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    1DKより愛をこめて 少し離れた浴室から、俺と入れ違いに風呂へ行った昴がシャワーを浴びるかすかな物音が聞こえてくる。
     明日はオフで、日付が変わるまでにはまだもう少し時間がある。肩にかけたタオルで濡れた髪を拭きながら、俺は時間のゆとりに比例した歩調でリビングのソファへ向かった。
     俺が風呂に入っているあいだ、あいつは次公演のホンを読んで待っていたらしい。演目名が表紙に印刷されたホンが、ソファの上に置いたままになっていた。俺に呼ばれて反射で立ち上がって、そのまま風呂に行ったんだろう。相変わらず落ち着きのねえヤツ、と小さく笑いながら、腰掛けるついでにホンを手に取る。
     稽古期間に入ってしばらく経つが、ぱっと持っただけで読み込まれているのがわかる程度には読み癖がついている。少し前には恒例のルビ振り作業をしてたし、書き込みもそれなりにしてあるだろう。当然、俺のホンも同じような状態だ。同じ舞台を作り上げている只中であることを実感する手ざわりに、なんとなく気分が上がる。数日前にジュニアに通したばかりの新しい劇伴を口ずさみながら、ホンをすぐそばにあるローテーブルの上に移動させようとして、足元になにかが落ちたことに気が付いた。
    「?」
     どうやらホンに挟んであった書類が、向きを変えた拍子にゼムクリップごと滑り落ちたらしい。黒地に銀の箔押しで星空が広がっているそれは、昴のホンから落ちてくるには少しばかり不似合いに思える洒落た封筒だった。
     拾い上げた裏面、差出人の欄には見慣れた少しいびつな筆跡で「昴より」とだけ書き込まれている。洒落た封筒のデザインから完全に浮いているボンレスはむのシールで封がしてあるのに気が付いて、思わず吹き出してしまった。
     ヒナタ以外に誰が聞いていたというわけでもないが、誤魔化すように咳払いをひとつして、手元のそれに改めて目を向ける。(ったく、これだからこいつは!)
     表にある、宛先の住所と受取人の名前を書き込めるスペースが確保されたラベルシールはまっさらで、誰に宛てたものかわからない。一瞬身内への手紙かなにかかとも思ったが、その可能性は早々に却下しておいた。――「聖夜のラブレター」なんてタイトルの演目のホンから出てくるこいつの手紙が、この俺宛て以外であってたまるか。
     クラシックで地厚な高級感のある封筒と、冬の夜空に突如燦然と昇った太陽の如く圧倒的な輝きを放つボンレスはむのキャラクターシール。ほら、そうだろ、状況証拠からして絶対に俺のだ。役作りかなんかのために、あいつが俺に書いた、たぶん、ラブレター。
     宛名を書いていないのは、万一カンパニーで落としても自分の手元に戻ってくるようにするためだろう。俺に黙ってなんつーベタなことをやってやがるんだあいつは。照れくささでガラにもなく若干顔が熱いが、しかし知らなかったふりをするにはあまりにも惜しい。
     このボンレスはむのシールを剥がして封を開ける最善の方法を探して、しばらく考えを巡らせる。それから、封筒を手に持ったまま立ち上がった。
    「おい、昴」
    「はい?」
     洗面所兼脱衣所の戸を開け、浴室の扉の前で昴を呼ぶ。シャワーの音はもう止んでいるから、おそらく湯船に浸かっているところだろう。薄いポリスチレン樹脂の曇り窓越しに、籠もった声で疑問符が返ってくる。
    「ホンに挟まってた手紙のことだが」
    「!!??」
     俺様のだろう、開けていいか、いいな開けるぞ。そう俺が尋ね終える前に、ざばん!!っつー音と文字で形容しがたい声がして、数拍後には壊れんばかりの勢いで浴室のドアが開く。なんとなく何が起こるか察した俺がほんの少し前まで立っていたあたりを、昴の左手が全力で空振りしていった。うお、危ねえ。
    「だっ、なっ、カイトさ、なんでそれ!!」
     ぼたぼたと湯を滴らせたまま諦め悪く手を伸ばし、首筋まで真っ赤にした昴が叫ぶように言う。素っ裸のうえに動揺のせいでまともな日本語になっちゃいないが、この反応なら俺の推測通りっつーことで間違いないだろう。
    「あー?なんでだろうなァ」
    「読んだんですか!?勝手に!?」
    「読んでねーよ!つーか、風邪引くからとりあえず中戻れこの素っ裸」
    「ッ……ううー……!!」
     普段なら掌中の手紙を取り返されて終わりそうだが、いまばかりは大義名分はこちらにある。恨みがましげな視線を寄越してくる大型犬からあざやかに勝利をもぎ取って、俺は少しだけ開けたドアの隙間越しに気分良く声を続ける。
    「ソファの上にホンを置きっぱなしにしてるお前が悪い」
    「……っ、挟んであるの忘れてたんですよ……」
     ここ最近ずっと挟んであったから、と呻く声に、数日前に見かけた仕草を思い出す。主題歌の居残り練習に入る前、ロッカールームでこいつがホンの裏表紙をそっと撫でたように見えたのは、もしかしなくても。
    「………………カイトさん、それ、読みたいんですか……?」
    「俺宛ての手紙なら、読む権利も俺のモンだろーが」
    「ですよね……」
     カイトさんならそう言うと思った、と言わんばかりの応えに文句のひとつでも投げてやろうと思ったが、言葉尻にそのままなにがしかの答えが続きそうな気配を感じて口を噤む。
    「……、……絶対にオレがいるとこで読まないって約束してくれるなら、いいです」
    「は?」
    「いーですか、約束ですよ、やぶったらオレ絶対家に帰りますからね!!」
    「チッ……しょーがねーな」
     もしそうなっても帰してやる気はあまりなかったし、なんならいまここで読むことだってできるわけだが、約束が守れない男だと思われるのは癪に障る。しょーがなくないです!と小生意気に言い返してくる昴を程々に宥めつけながら、言葉を継いだ。
    「上がってきたら宛名書いて、ちゃんと寄越せよ。――そしたらそのうち、サンタが来るかもしれねーぞ」
    「……へっ?ちょっ……、カイトさん!?」
     慌て声と湯の音が心地好く鼓膜をくすぐって、心臓のあたりがじわりとぬくむ。昴に似合う手紙を考えながら、俺は風呂場の戸を軽やかに閉めたのだった。


    カイトさんへ。

    オレは今、家で「聖夜のラブレター」のホンの読み込みをやっています。時間は夜の十一時くらいです。……あれ、なんか、いきなり日記みたいになっちゃいました。手紙を書くのってむずかしいですね。
    セイヤがどんな気持ちで大事な人に手紙を書いたのか考えたくて、オレも手紙を書いてみることにしました。今手紙を書いている、このびんせんは、この前のアクションスクールのレッスンの後に買いに行きました。売り場に行ったらオレが思っていたよりたくさん種類があってビックリしたけど、これとかカイトさんっぽいかな、なんて考えながらレターセットを選ぶのはすごく楽しかったです。ボンレスはむのシールも買ってきたから、あとで貼ろうと思います。実を言うとこの手紙をホントにカイトさんに渡すかどうかはまだ決めてないんだけど、ちゃんと考えないと意味がないから。
    大事な人のことを考えながらびんせんを選んで、ひとりで机に向かって「何を書こうかな」って考えるのは、なんだか少しふしぎな感じがします。気軽に送れるトークともメールとも違って、いつもよりちょっとだけとくべつな時間みたいに思えます。
    カイトさん、今何してますか。こんな時間だから、お風呂も終わって、もしかしたらヒナタと遊んでるかな。とくべつな時間に、カイトさんのことを考えてる今が、オレはすっごくしあわせです。一緒にいないときでもポカポカした気持ちにしてくれるから、カイトさんはすごいです。
    「好き」と「愛」の違いとか、役とちょっと違ったことを考えようとすると、オレはまだだんだんよくわからなくなってきちゃうんですけど、このポカポカした気持ちがそうだったらいいなって思います。いつかオレが、それをカッコよく言えるような男になる日まで、なってからも、一緒にいてほしいです。

    オレ、カイトさんのことが好きです。大好きです。ケンカしたりすることもあるけど、カイトさんと会えてよかったって、いつも思ってます。本ッ当に、ありがとうございます。あと、これからも、よろしくおねがいします。

    気がついたら、日付が変わっちゃってました。明日も朝からレッスンだし、そろそろ寝ようと思います。カイトさんも、あんまり夜ふかししてたらダメですよ。
    ……それじゃ、おやすみなさい。また明日。


    昴より。




    ***
    20171209Sat.


    なっぱ(ふたば)▪️通販BOOTH Link Message Mute
    2018/07/08 15:36:47

    1DKより愛をこめて

    #BLキャスト #カイすば

    カイトさんにお手紙を書く昴くんと、昴くんのお手紙を拾ったカイトさんの話。我が家のカイすばは今夜も平和です。

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    ##腐向け ##二次創作  ##Kaito*Subaru

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