スガナミ 腹巻きとハッピを見つけるスガナミが亀島のモネちゃんのお家に2年半ぶりに来て3日目、だいぶスガナミもリラックスして過ごすようになってる。今日はお昼に登米まで二人で行って大歓迎を受けてきたみたいで、帰ってきた二人は楽しい疲労困憊って感じで、床に座ったスガナミがモネちゃんのベッドにもたれてぐだーってして、そんなスガナミをモネちゃんがよしよしってしてる。
「先生、みなさんから熱烈歓迎でしたねぇ」
「いやいや、百音さんこそ。あまりあちらにも顔出ししてなかったんですね」
「県境超えないとはいえ、向こうはご高齢の方も多いし。それに、やっぱり先生と一緒に行きたかったから」
「ありがとう。あー、それにしてもあんなにたくさんの人に囲まれるの久しぶりで人酔いしました」
「私も」
二人並んで床に座ってベッドにもたれてゆるゆるして。いい時間だねぇ~。
そう思ってみてたら、モネちゃんのベッドに上半身をぐだーって伸ばしてたスガナミが、ベッドサイドに置かれたカゴに気が付いた。あ!それ!
姿勢を戻してカゴをスガナミが手にとって、モネちゃんにこれは?って見せたら、モネちゃんはニコニコでそのカゴを受け取った。
「これは、サメ太朗のおようふく入れです!」
「見覚えのある毛糸だなと思ったら」
「そう」
モネちゃんが中身をちゃぶ台に並べてみせる。
最初に編んでくれた白と青の混ざった毛糸の腹巻き、次の年のは黄色い腹巻きで、その次の年は青と白のストライプの腹巻きと、黄色と緑の腹巻きのふたつ!それに、アヤコさんが縫ってくれたハッピがひーふーみーで合計7枚!ハッピは、手ぬぐいでつくってくれたのもあれば、コージのお古の柄モノもあるんだー。なんだかんだ、僕も衣装持ちになったもんだよ。
「なんだかんだ、先生より服のバリエーションあるかも?」
「うーん、否定しづらい。しかし、百音さんからも、お義母さんからもこんなに服を作ってもらえるとか、サメ太朗は贅沢すぎませんか」
あ!スガナミがしかめっつらでこっち見てくる!
僕が一生懸命ここでお役目を果たしてるから、こうやっておようふくもらってるんだもーん。文句あっかー!
そんなしかめっつらのスガナミの眉間のシワをモネちゃんが笑ってつついてる。
「サメ太朗を通して、先生のことをみんなで思ってたんですよ」
「みんなで?」
「もちろん、一番は、私が」
スガナミのワイショーな拗ね坊主っぷりも、モネちゃんの手にかかっちゃぁ、手玉に取るみたいなもんになってる。ほんと、最後の一言で嬉しそうなんだから、スガナミも単純なヤツだよ。
「この腹巻きの毛糸、送ってくれたマフラーと同じ毛糸?」
って、黄色や他の腹巻きをスガナミが指さして、モネちゃんがうなずいてる。
「マフラー着けた写真送ってくれたの、うれしかったです」
「どれも本当に温かくて、あなたが編んでくれた時間と過ごせているようで、本当にうれしかった。改めてありがとう」
「あんなことしかできなくて」
「とんでもない」
スガナミがぎゅってモネちゃんのことを抱きしめつつ、ん?って何かに気づく。嬉しそうにスガナミにハグされてたモネちゃんが?ってスガナミのことを見上げる。
「ちなみに」
「はい」
「ちなみになんですが、このサメ太朗の腹巻きと僕のマフラー、編む順番ってどうだったんでしょう」
「じゅんばん?」
「うん。僕のマフラーを編んだ残りが、サメ太朗の腹巻きなのか、逆なのか」
あー!そこ!そこ気づいちゃう?
スガナミー、知らない方が幸せってこともあるよ?ほらー、モネちゃんちょっと答えづらそうじゃーん。
モネちゃんが両手の指先をあわせつつ、スガナミを上目遣いで見てる。
「えーっと、順番としてはですね、腹巻きの方が先です。理由!りゆうがあって!」
一瞬でチベスナ顔になったスガナミに、モネちゃんが言葉を続ける。
「腹巻きはやっぱり編み図がない分、毛糸ごとの違いもあって、どれぐらい使うか分からなかったり、試行錯誤するところもあって、先に編むんです。で、毛糸にも慣れたところで、マフラーを編んでて。決して、サメ太朗優先じゃあない、んです…よ…?」
とりあえずモネちゃんの言葉を納得しようとしてるスガナミのビミョーな顔がおもしろい。もう、葛藤が手に取るように分かるとか、ちいさい!器が!
まぁ、諦めなよ。キミのマフラーは、僕の腹巻きの毛糸の残り!そーゆーこと!
立ち上がったスガナミが、コージのシャツで作ったハッピを着た僕をだっこして、またモネちゃんの隣にぴたってくっついて座る。
「サメ太朗。おまえさん、こうやって百音さんのお部屋でずっと一緒にいて、服までこんなにもらって。ほんと、おまえさんを百音さんに預けた僕に感謝しろよ」
そりゃスガナミには感謝もしてるよー。こうして永浦のおうちで大切にしてもらってさ。でもそれも、みんながスガナミのこと思ってだしさー。だからスガナミも僕に感謝すべき!
僕を顔の正面に持っていってこんこんと説教してくるスガナミを、隣のモネちゃんはけらけらと笑って見てる。
こうしてモネちゃんが僕らで笑ってくれるなら、それが何よりうれしいよね。
なんていうか、僕は笑わせてて、スガナミは笑われてるって感じだけど!
相変わらず器の小さいスガナミでごめんねー!