黄昏時の月 始の住む街からほど近い場所に森がある。
比較的大きな街だが森はそれよりはるかに広く深い。
魔物も多く、人が立ち入れる範囲は限られていた。
数日前から森に満ちていた陰の種族たちがいなくなった。
突然消えた気配にいぶかしんだ始は森へ向かう。
街に何かあってからでは遅い。
けれど予想してしかるべきだった。
森の中、わずかに開けた場所でひとり佇む男と目があった。
あってしまった。
夜の闇よりなお深く、静かに落ちていくような陰の気配。
間違えようもない、獄族だ。
それでも誰と問うたのはこの男を知りたかったから。
「ひみつ」
月のような笑みが始を惹きつける。
淡い髪が黄昏の風に揺れていた。