火照るこころ 茶器を挟んだ向こう側に座る始はすこしばかり眠そうだった。
昨夜に積もった雪を屋根や道からどかす作業を一日していたのだからしかたがない。
住処を離れられない人間は不便だねと言ったら始にため息をつかれてしまった。
だって獄族はひとりで生きるし、その場所で生きていくのが面倒になったらいつでもどこでも移動するのだからしかたがない。
始と一緒に暮らすことで俺は人間の生活を知り、始は俺を通して獄族の考え方を知る。
でも俺の方が知ることは多いんじゃないかな。そんな気がする。
熱いお茶が苦手な始のためにすこし冷ましてから茶碗を渡す。
獄族だったころもお茶を飲まなかったわけではないけれど、こうやって頻繁にいろいろな種類のお茶を飲むのはなかったかも。
なにをしても昔と違って、それが最近は嬉しい。
「うまい」
やさしい息を吐きながら始が言う。
「それはよかった」
「随分うまくなったな」
「教えてくれる人たちの教え方が上手なんだよ。それに、俺が下手に淹れても始が飲んでくれるからね」
「おまえが悲壮な顔をするからだろう」
「ええ、そんな顔はしていないよ」
「している」
笑う始の目は穏やかだった。
紫色の強くて綺麗な目が俺を見ている。つい見つめ返してしまう俺に、どうかしたかと始が聞いてくる。
「始の目は綺麗だなぁって」
「そうか?」
「うん。ずっと見ていたいって思うよ」
「そうか。それならずっと見ていればいい」
お茶をすすりながら始が言う。
冗談のようで冗談ではなさそうな声に、心がざわつく。
こういうの、なんて言えばいいんだろうね。
身体がとても熱い。