海神と迷子 31※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・ロキから夢ちゃんへの若干のヘイト
・ロキ夢ちゃんがいる
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
「やだやだやだぁ〜!」
「……本当に罰を与えてやろうか」
遂には床に倒れて駄々っ子のようにじたばたするロキを見下ろしながら、トールとオーディンは頭を抱える。ロキが渋っている理由は、今回の罰の内容のことだ。
「なんでボクがあいつのお守りなんて、しなくちゃいけないの〜!? 意味分かんないよ!」
「お前が傷を付けたのだから、詫びを入れるのは当たり前だろう」
「だからって、なんでボクがヘラクレスちゃんの代わりを務めなきゃいけないワケ?」
「それがお前への罰も兼ねているからだな」
「んぇ〜っ……!」
喉で唸るような調子で不満の声を発するロキに、トールは別段興味が無さそうに彼の背中を軽く叩く。
「明日からだ。忘れず行け」
「言っとくけどな! あの人間に怪我をさせたり、最悪死なせたりしたら、こんなものじゃ済まねぇぞ! ロキ!」
「何がどうなるか、分からないんですからね! いいですか!? 相手はポセイドン様だということを肝に銘じておきなさい!」
「そういや、あいつ、ポセイドンさんのお気に入りだったね。怪我させたり、死なせたり、ねぇ。…………ふぅ〜ん? はいはい、分かったよ。やればいいんでしょ、やれば。…………ねぇ、それっていつまで?」
うんざりした表情のロキに、一同は諦観に似た意味で深い溜息を吐いた。
「ええっ!? ロキ様が私の護衛を?」
執務机で仕事をしているポセイドンから告げられた突然のことに、千栄理とプロテウスは驚き、彼を凝視した。プロテウスは心底心配そうな顔を千栄理と主人に向ける。昨日襲って来た少年のような神がロキだと聞かされた千栄理は言葉を失い、手で口元を覆った。一気に不安が押し寄せ、プロテウスと同じように大丈夫なのかと問う。
「奴への罰の意味も込められている。お前を守らなければ更なる重い罰を与えると聞いた。奴とて自ら罪を重ねるような愚か者ではない」
じゃあ、一応は大丈夫そうだと千栄理は安心したが、プロテウスはそれでも心配なようで、ポセイドンに進言する。
「ですが、それでもロキ様が千栄理様に危害を加えないとも限りません。もし、また何かあったらと思うと……」
「その時は……」
ピリピリとポセイドンの纏う空気が重く暗く変わる。誰に向けるでもない視線に、千栄理とプロテウスは捕らわれたような気がして、圧倒された。ごくり、と無意識に唾を飲み、背中を脂汗が流れる。
「死よりも重い罰を与えるのみ」
一切の光を失ったあの目でそう宣言するポセイドンに、二人は言葉を発することができない。流石にいつもは穏やかな千栄理も、彼の様子から気にするなとは言えなかった。代わりに不安そうな顔を向けると、ポセイドンは殺気を霧散させ、話は終わりだとでも言うように仕事を再開した。
翌朝、いつもの時間に起きた千栄理は早朝から驚きで叫ぶ羽目になった。腹の底から出してしまった大声に、ポセイドンは不機嫌に起き、プロテウスは大慌てといった様子でドアをぶち破る勢いで駆けつけ、元凶は「うるさっ」と耳を塞いだ。
「なんっ……!? なんっ! なんで、ロキ様がここに!?」
「キミが朝早く行くって聞いたから来てあげただけだけど? ってか、朝からうっさ。いつもこうなの? ポセイドンさん、かわいそ〜」
「煩いぞ、雑魚が」
千栄理が叫んだのは、全てロキのせいだった。朝起きた時点で目の前に顔があったら、誰でも驚くだろう。ロキの隣には当然のように瞳が静かに立っている。
「ロキ様が、折角なので驚かそうと」
「あ、瞳。ネタバレしちゃダメって言ったのにぃ」
「だ、だからって部屋に入らなくても……どうやって入ったんですか!?」
「ん〜? ふふ。内緒〜。ってかさぁ〜……あんたら、毎日それで寝てるの?」
ロキがポセイドンを指す。正確には彼の体だ。初日から千栄理とポセイドンはずっと同じベッドで寝ている上に、彼は全裸だ。傍から見れば、そういう関係にしか見えないだろう。
「いや、ポセイドンさんが裸族ってのはもちろん知りたくなかったけど、まさか二人一緒に寝てるなんて思わないじゃん。前、キミが言ってた『そういう関係』じゃないの? 逆にヤバくない? 付き合ってもないのに、一緒のベッドで寝てるって何?」
「これはその……私の寝るところが無くて……」
「いや、キミがここに来てから、どんだけ経つと思ってんの? もう一個ベッド増やすとか、部屋移るとかあるじゃん。なんでそのままなの? もっと色々方法あるよね? なんでやんないの? …………え、なに。理解できない」
最終的にかなり引いているロキに、千栄理とポセイドンは互いに顔を見合わせ、千栄理は「その手があったか」という顔をした。それを見て更にロキが引く。
「えぇ〜……なに、その反応。引くわ〜。今まで考え付かなかったって感じがもう引くわ〜」
自分の体を抱き締め、物理的にも距離を置くロキの背後からプロテウスがおずおずと進み出てくる。
「ポセイドン様、千栄理様。そろそろお召し換えを」
「あ、はいっ。また遅刻しちゃうとこでした。ありがとうございます。プロテウスさん」
「んじゃ、ボク達隣行ってるね〜」
さっさとソファ席に引っ込んだ二人を気に留めず、ポセイドンはいつもの服を着、千栄理は仕事着代わりの動きやすい服に着替える。寝る時は一緒でも、着替える時は衝立を置いていたので、今まであまり気にしたことは無かったが、先程ロキに言われたことを反芻し、こういうところもおかしいのではと危惧のような心地になった。プロテウスに声を掛けられるまで着替える手が止まっていることに気付かなかったが、慌てて千栄理は着替えた。
支度が終わると、千栄理はロキに声を掛けてリュックを手に出て行った。その後ろ姿をポセイドンは何か思案している様子で見送った。
いつものように城を出た千栄理は空のリュックを背負って歩き出す。その後ろからロキと瞳が付いて来る。
「えぇ〜。歩きで行くの? ヘルメスから靴もらったんじゃないの?」
「ごめんなさい。まだ上手く飛べなくて、まだ履いちゃダメって言われてるんです」
それを聞いた途端、ここぞとばかりにロキは嘲笑し始めた。ふよふよと宙を浮きながら、千栄理の悔しがる顔を見ようと近付く。
「それ、もらったのいつだっけ〜? 未だに履けないとか、やっぱ雑魚じゃ〜ん」
「? はい。人間ですから、練習はどうしても必要なので、毎日やってますよ。神様がお使いになる物なので、そう簡単には履きこなせなくて。でも、いつか履けるようになる日を楽しみにしてます」
「…………ふぅ〜ん」
まるで嫌味が通じていない様子に、ロキは思わず黙り、瞳はじっと彼女を見るも、何も言わなかった。そんな彼女と目が合うと、ロキは呆れたように肩を竦めた。ふと、千栄理は足を止めてロキに向き直る。
「ロキ様もヘルメスさんの靴と似た物を履いていらっしゃると本に書いてありましたけれど」
「さっきから思ってたけど、様とか付けないで。キミに様付けで呼ばれると寒気がする」
「え? じゃあ、ロキ、さん?」
「気安っ」
「えぇ……。じゃあ、なんてお呼びすれば……」
「知らない。好きに呼べば?」
「じゃあ、さん付けで呼びますね」
「気安いって言ってんのに」
「『様』と『さん』を封印されてしまうと、困っちゃいます。神様なので、流石に呼び捨ては失礼ですし……」
「キミって案外、我が強いよね。いいよ、別に。気安いのは変わらないけど、それで」
「分かりました。では、ロキさんで」
「あー……で? 靴だっけ? そうそう。良いでしょ〜? どこでも関係無く歩けちゃう靴」
「…………歩いてたんですか?」
「お前、やっぱ嫌い」
初対面で一悶着あったせいなのか、元々合わないのか。苛立つロキに、千栄理はただただ不思議そうな、困惑しているような顔を浮かべた。