201030_初恋の日初恋。
それは実らないってよく言うよね。
でもさ。
「初恋」って定義、誰が決めたんだろうね。
堂島さんと、所謂「恋人」という関係になってから間もない頃。
たまたま二人でふらっと入った飲み屋に、僕の仕事の同僚がいて。
相席して飲むことになった。
一応堂島さんは昔からの知り合い、という形で紹介したのだが、
同僚からも絡まれ、案外普通に堂島さんは彼らと仲良く話をしていた。
ふと、同僚の一人が「初恋」のネタを話し始め、
堂島さんの「初恋」について尋ねていた。
(『千里さん』だってのは…知ってる。)
ただでさえ隣に座れず、少しイライラし始めていた僕は、
極めつけのネタで完全にむすっとした顔をしていたと思う。
堂島さんも堂島さんで、お酒が進んでいて上機嫌。
先に帰りたいな…。
そんなことを思っていると、堂島さんが語り始めていた。
「亡くなった女房がいるんだが、そいつが気が強くて…な。
ほら、俺は見た目が…あれだろう?なのにびくりともせず立ち向かってきた女でな。
男ってもんは、自分より強い相手は好まないことが多いが、
俺の場合は逆で、そういうところに惚れちまったんだろうな。
自覚はないんだが、『初恋』ってのはその女房を指すのかもな。」
ほら、やっぱり。
堂島さんが愛して、愛されて。
そしてあの可愛い娘さん…菜々子ちゃんまで産まれて。
たくさんの幸せを堂島さんにくれた人だ。
そりゃ素敵な初恋だよな。
「でもな。」
「…?」
もう帰ろう、そう思って財布をごそごそとポケットから漁っていたとき。
堂島さんは続きを紡ぐ言葉を発した。
「どんなに間違いを犯したって、隣にいて欲しいと、
そう強く願うくらい傍にいて欲しいと思った相手もまた、『初恋』なのだと、俺は思ってるんだ。
『初恋』ってのは、相手を強く…そして結びつけたくなるくらいに想う心だって俺は思うんだ。
だから、俺の『初恋』は、2つだな。」
目尻に皺を寄せ、幸せをそのまま表現したような嬉しそうな顔。
その表情を作っているのは…僕だと。
そう言ってくれるんですか…堂島さん。
「ってことで、そろそろ俺の相棒が拗ねるからよ。ここいらで暇させてくれ。
今日は話をしてくれてありがとう。こいつとこれからも仲良くしてやってくれ。
…おら、帰るぞ。透。」
優しく手を握り、肩を抱き。
誰よりも近い距離においてくれたその人は。
僕が最期までずっと傍に居たいと…隣に居たいと強く想った。
最初で最後の『初恋』の相手。
堂島遼太郎という人だった。