響くコトノハ 始のことばはがらんどうの部屋で鞠を落としたようなものだった。
やわらかいはずなのに、大きく強く響いてくる。
間近で俺を見つめる始はとても真面目な顔をしていたけれど、どこか楽しそうだった。
紫のきれいな瞳が煌めいている。
今朝、始と一緒に見た朝陽を受ける真っ白な雪を思い出す。
好きだ、という始の声は俺のなかにある色々なものに反響して共鳴した。
好きだ、ということばは今までだって何度も聞いてきた。
俺の周りにいる獄族も人間も、ためらいもなく色々なものや誰かのことを好きだと言う。
好きと面白いの区別が俺にはまだついていなかったのだけれど、始のそれは届いてしまった。
始の好きが俺に届いてしまった。
どうして届いてしまったのだろう。
届かなければよかったのに。
そうしたらきっと、始をうしなう未来を怖れずにすんだのに。
好きというのがどういうものか、俺はたぶんわかっていない。わかっていないけれど、ひとつわかったことがある。
「始……」
いつのまにか腕の中からハジュがいなくなっていた。
ああ、俺の足元で丸くなっている。
おそるおそる出した俺の手を始は静かに握ってくれた。
「昔、隼じゃなくて別の獄族から聞いたことがあって、そのときはわからなかったんだけどね」
「ああ」
「人間と契約した獄族はひとりで生きているよりも寿命が短くなることがあるんだって」
なにも返さない始は俺の手をすこしだけ強く握った。
「そのときはどうしてだろうって思ったけれど、やっとわかったよ。契約した相手を、始、きみがいなくなったら心が裂けてしまうんだ」
鼻の奥が痛くなる。
ぎゅっと始の手を握り返した俺に、それは困ったなと始は静かに笑った。