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    サメ太朗 サメ会議を開催する病院でナカムラセンセーのショメーをもらったモネちゃんに連れられて、スガナミの東京のお家に向かう。昔住んでたお家は、僕がモネちゃんに預けられるタイミングで引き払ってるから、今日行くお家は僕が行くのは初めて。なんなら、モネちゃんにとっても。モネちゃんが気仙沼に引っ越してから、今回が東京にくるの初めてなんだから、ほんとに長い間だったよねぇ。

    東京のお家は病院から大して歩かないところで、スガナミの家選びブレないなって感じ。先週、郵便で届いた合鍵で解錠してるモネちゃんがなんだか嬉しそう。合鍵には木のサメのキーホルダーがついてる。僕知ってる。モネちゃんがずっと大事にしてたキーホルダーなんだよ。ずっと前にスガナミからもらったらしい。

    スガナミとずっと会えない間、鍵がついてないそのキーホルダーは机の上の木のおさらに大切に置いてあった。仕事の合間に時々取り上げて眺めたりしてた。先週、届いた鍵をキーホルダーに着けた時は、モネちゃんがとっても嬉しそうだったんだよね。僕も、なんか欠けたピースが埋まった、そんな気分になったよ。

    「こんにちは〜」
    って言いながら、モネちゃんがそーっとドアを開ける。これねー、僕分かった!なんか、おじゃまします、も違うし、ただいま、も違うんだよね!わかる!ねー。

    入ってみたら、前のスガナミの家よりはちょっと広かった。お部屋もふたつあるみたい。入ったとこのお部屋に寝るとこがないから、多分そっちのお部屋が寝るとこなんだろな。寝るお部屋が別にあるなんて、スガナミも出世した感じがするね!

    モネちゃんも、そーっと周りを見ながらお部屋に入っていって、僕と同じところを見て、ふわって笑った。サメ棚あったー!わー、みんなひっさしぶりー。そして、知らないサメもいるー。こんちはー!

    ね、モネちゃん、サメ増えてるね!って僕が笑ったら、モネちゃんもサメが増えてる、って笑ってる。紙袋の中の僕を見て、みんなと一緒がいいよね、って言いながら、サメ棚に場所がないもんだから、ふたつある椅子のひとつを引っ張ってきて、サメ棚の横に置いて、その上に僕を置いてくれた。モネちゃん、優しい!!さすが!

    その後、荷物からお洋服だしてハンガーにかけたりした後、冷蔵庫を開いて「あー、やっぱり何にもないなぁ」って呟いたモネちゃんは、リュックからお財布とエコバッグを取り出した。なにかごはんの材料でも買いに行くのかも。スガナミはほっといたら家じゃたいしたもん食べないもんねぇ。お世話おかけします。出かける準備をしながら、なににしよっかな~って鼻歌交じりのモネちゃんがにこにこしててかわいい。ねー、こんなの、三年ぶりだもんね!楽しいよね!お買い物、いってらー!

    心の胸ビレを振ってモネちゃんをお見送りしてたら、しばしあっけにとられてたサメ棚のサメたちがざわざわってし始めた。古株のジンベイザメが、ほら!ね!あの子がももねさんだよ!って他のサメたちに言ってる。ホホジロザメ(大)も(小)も、うんうん、って懐かしそうにうなずいてる。実在したんだ…って呆然としてるのがイタチザメとアカシュモクザメで、なんだか素敵な雰囲気の人だね!ってウキウキしてるのがネコザメ。あらためてこんちは!スガナミからモネちゃんに預けられてた、サメ太朗です。

    ジンベイザメがモネちゃん?って聞いてくるから、永浦百音さんが、スガナミ以外の人からはモネちゃんって呼ばれてるから、スガナミがモタモタと永浦さんって呼んでる間に、僕もモネちゃんって呼ぶことにしたんだ、って話をした。ホホジロザメ(大)が、どうせ、みんなが呼ぶ呼び方はヤダとかそんなことだったんだろ、ってぼそって言う。そう!それ!なー、やっぱり大ちゃん(ホホジロザメ(大)だから)もそう思うよね!結局ね、みんなが聞いてる「百音さん」で落ち着いたみたいだよ。でもねー、分かったんだけど、モネには「お姉ちゃん」って意味が入ってるから、スガナミが「百音さん」って呼んで、「お姉ちゃん」の荷物をおろしてあげるのにも意味があるみたい。スガナミの器がちいさいのも、たまには役に立つってもんだよ!

    ホホジロザメ(小)(小だから、ちーちゃん、かな)が、それにしてもなんだか百音さんも雰囲気変わったよねぇ、ってしみじみ言う。ね。ほら、やっぱり、2年半、いろいろあったし、ある意味なかったからさ。そうそう、2年半の間、スガナミはどうしてたの?ずっと会えなかったから気になっててさー。イタチくんとかみんなはいつ頃にここに来たの?

    イタチくんともモクモクくんも、1年ぐらい前だよね?ってちーちゃんが言うと、うん、って二匹がうなずいてる。僕は半年ぐらい前だよ、ってネコさん。そっか。それぐらいから、ちょっとずつスガナミもサメる余裕が多少はあった、って感じだったの?

    そーだねぇ、ってジンベイくんが辛そうに言う。あ、やっぱり、ここで見てても大変だったんだ…。気仙沼にスガナミが行った時があったじゃない?ってジンベイ君。うん、あったあった。気仙沼でね、スガナミはすげー緊張してたし、なんかめっちゃ頑張ってたよ。あ、頑張ってたんだ、よかった、って大ちゃん。あの前の日に準備してるスガナミの緊張っぷりったら見てられなかったもんね。いつもはさっさと終わらせちゃう荷造りも、なんか手が重そうでさー、緊張で吐きそう…とか呟いてて、何しに行くんだって、みんなでざわついてたんだよ。

    ちーちゃん、それねぇ、スガナミはモネちゃんのお父さんのコージとおかあさんのアヤコさんとオジーチャンに、モネちゃんとずっといっしょにいさせてください、って挨拶に行ったんだよ!すごい疲労困憊してたけど、やり遂げてた。うん、ありゃがんばったと思うよ。なんたって相手はコージだし。あぁ、でも一旦コージの話はいいや、長くなるから。

    ほら、あの日さぁ、結局次の日にスガナミがナカムラセンセーに呼びもどされちゃって、気仙沼に24時間もいられなかったんだよー。ジンベイくんが、そうだった、って頷いてる。すぐ帰ってきちゃって、びっくりしたんだよね。あ、やっぱり?

    でね、その日の夜には出勤していって、その後1週間は帰ってこなくてさ。その後も、2週間帰ってこないとかザラなの。帰ってきても、ただ寝て着替えて、そんでまた出勤してく、みたいな。ほら、登米にいる時は、お家にいたら百音さんに電話したりしてたでしょ、そんな様子も全然なくなってさー。

    ジンベイくんのお話に、大ちゃんもちーちゃんも、そうだったよねぇ、って辛そうにうなずいてる。モネちゃんが、スガナミと電話もできない、って、気丈にメッセージだけはずっと送り続けてたころかな。やっぱりほんとに大変だったんだなぁ。

    一回、ズタボロになって帰ってきたことあったよね、打ちのめされてる、みたいな。って大ちゃんが思い出して、あったねぇ、ってジンベイくんがうなずいてる。このサメ棚にさ、なんか封筒おいてたの。帰ってきたら、それをびりびりーって破いて捨てて、うずくまっててさ。しばらくしたら、百音さんに電話してたんだけど、びっくりしたよね。「僕は医者をやめたほうがいいんじゃないか」なんて言い出してさ。

    え、スガナミがそんなこと言ったの?お医者さんをするために、モネちゃんとだって離れてすごすことを選ぶぐらいのスガナミが?…あ!あの時の電話?!あのねぇ、一回ね、モネちゃんがものすごーく緊迫した電話してた時があったの。声はいつも通りなんだけど、すっごくすっごく気を付けてしゃべってたの。「先生がお医者さんでいることを止めることはできない」って。

    あぁ…ってスガナミを見守ってたサメたちが、ものすごく感慨深く納得した顔してる。何なら涙ぐむレベルで。涙腺ないけど。電話してた最初はさ、ほんとにもう消えそうなぐらいだったんだよ、ってちーちゃんが力説する。でも、電話で話してる間に、ちょっとずつ上向いてね。電話終わったら、ちゃんとお風呂にはいってあったかいごはん食べてた。あんな人並みなところ、ほんと一年ぶりだったよね。なんかうどん食べながら、ちょっと泣き笑いみたいになっててさ。表情筋も久しぶりに動かしただろ、みたいな。

    そうだったのかぁ。あの日ね、モネちゃんも、電話終わった後、たくさんの何かをぐっとこらえてたよ。ほんとに、ふたりとも、それぞれの場所で頑張ってたんだねぇ。

    イタチくんとモクモクくん、それにネコさんは、そうだったんだ…って話を聞いてる。スガナミがさ、それなりに家に帰ってくるようになったころに、イタチくんとモクモクくんは来たんだよね、ってジンベイくんがふった話題に、二匹がうんうん、ってうなずいてる。スガナミが新しいサメを連れてこようって思えるようになったんだなぁ、って僕たちも新しい仲間がうれしかったんだよ、ってちーちゃんが笑ってる。

    そだねぇ。そうやって前向きに仲間が増えると嬉しいよねぇ。え、僕のこともみんなから聞いてたの?スガナミのいいひとのとこにサメ代表で行ってるやつがいるって?なのにモネちゃんの実在を疑ってたの?あー
    まぁ、このお家にきてから、一回も姿を見ないんじゃ、そりゃねぇ。スガナミも、モネちゃんの写真の1枚や2枚、飾ればいいのに。モネちゃんは、菜津さんが描いてくれたスガナミと二人の絵とか飾ってるのになぁ。その辺がスガナミだよねぇ。

    ネコさんは?へー!スガナミのおともだちのお医者さんがくれたの?キトクな人もいるもんだねぇ。あ、なるほど、スガナミがその人とお休み代わってあげて出勤したんだ。なんだかんだ、スガナミはそういうとこあるよねぇ。そこでお礼にサメってのが、またスガナミ扱い分かってる人って感じ。ナカムラセンセー以外にもそんな感じなんだろうなぁ。ま、スガナミも分かっててそれに乗ってるのかもしんないけど。…買いかぶりすぎ?

    でも、そっか。そうやって、スガナミはほんとに2年半を生き抜いて、モネちゃんのところに帰り着いたんだってことが、なんかすっごくよく分かった。それをずっと気仙沼の空で信じて応援してたモネちゃんも、そのモネちゃんを信じてがんばりぬいたスガナミも、どっちもえらい!

    ほんと、これからは、できるだけ、ふたりが二人でいられますように、って祈っちゃうね。心の胸ビレで合掌しちゃう。仏教徒じゃないけど。

    あ、そうそう、スガナミが先月、やーっとお休みもらえて、気仙沼に行ったでしょ?その時にはねぇ…って、ほんとにサメ仲間との話がつきない!!2年半分のいろんなお話、モネちゃんが帰ってくるまで、たっぷりしようね!
    ねじねじ Link Message Mute
    2022/08/21 22:35:19

    サメ太朗 サメ会議を開催する

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