特別な理由 契約を持ちかけたのは始だった。
そうしてもいいのかどうか考えたけれど結論が出ないまま契約をしてしまった。
始の望む関係を築けているのかもわからない。
ただ、始と離れるのはいやだなぁと思うことが増えてきた。
傍にいるという契約だからそうなるのか、俺が始といることで変化してきたのかどっちなんだろう。
感情もよく動くようになってきたと自覚もしている。
それもつらいと俺は思う。
心が痛いのだ。
感情が動くとつらくなる。始と一緒にいるとつらい。だけど離れるのもつらい。
どうしたらいいのかわからなくて、始をつかまえて聞いてみた。
「そうか」
始は頷いて、何故か嬉しそうな顔をする。
「人間はこうなるの?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるかな」
「なにそれ」
「全員に対してなるわけじゃない。誰か特別だと思える相手ができた場合はそうなるだろうな」
「始は俺の契約者だから特別だけれど、始も俺に対してつらくなるの?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるかな」
また同じ答え。
始の手が伸びて俺の頭をやさしく撫でる。
撫でられるのは嬉しいと思う。
「契約者だから特別なわけじゃない」
「始?」
「ここから先はもうちょっと考えてみるんだな」
始、と俺はもう一度名前を呼ぶ。
その笑い方はちょっとだけ手強い魔物と出会ったときと同じだよ?