なんどでも しゅんしゅんと音を立てながら薬缶から湯気が出る。
片手で包めるほどに小さな茶碗へ茶葉を入れる。
熱湯をそこへ注いで蓋をする。
長くなりすぎないよう、時間をおいたら蓋へ人差し指をかけて少しだけ手前に引く。
そのまま茶碗を持って傾けて、別の器へお湯を移す。
膨れた茶葉が一緒に流れないよう気をつけながらぽたぽたと落ちていくお茶はうっすらと色がついていた。
まずは一安心。
それからまた更にちいさな茶碗へできあがった『お茶』を注いで、慎重に茶碗を持ち上げる。
向かい側で面白そうな顔で俺を見る始の前に、そっと茶碗を置いた。
「どうぞ」
葵という始の友人から教えてもらって初めてお茶を淹れてみた。
きれいな動きで始が茶碗をつまむのを見つめる。
どうだろうか。
茶碗を鼻先まで持っていった始が匂いを嗅いでいる。そこまで近くないとわからないのか、作法なのか俺は知らないけれど、始の動きはとてもきれいだった。
お茶を口に含んでゆっくり味わっている始に早く感想を聞きたくて俺は前のめりになる。
始が俺を見て小さく笑った。
「最初としては上出来な方じゃないか」
「……つまり、完璧ではないってことだね」
「そうだな」
熱い、と始が顔をしかめる。
それなら始が満足するまでお茶を入れ続けてやろう。
だってまだ時間はたくさんあるのだから。