201006_透の日少し休憩しようと缶コーヒー片手にぶらぶらと静かな場所を探していると、
婦警の人たちに、「今日は足立刑事の日ですね。」と少し笑い気味に言われた。
笑われるのはあまり良い気もしないが、
なるほど、10月6日の語呂合わせで「とおる」となっているのだ。
「僕の日…ねぇ。」
誕生日ではないが、そうやって祝われるようなことはないだろう。
そう思っていたのだ。
外の喫煙所がちょうど人気がなく空いていたので、
そこで休憩することにした。
肌寒くなってきたので、温かい缶コーヒーにして正解だった。
体が冷えていたのか、少しずつ体温が上がっていくのを感じた。
すると、そこにもう一人訪問者が訪れた。
「なんだ、お前も休憩か?…というか煙草吸わねぇのに喫煙所来てるのか。」
「いや、静かなところがなくて。」
喫煙所を訪れたのは、堂島さんだった。
自然な煙草を咥えると、煙草の先端を指さしてきたので、
ポケットから堂島さん専用と化したライターを取り出し、火をつけた。
「すまんな。オイル切れしてたのを忘れてて。」
「もはや僕をライター代わりにしてません?」
「そういうなよ。今日の帰りに買うからよ。」
何てことのない会話を交わした後は、互いに静かに休憩を堪能していた。
すると、堂島さんは静かに僕の開いていた片手を握ってきた。
握られた瞬間はどきりとして、体が跳ねたが、
堂島さんが素知らぬ顔で煙草を吹かすものだから、
僕もまた、静かに手の温かさの感触を堪能することにした。
ごつごつとしていて、僕より少しだけ大きな手。
でもじんわり温かい。
「何ですか、今日は甘えたなんですか。」
「…今日、お前の日なんだろう。少しくらい、イイコトあってもいいだろう。」
どうやら堂島さんは先ほどの婦警の会話を聞いていたようだ。
それを聞いて行動に移そうと思った結果がこれだというのも、可愛らしいし、
さっきまでの冷たい感覚が嘘のように溶かされていく。
「子供じゃないんだから、これくらいじゃイイコト足りないですよ~。」
少し悪戯心含んでそういうと、堂島さんはむっとしかめっ面をしたかと思いきや、
煙草を口から離すと、ぐっと僕の頭を鷲掴みにし、口づけをしてきた。
滑り込まれた舌から煙草の苦い味を感じる。
堂島さんの味だ。
「今日はもう報告書書くだけだよな。」
「んんっ…は、はい…。」
「手伝ってやるから早く切り上げるぞ。
…あんなものじゃ足りねぇんだろう?なぁ、透?」
今度は堂島さんが口角を少しあげて意地悪く笑うと、煙草の火を消してその場を去って行ったのだった。