。
え、いや、そんな悪い事には使いませんよ?
でもほら、知っといて困る事じゃないじゃん?
「ああ、分かります」
分かるんだ。
まぁ、スガナミ、分かりやすい感じだしなー。
「ちょうどよかったんです。東京と登米で一週間おきに入違っていれば中村先生と一緒に仕事をしなくてすみますし」
「そんなに嫌いなんですか?」
ね、そんなに嫌いなんだ?!
「嫌い…ですね」
なんだその、口とがらせて。こどもか!
「まあ、タイプも全然違いますしね」
そんなに違うんだ、サメ好きじゃない感じなのかな。
それかあれかな、タイプが違うっていうから、食べ物が違う感じ?
「あの人と一緒にいると自分の未熟さばっかり思い知らされる」
おぉ!
なんか、いっきに!スガナミが!オトナ!
あー、お医者さんって大変なお仕事なんだよな、きっと。
ナガウラさんも、なんかふーむって顔してる。
そんでもって、バスおりた二人はてくてくかわっぺりを歩いてる。
ひらけてて、川はみずたっぷりで、きもちいーね!
そんでもって、スガナミが僕の紙袋を提げてるのはいーんだけど、ナガウラさん、大荷物!
てか、スガナミも一個持ちましょうかとかそういうのないんかーい。
ナガウラさん力持ちそうだけどさぁ、人間、腕2本あるだろー。少なくとも1本空いてるでしょーが!
「しかし、そもそも勉強するなら、森林施業プランナーとか林業に特化した資格の方がいいんじゃないですか?なぜ気象?」
「山のごどは好きだし、木の仕事も面白いと思ってます。でも、私は海で生まれたので、やっぱり漁業とか海の仕事の役にも立ちたいなって。そしたら、天気は山とも海ともつながってるって分かって!」
ナガウラさん、うれしそう!
木のお仕事してて、そんでもって、海うまれなんだ!
素敵!
てかどこの海なんだろ!
タイヘイヨー?オホーツク?
「本当につながってるんですよ!」
ねー、つながってるんだよねー。
知らんけど。
つながってるって分かった時に、ナガウラさんがほんとうれしかったんだな、って分かる。
たのしーね!
「それで気象…」
「はい」
てくてく歩く二人はスムースハンドシャークぐらい間があいてるけど、でもなんか、バスで最初に会った時より、なんかちょっぴり近い、のかな。
僕はスガナミんちに連れて帰られるだろうから(東京の同僚にってのはきっとウソだと思うシャーク!サメはお見通し!)ナガウラさんとはもう会えないかもだけど、まぁ、これからもスガナミをよろしく!おねがいします!