海神と迷子 24※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・オリジナル設定多いこと山の如し
・ちょっと下ネタあり
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
「ちっっっっっさっ!?」
宮殿に着くと、シヴァの厚意で直接会うことになり、第一印象から出た彼の一言がそれだった。言われた千栄理本人は、四本腕と額にある第三の目を合わせた五つ目というシヴァの容貌に、少し怖気付いてヘラクレスの陰に少しだけ身を隠している。互いに自己紹介は済ませ、シヴァは逡巡したが、徐に口を開く。
「ギリシャのパイセンからは聞いてたけどさ、あー……ポセイドンちゃんって、そんな感じねぇ。そういうタイプが好きなんだ。ふーん…………ヤる時、大変そ」
「なっ!? わ、私とポセイドンさんはそういう関係じゃありませんっ!!」
シヴァの開けっぴろげな発言に、真っ赤になって反論する千栄理。その反論に今度はシヴァが驚く番だった。一瞬静止し、千栄理を指す。
「…………え? 嫁じゃないの?」
「違います」
千栄理の否定の言葉にシヴァは今一度考え、もう一度「え?」と発する。
「じゃあ、なんでポセイドンちゃんはお前を傍に置いてんの?」
「そ、それは……!」
心底分からないという顔で訊いてくるシヴァに対し、千栄理は何か答えようと口を開いたが、今のポセイドンとの関係に明確な名前を与えられず、そのまま閉口する。いきなり黙り込んでしまった千栄理にシヴァはその隣のヘラクレスに視線を投げた。困ったように笑むヘラクレスに、何かを察したシヴァは「あー……」と意味の無い音を発して、配達について話題を逸らす。はっと自分が背負っている物の存在を思い出した千栄理は、朝食分のパンを届けに来た旨を説明しながら、背中のリュックを下ろした。千栄理がリュックを開き、シヴァが中を確認してサインをもらおうとしたその時、「あら~」という若い女性の声がした。そちらへ目を向けると、長い髪に沢山の装飾、胸の下部が見えてしまっている涼しげな服にゆったりとしたシルエットのパンツを履いた女性がいた。女性はこちらに気付くと、シヴァの隣につつつと寄って来てにっこり微笑んだ。可愛らしい人という印象の女性だと千栄理は思った。
「あなた、その子がポセイドンさんのところの子かしら?」
「おお、らしいぜ? パンの配達すっから、ごアイサツだってよ」
「そうなの。初めまして、私はパールヴァティ。この方の奥さんでーす」
とても嬉しそうにシヴァの二の腕にきゅっと掴まるパールヴァティと照れ臭そうに頭を掻くシヴァに、漸く彼女が女神なのだと分かると、千栄理は「失礼しましたっ」と言って頭を下げた。パールヴァティは一瞬、きょとんとした顔をしたが、すぐに破顔して「いいのよ、いいのよ」と千栄理の頭を上げさせた。
「律儀な子なのね。ねぇ、ヘラクレス。ちょっとだけこの子とお話してもいいかしら?」
「オレは構いませんが、千栄理は?」
こちらを見るヘラクレスに、千栄理はにっこりと笑って大丈夫だと返す。パールヴァティはシヴァとヘラクレスに断りを入れてから、千栄理の手を取ってぱたぱたと宮殿の奥へ走り出した。訳が分かっておらず、何となくされるがままになっている千栄理を引っ張ってパールヴァティはある部屋に入った。
「カーリー、ドゥルガー。連れて来たわよ~」
クリーム色の壁に赤を基調とした細かい紋様がぐるりと部屋を囲むように上部に描かれた壁、壁の紋様と同じような刺繍のカーペットは厚く、柔らかな感触が返って来る。全体的に背の低い家具が多いので、ただでさえ広い部屋が更に広々と感じた。部屋の真ん中に鎮座している薄いレース地の天蓋付きベッドも広々としていてキングかクイーンサイズだろうことは一見して分かった。うきうきとしたパールヴァティが声を掛けると、何やらボードゲームのような物をやっていた二人の女神が一斉にこちらを向く。一人は綺麗な黒髪の気の弱そうな女神、ベッドの足元に置いてある小さなソファ――フットベンチというらしい――にゆったりと座り、絨毯に座り込んでいるもう一人の相手をしている。もう一人は金髪に気の強そうなというよりは武神という出で立ちの美しい女神だ。二人はパールヴァティに引っ張られて来た千栄理を見ると、立ち上がって近寄って来た。
「パールヴァティ、その子がポセイドン様のとこの子かい?」
「ええ。可愛いでしょう?」
「あなたの子じゃないでしょう。……思ったより小さい子ね。色々と」
「あ、あの……?」
三人の女神達に囲まれるという状況に、現状がよく分かっていない千栄理はただただ困惑するばかりで、不思議そうに女神達の顔を見るしかなかった。そんな彼女に構わず、女神達は話を進めていく。黒髪の女神がカーリー、金髪の女神がドゥルガー、とそれぞれ名乗り、挨拶もそこそこにパールヴァティは何枚ものサティやクルタを持って来ては千栄理の体に当てて似合いそうな物を見繕い、カーリーは衣装ダンスから次々と服を取り出し、ドゥルガーは化粧道具や香油を持って来る。
「こっちの方が似合うかしら。ねぇ、カーリー。どう思う?」
「待って。他の服も持って来るわ。ドゥルガーに見てもらって」
「う~ん……やっぱり青が似合うんじゃないかい? こっちよりかはそっちの青いサティの方が落ち着いた色調で映えそうだよ」
「あ、あの、パールヴァティ様。何してるんですか?」
千栄理の質問にサティを合わせていたパールヴァティは、きょとんとした顔をして何でもないことのように答えた。
「何、ってあなたに似合う物を見繕ってるのよ。えっと、じゃあ、アクセサリーは……少ない方が却って良いわね。千栄理は肌が綺麗だから、際立つように」
「クルタももう何着か持って来たわ」
「千栄理、香油はどんなのが好きなんだい? 色々持って来たから試してみなよ」
「あ、あのぉ……! 状況がよく飲み込めないんですが……」
「プレゼントよ!」と三人の女神が同時に言った。贅沢過ぎる贈り物に千栄理は「ええ~っ!?」と驚きを隠せないでいる。ここでまた彼女の謙虚な気持ちが働いて「受け取れませんっ!」と反射的に答えていた。それを聞いた瞬間、パールヴァティは驚き、明らかに落胆し、カーリーは怒りを露わにし、ドゥルガーは閉口した。
「喜んでもらえると思っていたんだけれど……」
「私達の贈り物が気に入らないの? 人間の分際で……」
「気に入らないからって今いらないっていうのは、ひどいんじゃないかい?」
悲しみ、恨み、怒る。三者三様の反応を見せる女神達に千栄理は慌てて訂正する。
「いいえ! そういう意味じゃないんですっ! ただ、私……今持ってる物が全部女神様達のお下がりで、自分の物は何一つ無くて。だから、あの、女神様達にお返しができないんです。お返しができないのに、こんなに沢山贈り物を頂くのは申し訳ないです」
彼女の言い分に女神達は今度は皆一様にぽかんと口を開け、次いでおかしそうに笑った。けらけらと楽しげに笑いながら、パールヴァティが「いいのよ、いいのよ」と千栄理の背中をぽんぽんと軽く叩いた。
「これはね、神嫁になる子に贈り物をする習慣からなの。神嫁になる子はみんな魂一つで来るから、沢山贈り物をするのが当たり前なの。前にゼウス様から何か頂かなかった?」
「あ、衣装ダンスと化粧台を頂きました」
「ね。だから、これは私達からあなたに歓迎の意味を込めた贈り物よ。遠慮しないで」
「遠慮されると、却って失礼に当たるわ。覚えておきなさい」
「は、はい……っ! すみませんでした」
却って無礼を働いてしまったことに千栄理は少し意気消沈していたが、パールヴァティに衣装合わせの再開を告げられて、慌てて気持ちを切り替えた。青いサティといくつかのアクセサリーを渡され、「じゃあ、あそこの衝立の向こうで着替えてね」とパールヴァティに一式持たされ、奥の衝立のところまで連れられる。千栄理が衝立の向こうへ姿を消す。少し経つと、痺れを切らしたらしいシヴァとヘラクレスが部屋に入って来た。