世界の美しさを知る 冬が来た。
このあたりは真冬になると雪が積もるらしい。
寒さに強い種族もいるけれど、冬は陰の種族も動きが鈍る。人間が北に街を作るのもそのせいだろう。
始と出会う前は南の方で暮らすことが多かったから雪を見るのは久しぶりだ。
冬の支度で街は忙しない。
始も海たちと準備に奔走している。
俺も手伝いはするけれどできることなんて限られている。むしろ余計な仕事を増やさないよう、始と会わない日の方が増えていった。
日中は外へ出る気力もなくて俺はハジュとハルルを抱えて寝室で転がることにした。
始がいないとつまらない。
一緒にいるときはなにを見ても面白くて楽しかったのに、始がいないとなにもかもが面白くない。
始と出会わないまま千年近くも生きてきたのに、始と出会ってたったの一年で世界はまるで変わってしまった。
ハジュとハルルが心配そうに俺を見る。
いつか遠くない未来、俺は短命な種族である始を失う。
そうなったら俺はいったいどうなってしまうのか。
隼が、俺は感情が薄いと言っていたけれど、そのままの方が良かった。
やがてやってくる『いつか』を思うだけで俺の心は裂けてしまいそうだ。
それでも始と出会わなければよかったとは思わない。
始がいるから、俺は世界の美しさを知ったのだ。