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    ついった小ネタログ
    からりと窓を開けた途端、やわらかなひかりをたっぷり含んだ風に思いきり髪を撫でられて目を細めた。今日もいい天気だ。こんな日に布団を干したら、さぞふかふかの布団が仕上がるに違いない。そんなことを考えながら窓の外を見ていると、今度は後ろから髪を混ぜられる。「アホ毛出てんぞ」そう言って笑った彼の声を、滑り込んだ風がさらう。春のにおいがした。
    (4月5日/風光る)

    居残り練習の最後に、軽くランニングへ行きたいとせがまれ外へ出た。ぬるい夜風のなかを走りながら、まだ体力を持て余しているらしい横顔はなぜだかときおりそわそわと落ち着かないそぶりを見せている。その理由と、知ったコースから足取りが逸れた理由にカイトが気付いたのは、うすい橙の灯りに照らされた桜並木が見えてからだった。
    (4月6日/春灯)

    っくし。玄関先から聞こえた音に目瞬きをひとつ。緩慢にソファから立ち上がって洗面所に顔を出すと、日課から戻ってきた男がスポーツタオルで額の汗を拭っているところだった。「さっさと風呂入れよ」今夜はしばらくぶりに少々冷え込む。体を冷やす前にと促した男の首筋に春のかけらがひとひら貼り付いているのを見つけ、なるほど花冷えかとひとりごちた。
    (4月7日/花冷え)

    引いては寄せる波のように、ふ、と目が醒めた。カーテンの裾からこぼれる日差しは朝のいろだ。目を細めながら無意識に寝返りを打とうとしたところで、思うように動けないことに気が付いた。愛用している抱き枕の代わりに昴の体に腕をまわした彼の温度が、背中にぎうとはりついている。一考。空腹を訴えて鳴いた腹をあと五分だけと宥めつけ、そっと、瞼を伏せた。
    (4月8日/朝寝)

    ふわりと流れた風を目で追う横顔のおさなさに、思わず肩を揺らして笑っていた。「なんですか、いきなり」「なんですかって、お前な」買い出しの途中、休憩に立ち寄った公園で小さな子どもたちがシャボン玉を吹いて遊んでいる。踊るように動いてはじける光色の円を見つめる幼獣の真剣さがいとおしく、むくれられるとは知りながら「なんでもねえよ」と付け足した。
    (4月9日/しゃぼん玉)

    並んでそれぞれ広げた傘を、灰色の空から降りしきる雫が叩いてはすべり落ちていく。ばたばたばた。「桜、散っちゃいますね」傘越しに頭上を見上げた大型犬が、残念そうに声の調子と眉尻を下げた。満開の時期もそろそろ暮れのところにこの雨では、確かにもうもたないだろう。「べつにまた咲くだろ」「そしたら、また一緒に見たいです」まばたきひとつのあとに返されたそれがあまりにまっすぐで、何も言えずに広い背中をぱんと叩いて応えに代えた。
    (4月10日/花の雨)

    久しぶりに泊まった昴の家で、遅めの朝食をもそもそと口に放り込む。明るい朝日にあふれたベランダでは昴がふたりぶんの洗濯物を干していて、あいつが動くたびにやわらかい癖毛がひょこひょこ揺れるのをぼんやり見ていたら、急に昴がこっちを向いた。内緒話をするガキみてえな顔で、なにかを指さしている。なんだよ、と視線を向ければ、手摺りの端にふかふかに膨らんだすずめの親子。なんだそれ。笑っちまうほど平和じゃねえか。
    (4月11日/雀の子)

    ほー、ほけきょ。どこからか(と言ってもずいぶん近くのようだった)聴こえてきた鶯の声に、紅茶色のひとみがぱっと持ち上がる。「いた!」あどけない視線を追えば、半ば以上が若葉に変わりかけた桜の梢でちいさな鳥が歌っていた。「きもちよさそうですね」「……おう」芽吹いた春が初夏に向かう足取りは、まだゆるやかだ。うららかな日差しと風に目を細める男の声が、春のさかりを告げていた。
    (4月12日/うぐいす)

    寄せては大きく引いていく波際を、裸足の跡が追っていく。ふたりぶんの靴とタオルが放り込まれたスポーツタイプのショルダーバッグの、いささか膨れた輪郭が、男の駆け足に合わせて尾のように揺れる。つまさきで波と戯れながら鴎だのくらげだのと逐一律儀な知らせが入るおかげで気分は完全に犬の散歩だったが、何に気付いてかふと立ち止まった男にまばたきをひとつ。「カイトさんみたいだなぁって、いつも思うんですよ」ひどくやわらかな声が鳶の歌に重なって、潮騒と溶けた。
    (4月13日/春潮)

    湯上がりの肌を冷まそうと薄く開けた窓の隙間から、ぬるい夜風が滑り込む。網戸越しに小さな虫の声が聞こえて、とっぷりと深い夜でも春を感じる。彼は虫が苦手なので、そう言っても顔を顰めるだけだろうけれども。「なに見てんだ」「なんでもないです」「んだそれ」つーか、湯冷めするだろ。やわらかな夜風と同じ温度の声に素直に頷いて、おやすみの代わりにそっと戸を締めた。
    (4月14日/春の闇)

    しばらく晴れの日が続いていたが、今日は朝から薄い雲が空を覆っていた。曇天からほんのりと注ぐあわいひかりは、空気や肌をあたためるほどのものではない。「今日は一日こんな感じですかね」連日のうららかな陽気に心躍らせていた大型犬が、拗ねたように空を見上げる。「三寒四温っつーのもあんだろ」「さん……?」「季節の変わり目の風情だと思えってことだよ」そう言って、案の定きょとりと首を傾げた男の髪をかき混ぜた。
    (4月15日/花曇り)

    「あっ、よもぎ餅だ」夜食を買い込みがてら立ち寄ったコンビニエンスストアで、ふいに昴がそう言って足を止めた。言葉の通り、レジ横のラックによもぎ餅がいくつか置かれている。どうかしたかと視線を遣れば、昴は何かを懐かしむように目を細める。「実家の近所のおばあちゃんがすっげー好きで、よく食べてたんすよ」幼く笑う横顔に、まだ見ぬ男の故郷を思った。
    (4月16日/よもぎ餅)

    休日のランニングコース、その半ばにある公園で、すっかり馴染みの犬と休憩がてらに戯れる男の姿を見るのもこれで何度目か。いよいよこちらまで顔馴染みになりつつあるところだがと苦笑しながら、芝生の上で転げまわっていたひとりと一匹に呼ばれて呆れ声とともに歩み寄る。「やっぱりこの花、カイトさんの目の色みたいですね!」カイトさんの目のほうがきれいですけど!転がった拍子に見つけたらしいすみれをさして、大型犬が上機嫌に笑った。
    (4月17日/すみれ)


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    20181010Wed.(小説形式再掲)
    なっぱ(ふたば)▪️通販BOOTH Link Message Mute
    2018/10/10 23:02:53

    ついった小ネタログ

    #BLキャスト #カイすば

    2018年4月に隙を見つけて一人でやってたカイすば春の豊穣祭(140SS)ログ。小説記事として再掲するのを忘れていたので差し替えました。最初の記事に閲覧やはーとくださったかたありがとうございました…!!

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    ##腐向け ##二次創作 ##Kaito*Subaru

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