サメ太朗 モネちゃんの決意を聞くスガナミが2年半ぶりの夏の初めにモネちゃんのとこにやってきて、サメ次朗をお構いしたり、お構いしすぎてモネちゃんをスネさせたりして。その後、夏の盛りにモネちゃんが僕と一緒に東京に行って婚姻届けだしてフーフになって。夏の終わりにモネちゃんのお誕生日を二人で仙台でお祝いして。
秋の始めにはまたスガナミがシュッチョーにひっかけてこっちに来て、秋の中頃にはモネちゃんが東京にシュッチョーで。(その時はシュッチョーだから僕は連れてってもらえなかった。しかたないけどザンネン!)(そういえば、二人は、モネちゃんが東京に行くのも、スガナミが気仙沼に来るのも、どっちも『帰る』って言う。お互いがいるところがそれぞれイバショなんだって感じで、それはすごいな、って思う)
そうやって新しくフーフになった二人が過ごすようになって、トーホクの早い秋の終わりが近づいたころ、モネちゃんは、自分のお部屋でスガナミとビデオ通話をしてた。最初はお互いの仕事のキンキョーをいつもの穏やかさで話してたんだけど、モネちゃんが何かを元気に言い出したんだ。
「だから、『所帯』を構えるんです!」
「えっ?!」
ショタイ?魚の一種?スズキ目タイ科?あ、それともスズキ目だけど別亜目とか?
サメの話じゃないからスガナミがあわててんのかな。なんだろ、なんだろ。
なんだか気になって、心の胸ビレがパタパタしちゃう。
「気仙沼に戻ってきてからずっと実家でしたけど、結婚したし、ちゃんと自分で『生活』を身につけなきゃいけないな、って思ってるんです」
ふむふむ!なにやらモネちゃんの新しい決意みたい。おうえんするよ!
んでも、セーカツを身につけるのにショタイを構えるって何?
「今まで話を聞く限り、家事もお義母さんと一緒にやってるって話で、仕事と家のことと、と言うのはもうすでに身についている、のでは?それに、結婚したと言っても普段は遠距離だから、あなたも一人暮らしになってしまう」
「それです」
「それ?」
モネちゃんが両手をぐっと胸の前で握ってうんうん、って頷いてる。イッショーケンメーなモネちゃんかわいいなぁ。スガナミはそのモネちゃんの勢いに、まだ圧倒されて思考がついていってないみたい。がんばー。
「どれだけ実家で家事をやってても、手伝いの域をでないというか、オーナーじゃないんです。それに、生活にかかる費用のことだったり、手続きだったりも、私全然知りません。登米ではサヤカさんちに下宿させてもらっていたし、東京ではシェアハウスだったり。だから、『所帯』を維持するってことをちゃんと身につけたいんです」
モネちゃんのイッショーケンメーな説明に、スガナミがうぅん…って唸ってる。なんか、納得もしつつ、承服しかねるって感じのやつ。なんだよー、モネちゃんがやってみたいってんだから、応援すりゃいーじゃーん。ケチー。スガナミのケチー!
「分からなくはない、けど…」
「先生は一人暮らしが長くて、生活するのにどんな手続きが必要か、とかどんな費用が掛かるか、とか知ってるでしょ?登米と東京でお引越しも経験してるし」
「まぁ、そうだね」
「ってことは、いつか一緒に住むとき、全部先生におんぶにだっこになっちゃう」
「それは僕は気にしないけど。…まぁ、あなたが気になる、んだね」
「そう」
うんうん、って頷くモネちゃんに、うーん、って首をひねりつつもスガナミもなんだか承服の方向ではある感じになってきた…かな?でも、これまだスガナミは粘るぞ、きっと。これはサメの勘!
「そうやってこれからのことを百音さんが考えてくれてるのはうれしい。ところでお義父さんとかはなんておっしゃってる?せっかく百音さんが気仙沼に戻っているのに」
おー、コージを引き合いに出してる!スガナミの作戦だ!
そだよねぇ、永浦のおうちからモネちゃんがまたいなくなるってコージも寂しいよねぇ。
あれ、でも、モネちゃんとスガナミが仙台にお出かけしてる時に、『またモネもじきに家を出てくよなぁ』なんて話もしてた…ような…?
「あ、それだったら。『婚約中とはいえ独身の間は親元にいてくれた方が安心だったけど、結婚して所帯持ちになったなら出た方がいい』って言ってます」
「へっ?」
ほらー、スガナミの作戦しっぱいー。
てかコージもなんだかんだオトナだよねぇ!まぁ、アヤコさんに言い含められたのかもだけど、それを受け入れてるだけオトナ。実際いいトシのオジサンなんだけどさ!あ、オジサンっても魚じゃないよ!
「それで、いくつか物件調べてみたんです。亀島でも探したんですけど、やっぱり島にはちょうどいい賃貸ってなくて、市内でも島寄りの東側にしようかなって。りょーちんにも聞いてみたりして」
「ちょ、ちょっと待って。もう物件を探して?」
「はい」
それが何か?って顔のモネちゃんにひたすらスガナミが焦ってんのが笑える。こうなったモネちゃんはスガナミには止めらんないもんねぇ。止めれるか知らんけど、がんばー。
「東京の家賃相場に比べればこっちは全然安いですけど、やっぱり自分の今の給与と考えるとそんなに贅沢はできなくて、でも先生がこっちに帰る時のことを考えたら、1LDKか2Kは欲しいかなとか思ったりして。いくつか専門学校とか短大があるからワンルーム物件もないわけじゃなくて…」
ってしゃべるモネちゃんを、スガナミが制止してる。
「あの! 分かりました。分かったから、物件探しは僕にも手伝わせてください。あと、内見も。来月、僕がそっちに帰るでしょ、その時に一緒に見に行きましょう。物件選びにはいくつか考慮すべき条件がありますから」
あー、スガナミが受け入れた!そんでもって、そしたらそれで色々言い出したー。さすがスガナミ。でも、スガナミがいう条件ってなんだろ?海が見えること、とか?
モネちゃんもふしぎそーにしてる。
「間取りとか以外に?」
「一番大切なのは防犯です。僕がいない間は女性の一人暮らしになるんです。亮さんの物件選びとは同じ考え方というわけにはいきませんよ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものです。あなたは東京で深夜に通勤をしていた頃からあまり危機感を持っていなくて僕も口うるさく言ってしまっていましたが、それはたとえあなたの地元だとしても同じに危機感はもっておくべきなんです」
ふむ…ってモネちゃんは首をかしげてるけど、スガナミの言葉も分かんなくもない。それに、普段そばにいられなくて、コージやアヤコさんとも離れるってなったら、心配は心配だよね。汐見湯にいたときはナツさんもスーちゃんもいたし。モネちゃん、それは分かってあげてー。
「分かりました。じゃあ、来月、先生がこっち帰ってくる時に、色々進めましょ。それまでにもうちょっと調べときます」
モネちゃんの言葉に、スガナミがちょっと安心した気配。
「考えてほしい条件、後でリストで送ります。あ、百音さんが調べたって物件情報送ってくれる?それを参考に自分も場所の目星とか、百音さんが考えた条件とか把握したい」
「んじゃ後で送ります」
「うん、お願い」
じゃあ、また、って通話を切ったモネちゃんが、スマホを手にしてベッドにいる僕のとこにきた。僕のことをむぎゅーってして、なんだかうれしそう。
「へへー。ついに先生に言っちゃったよ、サメタロー!」
って僕のはなっつらつんつんしてくる。あがー!
そっか、モネちゃんもしばらく考えてかんがえてしてて、そんでついにスガナミに言えたんだね。
そだよねぇ。フーフになって、これからどうするって話、東京でも二人でたくさんお話してたもんね。そこからモネちゃんも色々考えたんだよね。スガナミはほんとにカホーモノだよ、こんなモネちゃんとフーフになれて。あ、涙でそう。涙腺ないけど。
って僕のことをしばらくむぎゅむぎゅしてたら、モネちゃんのスマホがなんどもピコン、ピコンって鳴り出した。モネちゃんが画面を見て、もーって笑ってる。スガナミがなんかあれこれ早速送ってきてるみたいで、10回ぐらいピコンがなってやっと止まった。
ホント先生は相変わらずだよねぇ、ってモネちゃんが笑いながら、僕の胸ビレをぱたぱたさせる。その相変わらずなスガナミのメッセージをとりあえずスルー出来るモネちゃんも、マジ相変わらずモネちゃんって感じだけど。
来月、スガナミが帰ってきておうちさがすの楽しみだね!
あ、僕も連れてってもらえるのかな、おうちさがし。
ん?それに、僕もモネちゃんについてくから、そろそろサメ三朗も探さなきゃ!
モネちゃん、忙しくなるね!
だいじょぶ、僕がついてるー!