Choux à la crème de requin気仙沼のおうちにスガナミが帰ってくる日、モネちゃんはそりゃもう、ソワソワしてウキウキしててめちゃくちゃかわいい。スガナミのためにこんなにかわいいのは、スガナミがけしからん!って思うけど、どう逆立ちしても、スガナミに会う前にソワソワウキウキしてるモネちゃんをスガナミは見れないから、それはこの僕のサメの特権って感じ。いつも、スガナミの代わりにモネちゃんを支えてるゴホービみたいなもんだよねー。へへー。
何度も壁の時計を見てたモネちゃんが、よし!って立ち上がるのは、スガナミが乗ってくる電車が到着する15分前。島に比べれば、今のおうちは気仙沼駅に近くって、スガナミが自力でたどり着くこともできるんだけど、それでもやっぱりモネちゃんは1分1秒でも早く会いたいから、スガナミをお迎えにいく。そりゃそーだよねー。あぁ、この、さあお迎えにいくぞ、って車のキーをいそいそ準備するモネちゃんがまたかわいいんだよね。いってらー!
って思ってたら、トートバッグを手にしたモネちゃんが、僕のことをひょいって入れて、おでかけバッグと一緒に玄関に連れてってくれた。え、今日は僕もお迎えにいくの?わーい!お外!それに、スガナミにもちょっと早く会えるー。いやさ、そりゃモネちゃんと一緒にいる時のスガナミには、1分1秒ごとにばくはつしろ!って思ってるし、モネちゃんにデレてるスガナミはばくはつするしかない。けどさ、いうて僕はスガナミがシャークタウンから連れて帰ってくれたからサメ太朗になれてるわけだし、スガナミのことは名誉サメ認定もしてるってもんで、スガナミにちょっと早く会えるのがうれしくないわけはないんだよ。まぁ、サメのしんちゅうもフクザツなもんで。
モネちゃんが僕を助手席に乗せてくれて、ちゃんとシートベルトもしてくれる。やさしい。さすがサメの天使。しゅっぱーつ、って小さい声で楽しそうに行って車を出すモネちゃんが嬉しそう楽しそうで、こっちまで心の胸ビレがパタパタしちゃうってもんですよ。
10分ぐらいで気仙沼駅に着いて、そしたらもう、駅に電車が入ってくる気配はすぐ。モネちゃんの時間の塩梅は絶妙で、それも、スガナミがシューデンで帰ってくる時に、モネちゃんがお迎えに来るときは絶対に早くには来ないで、ってカホゴに言うもんだから。それで、モネちゃんも、時間ピッタリにお迎えできるようになっちゃって。まぁ、今日はまだまだお日様もぴかぴかのお昼だけど。
駅前にある謎の黄色い生物(どうやらカミナリをどうこうできるイキモノらしい)の横からスガナミが姿を見せたら、モネちゃんの車をすぐに見つける。そりゃもう、途端にスガナミの顔がへにゃって溶けて、そんでモネちゃんの顔もぴかぴかの笑顔なんだからもー、スガナミだけばくはつしろ!
「ただいま、百音さん」
「先生、おかえりなさい」
モネちゃんが開けた助手席の窓からスガナミが顔をのぞかせて。いっかげつぶり!スガナミー!おひさー!
あ、気づいた。
「今日はサメ太朗も連れてきたんですね」
「うん」
スガナミは、サメ太朗もただいま、って言ってくれながら、後ろの席に持ってきた荷物を置いて、そんで助手席のドアを開けてきた。僕をトートバッグごとお膝にのせて座って。わー、スガナミのお膝ひさしぶりー。吻をもにゃもにゃされるー。むふー。
「じゃあ、とりあえず出しまーす」
って他のお迎えの車の邪魔にならないようにモネちゃんが車を動かして、ホヤぼーやの乗ってる灯台みたいな目印のとこまで来たとこで、曲がりまーすって矢印をひょいって右に出した。
「あれ?左折じゃなくて?」
「うん。ちょっと帰る前に寄りたいところがあって。いいですか?」
「もちろん」
「はーい」
えー、どこだろ、どこだろ。って思ってたら、スガナミもどこだろ、って顔してる。ねー、どこだろねー。ぐるっと車を走らせて、川をこえて。意外とこの辺来たことないなぁ、ってスガナミが僕とおんなじに周りを見渡してるのがおもしろい。そだよねー、スガナミも、気仙沼に帰ってきた時には、ホンドの二人のおうちか、亀島の永浦のおうちに行くかって感じだもんねぇ。わーい、みんなで探検!
「あそこです」
四つ目の赤信号のとこでモネちゃんが指さしたのは、駐車場の奥に看板と小さな建物があるとこだった。よめなーい!えっとねー、最初のもじはね、えふ、ってのは分かる!エヘン!
「『Forêt de Choux à la Crème』…。フォレ・ド・シュ・ア・クレーム。シュークリームの森?」
ってスガナミ読めてる!かしこ!
「そう、シュークリームのお店です」
モネちゃんはにこにこしながら、ついーって車をその『シュークリームの森』ってとこに停めた。ふむふむ、何やら森なんですね?でもフツーの建物じゃない?かわいいお花は飾ってあるけど。
モネちゃんがシートベルト外して降りるのに、スガナミもおんなじに降りようとして、僕を助手席に置いたら、モネちゃんが、あ、サメ太朗も連れてって下さい、むしろサメ太朗が必要です、なんて言う。ですよね!僕を置いてくとかありえないですよね!な、スガナミ!そーゆーとこだぞ!
フム、ってスガナミが僕のはいったトートバッグを提げて、もうかたっぽの手をモネちゃんと繋いで、お店の中にはいったら、わー!すごい!ぴかぴかのケーキとかシュークリームとかがケースに並んでる!あ!見てみて!サメの!サメのシュークリームがあるよ!
心の胸ビレと背ビレをぱたぱたさせたら、スガナミも気づいたみたい。スガナミが気づいたことにモネちゃんも気づいて、スガナミを見上げて笑ってる。
「期間限定で、サメのシュークリームが出たんです」
「ナルホド」
モネちゃんの説明に、スガナミは短くうなずいてるけど、こうしてモネちゃんがサメのおやつ見つけてくれてたのがうれしいってのが、だだもれてて、せっかくのシュークリームがばくはつしないか心配になっちゃう。後でばくはつしろ!
「いらっしゃいませ」
ぴかぴかのケースの向こう側のおにーさんがモネちゃんに挨拶して、モネちゃんも、こんにちは、ってお返事。あ、これ、知り合いな感じ?
「やっとサメができましたね」
ってモネちゃんがニコニコでお話してる。えー、知り合い?しりあい?
「早速、買いに来ました!2つお願いします!あ、サメ、連れてきました!」
え、あ?僕の事?はいはーい!僕、サメでーす!
「あはは、ありがとうございます。こちら、お話に聞いていた東京の?」
「はい、夫です。さっき駅に着きまして」
スガナミが、流れでぺこりって頭下げてる。まぁ、その辺、スガナミもある程度のシャカイセーってもんを身に着けたわけだよね。
「サメグッズご持参なので、おまけのシトロンクッキーつけておきますね」
「ありがとうございます!」
あー、ナルホド、だから僕を連れてきたんだー。
ここ、ケーキも美味しいんですよ、ほら、前に父の誕生祝した時のケーキもここなんです、ってモネちゃんがスガナミにお話してて、スガナミもそうだったんですか、って頷いてる。
シュークリームが箱に詰められたとこで、ケースの奥からおねーさんが出てきた。
「永浦さん、こんにちは!」
「こんにちは」
レジを打つおねーさんとモネちゃんもお知り合いみたい。
「次の需給予想の打ち合わせ、来週の予定通りでいい?」
ってレジを打ちながらおねーさんが言ってて、モネちゃんもその予定です、なんて頷いてる。
一緒にお仕事してる人なのカナー。
「ちょっとね、夫は大口の注文が入って配送で出る予定なんだけど、私はいるから」
「了解です」
さっきの人、おねーさんのオットかぁ~。ごフーフでケーキとシュークリーム屋さん、すてき!
お会計を済ませたモネちゃんは、お礼を言ってうれしそーに袋を受け取って、また来週、って挨拶してる。スガナミはまたぺこりって頭さげて、僕もスガナミのまねっこをして心の吻をぺこりってしておいたよ!なんせ礼儀ただしいサメですんで!
車に乗り込んで、買ったシュークリームをそっと後部座席に置いたモネちゃんが、シートベルトをしながらスガナミにお話してる。
「最近、需給予想のサービスを使ってくださってるパティスリーなんですけど、動物モチーフのシュークリームを定期的に作ってたんです。それで、サメのもあったらいいなぁ、って言ってたら、今月作るよって聞いてて」
「そうだったんですね。初めて見たよ、サメのシュークリームなんて」
「ね!私も今日初めて実物見ましたけど、ほんとにちゃんとサメで!帰ったら椎の実ブレンドでおやつにしましょう」
「楽しみだ」
モネちゃんのニコニコに、スガナミもふにゃふにゃ。そんで、モネちゃんが僕の吻をもにゃもにゃしてくれた。えへへー。
そんでもって、おうちにかえったら、二人は仲良くコーヒーをいれて、サメのシュークリームをお皿にのっけて、楽しそーにお茶タイムを始めた。僕もテーブル脇にスツールに座らせてもらってオショーバン!まぁ、だってサメのシュークリームだもんね!
なんか背ビレもついてるし、クリームたっぷりでチョコのぴかぴかの目もついてる!
「やっぱりこの背ビレがサメ感になってるんですかね?」
「普通、シュークリームに背ビレないですからね。それに、このシューの切れ目がちょうど口の見立てなんだ」
「ちゃんとエラもチョコで5対かいてある」
いただきます、ってコーヒーのマグカップをかつん、って乾杯して、コーヒーを一口のんだ二人は、あったかい、って笑ってて、こーゆーのいーな!って思う。それにオショーバンしてる僕はとっても幸せなサメだナー。
スガナミがサメのシュークリームをじーっと見てる。
そんで見てるのに気づいたモネちゃんがくすくす笑ってる。
「サメ、食べるのがもったいないですか?」
「なんか目があった気がして」
「言うと思った」
ってモネちゃんがお見通しでした、みたいに笑うのがまたかわいい。そんで、かわいいってスガナミが思ってるのがまた駄々洩れで、やっぱりスガナミはばくはつするしかない。
「こういうのはもう、がっと食べるしかないですよ、がっと」
わー、モネちゃんがマジモネちゃんって感じ!
サメの背ビレをとったモネちゃんが、中のクリームを掬ってスガナミにあーんって食べさせて、スガナミもしょーがないって顔してあーんって食べさせてもらってる。きけん!モネちゃんまでばくはつしちゃう!
もぐもぐってしたスガナミが、うまい、って笑うもんで、モネちゃんもまたニコニコで。
スガナミもおんなじにしてモネちゃんに食べさせてあげて、モネちゃんの口の横についたクリームを指で拭ってあげたりしてる。
サメのシュークリーム、なんてキケンなたべものなんだ!
サメだけに!しゃーく!