春になったら、ひとりになったら 目が覚めると円い窓の外は薄暗くなっていた。
陰の気が強くなったから眠気が消えたのか。
すこしだけ重い身体を起こして外を眺める。
最近、陽が落ちるのが遅くなってきた。隼曰く、陰陽のつりあいが取れてきた証拠らしい。
振り返り、始を見る。
眠っている顔もきれいでどれだけ眺めていても飽きないけれど、起きて話している方が楽しくて好きだ。
ひとりで起きているのもつまらないから始の頬を何度かつねる。
それから手を握ったり離したりしていると、ようやく始が目を開けた。
「始」
まだ微睡んでいる始に寄り添う。
「なにかあったか?」
「つまらないなぁと思って」
「……うん?」
重たいまぶたをどうにか持ち上げた始が俺の手をぎゅっと握った。
あたたかくて熱い。なにより始が持つ陽の気はとても心地よい。
「始がいないとつまらないんだ」
いつだって、世界は始がいるから輝いて見える。
美しいと思えるのは始が隣にいてくれるからだ。
「それは困ったな」
始の声はどうしてだか嬉しそうだった。
俺を抱き寄せた始の手は背中を何度か叩く。
「じゃあ、こういうのはどうだ」
始がひとつの提案をしてくれた。
「次に俺と話すために色々見ておいてくれ」
「いろいろ?」
「ああ。おまえが気になったこと、覚えておきたいこと、誰かとの話でもいいし、俺に話したいこと全部教えてくれないか」
「それは随分たくさんになるかもよ?」
今だって俺は始を質問責めにする。こんなことがあった、あんなことがあったといろいろなことを言いもする。
俺の話を全部聞いて受け止めてくれるのは始くらいなものだけど、それ以上話してもいいのだろうか。
始の目が細まる。
「おまえの話ならいくらだって聞いてやる。……聞いているのは楽しいからな」
「…………そっか………楽しいんだ……」
「面倒くさくなったら適当に聞き流すから気負わなくていいぞ」
「それはひどくない?」
ふたりで笑いあう。
「わかった。始が俺に望むなら、俺はいつだって、いくらだって話してあげる」
「ああ」
「それじゃあ、今は昨日見かけた花の話をしてあげようか」
額にかかった始の前髪を撫でつけながら俺は口を開く。
始に話すことを探す目的があるなら、どれだけ長くひとりでも大丈夫だと思った。