ゆらめくささやき 足元にまとわりつくハルルを始が抱き上げる。
それを見ていたハジュが俺の方へ寄ってきた。
考えてみれば笹熊の存在はとても不思議だ。
人間と契約した獄族が生むけれど、気がついたらそこにいたという現れかただから俺が生み出した自覚はない。
人間の言葉を話せるわけでもなく、特になにかの能力があるわけでもない。
なんのためにいるのか不思議だけれど、ハジュやハルルを通して知ることもあった。
「ねえ、始」
新しいお茶を用意しながら俺は始に話しかける。
「ハジュやハルルは明確になにか役に立つわけでもないのに、ただそこにいるだけで嬉しいって思う」
「そうだな。俺もそう思うよ」
俺たちの会話を理解しているみたいに、小さな声をハルルがあげる。
「こういう気持ちを、愛おしい、って言うんだね」
「ああ」
なにかに執着することはあっても、愛おしいと思うことなんて獄族にはない。
だからこれは人間と契約しない限り知ることのない感情だ。
「始のことも愛おしいって思うよ」
途端に始が渋面をつくる。
あれ、なんだか不本意みたい。どうしてだろう。
首を傾げていると始が手招きする。
ハルルを抱っこしているからしょうがないよね。ハジュを抱き上げながら俺は始の傍へ行った。
「春」
「なぁに?」
「そういうときは、違う言い方をする」
「あぁ、そうなんだ」
「好き、と言うんだ」
そう言って俺の腕を引いた始は俺の耳元でもういちど「好きだ」とささやいた。