好ましいもの 街の近くに人間を襲う魔物が出た、というので始と俺はその場所へ向かった。
今夜はまだ偵察。
俺ひとりでも片づけられると思うのだけれど、次の対策が取れないからと始に却下された。
その次だって俺が片づければいいのにね。
万が一を想定して行動するところは人間なんだなと思う。始や海は人間としてはとても強いけれど、この世界では弱い種族だから群れで生活をするし、魔物と戦うときも群れで行動する。そういう習性と本能が身についてしまっている。
あとはもうひとつ。
「……なんだ」
並んで夜道を歩く始が俺に半分だけ顔を向ける。
「始ってけっこう負けず嫌いなんだなぁって思っていたところ」
「悪いか」
「ちっとも。君のそういうところは面白いし好きだよ」
面白いから、これから先も始の隣にいたいと思ってしまう。
契約が続く限りは一緒にいるけれど、それとは別の気持ちが最近になって出てくるようになった。
拮抗した力がなければ契約はできないのだけれど、戦闘能力や知能の高さという意味じゃない。内包する気の容量とか、お互いを循環する気がうまく流れるとか、そういう部分が大事だというのは始と契約して初めて知った。
始の傍にいるのは気持ちがいいのだ。
そして魔物を相手に戦う始の姿はとても綺麗だと感じる。
今もそうだ。
偵察と言っておきながら始がまっさきに魔物へ向かう。
剣を振るい、拳で叩きのめしながらも始はちらとも乱れず、祭礼の舞のように美しい。
太陽の下で笑う始も好ましいと思う。
それと同じくらい、月の下で戦う始も好きなんだ。