年の功なんてものは恋には通用しない_前編「今日、お前を抱きてぇ、足立。」
仕事終わりに、耳を疑う台詞を上司から聞いた。
「ぼ、僕を、ですか?」
「だからそう言っただろうが。」
「あいたー!」
もう一度聞きなおしたら、今度はいつもの拳骨。
何だって言うんだ。
いきなりどうしてそんな台詞をこの上司…堂島さんは言ってきたのだろうか。
ちなみに、堂島さんと僕は所謂恋仲でもある。
確かに付き合ってだいぶたつが、お互い仕事も忙しいし、
なにせ堂島さんは小さい娘さん…菜々子ちゃんがいるわけだ。
菜々子ちゃんが色々理解してもらえる年齢になるまでは、
一歩進んだ関係は進めないかもしれない。
そんなことを思っていたのだ。
なのにこの人ときたら、そんな僕の予想を飛び越え、
欲しい台詞を言ってきたのだ。
「男ですけど、本当にいいんですか。」
「そういうのは付き合うって決めたときに自覚している。
お前だから好きになったんだって言っただろう。」
「そりゃ言われましたけど、それとこれは別でしょう。」
「なんだよ、お前俺とすけべぇは無理か?」
「いや、万々歳大歓迎です。…それで、どこ行くんですか?」
ふと尋ねると、堂島さんはいきなり固まった。
何かまずいことを質問したのか?と思い、堂島さんの顔を覗くと、
目を泳がせ、顔をそむけた。
「え、もしかして、稲羽署(ここ)でヤろうとしてたんですか?!」
「んなわけねぇだろう!」
本日2度目の拳骨をくらった僕は、さすがに涙目になった。
「まさか…場所考えてなかったんですか。」
「…中学生だな、俺は。すまん。」
まさかの回答に僕は思わずため息をこぼす。
初めての場所って、普通色々考えるものじゃないのか。
(いや、少しまさかの青姦?!って一瞬思ったけど、まさか何も考えていないとは。)
仕方がない。
僕が人肌脱ぐとするか。
せっかくの機会なわけだ。
「とりあえず、車だしていただいて、沖奈行ってもらってもいいですか。」
こうして、堂島さんとの短いドライブが始まった。
移動中は仕事の時と変わらず、菜々子ちゃんの話や、事件のことなどを会話する。
僕は話半分で、沖奈のラブホを検索していた。
やはり田舎。
あまり選択肢はないのだが、一番最近に建てられたラブホを狙うことにした。
「堂島さん、沖奈の駅近くにきたら、僕がナビするので、走らせてもらっても?」
「おう、わかった。」
仕事中の時のように道のやり取りをしながらついた先は、駐車場付きのラブホだった。
「ごくり。」
堂島さんがホテルを見て喉を一鳴らしする。
その様子が本当に中学生を思わせるようで、こっそり僕は笑ってしまったのだが、
僕も僕で少し緊張していた。
好きな相手とこれから繋がるのだ。と。
「さて、と。堂島さん、ラブホの経験は?」
「…ち、千里と1回だけ…。」
「へぇ~。あとはお家で?って感じですか。」
にやにやしながら堂島さんを見ていたら、また拳骨を喰らった。
流石にもう喰らいたくないので、車の扉を開けて外に出て、受付へと向かう。
適当に必要だと思われるものを買い、鍵を受け取ると、堂島さんの手を握った。
すると、いつもだと怒っている堂島さんも、今回は握り返してくれる。
そしてさらに、腰に腕を回してくれるサービスつきだ。
「やーさしい、遼太郎さん。」
「…茶化すな、透。」
そう、ここからは恋人の時間だ。
流石に泊まりは厳しいので、休憩で入ったけど、この時間だけで繋がれるのだろうか。
少しだけ不安になりつつも、僕らは二人だけの空間へと足を踏み出していった。
…この不安はのちに空の彼方へと飛んでいくことになることは、まだ知らない。