愚痴と書いてのろけと読む 町の端の方にある食事処でばったりと会った二人は、最初こそごく普通の当たり障りのない会話をして、ある程度飲んだところで基地へ戻り部屋飲みへ移行したのだが。
「うちのがねえ、ほんっとに、かわいくて……」
……くだをまく相手、この部屋の主であるところのジョエルを見て、グレンは溜め息を吐いた。普段は真面目で、今回の出向でも一度たりとて羽目を外さなかったジョエルを酔わせてみたらどうなるか、とぐいぐい飲ませた結果がこれである。
「中尉のとこはどうなんですか、あの、少佐とはどうなんですか」
「は?」
「あのひと雑だしわりと勢いで動くけど、実際頼りがいあるし情深いっていうか……うん……彼氏? としては? 優良そうですし」
――こいつ絶対明日の朝死にたくなるぞ。
哀れむような表情をしたグレンは、グラスの中身をあおるとナッツに手を伸ばした。
「そっすね、バカだけどまあ、……うん、命預けてもいいとは思ってるし……って俺のことはいいんだ、そっちはどうなんすか。恋人サンの方は。あんまりいちゃつきそうなイメージないっすけど」
「それな」
ついに敬語まで抜けたジョエルの目は酒精に濡れ、蜜のような色をしている。
「あいつはなあ、俺がいないと駄目なのに、もっとこう、甘えてくれてもいいのに……」
ぐずぐずと言いながらハムをつまんだジョエルは、すわった目でグレンを見た。
「あいつはな、かわいいんだ」
「さっき聞きましたねそれ」
「あんなにかわいくて……きれいで……俺のこと、すきだって、あの声で、だから」
俺もうあいつにならどれだけ女にされたっていい。
口走った内容の意味を十二分に察して、グレンは再度、こいつ絶対明日の朝死にたくなるぞと確信した。
「……すごいらしいからな、そりゃ女にもされるよな」
自分の相棒が力説していたことを思い出したのか、溜め息混じりにハムをつまもうとしたグレンの手をジョエルが不意に掴む。
「お前どっちなの」
「……え?」
「少佐も強そうだし」
「あー……」
曖昧に言葉を濁したグレンにも構わず、言葉は続く。
「気持ちよくしてやりたいんだ、なのに毎回、わけわからなくなって……俺別に美人でもないし、かわいく喘いだりとか無理だし、あいつとしか経験ないからテクニックとかないし」
「うん、ちょっと待とう、そろそろやめた方が」
「どう思う? 男として、抱いてる相手がいつもいっぱいいっぱいで、こっちに奉仕とかしてこないのは」
「いや……反応してるなら大丈夫じゃないすか、めちゃくちゃ感じてくれてたら興奮するでしょ。それはいいとして、ね、もうやめよう」
「もう無理……飽きられる……いくら好きでも体は別じゃん……しないってなったらどうしよう……」
――めんどくさい。
グレンがそう思ったかはわからないが、とにかくこれはもう寝かせるべきだと判断はしたのだろう、腕を引いて相手を立ち上がらせ無理矢理ベッドへと寝かせ、服の襟元とベルトを緩めたところで部屋の扉がノックされた。
「すみませんジョエル、明日のことで伝え忘れていたことが、」
部屋へ入ってきた青年は……エルウィンは、自分の恋人が他の男に服を脱がされそうになっているのを見て、顔色を変えた。
「貴様ッ!」
「待て待て待て誤解だ! 酔っ払いの介抱してただけ!」
一足飛びに距離を詰めグレンの胸ぐらを掴んだエルウィンは、テーブルの上に並べられた空き瓶やつまみと、ベッドの上からとろんとした目で自分を見上げているジョエルの様子を見て、ゆっくりと振り上げた拳を下ろした。
「……すみません」
「いや、今のは誤解しても仕方ないだろ、気にするな、」
「エルウィン……」
「はい」
呼ばわる声にすぐさま返事をしてベッドの脇に膝をついたエルウィンへ、ジョエルが手を伸ばし、そして。
「セックスしよう」
「「!?」」
二人が絶句しているのをよそに、ジョエルはあくまで真剣な様子で。
「今日は俺が気持ちよくするから」
「え、あの、はい」
珍しく動揺した様子でグレンを見上げたエルウィンへ、半笑いのまま頷き返すグレン。それから少し屈んでエルウィンの耳元へ口を近付ける。
「……自分の体にお前が満足してるか不安らしい。今夜いっぱい使って安心させてやれよ」
僅かに目をみはったのへ、ごゆっくり、と囁いてからグレンは部屋を後にした。
……その後どうなったかは、まあ。