海神と恋人 45※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・世界観捏造
・割と最近の偉人が出てきます(一応、レオニダスと会話していますが、悪意は無いです)
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
「ごめんなさいね。本当だったら、あなたには関係の無いことなのに」
「い、いいえ。皆さん、それぞれ自分の国のことを考えてくれていますから、仕方ないことですよ」
会議が終わり、疲れた様子の千栄理を呼び止めたのは先程彼女の処遇について提案した女性だった。背の低い、柔らかな雰囲気の彼女に「少しだけお茶でもいかがかしら?」と誘われた千栄理は快く応じ、ついでに千栄理と一緒にいたい始皇帝、読書に適した静かな場所を求めていたレオニダス、グレムリン達ともっと交流を深めたいテスラも付いてきたという訳だ。
中央区はどの国ともまた違う近未来的でスタイリッシュな空間だが、それ故にあまり暖かみは無く、どこか冷たい印象を受ける部屋が多い。女性に促されて入室した部屋も普段はただの共有会議室として使われているものらしい。給仕や警備等、昔は人の手でやっていた大抵の仕事は全て機械で行っている為、ここには先程の会議のように特別なイベントなどがある時にしか訪れない、少し特殊な地区なのだそうだ。
機械によってお茶を出され、会議のことで女性に謝られた千栄理は、とんでもないと彼女と同じように頭を下げる。物腰は柔らかいが、どこか威厳のある女性の雰囲気に和みつつも、背筋はぴんと伸びる。自分なりの返事をすると、少し離れた椅子に座ってテーブルに足を乗せ、読書をしていたレオニダスが「はんっ」と鼻で笑った。
「嬢ちゃんにはあれが自国のことを考えてる政治家に見えんのか」
「こら、レオ。レディの前でその態度は無いのではないですか?」
「そうだぞ。それに千栄理は今まで政治に関わってこなかったのだから、分からなくても仕方なかろう」
千栄理に同情している始皇帝と女性は態度の悪いレオニダス王に苦言を呈したが、当の本人は改める気は無いらしい。構わず、口に咥えた葉巻を吸って煙を吐き出してから彼は言った。
「お前らだって思ってただろ。あいつら、この嬢ちゃんを体良く乗らせて自分だけは甘い蜜吸おうって腹だ」
「それは……」
「それはそうだが? だからこそ、本来関わるべきでない千栄理をこれ以上巻き込む訳にもいかない。中央区にいた方が千栄理の為だ」
「お前らがそれで良くても、殆どの奴らはそうはいかねぇだろうよ。おれぁ、腹の探り合いってのは好きじゃねぇが、何も知らねぇ若けぇのを利用する奴はもっと嫌いだね」
「何も知らない若いの……って私のことですか?」
ぽかんとしている千栄理にレオニダスは「いいか?」と分かりやすく説明してくれる。
「例えば、だ。嬢ちゃんにある政治家が『うちの国に来て貧しい奴らの病気を治して欲しい』って言ったとする。で、それ聞いちまったら、嬢ちゃんはほいほい付いて行っちまうだろ?」
「……はい」
『ほいほい』という単語に少し不満はあるものの、千栄理は一先ず聞こうと何も言わずにいた。レオニダスはそんな彼女の表情に気付いているが、気にせず続ける。
「ただ、その場合、嬢ちゃんが考えてる程現状は甘くねぇ。国単位での貧しい奴らってのはそれこそ何万人にも及ぶもんだ。そんな奴らの面倒を押し付けられた挙げ句、長い期間一つの国に居座らなきゃならねぇ。そうなったら、他の国はどう思う?」
「あ……」
千栄理が気付くと、レオニダスは「分かっただろ?」と言いたげに頷く。
「他国からしてみれば、そりゃあ『女神を独占している』ように見える上に、嬢ちゃんの魔法がありゃあ、医療に回す金が多少なりとも浮く。それを軍事費・裏金、他にも汚ぇ金に回されるって考えてみろ。女神を独占している国にとって一番厄介なのは近隣諸国だ。人知を超えた力を持つ特別な存在である嬢ちゃんを手に入れようと、最悪攻めてくる可能性だって絶対に無ぇとは言えねぇだろ?」
「で、でも、今は戦争は禁止されてて……」
そうだ。国を統合する際、一切の戦争を禁ずるようにしたと以前、ヘラクレスから聞いていた千栄理は矛盾してしまうと指摘するも、そんな言い分はレオニダスの手にかかれば、埃同然の扱いだった。彼は「はあ~……」と大きな溜め息を吐くと、少し疲れた顔で言い切る。
「禁止されてんのは『戦争』って単語だけだ。そんなもん、『抗議活動』とでも『女神を取り戻す聖戦』とでも言やぁ、簡単に始まっちまう。ま、そういう時こそ俺様みたいな奴の出番だがな」
「そ、そんな……私……」
「レオ、そんなに怖がらせてどうするんです。ごめんなさいね、千栄理さん。それは最悪のケースの場合です。今の時代、余程のことが無い限り、戦争なんて起こりませんし、起こさせません。その為にあなたの身柄を中央区に置きましょうと提案したのですから」
「で、でも……起こってしまう可能性は0ではないんですよね……?」
千栄理の不安げな言葉に始皇帝も女性も押し黙ってしまう。沈黙は肯定も同然だ。もしかしたら、自分は何かとんでもないことに巻き込まれているのではないかと思った千栄理だが、もうここまで来ては今更だ。今更、自分の魔法を秘匿することはできないし、もう既に女神として周囲に認められてしまっている。いくら千栄理自身が撤回したところで何も変わらないのだ。これが神になることかと、はらはらと涙を流し、漸く彼女は理解したのだった。
「これからどうするんだ?」
「これから……?」
呆然としている千栄理の頭に触れ、ぽんぽんと元気づけるようにレオニダスは手を触れて続ける。
「しっかりしろ。こうなっちまったら、嬢ちゃんは自分の身は自分で守る。できることを一つずつやっていくしかねぇんだ」
「……はい」
「いや、そなたのせいであろう」
自分で火種を蒔き、自分で火を点けて自分で消火するというよく分からない一連の流れを見せ付けられた始皇帝は思わず、そう突っ込んでいた。千栄理、騙されるな。そなたを泣かせたのはその男だぞ、という意味もある。レオニダスばかりに良い格好はさせまいと始皇帝も千栄理の背後から彼女の座っている椅子を回転させて振り向かせ、その手を取る。
「千栄理。これからこの国に来る時はここ中央区にいるようにした方が良いだろう。そなたに会いたい時は朕の方から会いに行く。何か欲しいものがあれば、言うといい。女神への献上品としてそなたに持って来よう」
「え? でも、そんな皇帝陛下にそこまでして頂くのは……」
遠慮しかける千栄理にレオニダスは「おう、いいからやって貰っとけ。女は多少、男に甘えるくらいで丁度良いんだよ」と言い、始皇帝は「朕がしたいのだ。そなたの為になることをしたい」と言われては断りにくい。戸惑いつつも、千栄理が「はい」と頷くと始皇帝は満足そうに「好」と微笑んだ。
「それにしても、アンタがこうも積極的に協力するとは思わなかったな。エリザベス女王様」
「…………へ?」
レオニダスに視線を向けられた淑やかな年配の女性は「ふふ」と上品に笑い、紅茶を一口飲む。ゆっくりカップを受け皿に置いて彼女は優雅に微笑んだ。
「可愛らしい女の子が良いように利用されるのを黙って見ていられる程、私は事なかれ主義では無いですからね」
かつてイギリスを治めていた威厳ある女王は何食わぬ顔をしてお茶をまた一口。あまりにもあっけらかんとした態度と雰囲気に、千栄理は一瞬レオニダスが何と言ったのか上手く理解できず、もう一度訊き返した。
「あの、今、凄く尊い方のお名前を聞いたような気が……」
「あ? 聞こえなかったのか? そこで知らん振りして茶ぁ飲んでる奴はエリザベス女王だって言ったんだがな」
「へ、へぇえええええあああああああっ!?」
ひっくり返る千栄理の声に当のエリザベス女王と始皇帝は可笑しそうに笑った。