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    太陽のひみつ ぴりりりりりり。耳慣れたアラームの音が、意識の裾を引き上げていく。目覚まし代わりに枕元に置いていた携帯端末を、しっかと掴んだところで城ヶ崎昴は瞼を押し上げた。
     時刻は午前六時十五分。まだ春の足音もいくらか遠い季節、太陽の昇りきらない時間のベッドルームは薄暗い。ほんのりと部屋をあたためる暖房と加湿器のかすかな振動音を聞きながらベッドを抜け出すと、室内にわずかに残った夜の空気が起き抜けの体を包んで目覚めを促す。
     自宅にはない床暖房の恩恵を素足の足裏で心地好く受け止めつつ、寝室の隅にあるリクライニングチェアに置いておいたパーカーを羽織る。大きな欠伸を噛み殺しつつカーテンを開け、もう一度ベッドのそばに歩み寄る。昴の予想通り、あたたかな羽毛布団にくるまって微動だにしない彼の肩を軽く揺すって声をかけた。
    「カイトさーん、朝ですよー、おはようございまーす」
    「……、暗……」
    「冬だから日の出が遅いだけです。っていうか、ホントに行くんですか?動けます?」
    「…………るにきまってんだろ、このたいりょくばか……」
    「だ、大丈夫かなあ……」
     夜型の生活を送りがちなカイトは基本的に朝に弱いたちだ。布団越しに返ってきた声のゆめうつつぶりに若干の不安を覚えつつ、様子を確かめるべく彼の顔半分までをしっかりと覆う布団を指先で少しだけ下げてみる。うっすらと開いた瞼から、眠たげな両目がなんとか、といったていで覗いていた。まるきり子どものような表情に思わず笑いながら、改めて挨拶を投げる。
    「おはようございます」
    「………おう」
     ゆっくりと返される短い応えの無防備さが、昴は好きだ。単純にもゆるやかに浮上した気分のままに立ち上がり、くるりと踵を返す。
    「とりあえずあったかいもの軽く食べて、しっかりアップして、体起こしてからじゃないとダメですからね!道凍ってたら嫌だしそんなにすぐには出ませんけど、昨日決めた時間に間に合わなかったらオレひとりで行きますよ」
    「だから、行くっつってんだろが……」
     ドアを押し開けたところで、不満げな掠れ声と、言葉通り起き上がったらしいベッドの軋む音が続く。ベッドからのそりと足を下ろして歩き出した彼の足音を聞いて振り返れば、ゆるく寝癖のついた髪を無造作にかき混ぜている彼と視線がぶつかる。ぱちり。まばたきをひとつ。
    「んだよ」
    「えっ、いや、ほんとにちゃんと起きたなあってちょっとびっくりし……っていたたたたた!!頭ギュッてしないで!!」
    「うっせ!人がいつまでも寝惚けてると思ってんじゃねーぞっ」

     ――次回公演『ジパング〜日出る国の神々〜』の立ち稽古に入ってから、しばらくが経つ。
     今日も午前中から一日稽古の予定であり、普段なら昴も自宅で朝を迎えて日課のランニングへ出かける準備を整えているところだが、昨夜から彼の家へ泊まりがけている。というのも、珍しいことに彼からトレーニングメニューの増補を頼まれたためだった。
     本編中最大の見せ場であるヤマタノオロチとアマテラスの対決シーンを演じきる体力をつけるべく、スタミナアップが最優先。それが今回の彼のオーダーだ。劇伴の作編曲にオーケストラとの打ち合わせ等、多忙な彼のスケジュールと相談しながら考えた結果、稽古開始前後――とどのつまりがまずは朝晩のランニングを加え、その他のトレーニングは日中のレッスンとの兼ね合いを見ながら調整をかけていく方向で進むことになっていた。今日は、ランニングの距離やペース配分をみるための試走のようなものである。
     ランニングの支障にならない程度に胃に食料を入れ、冬用のランニングウェアに着替えてウォーミングアップを始める。体をあたためながら、徐々に明るくなりはじめてきた窓の外を横目に見遣った彼が小さく息を吐く。
    「いまにはじまったことじゃねえが、よく毎日こんなことしてんな、お前」
    「慣れたらすっげー楽しいですよ!カイトさんも日課にしたらいいのに」
    「そいつは御免だ」
    「えー!なんでですか!」
    「今回みたいな場合は仕方ねえが、基本的に俺は朝はもっと優雅に寝てたい派なんだよ!」
    「……でもあんまりのんびり寝てたら、また遅刻して蒼星さんに怒られちゃいませんか?」
    「ぐっ……」
    「あの、そこで真面目に黙りこまないでください……」
     まあ確かに蒼星さんにカミナリ落とされるのは怖いけど、と苦笑を返し、彼よりひと足先にアップを終えた昴は自宅から持ってきた紙袋の中身を床の上に広げだす。
     比較的軽装で済む他の季節と違い、冬場のランニングは運動強度に合わせた防寒具が欠かせない。ウィンドブレーカーにランニング用グローブ、イヤーウォーマー、口元までを覆うネックウォーマー。ランニング自体はサッカーをしていたころからの習慣なので、使い勝手のいいものは概ね経験で把握している。
    「はい、これカイトさんのぶんです」
    「おー」
    「……昨日も言いましたけど、ケガとか風邪には本ッ当に気をつけてくださいね」
    「わかってるっつの。お前は俺をなんだと思ってんだ」
    「普段ランニングしてないんだから、慣れるまでは心配に決まってます!……早寝、早起き、いっぱい動いて、ごはんは三食しっかり食べる、が約束ですよ?」
    「食う量と肉の割合はともかく、要するにお前みてえに暮らせってことだろーが。この健康優良児」
     それくらいわかってんだよ。
     そう続けて見慣れた笑みを浮かべた彼の、大きな手のひらが少々手荒に昴の髪を混ぜていく。くすぐったさに思わず肩を竦めると、彼のうすむらさきがごく近くで昴を映していた。
    「立ち回りとか知らねージムのトレーナーより、お前のがいま必要なことはわかるだろ」
    「へっ?」
    「健康優良児になってやるから、メニューの調整頼むぜ、アクション担当」
    「…………っ!」
     負けず嫌いの子どものように勝ち気な笑顔と声があまりに彼らしかったものだから、思わず返す言葉を取り落とす。舞台袖から駆け出していく瞬間にも似た高揚感に、心臓がとくりと跳ねた。
     彼とカンパニーで出会ったばかりのころ、狭い場所で見えるだけの彼しか知らずにいた自分では、――いま、この彼の隣にはいられない。性格からか美学からか、人知れずの場で努力する彼の隣を許されていることがたまらなく嬉しくて、まぶしかった。
    「おし、行くか」
    「はい!」
     支度を整え、立ち上がって昴を呼ぶ彼の声はすっかりいつも通りのものだ。これなら大丈夫だろう。しばらく前まで布団にくるまっていた姿との差を思い出してこっそりと笑いながら、彼の待つ玄関へ向かった。



    ***
    20181030Tue.//Happy Birthday,dear Kaito!
    なっぱ(ふたば)▪️通販BOOTH Link Message Mute
    2018/10/30 2:50:20

    太陽のひみつ

    #BLキャスト  #カイすば

    今年もかいとさんお誕生日おめでとう!だいすき!/負けず嫌いでまっすぐなかいとさんがまぶしくてだいすきなすばるくんの話。ジパングの最初のインゲーム(冬)に季節を合わせたらすばるくんがえらく心配性になってしまった(愛しい)

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    ##腐向け ##二次創作 ##Kaito*Subaru

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